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そうか。とりあえず飯を食え。  作者: 狗空堂
第一幕 ようこそペルディティン寮へ
6/7

▼ゲーム を 開始 しますか?


 やっぱり行きたくねっすわー、なんてぐずり始めたオルミルを宥めて、まだ半分夢の中に足を突っ込んでいるアクライズの尻を蹴って、二人揃って寮の外へと放り出した。

 スヴィニグは勝手に学校に行くだろう。これでペルディティン寮の生徒は全員。


 寮生が三人しかいないのは、決してここが田舎の過疎地域の学校だからじゃない。学内には他に七つ寮があるし、他の寮生はもっと多くの生徒が集団生活を送っている。

 ここの寮生が三人しか居ないのは、ひとえにペルディティンが問題児を集めた寮だからだ。


 悪食(あくじき)のスヴィニグ、餓欲(がよく)のアクライズ、雪嵐(ゆきあらし)のオルミル。学園の中では知らない生徒がいないほどの悪名を轟かせる彼らは、もと居た寮を追い出された末にここに来た。

 ペルディティン寮は集団生活に馴染めない弾かれものを代々受け入れる寮なのだ。俺はこの学園が始まった頃からここの寮監を務めている。



「さて……。先に洗濯しちゃわないとな」

 ガキ共を送り出していざ本職を、と腕まくりをしたところで、談話室の電話が鳴った。


 未だソファでウニャウニャと言いながら溶けているガラクは、当たり前のようにその電話に出ない。

 仕方ないな、とため息を吐きながら黒い受話器を取り上げれば、耳に当てずとも届くような爆音の声が談話室に響き渡った。


『コージ! 元気にしてたかい?! 僕だよ、君の主のレオーネだよ!』

「……聴こえてる。おはようレオ、昨日ぶり」

 電話越しの声は酷く興奮している。いつも呑気で楽しそうな主ではあるが、今日はことさら機嫌がいい。一体何があったのかと聞くよりも先に、レオーネは大きな声で己の機嫌の良さの理由を明かしてくれた。


『君に素敵なプレゼントを用意したんだ。ああ楽しみだなあ、君ってどんな顔をして喜んでくれるかなあ。すごっく頑張って呼んだんだ、気に入ってくれると嬉しいなあ』

 俺の主でありこの学園の創立者兼校長でもあるレオーネは、母の日に贈り物を贈る子供みたいにそわそわとした気配を漂わせている。


 かつて統一戦争で敵どころか味方からも壊滅公と恐れられた男だというのに、彼はいつまで経っても幼い子供のように無邪気で残酷だ。


 プレゼント、と言われて首を傾げる。今日は別に俺の誕生日でも記念日でもないし、かといってこの寮にいる誰かの特別な日でもない。本当に何でもない一日である。


「レオ、落ち着け、鼻息がうるさい。今日は何も特別なことはないと思うが……」

『ふっふっふ……。なんと、君のために、(つがい)の相手を用意したんだ! しかも君と同じ異世界産の年若い子だ! (おす)なのは……まあ、ちょっと大目に見ておくれ』


 自慢げな男の声にひゅ、と喉が鳴る。


 番の相手。俺と同じ、異世界産の若い少年。与えられた情報を繋ぎ合わせて脳内で勝手に公式が出来上がっていく。

 まさか。いやでも。『そう』ならないように俺がここまで傍に居続けたのに。結局運命は変えられず、ゲームはスタートするしかないのか。


『あ、あの、レオーネさん。番って……?』

『ああごめんごめん、君が今から世話になる寮の寮監に電話をかけていてね。今すぐに会いに行こう! 幸司の料理は本当に美味しいんだ、きっと君も気に入るぞう!』


 電話の向こうで聞き覚えの無い若い少年の声と、絶句する俺に気づかずはしゃぐレオーネの声が聞こえる。ざああ、と体中の血の気が引く音が聞こえたような気がした。


 居る。レオーネの傍に、確かに居る。この世界の【()()()】が。


『うふふ、少し待っていなさい。今からすぐに連れて行くから。それじゃ!』

 ガチャンと勢いよく通話を切られても、しばらく受話器を握ったまま立ち尽くしていた。後ろからガラクが「プレゼントだってよ、よかったなァ」なんて呑気な言葉を投げかけてくる。


 何という事だ。油断していた。どの()()()()()()()もいつか見た本編よりは多少マシに矯正できたのだから、ゲーム通りのことは起こらないのだと、勝手に安心していたのだ。



 今日、この寮に【主人公】がやってくる。そうすれば、このゲーム『ホリック⇄アルカディア』の本編は、否が応でも開始するのだ。





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