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〈第3話 出会い〉

 お話しは、まーこが、バスの事件を体験した数日後、ゆーこが、回復して、すっかり落ち着いた頃、つまりは、まーこ、ゆーた、ゆーこ、それぞれにとっての前回のお話しの数日後から、始まります。


 その日、まーこは、駅前を歩いていた。まだまだ、学校に行く気などにはなれなかったが、あれ以来、確実に、外出が苦にならなくなっている。

 このとき、すれ違う雑踏の中に、ある男がいたことに、まーこは気付いていない。まぁ、無理もない。気を付けて観察でもしていなければ、気付くことはなかっただろう。その男が、まーこの顔を一瞥し、ニヤリと笑い、頭の先からつま先まで、なめ回すように見た後、もう1度、顔を見て、今度は、ゆっくりニタリと笑ったことに。

 季節的には、まだ、早すぎる、ロングコートのその男は、すれ違いざま、まーこの肩に手を置き、グイッと力を込めて、まーこを180度後ろに向かせて、左手でまーこの顎を、右手でまーこの後頭部を、ガシッとつかみ、自分の左足で、まーこの両足をひっかけて、まーこを後ろに反らせて自由を奪うと、おもむろに、自分の唇を、まーこの唇に重ねようとしてきた。


 同じ日、同じ時、同じ駅前、ゆーたとゆーこが、歩きながら口論していた。

「……、まったく、あんたって人は、私の邪魔ばっかりしてさ」

「いつ、俺が、邪魔したってのさ」

と、言いながらも、しっかり、ティッシュ配りからポケットティッシュをもらうゆーた。

「いつもですよーっ!」

「……俺は、誰の邪魔もしない!」

憤慨して、大仰に手を振り回して言い放ったゆーたの手から、先ほどのポケットティッシュが、激しくスピンしながら、弧を描いて飛んでいった。

 そのポケットティッシュがスピンして飛んでいった先にいたのは、1組の男女。今まさに、キスしようとしている唇と唇の間に、ポケットティッシュがスッポリと納まってしまった。

「……、ゆーた君、ゆーた君、おもくそ邪魔してますよ」

「……、みたいだねぇ」

 しかし、次の瞬間、キスされていた方の少女が、男を振りほどき、突き飛ばし、そして、

「あんたは、後ろに、吹っ飛ぶ」

と、言った。すると、男は、本当に後ろに吹っ飛んだ。

「何か分からないけど、それで、正解だったみたい。助けに行って!」

「えぇっ!?」

「いいから、行っけぇぇぇぇぇっ!」

ゆーこは、ゆーたの尻を蹴って押し出した。ゆーたは仕方なく、まーこを背に、ロングコートの男と対峙した。

「そんな事いったって、俺、ケンカ、弱いのに」

その瞬間、ゆーたの構えが明らかに変わった。自然体で、しなやか。やがて、フットワークが、軽快なリズムを刻みだした。

「ほぅ、兄ちゃんやるみてーだなぁ。腕に自信あり、やる気満々ってとこか?」

「いぇ、ここは、穏便に話し合いで済ませます」

その瞬間、ゆーたの身体は勝手に動き、左の6連パンチが男の顔面をとらえた。そして、流れるように、右回し蹴りが、男の後頭部をとらえる。男の重心が、左斜め前にかかったところへ、右中段からアッパー気味のパンチ。

男は、一目散に逃げ出した。

 しかし、その方向が良くなかった。男の向かう先に、ゆーこがいる。しかし、黙っていれば、分からないことなのだ。それなのに、

「ゆーこ、危ない」

「キャーッ!」

ご丁寧に、教えてしまっている。男がニヤリと笑う。

 ゆーこは、なかばパニック状態だった。近くにいたティッシュ配りからティッシュの入った紙袋を奪うと、中のポケットティッシュを男に向かって投げつけた。

「バカ。そんなの当たったって、効くわけないだろ!」

ゆーたが叫んだ。男にポケットティッシュが当たるたびに鈍く重い音がした。


 まーこと、ゆーこが、警察署の前で、ゆーたを待っていた。もちろん、3人とも事情聴取を受けたのだが、“犯人を全身複雑骨折の病院送りにしてしまった”ゆーたが一番長くかかるのは当然というものだ。

