表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

〈第2話 嘘つき〉

 嘘つきゆーたは無口な男。


 自分の言ったことが、必ず嘘になるとしたら、自然と無口になっていくというものではないだろうか?

 ゆーたも、また、言った言葉が現実となる”言霊”の力の持ち主だが、ちょっと変わっている。


 言った言葉の逆が現実となってしまうのだ。


 ゆーたの幼馴染みのゆーこが小学生のころ言った。

「明日の遠足、晴れるかなぁ?」

「大丈夫。晴れるさ」

土砂降りだった。


 例を挙げればきりがない。

 ゆーたの予想。

 ゆーたのアドバイス。

どれも、言った通りになった試しがない。

ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・?・ゆ・ー・た・様・の・言・わ・な・い・通・り

なんて、からかわれるようになって、「嘘つき」が、彼の呼び名になった。


 それだけ続けば、さすがに、ゆーたも、幼馴染みのゆーこも、親しい友人たちも、彼の超常的な力を認めざるを得なかった。

 そして、彼の能力にはオマケが付いていた。


 わざとついた嘘では、言霊が発動しないのである。


 例えば、遠足の前日、

「明日は、土砂降り」

と言えば、晴れるのか? というと、晴れない。若干の救いは、何も言わなかったのと同じになることくらいだろうか?

 何かを2つから1つ選択する場合では、逆を選ぶという作戦を取れば、百発百中で当たるのではないか? という期待もされたが、何をどうあがいても、当たらなかった。



 ゆーこが、私立中学を受験する前日、不意に、ゆーたのところにやって来た。

「私、どうしても、自信が持てない」

ゆーたは「大丈夫、絶対受かるよ」と言いかけて、すんでのところで、思いとどまった。

(危ない、危ない。そんなこと言ったら、ゆーこは落ちてしまうところだった。)

しかし? と、さらに、思い悩む。

(「お前は、落ちる」とは言えないし、そもそも、嘘だから、言っても意味ないし……)

「大丈夫。自信ない受験生ばかりだよ」

翌日、受験会場近くを震源とした大きな地震があり、動揺したゆーこは大丈夫ではなかった。

ゆーこは、ゆーたと同じ公立中学に通うことになった。



 そんなゆーこが、急に原因不明の体調不良を訴え、大病院で精密検査を受けたのが春のこと。

 まさか、余命半年の宣告を受けようと、だれが予測しただろう?

 そのまま始まった入院生活。衰えて行く身体。増えていく薬。複雑化する治療。

 告知せず、気取られぬように、と気を付けてはきたが、分かってしまっていたと思う。


 いよいよ最期の時を迎えようとしているのか? というとき、ゆーたが、病室の前で祈るようにしてベンチに座っていると、ドアが引かれて、ゆーこのお父さんが出てきて言った。

「ゆーこが、君に会いたがっている」

 ゆーこは、見る影もなくやせ細り、肌は土気色をしていたが、ゆーたの顔を見ると、確かに笑った。


 ゆーたは、最近、真剣に考えていることがあった。


 嘘とは、想いの乗っていない言葉なのではないか?

 強い想いを乗せた嘘なら、逆のことが現実となるのではないか?


 しかし、さらに、こうも考えるようになった。


 あまりにも強い想いの乗った言葉は、逆でなくて、そのまま叶ってしまうかも知れない。


 だから、ゆーこに、

「お前は、死ぬ」

と、言うかどうか、迷っていた。それは、強い願望がこもっているから、届くかもしれない。でも、強すぎるかも知れない。


そのとき、ゆーこが、苦しい息の下から、ゆーたに話しかけてきた。

「ゆ、た。変な、能力、与えられた、って、神、様、恨ん、じゃ、だめだ、よ」

ゆーたは、ゆーこの手を握り、口元に耳を寄せた。

「お前、こんな時に、何、言って?」

「何、だって、使い、よう、なん、だか、ら」


(神、……、使いよう、神、……)

ゆーたは、自分の下唇を噛みしめた。自分の中から何かを絞り出すように。そして、突如、意を決して立ち上がって言った。

「ゆーこは、3年後、死んでいない」

ゆーこの家族が目をむく中、ゆーたは続けた。

「この文には、二重の意味がある。1つめ、『ゆーこは、3年後死んでは、いない』。すなわち、生きている。これを否定するならば、ゆーこは、3年後、死んでいる」

ゆーたは、カッと目を見開き、天を仰いだ。

「しかーしっ、もう1つの意味は、『ゆーこは、3年後には、すでに死んでしまっていて、居ない』という意味になる。これの否定は、もちろん、ゆーこは、3年後、生きていて、居る、ということだ!」

ゆーたは、右手を高々と上げ、人差し指で真っ直ぐ天を指す。

「神よーっ! この矛盾するダブルミーニング、同時に否定できるものなら否定してみろーっ!」


 一時の静寂、そして、……。


 ゆーこの脈拍を伝える電子音のリズムが、明らかに変わりだす。医師や看護師が慌ただしく動き出す。ゆーこの顔に赤みが差してきた。


 奇跡は起きた……のか?


「何だったのかしらね」

すっかり元気になったゆーこが言う。

「『保留』ってことじゃないかな?」

「何で3年後なの?」

「俺の能力では、それが限界だと思ったんだ。たぶん。本能的に」

「じゃあ、3年後にまたやるの?」

「それまでに、神様が答えを出してないことを祈ろう」

「私は、恋敵が現れないことを祈るわ」

「……そんなの、現れっこないじゃないか」


 どうやら忘れているようだね。彼が言ったことの逆が現実になるということを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