穢れなき言葉
地上に行くのは何年以来だろう。橋姫として生まれ変わってから二年間、地上で暮らしていたけど、それ以降はずっと地底で引きこもっていた。
別に地上が嫌というわけではない。ただ人間だった時のような目に会いたくないと怯えていたんだ。地底でアルマと再びであってからはさらに行こうと思わなくなった。彼がいるなら地底でずっと暮らすのもいいと思った。
けれど、彼は地上に行く時がある。彼が地上に行くたびに私の胸は締め付けられる。
【もう帰ってこないんじゃないか?】
さとり様やみんなが居るから多少は寂しさは和らぐ。でもアルマがいないだけで色鮮やかな光景が白黒になった気分だった。
彼に着いて行けばどれだけ楽しいんだろう。いつもそう思っていた。
そんな時だ。ナズーリンが私に色々と聞いてきた。地底にはいつからいるのか、地上には行ったことがあるか、地上の今の状態など。
地上に関してはほとんど無知だったため、まともに答えることはできなかった。
「呆れた・・・地底に住んでいるとは言えそこまで無知とは思わなかったよ」
「別に地底にずっといるんだから知らなくても・・・・・・」
「君はバカか?アルマがもし地上にいなきゃいけない理由ができたらどうするんだ?」
どうすると言われても、そうなったら地上に行ったアルマに着いて行きたい。一緒に地上を歩きたい。
【アルマと離れたくない】
穢れの一つもない私の本当の気持ちだった。
「だったら地上に行くしかないな」
「けど・・・・」
私から着いて行きたいなんて絶対に言えない。恥ずかしくて言えるはずがない。
「安心しなよ。アルマが帰ってきたら一緒に連れて行くようにするから」
「いいの?」
「いいとも、君らの関係が進展してほしいからね」
「そ、そのお節介が妬ましい・・・・」
何処かナズーリンがさとり様に似てきた気がする。一緒に暮らしていくと似るものだろうか?そうだったら気苦労が絶えないんだろうなぁ。さとり様抜け目ないし。
この心の声も聞こえてるんだろうなぁ。あの人普通に覗いてくるからプライバシーの侵害とか超越してるよ。
《心の中を覗くのはあなたとアルマだけですよ?》
心の中に響くように声が聞こえた。いつも思うけどなんで心に声を送れるんだろう?地上に行ってもさとり様に話しかけられそうだ。
というか私とアルマだけって・・・・・・それでも問題があると思うよ。
そんなわけでアルマがナズーリンに用があり地底に戻って来た時、いろいろと恥ずかしいことを言った私は彼の手を引っ張りながら地上に行くこととなった。