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魔物と対峙、カエレンは国を追い出されたと分かる

 異国へ続く街道沿いの茶屋。ユヌムン王国まで4キロメートルと標識が立つ。

「舟なら5分なのね」

 ケリーヌは壁の運航表をみて言う。瓦屋根の店舗に待合室があり、食堂風な椅子も並ぶ。愛想のいい店主がアイスティーをテーブルへ置きながら自慢する。

「場所がよろしいようで。アッチノ領では一番人気になっております」

 アッチノ伯爵領は王都から近いし、ユヌムン王国と国境を接していた。話す間にも裏手から舟で着いたらしい人々が待合室へ一休みしに来た。

「早かったんやな」

 アッチノ伯爵家の令嬢アケーミが声をかけた。

「ホームはサユリーに任せてるから」

 昼食代わりに注文したハンバーガーをかじる。トマトと玉ねぎの辛みが利いていて、薄切りハムを引き立てる。フランスパンの香ばしさが鼻を刺激する。

 ショートメッセージがアケーミから届いたのは朝だ。

『ニートダス様がカエレン王女と婚約破棄した。詳細は会ってから』

 SNSを利用して、個人あてにショートメールを送ることもできる。それで、さっそくアッチノ伯爵領まできた。

「婚約者がいたんだね。破棄されたと」

 食後にアイスティーを飲むと聞く。アケーミは海苔せんべいでお茶をしていたが、辺りを見回す。

「ニートダス様から直接に話したほうがいいんやが。どこいったんや」

 一緒に来たらしい。

「ちょっと女性不信になってるんや」

 立ちあがり、どこかあてでもあるように歩く。

(小用かな。ま、いいや。たまに出かけるのもいいね)

 裏手に川があり、舟着き場から、何かを合図する声や、水を弾く音などが響く。

(さすが田舎だよ。魔物が出るって)

 魔物の森はこちら、と矢印があり、オペラグラスの貸し出しもしている。街道の向こうに小高い山も見える。魔物見学も観光になった。

 岩場に、もはや白い穂もめだつチガヤの群れ。街道へ出てきた荷馬車は箱型の荷台。旅芸人だろうか、太鼓や鐘、笛を鳴らして街道を渡ってきた5人の男たち。

「賑やかになったね」

「珍しいですな。旅芸人はもっと人数も多い」

 店主は、忙しく注文を聞いていたが、注目する。道端に荷馬車を置いて、リーダーらしい一人が茶屋へ入って来た。音楽というか、鳴らす練習みたいな音は続く。

「黍団子をくれ」

「はい。箱入りはお安いですぜ」

「ひと箱くれ。それに酒だ」

「昼間から酒は扱っておりませんので」

「帰ってから飲むのだ。樽ごとくくれ」

「それでしたら、まいどあり」

 奥の方へ酒樽を持ってくるように合図した。

 ほかの客たちも「旅芸人なのか」「それにしても風貌がわるい」と囁く。「芸人だから」と納得する声もでた。

 恰幅のいい女性が紐で結わえた酒樽を抱えてきた。女将だろう。

「それじゃ。釣りは要らない」

 リーダーは100マニー紙幣1枚をだして樽を受け取ると、黍団子を下げて足早で帰ろうとする。百マニーは一万円ぐらいだろう。

「そんなに高くはないでごぜえます」

 店主がお釣りは返そうとする。

「急ぐでな。チップだ」

 女将が何かに気づいたらしい。

「羽振りがいいね。祝杯かい。荷車の中も覆ってるし、かどわかしじゃないだろうね。人相から悪人だよ」

「めっそうな。それじゃ」

(こういうところの女将さんは、人を見る目があると聞いたけど)

