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一緒に行動しようという提案が受け入れられ、誰よりも喜んでいたのはシーヤではなく、アーティだった。

「なあ、なんか魔法使ってみてよ。いいだろ、俺ら仲間なんだからさあ! 頼むって!」

「――ちょっとつっこみ所満載すぎて困るんだけど……。あのねぇ、私たちはあくまで泉の近くまで一緒で、仲間になった憶えは無いの。それに魔法を誰かに見せて楽しませる為に使うわけないでしょう。能ある鷹は爪を隠す。これ私の持論」

「じゃあなんで魔法使いって一目見てわかるような恰好してるのさ」


時間が止まる。ユエはアーティを見て、心中手を合わせた。――それは彼女の逆鱗だ。案の定、サラの激昂が飛んでくることとなる。


「私は魔族のためにこの大会に出たのよ。それなのにどうして私が隠さなきゃいけないの? 隠したらそりゃあ、私には好都合よ。私を狙う人たちから見たらただの女ですもの。さらなる油断でやって来てくれるでしょうねェ……。でもそれだと私は一体何のために戦ってるのって話になるの! 魔族が優勝したっていうのが必要なの。それで少しは魔族の存在が認められるはず。そのための戦いなのわかった!?」

「お、おお」

呆気に取られたアーティは、しばらくは黙って歩いていた。けれどもまた復活したかのように、陽気な声を響かせて彼女に質問をぶつける。うんざりした彼女は、始終落ち着いた様子の二人に助け船を求める。


「アーティ、うるさい」

シーヤは簡潔に注意した。フードから覗く瞳にわずかな苛立ちが見えた。

「サラさん困ってる」

「だってさ。仲間なんだから別に手の内隠す必要なくないか?」

「……だとしても」


わかった、とアーティが急に大声を出し、サラと向き合った。わずかに構える彼女に、にっと白い歯を出して笑ってみせた。

「俺から話せばいいんだ」

そう言って背負っていた長身銃を彼女の前に示した。それから、遠くに生えた樹の実を狙って一発、撃ち込んでみせた。実は標的になったもの一つだけが落ち、木の葉一枚も揺れることはなかった。彼はそれを走って拾いに行き、再び戻ってきて彼女に見せた。

その木の実は綺麗に真ん中を射抜かれて、虚空が広がっていた。サラは問う。

「弾は?」

「ないよ。空気砲。俺の村独自の技術で空気を圧縮してるから、かなり強いし、弾切れの心配もしなくていいからかなり便利。どう?」


サラは少し首を傾げて、口元をあげて笑みを作る。「素敵、といったところかしら」

「やった褒めてもらった。これでじっちゃんも浮かばれる」

「え、亡くなったの?」

「いや生きてるけど。ボロの小屋で銃を作って売ってるんだ」

「へえ」


じゃあ今度はサラの番、と目を爛々と輝かせてサラを見た。私も訊いちゃったし仕方ないか、とサラは諦めて、杖を出す。ユエは驚いてそこに刀身が眠っていることを教えてしまうのかと焦ったが、それにしてはサラの笑みが若干薄暗い。そしてその観察は正しかった。サラは彼に剣術使いであることを教えるわけではなかった。


「よく見てなさい」

杖の真ん中を両手で握り、彼の目の前に突き付ける。そして何やら早口で呪文を詠唱した。アーティは興奮のあまり体を震わせている。それを一瞥してから、サラは微笑んだ。

「伸びろ、杖!」

掛け声とともに、両手で杖を思い切り引っ張った。すると、木でできているはずの杖がゴムのように伸び、しなった。それから、宝石のついていない方を空に投げ上げ、再び呪文を唱えた。杖の端は空に消えた。しばし待ってから、サラが杖を思い切り引っ張ると、恐ろしいスピードで杖が戻ってきた。それが何か動くものを捕えている。鳥だった。空を飛んでいたそれを、縄のように体に巻きついて、自由を奪っていたのだった。サラは魔法を解いて鳥を解放した。「ちょっと張り切りすぎて、可哀想なことしちゃった」そうしてアーティに挑むように向かい合う。

「これで気は済んだ?」

「す、すげえ、その杖って如意棒みたいに伸びるんだな……」

「ええ」


微塵も偽りを感じさせないように堂々と嘘をつくサラに、ユエは思わず感動に似た感情を抱いた。そんな彼のことを、シーヤが見ているのも気づかずに。



さらに先へと進んでいくと、やはりというか、敵と遭遇した。

「ごめんなさいねェ、私、格好の獲物らしくって」

サラが敵に皮肉を込めてアーティに言うと、彼もまた人の悪そうな笑みを浮かべた。

「莫迦だよなあ。サラの腕を知らずに来るんだもんなあ。ムダに死ぬってこういうこと?」

「いいえ。何事にもムダは存在しないわ。彼らにはここで与えられるものがある。――それは」

サラはユエに少し離れているよう指示し、アーティはシーヤと一度だけ目を合わせて、お互いに距離をとった。

「それは?」

「――教訓よ」

油断大敵。敵を侮ること勿かれ。女は弱いという固定観念の罠。そこに気づく初めの第一歩。それを私自らが教えてあげるんだから、とっても親切じゃない?

