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悪口

作者:
掲載日:2026/04/12

悪口が嫌いで嫌いでしょうがない。

なんでなら、意味もわけもないのに周りを不快にさせているから。


それを生きがいとしているような人間には嫌悪が止まらないし、そんな人にはならないと思っていた。

が、常に人というのは不満や不平が心に溜まっていくもので、それを口に出してしまいたくなる気持ちは分からんでもない。


けど、やっぱり私は悪口が嫌いで、口が悪い、口の強いことを一種のステータスやかっこよさの指針としているような人間を見ると、まるで別世界のモンスターを見ている気分になったりしていた。


そうやって生きてきて、私の口からはポジティブな言葉しか発さなくなって、無事、周りからは安心できる安全な人間だということになった。


ある日に、喧嘩している知り合い同士を見かけた。

内容はよく分からなかったけど、どちらも強い言葉を使って殴り合っていた。


耳が痛くなってその場を立ち去った。

トイレに入ると、そのうちの一人が入ってきた。涙を流していた。


私はトイレに入ったことを若干後悔しつつも、私の「みんなからの見られ方」的に声をかけるべきか少し迷って、声をかけた。


「どうしたの?大丈夫?何かあった?」


そうすると、待っていたかのようにその人は私に愚痴や不平をぶちまけた。

喧嘩相手にもいろいろ言っていた。


内容としては本当に些細なことだったのだが、今まで我慢していたことが限界を迎えたらしい。


よく分からない。

そりゃあ相手は人間で、自分と違う存在なんだし、合わないこともあるだろう。相手だってそうだ。


それなのに、自分だけが我慢していると錯覚して、怒りや悪口をぶつけていいと思っているその心がよく分からない。


社会生活を営むにあたっては、多少の我慢だけではなくて、許す心や笑って受け流す度量が必要なんじゃないのか、と思ったが、ここは聞き手に回ってフォローをするのが賢実だと気づいて、そうした。


そうすると、その人は私に向かってこう言った。


「あなたは誰かに怒ったことを見たことがないけど、どうやったらそんなに寛大になれるの?」


分からない。

というか、逆にそっちの心が分からない。


私は素直に「分からない」と答えた。









──そのとき、ほんの少しだけ違和感が残った。


なぜ私は、分からないままでいられるのだろう。


なぜ私は、怒らないのだろう。


考えたくなかった問いが、静かに浮かび上がる。


私はずっと、「悪口を言わない自分」を守ってきた。

正しい側に立っているつもりで、波の外に立っていた。


でもそれは、ただの安全地帯だったのかもしれない。


誰かとぶつかることも、

誰かに嫌われることも、

誰かの本音を受け止めることも。


全部、避けていただけなんじゃないか。


向き合わないことで、傷つかない場所にいただけなんじゃないか。


私は、人に向き合う覚悟も、

向き合われる覚悟も、なかっただけだ。


そう気づいたとき、胸の奥で何かがひび割れる音がした。

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― 新着の感想 ―
ひび割れた後どうしたのか興味があります バラバラになったかけらを拾い集めたのか、ひびだけだったところに拳骨入れて粉砕したのか、ひびが入った音だけで立ちすくむしかないぐらいの衝撃だったのか、それぞれ受け…
2026/04/13 20:21 個人的には最後のが一番つまんないかな
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