 なにか事件があったら、証言はしようと考えた。


 ばさっ、羽ばたきが聞こえて街道へ降りたのは魔物だった。頭は猿だが体形は犬のマルチーズで、高さ2メートル弱、オトナの背丈ぐらいだ。雉のような羽をたたんだ。

「大きい。でも、ここまで人には近づかないはず」

 魔物は野生動物と同じで、衣食住が足りていれば、人間社会へ干渉しない。

「急げ」リーダーが、荷台の前に乗る仲間に樽を預けて急かす。

 旅芸人へ構っている暇もない。店主は落ち着いて対応する。

「黍団子を上げれば帰るさ」

 たしかに、雉、犬、猿なら黍団子で喜ぶ話はあったような気もする。

「ちょっと近寄りすぎだぞ」

 店主も隣まで近寄る勇気はないらしく、長い棒で黍団子の入った箱を差し出すが、目を向けた魔物はちょっと笑う。猿だけに人間にも似ている。

「どご」聞こえるような声を発して後ろ足で立つと、両耳へマルチーズみたいな前足を当てる。小さな音を探しているふうだ。 

「おやおや、ご機嫌斜めかな」

 それでも、警戒した店主。周りに近づいた人々へ遠ざかるように合図した。

「なんや。魔物やんけ」 

 アケーミが、図体はでかいが気迫の感じられない男性を連れてきた。

「いつもと様子が違うみたい。これって、危ないでしょ」

「魔物退治の勇者がおるやんか。ニートダス様、なんとかせやな」

「手を出さなければ、攻撃しないはずだが。しかたない」

 店主から棒を受け取り、前へ出た。

「魔物退治の勇者って、あのユヌムン王国の。そうなんだ」

 ニートダスが見かけより勇敢だと気づいた。

「仕掛けないことだ。相手が攻撃するときに隙がでる」

 魔物の動きを観察しているらしい。

 足を下ろした魔物は、荷馬車のほうへ顔を向けた。やかましく音を鳴らしながら荷馬車が揺れて動き出した。

「あの馬車が狙いだな。店主、中身を知らないか」

「さあ、お客様のプライベートは」

 そこまで、聞くわけにもいかないのが商売。それでも、茶屋へ被害は及ばないと、お客様へも安心するように告げた。なにか起れば、観光として魔物見学もできなくなる。

「大丈夫かしら、あの人たち」

 後ろから襲われると考えた。

「勇者でしょ。行くわよ。たぶん話ができると思う」

 ニートダスへ言うと、魔物の前へ駆け出す。人間の言葉を理解できると聞いたこともある。

(サイハーテ領の言葉に近いというけど。話すらしいから試そう)

 それでも魔物は遠くを見るというか、荷馬車を見つめると、雉の翼が羽ばたいて、マルチーズの白い毛が宙を飛ぶ。

「わざわざ、前のほうからか」

 棒を持ったニートダスが旅芸人たちのほうへ走っていく。

(やはり男だね。戦いとなれば変わるのよ)

 魔物は荷馬車の前に降りる。馬がいななき、止まった。

「におうぶ」

 言いながら、鼻をひくつかせて、匂いを確かめる仕草。

「魔物か。人間様に逆らうなよ」

 リーダーが御者台から降りて剣を構えた。

「刺激するな。ようすを見よう」

 ニートダスが棒を持ちながら、窘める。

「任せてくれな」

 音楽は止み、残りの4人も降りて剣を構えた。チガヤを揺らせる風の音さえ聞こえる。カタッカタッと荷馬車で音がする。

(中に何か入ってる)

 見れば、微かに揺れてもいた。この音を隠すために楽器を鳴らしていたらしい。

「人さらいやんか」

 決めつけたようにアケーミが横に並ぶと、荷台へ飛び乗る。覆われた布を取れば、箱が見えた。

「蓋が動いてるね」

 被せた板を何者かが動かしているらしい。ケリーヌも荷台へ飛び乗った。

「畜生が。やっちゃえ」

 リーダーの声がして、5人が剣で魔物へ切りかかる。前足をあげて立ちあがった魔物。

「腹を狙え。一突きでお終いだぜ」

「罠だ。危ない」

 ニートダスが棒で遮るが、一人だけ屈んでから突進した。ダシュ、魔物が後ろ足で蹴り上げて宙を舞う。飛び膝蹴りをかました格好だ。

「勇者の言うこと聞かないから」

(先に仕掛けたら危ないっていってたけど)

 魔物も様子見は止めたらしい。素早くかけより噛みつこうとする。喧嘩慣れしているのか4人は交わしながら剣で魔物を突こうとする。

「まずは、離れろ」 

 棒を構えながら支持するニートダス。

「重いやんか。こっちが先やんけ」

 アケーミが蓋を開けようとしていた。

「そうだったよ。なにか魔物と関係あるかな」

 狭い溝に指を指し込み持ちあげる。人差し指の先へ力を込める。やはり一人では無理だったのだろう。くいっと横へ滑らせると、そのまま押して下へ落した。

「やっぱり」

 魔物の子供だろう。四肢を縛られたマルチーズに猿ぐつわをされた猿。ぱたぱた翼が蠢く。

「だから魔物は来たんや」

(子供を捜して来たんだね)


