ガラクさんは今日もガラクタ
寝かせてあったベーグルの生地を引っ張り出して、茹でている間に挟む具材とフルーツを切っておく。女性に二つは多いだろうか、と思ったが、まあ男女関係なく子供はみな育ち盛りなのだから食えばいいと結論づけてタッパーに詰めていく。
うちにサンドイッチケースのような洒落たモノはない。何故ならむさ苦しい男子寮だからだ。
「〜〜〜、〜♩」
ソファの向こうから音が外れたガラクの鼻歌が聞こえる。今日はハイでキメられたようだった。
ひどい時は泣いて謝りながら吐瀉物をもう一度胃に収めようとしているのだから、まあいいことだろう。そもそもキメないで欲しいというのが本音ではあるが。
「下手くそ」
「ブラーシャに比べりゃマシだろうさ。なあゲイン、お前だってそう思うだろ。サマリアを焼いた日に比べりゃ全部マシさ。うふふ、あはっ、全部クソ!」
支離滅裂なことを言いながら、もう居ない人の名前をよんで虚空に呼びかける男にため息をつく。
ブラーシャもゲインもサマリアもみんな死んでいる。この男が全部喰らってしまったから。ガラクはもうずっと、五十年前から戻れずに戦場を彷徨う亡霊になってしまった。
ガラクが下手な薬をキメて酒とタバコと幻覚に溺れているのは日常茶飯事なので、無視して朝飯を作り続ける。支度があらかた終わってご所望の味噌汁を温めようと鍋に手を伸ばしたところで、キッチンのドアがカチャリと開いた。
「あれ、おはよう。今日は俺が一番乗りじゃなかったか」
垂れた目を細めた美丈夫が肩を竦める。スヴィニグ=スヴィニコフ、俺が寮監を務めるペルディティン寮所属の四年生であり、料理が得意な面倒見の良いお兄ちゃん気質の青年だ。
そして、ペルディテイン所属と言うことは、丸まるそのまま『問題児』という意味でもある。
「ああ。ライズがお客様を連れ込んでてな。先にお土産を作っておいた」
「そういえば昨日マリナが来てたな。そのまま泊まったのか」
「マリナか。それならありがたい」
マリナ、はアクライズが抱え込む無数のそういう事目的フレンズの中でも、付き合いが長く彼との関係を火遊びとして捉えている賢く美しい少女である。
これが芍薬もかくやの初心な見知らぬ乙女だった場合、状況説明と説得で随分と手間がかかるのだが、彼女ならばその心配も無い。むしろ今頃アクライズのベッドを占領し、のんびりと送迎係の到着を待っているかもしれない。
「そろそろ行く。悪いが、また頼まれてくれるか?」
「勿論。真面目な生徒にご褒美くれるとより一層やる気が出るんだが」
すり、と手の甲で頬を撫でられる。こんなおじさんの肌を乙女の柔肌みたいな優しい手つきで触れてくるのはこいつくらいなものだ。
まあ、こいつの場合はそこに恋愛感情ではなく他の欲が付き纏っているのだから、何も嬉しくない話だが。
「ダメだ。約束しただろう、熟すまで待つって」
「そうだったな、約束だ。仕方がない、こき使われるとするか」
左程残念そうではない口ぶりのスヴィニグがパッと俺の手から紙袋を奪う。
「ガラク、煙草。消しとけよ」
「もくもく、ぷかぷか、消せるもんならとっくに消してる。俺はずうっと焚火の主役さァ!」
「ダメだ幸司、ガラクさんは今日もガラクタだ」
「お前それアイツに聞こえるところで言うなよ」
優しそうな顔をして人の心が一切ないスヴィニグを強めに小突いてからキッチンを出た。向かうは二階、生徒たちの自室が立ち並ぶうちの角部屋。アクライズと一時的なお姫様が眠る部屋だ。