「確かに」


二人は一呼吸を共にした。辺りを取り囲む敵、敵、てき。一拍後には、彼女らの姿は見えなかった。数秒後、訪れる悲鳴の嵐。明らかな力の差。愕然とする敵は逃げ惑い、或いはがむしゃらに向かってくる。が、逃げる者は追われ、武器を振るう者は返り討ちにされた。圧倒。ユエはしゃがみ込んで、気配を消しながら二人の姿を見守っていた。

二人に勝ち目がないと知った敵は、こぞってユエを狙ってきたが、すぐにサラが敵の背後に立ち気絶させていったので全く心配がなかった。ユエはむしろ相手の方に同情に近い感情を覚えていた。ここまで無惨にやられては、立ち直ることも難しいだろう。サラが杖を時に巨大に、時に鞭のようにしなららせて変形させ、敵を打ちのめしてゆく。そして大雑把に薙ぎ倒すサラを支援するように、アーティが一人ひとり確実に敵の数を減らしてゆく。狙いは正確で、ブレが存在しない。サラの背後をアーティの見えない弾が、アーティの側をサラの変幻自在の杖が、お互いがお互いを助け合うような戦闘に、ユエは思わず感嘆の息を漏らす。本当に初めて共闘したのだろうかこの二人は。

すると、何かがユエの袖を引っ張った。嫌悪感を隠せず、苛立ちのままにそこへ視線を向けると、シーヤが真っ直ぐこちらを見ていた。


「シーヤ! どこ行ってたんだ?」

「……呪文」

「え?」

「早く。気絶してる今のうちに種を奪っておかなくちゃ」


そう言って彼の腕を取って、這うように進んでいく。気絶した敵にシーヤは手早く呪文を唱えていく。なるほど、彼女はアーティに戦闘を任せる代わりに、倒した敵の始末を任されていたのか。ユエも手伝おうと手をかざし、呪文を口にしようとして、

「その人はもうやった」

と出端をくじかれた。「そこの隣の人、お願い」

「あ、うん」


言われた通りに動くと、シーヤがはっとしたように目を丸くして、彼にぎゅっと近寄ってきた。不思議に思いそちらを見やると、彼女は怯えと焦りとを混ぜこぜにした瞳で、何度も頭を下げた。

「すみません、すみません、無礼を……お許しください!」

「え? 何が……?」

「偉そうに命令だなんて……本当に……わたし、ごめんなさい!」

「え、別にいいよ、どうしたの?」

どうも様子がおかしい。ユエがそっと肩に触れようとすると、「だいじょうぶです!」と、拒まれた。


しばらくして、

「どうした? シロ?」

というアーティの声が聴こえた。びく、と体を震わせて視線を上げた。そこには不思議そうにするアーティとサラの姿が。もうすべて倒しきったらしい。


「なにもないっ」

シーヤは立ち上がり、彼の側に立って腕を掴んだ。アーティは頭が追い付かず、ユエの方に尋ねるが、ユエも首を振った。その縋るように服を掴む手が震えていて、ユエは申し訳ない気持ちになる。

サラがアーティを責めるような目で見た。

「アーティ、貴方が彼女を一人にしたからじゃないの。怖かったのよきっと」

声も刺々しい。アーティは慌てて否定する。

「いや、これがいつもの手筈でさ。俺が戦って、シロが種を回収する。こいつ、すごい動きが素早いか

ら、ちゃんと自分の安全を確保できるんだ。……だよな、シロ?」

頷き、ぎこちなく笑うシーヤを見て、ようやくサラは怒りを静めてユエに微笑みかけた。


「ユエは大丈夫?」

「うん……」


手を貸してもらって立ち上がり、四人はまた泉に向かって歩いてゆく。

「ねえサラ」

「なあに」

シーヤとアーティとの距離をあけて、問いかける。分からないことは自分で考えろと言われたが、さすがに女心までは女性に訊かないとわからない。大目に見てもらおう。

「女の子が謝る時ってどんな時?」

「え! ユエ、貴方シーヤちゃん謝らせたの!?」

「ちょっと待って察しが好すぎるよ!」

「女の子って私かシーヤちゃんしかいないでしょう! どうして?」


詰め寄られて、つい答えてしまった。

「命令してごめんなさいって……」

「命令?」

「う、うん」

サラはシーヤの後姿に視線を送る。命令。あんな可憐な子から出てくる言葉、か?

「僕、彼女に嫌なことしてない、よね?」

「ええ、たぶん……」

「言葉を間違えたのかな? なんだか焦ってたみたいだったし」

「そうね、きっと」


一方で、アーティとシーヤは特に会話を交わすこともなかった。二人は並んで遠くを見つめていた。

「シーヤはシロだし、俺は黒髪だからさ、白黒コンビってどう?」

「却下」

これが彼らが喋った唯一の会話だった。



ようやく四人は目的地の泉に辿り着くことができた。泉は太陽の光をめいっぱい受けて、辺りに反射してていた。小さな泉を取り囲むように樹や花々があり、幻想的で、美しかった。確かにここの土ならば、種もきっと喜ぶだろうとユエは思い、早速、植木鉢に土を入れ始めた。

「何か掘るものがあるといいわね」

そう言って呪文を口にしながら地面を杖で突いた。すると、杖に触れた場所が生き物のようにうごめき出し、何かの形を作り始めた。やがてそれはスコップの形になり、サラはそれを拾い上げて爪で弾いてみせた。土がしっかり固まっている。スコップは二つ出てきて、その内の一つをシーヤに手渡した。

「ありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

少し尋ねてみようかと思ったがやめた。


シーヤは転びそうになりながらもアーティのもとへと駆け、受け取ったスコップで掘り出した。しかしうまくいかず、結局アーティが掘りおこした土を鉢に入れるという分担作業に変わった。


サラは黙々と掘り続けるユエに近寄り、膝を折って彼を手伝おうとした。が、彼は持っていた種を手にしたまま動かないでいる。


「どうしたの?」

問うと、彼は首を振ってなんでもないと答えた。サラはそう、とだけ返した。


――最近、相談してくれなくなったなあ。質問攻めされるよりはよっぽどマシだけれど。……。

(思春期かな)

サラはひとり合点して、土を鉢に入れた。泉が、きらきらと輝いていた。


次は話がけっこう動く…かも?

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