6話 生徒会長参上
「この2人はどうする?九条」
倒れている男とショックを受けて動いていない男の2人をどうするのか聞く。何か案でもあるかと少し信じる。
「そうね……その辺に放置しましょう。あたくし達の邪魔になるし」
「私も賛成です。変に警察に送るのも面倒」
「それでいいのかよ…まあ、特に放置しても問題ないだろうな」
放置してもいいか。
近くから「カツン、カツン」と足音が響く。足音としてはギリギリ聞こえる程度の小さい音。足音が近づくたびに、空気が静まり返るようだった。
「何かあったかと心配に来たが特に問題はなしだったか」
「誰だあんた」
俺は男を見る。かなり背の高い男だ、俺と20……30……それ以上の高い身長、190は超えているだろう。制服は俺達と同じ、九条学園の生徒か。
「あら、貴方、近くにいたのね」
九条は何やら知っているようだが知り合いか?
「ああ……まさか戦闘をしていたとは思わなかったがまあ、いい。こいつらについては俺がやろう」
「貴方は誰ですか?」
榛名が男に名前を聞く。俺も知らないが誰だ?
「その男はレイ・スカーレット。九条学園の生徒会長をしている男よ」
『……え!?』
生徒会長だと!?
「学園ではレイ・スカーレット。外では油川零。本名は油川零だが学園内ではレイ・スカーレットと呼んでくれ。」
なんで二つも名前があるんだ?
「本名なのに学園内では偽名を名乗らせるのですか?」
俺が疑問に思ったことを榛名に言われてしまった。気になることだな。
「レイ・スカーレットのスカーレットは母方の苗字だ。油川ではないのは母がやってほしいと言われたからだ。変に反論すると面倒だから素直に従っている……と変な事情だがあんまり指摘しないでくれ」
油川……油川といえば
「能力五家…油川…」
名家の一つの油川家の名前と同じだな。九条と同じ、当主の子か?
「正香ちゃん。気づいているわね、彼は能力五家、油川家当主よ」
「……は!?」
当主!?当主の息子じゃないのか!?
「そこまで教えなくともいいだろ、美姫。」
「油川家当主……若いと聞いていたけど学生なんて……」
当主が若いのも初耳だな。
「……家庭の事情ってやつだ。家の話は別、美姫と……正香だったか?お前らの戦闘は見ていた。中々の強さを持っているようだ。この2人はランク4に相当する実力者。簡単に負けるような強さをしていない2人を短時間で勝利したのは素晴らしいことだ」
褒めるんだ
「最低でもランク5はある。1年生でこのレベルならこれからのことはそこまで問題なく、解決できる。本来なら、すぐに昇格できることだが、ここは学園外、学園では昇格できない。政府に証拠提出したら昇格するだろうがどうする?」
それは……
「断る。そんなことで昇格なんてしたくないね」
「正香ちゃんと同じよ。あたくしがこんなつまらないゲームで昇格するほど安くないわ」
戦闘をゲームと言い換えているのは強いな九条
「……機械を捨てることになるがそれでいいならそれでいい。深く言うことはない。榛名と言った……いや、なんでもない。今はそこでショックを受けている奴と泡を吹いている変態をこの場から移すことをやるべきだな」
変態って……生徒会長までも認識しているのかよ。
「いいの?」
「いい。特に問題はない」
何かの術式を書いて2人を転送した。どこに送ったんだ?
「2人は学園に送った。電話してあっちには話である。2人のことは気にせず、帰っていい。後処理もこちら側がやろう」
「へえ〜いい待遇じゃない。らしくないわね」
「らしくない?美姫よ、面白いことを言うな。俺は仕事人間ではない。単なる気まぐれで動いているのに過ぎない」
気まぐれか
「それで?どうして貴方がここにいるわけ?生徒会長としての仕事はあるじゃないの?」
生徒会長としての仕事あるのか
「生徒会としての仕事はほとんど行事に関しての仕事だらけだ。権力が強いとかそう言うのはない。生徒会長は確かに学園最強の座だがそのくらいしかない」
生徒会長が学園最強の座!?
「生徒会長が最強の座!?」
榛名も知らないようだ。俺と同じか
「間違ってはいないな」
「ええ、だから、ここで潰しても問題ないってことよ」
「お前は何を言っている」
「お前は何を言っているんだ」
生徒会長と同じツッコミしてしまった。何を考えているんだ九条。俺達は先程戦闘したばかりなんだぞ。
「本当にやる気なの?九条さん」
「ええ」
「ええじゃねえだろ」
何を考えてんだ。
「……イカれてあがる……」
生徒会長が呆れているんじゃねえか。内心ビクビクしているが本当にやる気か?ここでやったらやべえことになるのが見え見えだぞ。
そんなに疲れてはいないとはいえ、何を考えているんだ。学園最強をここで戦闘するほど余裕なんてないだろ。当初の目的からめっちゃ離れているし
「ここで潰すという発想は恐ろしいな。破壊活動はやめろ。九条家どころの話ではない」
能力五家は衝突避けたいとかあるのか?
「先ほどの質問をもう一つ答えよう。どうしてここにいるのかについてな。カフェでカフェを食べていたまでだ」
カフェにいたんかい!
「なんかギャップがすごいな……」
「会長も甘いもの好きなんですね……」
俺と榛名は驚いていた。まさか、甘いもの好きとは思わなかった。クソイケメン野郎のくせに案外そう言うの好きなんだな
「ってわけだ。長話をしてしまったがもう、12時半だ。そろそろ店も人が少なくなったところ、俺はここで失礼する。昼飯を食べに行くのでな」
「いや、まだ食べるのかよ」
カフェ食べたばかりだって言っていたのにまだ食べるのかこの人
「高校生の食欲舐めるなよ。たかがカフェで腹一杯にならん」
「それは分かるわ」
九条もか
「そう言うわけで俺は昼飯を食べに行く。ここで別れだ。次会う時は学園で会うだろう。それではまた、会う日まで」
生徒会長は去って行った。
「なんか嵐みたいな人だったね」
「そうか?」
そうとは思えないが……
生徒会長──レイ・スカーレット。あの男と再び顔を合わせるのは、もう少し先のことになる。俺達はその時、どんな立場で、どんな実力を持っているんだろうか。
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会長サイド
ラーメン屋ににて
「やっぱり、ラーメンは美味いな」
湯気の立つ器を見つめながら、レイ・スカーレット──油川零は思考を巡らせる。
(……まさか、あそこまでの実力とはな)
能力五家・九条家の娘と、正体不明の一年生。
家の者が聞いたら眉をひそめるような話だが、俺にとってはどうでもいい。
(榊原家ならまだしも九条家とは衝突は避けたい。榊原家と違って九条家は表立っている。変に問題起こすと社会問題になる)
榊原家の当主はクソ野郎だが九条家の当主は癖が強いからな。美姫は父親譲りだから話しやすい。
(あの男も中々だったな)
外見が美少女のあの男。無名なのが惜しいほどの実力者。こちら側に取り込むのも有りだが九条家の人間が近くにいる限りなく、無理だろう。
(変に執着する必要はない。国の敵ではないなら問題ない)
榊原家とは関係ないようだし、九条家の人間のあいつが近くにいる限り問題ないだろう。
「ラーメン美味え」
油川零は目を細めた。 その視線の先には、誰にも話していない過去と、避けられぬ未来があった。
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