「『本当は、ポケットティッシュに当たって複雑骨折したんです』とは、言えないものね」

「ん~? そうでなくて、説明のつく理由で、私のせいだったとしても、ゆーたは、自分がやった言ったと思うわ」

「どうして?」

「ん~? なんとなく」

「……それって、のろけ?」

「い、いや、そうでなくて」

ゆーこは、顔を赤くした。

「そう、例えば、今日、初めて会ったあなたに対しても、そうするかも? うん、なんか、そんな奴なの」

そのとき、ゆーたが、警察署から出てきた。

「やぁ、お待たせ」

「だ、大丈夫? 過剰防衛? みたいな奴になっちゃうの?」

「いゃ、あいつ、連続キス魔として、この辺でかなりの被害を出していた奴で、普通に捕まえていたら、表彰ものだったらしい。今回は、表彰なしのお咎めなし、プラス・マイナス・ゼロってことにしてくれるって」

「よ、よかったー」

ゆーこは、ホッと胸をなでおろした。


 場所を変えて、近くのマツドナルドハンバーガーにて。

 ゆーたとゆーこは、戸惑い、必死で、目で会話していた。

(嘘ついてるのかな?)

(私たちのクラスに、こんな人いないよね?)

自己紹介を聞いていくと、どうも、まーこは、ゆーたとゆーこと、同じ高校の同じクラスらしい。

「でも、いいなぁ、私にも、あなたたちみたいな友達がいて、“まーらいおん”なんて変なあだ名がなかったら、ちゃんと学校に行ってたかも」

「いたーーーっ!」

ゆーたとゆーこは、思わず、大きな声で言ってしまった。

「ご、ごめんなさい。驚かせて」

「いろんな意味で『いた』もんで……」

「斉藤真子さん、忘れていてごめんなさい。クラスメートの服部裕太です」

「本当に、ごめんね。何度も、会ってるはずなのに、クラスメートの佐藤優子です」

ゆーたとゆーこは、気付いていないが、この瞬間、まーこにとって、ゆーたとゆーこは、「まーらいおんである自分」を知る存在になってしまった。しかし、……。

「『いた』って、言うのはね、君が僕らのクラスにいたって意味だけじゃないよ。僕らが、君のクラスにいたって言う意味でもある。僕たちみたいな友達がいれば学校に来れるって言ってたよね。来てみないか?」

「でも、あだ名が……」

「確かに、学校中に広まった“まーらいおん”なんて変なあだ名は簡単にはなくならない……ムゴッ、ムギーッ、ムグムグ」

ここまでしゃべったところで、ゆーこがゆーたの口をふさいだ。

「はいっ、あだ名は今のでなくなったわ。この人、方向性は、あさっての方、向いてるけど、パワーはすごいから。あとは、自分で、ねっ!」

ゆーこは、まーこに、目くばせした。


 松戸サイエンス高校2年B組担任原田浩平は戸惑っていた。

 長期欠席生徒の斉藤真子が心機一転学校に通うという。年度内、もうほとんど、欠席はできない旨伝えると、それでもがんばるという。それはいい。素晴らしいことだ。しかし、差し当たって、今日問題なのは、本人が、改めて、自己紹介したいということ。

 長欠生が久し振りに登校してきた場合、騒ぎだてず、自然に、がセオリーだ。しかし、今回は、本人の希望。えーい、ままよ。やらせてみよう。


「長らく欠席していましたが、心機一転、頑張って登校しようと思います。今年度いっぱい、もう、ほとんど休めませんが頑張ります。よろしくお願いします。斉藤真子です。私のニックネームは“まーこ”です」

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