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そうか。とりあえず飯を食え。  作者: 狗空堂
第一幕 ようこそペルディティン寮へ
7/7

世界のネタばらし


 突然だが自己紹介を行おうと思う。


 俺、こと舞田幸司(まいだこうじ)は異世界転生者だ。転移? 転生? 正直どちらの名称で己に起きた事柄を呼称すればいいのか未だに分からない。そういう二次元の話は妹に聞かないと。

 だからここでは取り急ぎ異世界転生と呼称することにする。


 俺は元々現代日本で生まれ育ったごく普通の人間である。三十四歳独身、細々と料理人をやっていた。


 そんなごく普通の人間がある日突然トラックに轢かれ、目が覚めたらこの魔法が跋扈(ばっこ)し多種族が混じりあうオムニテラという異世界だったというわけだ。

 いわゆるトラ転というやつだ。最近はありふれていてあまり面白みのない導入である、と妹が言っていた。



 ここが妹がずっとやり込んでいたBLゲームの世界である、と理解したのは俺が十二歳の頃である。

 俺は物心ついた頃から『自身が日本で生まれ育った舞田幸司である』という自認を得ていたので、ザ・欧州風の世界でも平気で日本語名を名乗って生活していた。

 だが日々を生きるのに精いっぱいだったので、ここが異世界である、というくらいしか認識していなかった。


 当時オムニテラでは全土を巻き込んだ統一戦争が行われていた。その余波で俺の生まれた街には大規模なスラムが広がっており、例に漏れず俺もそのスラム内で戦争孤児として日々を必死で生き延びていた。


 何度日本の暖かな家と美味い飯と愛しい妹に焦がれて泣いたことか。恥ずかしいので妹には絶対にバレたくない過去である。


 日本で生きていた舞田幸司は至って平均的な身長体重であり、特別武道や知能に優れた面は無かった。

 だがこのオムニテラに転生した舞田幸司はどうやら他人よりも多少は魔力保有量や身体能力が優れていたようで、それならばと言うことで路地裏一体の子供たちを纏め上げて徒党を組むことにした。


 世界から打ち捨てられた子供たちに読み書きを教え、ばあちゃんから教えてもらった生活の知恵で日々を乗り越え、盗みを働くのではなく生まれ持ったそれぞれの魔法を活かす方法で金の稼ぎ方を一緒に考え。


 『コージが父ちゃんだったら良かったのになあ』と、歯の欠けた幼い子供に甘えるように抱き着かれて、情けなく男泣きをしたこともあった。

 何で俺はこの子たちの親ではないのだろうか、この子を庇護できるだけの金や地位が無いのだろうか。己の無力さに打ちひしがれる毎日だった。


 だが嘆いていても仕方がない。何も変わらない。ならばせめて、この子供たちが大きくなってこの地獄を抜け出せるその日まで。子供たちが欲する何者かの代わりで居よう、と思っていた矢先の事。

『スラムの悪ガキを集めて徒党を組んでいる、飯炊きの美味いガキが居る』という噂を嗅ぎつけて、一人の男がやって来た。



『君が噂の路地裏料理長君かい? ……いいね、とても気に入った。うちの子になるといい』


 まだ幼い子供たちを背に庇い威嚇をする俺に対して、馬車から降りてきた男は汚水に高価そうな外套が浸されるのも(いと)わずにしゃがみこみ、手を差し伸べた。


 身なりは自分たちを見捨てた貴族たちと同じか、それ以上だ。身に着ける全ての装飾、そして丁寧に手入れされているであろう柔らかな長い金髪と、そこから生えるネコ科特有の耳が彼の地位の高さを物語っている。


 この世界には獣人が存在しているが、その殆どが優れた身体能力や高い知能を有しているため社会的地位が高いことが殆どだ。表に出ている獣人族は、という言い方をした方がいいかもしれないが。

 スラムにも獣人族は居る。だが彼らは同族から見た時に『敗者』であるのだという。故に獣人は堕ちた同族には異様に厳しい。弱肉強食の世界で生きているというプライドがあるのだろう。