 さて、4人も接近戦は危ないと知ったのか、距離を置いて対峙していた。

「飛べば隙がでる。慌てるなよ、横から狙え」

 ちょっと素人には難しいはずだが、ニートダスは棒で急所を狙うつもりだろう。

「まずは猿ぐつわや。はずさにゃいかんや」

 アケーミは手を伸ばすが、必死でもがいて転がり逃げる魔物の子供。

(たしかに、怖がるよね。でも、言葉が通じるはず)

「あなたは成れる自由」

 魔物の動きは止まる。

「言葉が分かるんか。はよ、せな」

 それでも魔物の子供は嫌がるようす。

「取り除く。邪魔なそれが防ぐ。あなたが話すのを」

 猿ぐつわを外す真似をしてみる。意味が分かったように見つめる魔物の子供。

「通じたんやな。サイハーテ領の言葉やんけ」

 アケーミは布切れを魔物の口から取り去った。

「うきき」嬉しそうに喜ぶ魔物の子供。

「言葉の並びが似ているって聞いてたけど。通じるんだね」

 神話時代のイングッシュ語が同じ並び方だ。世界中で共通語として使われたらしいが、信じられないことだ。

(これで、解決かな)

「おいで」

 魔物の子供を背中から抱き上げて外へ出す。もこもこ動き、温かいが、獣の匂いも漂う。

「これでしょ。彼は助かった」

 魔物は喜ぶ表情になるが、険しい目つきになる。

「人質になったと思ってるんや」

(そういう考えもあるか)

「彼はされる、解放」

 それでも、ばさっばさっ、と何頭か魔物が舞い降りた。小ぶりだが数が多いと怖さも出て来る。

 ニートダスは事情が分かったように言う。

「誘拐だな。無益な騒動を起こしやがって」

 旅芸人気取りの4人へ棒を向けた。

「ただの畜生だ。邪魔するってえのか」

 剣でニートダスへ切りつける男。

「素人が」棒を伸ばしてくりくりと巻き取るふうのニートダス。腕を絡められて剣を落とした男。

「あわわっ」

 剣を拾おうとしたが、先にニートダスが手にした。

「てめーらはしにさらせ」

 さすが勇者だ。4人は切り倒されたが、致命傷も受けてないようだ。脚を狙ったらしく、転がり悶える男たち。蹴飛ばされた男も、ひーひー、喘ぎながら腹ばいで逃げてきた。

「でもさ。これは分かってくれるかな」

 集まった魔物たちがじりじり詰め寄ってくる。

「ほどけんやんか。こりゃ切るしかあらへんか」

 アケーミは四肢の縄を解こうとしている。

「悪人たちの剣を使えば」

 ニートダスへ合図する。警戒した魔物たち。

「ぎゃぎゅぎょ」

 威嚇するように羽をバタつかせて、前足を上げる。

「そうだ。実演してみせよう。なにか紐がないかしら」

「良いのがあった」

 ニートダスが荷台から酒樽の紐を解いて持ってきた。

「見せるんやな。ちょっと巻いてーな」

 アケーミが伸ばした腕に、軽く紐を巻き付けた。

「切る。紐邪魔。彼の」

 ようすを見守る魔物たち。紐が切れて腕が自由になったのも理解したようにうなずく。

「それじゃ。いくか。動かないようにしてくれ」

 どうしても四肢は細かく動くのだ。ここは、ちょっと我慢してもらう。魔物の子供の前脚を掴んで引き延ばす。

 ぷつんぷつん、細かく切っていくニートダス。

(この、もこもこ感は、あれだよ)

