カエレンは国を追い出されたと分かる
アッチノ伯爵領は王都から近いし、ユヌムン王国と国境を接していた。アケーミという令嬢がいるが、ショートメッセージが届いた。
『ニートダス様がカエレン王女と婚約破棄した。詳細は会ってから』
SNSは個人あてに送ることもできる。
「婚約者がいたんだね。破棄されたと」
「SNSでは言えないことも分かるなー」
「真実を曝け出してあげる。女王なんて柄じゃないはず」
午後に会うことにする。SNSを使った女の戦いが本格的に始まる。
図体はでかいが気迫の感じられない男性をアケーミが連れてきた。
「ニートダス様や。ちょっと女性不信になってるんや」
「あの。ほんとに話を聞いてくださるんで」
人目を気にするようにまわりを窺う。
「まずは座って。私もあの女には邪魔されたし。カエレン王女をざまぁしよう」
「噂に聞いてますが、強い女ですな」
(強いというより、女の意地なのよ)
「魔物を倒した勇者やないか、ニートダス様。あの女と婚約破棄してから、すっかり変わったやんけ」
「魔物を! たしかにあの女も男にとっては厄介かもね」
(しつこいし、仮面を被ってるし。一筋縄ではいかないよね)
「魔物は正直で負けを認める潔さもあった。あれはな」
ニートダスも腹に溜まったものがあるらしい。
「平気で浮気して、王女だよと威張るんだ。王家だから許されると思っている」
「あの女が罵詈雑言を書いた手紙もあるんや。みせたれや。拡散させよるから」
「弟の王子と結婚するは話しはどうなってるんやー」
サユリーは気がかりらしく、尋ねる。
(そうだよ。男に不自由はしてないようだし、弟と結婚して王女になるのもね)
幼いころから手なずけて置けば、お姉様と結婚する、というかもしれない。行き当たりばったりの行動だろうか。
「カエレンの性かもしれん」
ニートダスも話せる相手と考えたか、笑みを浮かべる。
「女の恋人へちょっかいをかけて奪うのが楽しいらしい。それで王子様がハーラヌアマ王国の王女と縁談が持ち上がった。そうすると、弟と結婚するといいだした」
「あの。マイカル王子とはどうなってるんでしょう」
(順序良く知りたいものだ)
「カエレンは幼いころから隣国の王子を狙っていたらしい。俺との婚約はそれを防ぐ手段だった」
ニートダスは自嘲気味に笑う。
(それで、私を目の敵にしてたわけか)
男遊びが収まらないカエレンがついにマイカルと一夜宿で密会していたのがばれたようだ。ニートダスの婚約破棄も、それが原因らしい。
「王子様の縁談話は最近だ。さすがに王様はお怒りなされて、三日前だが、国外追放にしたつもりだが」
(えっ。それじゃ、そのまま逃げてきたんじゃん。ほんと、計画も無しなのね)
結局はマイカルのところへ転がり込み、マイカルに婚約破棄、と言わせたらしい。
「王家同士の関係はこじれないかしらね」
「オトナの交渉ってものだ。庶民に向けては、友好国となり協力することになる、と知らせている」
王様と王女も、その交渉で忙しかったようだ。
「こっちでは戦争だーって騒いでるけど」
「お互いに攻めない約束だからな。隙をついて攻められないようにと。それが王家同士で決めたオトナの判断らしい」
(王様の統一するとかいう夢に近づくのね。マイカルも贅沢したいらしいから、あの女が嫁になるのは都合が良いのかもね)
シナリオはできている気がした。
「ユヌムン王国がどこまで戦争にかかわるかだよ。実際は追放したんでしょ」
「傍観して、利益がでるなら分け前をもらおうって作戦だ。へたに戦争だー、と騒げばハーラヌアマ王国から睨まれる」
王子が王女と縁談を進めている王国同志だし、近隣4か国も元はひとつの王国だった。
「ちょっと困るね。ハーラヌアマ王国は内陸との防波堤みたいなものだし、騎士も多い」
テーファー、ユヌムン、ウミパタの三か国を合わせたぐらいの広大な領地をもっていた。
(分かったこともあるよね。あの女は追い出されて行くところがないんだよ。王子に飽きたら、また男遊びをするはず。ま、マイカル王子は女好きみたいだから)
男も女もハーレムや逆ハーレム作りを始めるのだろうか。
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SNSは主に王都を中心に情報合戦となった。コメントやスレを立てるのも早い。
「イラストも大袈裟になりよるなー」
カエレンはべつの掲示板へ掲載しているらしくて今日も顔を見せない。
「ほんと煙じゃなくて火を噴いてる」
ジョーキキカンは火炎放射器になっていて、人が逃げたり燃えたりと過激なイラストになっていく。
「それよりさ。へんに、あの女を庇うコメントもあるよね」
拡散もされているから、密かに応援している者の存在も感じさせる。
「考え方は違う人もおるしなー。あまり興味もないというのが本音やろうかなー」
(ありきたりなネタってやつかしら。それでも、不倫女があばずれだって分かると思う)