 そんな地位が高いであろう男が、こんな薄汚い子供相手にも目線を合わせるようにしゃがみ込んでいる。その時点でこの男は特異な存在であるのだが。


 それ以上に、目の前で微笑む美しい男を見て俺の脳内に電撃が走った。そして漸く認識したのだ。ここは妹が人生を賭けて追い続けているゲームの中の世界なのだ、と。 



 妹が愛するゲーム。『ホリック⇄アルカディア』というタイトルのそれは、ホリカディアという略称で長年BLゲーム界隈を牽引しているご長寿作品である。

 シリーズはナンバリングが5まで出ており、少し前からソシャゲにもなっており未だに新規ファンを獲得し続ける人気っぷり。


 オムニテラと呼ばれる異世界に召喚されてしまったごく普通の日本の男子高校生である清瀧(きよたき) (みそぎ)(デフォルトネーム、名前変更可)が、魔法学校に在籍し癖のある生徒たちと一緒に元の世界への帰り方を模索する……というのが1のおおまかなストーリー。


 このゲームの特色と言えば、愛が重いキャラクターとの多種多様なエンディングである。

 軟禁監禁(なんきんかんきん)は序の口、共依存からカニバリズム、強制人外化や皆殺しエンドなど、キャラクター数は少ないものの一人ずつのシナリオ濃度が濃い為、コアなファンが多く付いているようだ。


 妹がプレイするのを横目で見ながら、『なぜ彼らはこんなに歪んだ愛し方をするんだ?』と何度問いかけた事か。妹は毎回『それがいいんでしょ。二次元の愛は重くて歪んでいるだけいい』と力説していた。


 何故この瞬間悟ったかと言うと、何を隠そう俺に手を差し伸べてきたこの男が攻略対象の内の一人だったからだ。


 レオーネ、のちの統一戦争で殲滅公(せんめつこう)と恐れられる獣の王。他のキャラクターを全員攻略してからでないと攻略できない、1の隠しキャラである。

 数多くいる種族の中でも永遠に近い時を生きる始祖の内の一人で在り、その特異な設定のせいで強制人外化や他キャラ皆殺し二人ぼっちエンドが存在する、キャラクターの中でもトップクラスにヤバイ男だ。


 俺を見つめてくる男は何度もテレビで見た立ち絵と全く同じだ。レオーネが不老であることが幸いして、俺は漸くこの世界の答え合わせを行うことが出来たのだ。


 俺は度々思っていた。どうして彼らはああも不健全な愛し方ばかりを選んでしまうのか、と。まだまだ幼い子供たちに真っ当な愛し方を教えてあげられないものかと。

 返り血を浴びながら苦しそうに藻掻く画面の中の彼らを見て、毎度毎度胸を痛めていたのである。妹は大興奮で遊んでいたが。


 ここにレオーネが居る以上、いつかの未来であのゲームのキャラクターたちが生まれる。そしていつか来る『主人公』に狂わされて、誰かしら、ないしは全員が狂った愛で破滅していく未来が来てしまうのだ。


 その瞬間俺は決意した。この世界の攻略対象に健全な愛と精神を芽生えさせ、いつか来る主人公が誰を選んだとて笑顔で祝福できるような、闇堕ちルートを全回避できる健やかな人間に育もうと。


 手始めにこいつだ。この男の闇堕ちルートは、須く(すべからく)強大ゆえに幼いままの精神や無知が招く、離別(りべつ)への恐怖や肥大した独占欲が原因である。


ならば教育すればいい。覇者であるお前とは違い人間とは脆く儚く、それでも己の意思をもつ個体であると。

 そして他者に対する感情の発露(はつろ)は悪いことではないが、それを他者に押し付け思いどおりにしようとするのは悪であると。


 愛がなんであるか。愛するとはどういう事であるか。今の時点で数千年生きている彼を変える事は骨が折れるだろうが、それでもいつか来る主人公の為に、俺はこのルートを大団円ルートで終わらせることにしたのだ。



 そう思い、差し出された手を取った。

 



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