 弟を抱っこしたときと同じ温かみを思いだす。

「もう、ほどけるねん」

 アケーミが縄を回したり引いたりして、脚から取り除く。

「うきい。ばるばる」

 前脚を動かして燥ぐ魔物の子。これは、後ろ脚の紐を切るのも難儀だ。

「できない歩く。可能、彼の行動」

「うきゃうきゃ」

 魔物の子は後ろ脚を伸ばして、早く切ってくれとの仕草。

「おりこうさんだ。すぐだからな」

 ニートダスも何か子供の散髪をするような表情になって、縄を切る。

「靴みたいに脱げるかもや」

 アケーミが緩んだ縄を引き下げていく。

「よし。そのままだ」

 荷馬車へ這い上がって来た男たち。剣を向けてきた。

「てめえらは」

 ニートダスが剣を振り上げる。

「おっと、本気だぜ」

 剣を突き付けられたケリーヌ。魔物の子を抱っこしたままでは自由に動けない。アケーミも困った表情になり、手を止めた。

「そのまま逃げるぜ。人質もあるから、魔物も手をだせない」

 御者台でリーダーの声がして、動き出す荷馬車。

「ばぎゃろー」魔物の子が叫ぶと、羽ばたいて、浮いたマルチーズ。ケリーヌは油断した男の剣を潜り、相手の腹を蹴飛ばした。

「うわっ」のけぞり、馬車から落ちた男。

 アケーミは男の腕を掴んで剣を防いでいたが、体当たりで押しのける。

「あわわっ」踊るように馬車から落ちた男。

「さすが貴族令嬢」

 ニートダスは褒めながらも残る二人と対峙する。護身術も習うのが貴族令嬢の嗜みだ。

「儲けは山分けしよう」

 一人が下手に出た。

「剣を向けたまま言うか」

 ニートダスが剣を突き出す。かわす男はバランスを崩して前へ落ちた。

 がたんっ。車輪に踏まれたらしい、止まる荷馬車。

「うひゃー」たまらず下へ逃げた男。

(ただでも、怪我してるのに)

 心配したように、うずくまる飛び降り男。

「逃げるが勝ちだ」

 御者台と荷台を離すレバーを押したリーダー。馬は足早に遠ざかるが、魔物が馬の前を邪魔した。

「ふんうらばー」

 ひと跳びで御者台のリーダーをわしづかみで引きずりおろした。

「うきゃらうきゃら」

 魔物の子がふわりと隣へ降りたつ。

「ごぶりんごぶざん。ごーいんふぉーれ」

 魔物がリーダーを前足で小突きながら連れ去ろうとする。

 ほかの魔物たちも旅芸人紛いの男たちを小突いて急かす。

「いや。人間は人間が裁くのが普通でしょ」

 目の前で魔物へ連れ去られるのは見たくもない。

「しかし、人間が罰せられるか。この連中の罪は、人さらいじゃないはずだ」

 ニートダスは、警察へ説明しようにも罪に問われないと考えたらしい。

「人が魔物にさらわれるんや。見逃せへんやんけ」

(そうだよね。観光としても悪いイメージになるし)

 ケリーヌは考える。

(どうしても、人間は人間が裁くから。えっと。なにかあったような)

「自然環境だったけ。鳥獣保護条例が有ったよね。違反してるよあの人たちは」

「聞いたことはあるな。許可を取って動物園は運営してるとか」

「もぐりもいるやんか。高く売ったり、虐待したりしてるんや」

「儲けを山分けとかいってたな。それかもしれない」

「ワシントン条約かも。うん、あてはまるはず」

 言うと、魔物へ駆け寄りながら叫ぶ。

「彼らは違反した、ワシントン条約。裁く、人間」

「ばじんとぅ条約。まーじょー、おぎて」

 魔物は納得したような表情。

(だけど、これって、人間。いやいやいや、古代から進化の形態と言われてるけど)

 噂では、神話時代の環境汚染で染色体が変化したと聞く。ホーシャノーと呼ばれる怪物がいたらしいが、いまでは確かめようがない。コンピューターも喋るし、動物は三歳児ぐらいの知能があるという。たまたま魔物は、人間に近い言葉を発音できたのだろう。

「あなたは知る魔女様。私たちも守る、ハビタスセパリ」

 棲み分けを確認する。魔女は魔物にも影響を与える存在らしい。

「ばもろん、ごれがらん。がえる」

 魔物は子供に合図して、今回は歩いて森へ戻るようだ。集まった魔物たちも去っていく。魔物の子供は羽をぱたつかせて歩調を合わせるふうで、天使の後姿を想像させる。

(やはり、親は子供が大切なんだよ)


 残った悪党たちをニートダスが急かす。

「荷馬車へ乗れ。騎士たちへ連絡するからな」

「いてて。足が、腰が」

 立ちあがるのもままならないように尻を付いていた。

「任せてくださいまし」

 見学人から、男らが手助けにきた。店主も駆け寄り、気遣う。

「お怪我は。普段はおとなしいんですがね」

「子供をさらわれたら、誰でも怒ると思う。そうだ、黍団子も食べなかったね」

「森には美味しいのがあるんでさー」

 敵対心がないという合図で、黍団子はあげていると話す。

「観光に響きよらんか」

 アケーミは伯爵領の令嬢として心配しているようだ。見学人たちが世間話で応える。

「SNSへあげてんや。アトラクションやんか」

「いまからきよるって、もう遅いやろ」

 アッチノ地方の方言で、ハプニングを面白がっているようだ。


     ・


 仕切り直しだと茶屋の椅子へ座った。

 戦いの済んだニートダスは、覇気の無い表情に戻る。

「あの。ほんとに話を聞いてくださるんで」

 人目を気にするようにまわりを窺う。

「私もあの女には邪魔されたし。カエレン王女をざまぁしよう」

「噂に聞いてますが、強い女ですな」

(強いというより、女の意地なのよ)

「魔物を倒した勇者やないか、ニートダス様。あの女と婚約破棄してから、すっかり変わったやんけ」

「たしかにあの女も男にとっては厄介かもね」

(しつこいし、仮面を被ってるし。一筋縄ではいかないよね)

「魔物は正直で負けを認める潔さもあった。あれはな」

 ニートダスも腹に溜まったものがあるらしい。

「平気で浮気して、王女だよと威張るんだ。王家だから許されると思っている」

「あの女が罵詈雑言を書いた手紙もあるんや。みせたれや。拡散させよるから」

「弟の王子と結婚する話しは」

 それも気がかりだ。

(そうだよ。男に不自由はしてないようだし、弟と結婚して王女になるのもね)

 幼いころから手なずけて置けば、お姉様と結婚する、というかもしれない。行き当たりばったりの行動だろうか。

「カエレンの性かもしれん」

 ニートダスも話せる相手と考えたか、笑みを浮かべる。

「女の恋人へちょっかいをかけて奪うのが楽しいらしい。それで王子様がハーラヌアマ王国の王女と縁談が持ち上がった。そうすると、弟と結婚するといいだした」

「あの。マイカル王子とはどうなってるんでしょう」

(順序良く知りたいものだ)

「カエレンは幼いころから隣国の王子を狙っていたらしい。俺との婚約はそれを防ぐ手段だった」

 ニートダスは自嘲気味に笑う。

(それで、私を目の敵にしてたわけか)

 男遊びが収まらないカエレンがついにマイカルと一夜宿で密会していたのがばれたようだ。ニートダスの婚約破棄も、それが原因らしい。

「王子様の縁談話は最近だ。さすがに王様はお怒りなされて、三日前だが、国外追放にしたつもりだが」

(えっ。それじゃ、そのまま逃げてきたんじゃん。ほんと、計画も無しなのね)

 結局はマイカルのところへ転がり込み、婚約破棄、と言わせたらしい。

「王家同士の関係はこじれないかしらね」

「オトナの交渉ってものだ。庶民に向けては、友好国となり協力することになる、と知らせている」

(王様と王女様も、その交渉で忙しいのだね)

「こっちでは戦争だーって騒いでるけど」

「お互いに攻めない約束だからな。隙をついて攻められないようにと。それが王家同士で決めたオトナの判断らしい」

(シナリオはできているのかも)

 王様の統一するとかいう夢に近づく。

(マイカルも贅沢したいらしいから、あの女が嫁になるのは都合が良いのかもね)

「ユヌムン王国がどこまで戦争にかかわるかだよ。実際は追放したんでしょ」

「傍観して、利益がでるなら分け前をもらおうって作戦だ。へたに戦争だー、と騒げばハーラヌアマ王国から睨まれる」

 王子が王女と縁談を進めている王国同志だし、近隣4か国も元はひとつの王国だったから、もう争いは止めようと取り決めてもいた。

「ちょっと困るね。ハーラヌアマ王国は内陸との防波堤みたいなものだし、騎士も多い」

 テーファー、ユヌムン、ウミパタの三か国を合わせたぐらいの広大な領地をもっていた。

(分かったこともあるよね。あの女は追い出されて行くところがないんだよ。王子に飽きたら、また男遊びをするはず。ま、マイカル王子は女好きみたいだから)

 男も女もハーレムや逆ハーレム作りを始めるのだろうか。


    ・


 王都へ戻るころには、ニートダスのスレッドも公開され、拡散されていた。

 SNSは主に王都を中心に情報合戦となった。コメントやスレを立てるのも早い。

「イラストも大袈裟になりよるなー」

 カエレンはべつの掲示板へ掲載しているらしくて今日も顔を見せない。

「ほんと煙じゃなくて火を噴いてる」

 ジョーキキカンは火炎放射器になっていて、人が逃げたり燃えたりと過激なイラストになっていく。

「それよりさ。へんに、あの女を庇うコメントもあるよね」

 拡散もされているから、応援している者の存在も感じさせる。

「考え方は違う人もおるしなー。あまり興味もないというのが本音やろうかなー」

(ありきたりなネタってやつかしら。それでも、不倫女があばずれだって分かると思う)

 

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