蛇猫との対決でケリーヌ、アラン、マイカル、カエレンの4人は協力するしかない
王都の外れにも護魔があり、集落から少し離れた森にいる悪魔から守るお社と教えられていた。魔女が現れる場所としてのほうが認知されてはいる。箱型だが、つる草や苔も生える。蛇猫が住み着いて、ぬらぬらきらめく鱗の、長い胴体が見え隠れする
「いつ見ても気味悪いよね。ぅわっ、カラスがきた」
大きな扉があり、庇の上にとまった二羽のカラス。たぶんケンタウルスも馬車で通っただろうぐらいに大きな扉だ。苔がついた銅板らしきものは、取っ手もないが、厚めに盛り上がる部分が取っ手だろう。
「押すのかな」
アランが押してみると、あんがい簡単に開いた。聖女や修道士が手入れしているとは聞いていた。
「入って良いのかな。いいんだよね」
潜ってみる。思ったより明るい。天井が白く輝いている。
21世紀から、はるか未来の世界だから有りえる。夜光塗料というより、蓄光塗料を使っているのだろう。
なにか問うように鳴きながら、カラスが羽音を響かせて飛んで行った。
「思ったより広いな。何もない。これぐらいか」
アランが奥の方を指さした。長方形で六畳間ぐらいの広さだ。右側に洗濯機みたいな物があり、方向指示器のようなレバーがついていた。
「絨毯だね。ケンタウロスも馬車で入ったはずだし」
車輪の通った筋も窪んで残る。ここから魔女の国へ行けるのは確かだ。
「どのように。まずは入ってからだ」
馬車へ戻って、絨毯の上に乗りこむ。壁側にある洗濯機みたいな物は気になる。操作盤だろう。
「あのレバーは、なにかを操作する機械だろう」
「単純かもね。銅板だけど、あれしかない」
水平に伸びるレバーだが、動かせるらしく、溝が縦に見える。
「レバーを上げれば飛ぶのか」
「アランさんも想像力が豊かだね」
(空飛ぶ絨毯だよ、これは。見たこともないけど)
馬車から下りて近づく。
「昇降機。掠れてるが、書いてあるな」
アランが小さな文字を見つけた。
「やっぱり、上がるんだよ」
ケリーヌはレバーを上げた。なにかが嵌る音が下したが動かない。空飛ぶ絨毯ではないようだ。
「地下か。王城にもあっただろう」
「めったに使わないけどね。そうかも」
小型のエレベーターとも呼べる物はあった。この部屋ごと地下へ行くのだ。
「魔女の国へは地下からいくのだな」
アランが分かったようにレバーを下ろした。唸るような音が響きだす。
「わっ。なに」
急いで馬車に乗った。アランも飛び乗り、護身用の剣を取りだす。
「質のわるい魔物かしら」
魔物にも種類がある。ゴブリンも健在だ。長刀を構えるケリーヌ。
「あれれっ」
浮遊感がした。落下する感じ。重いのが地面を打つ音がして浮く感じは収まった。
「なんなの。お社ごと異世界へ飛んだとか」
「だろうな。もしかして地下へ降りたか。魔女様はカガクの魔法も使ってると聞いている」
「神話時代のようなものかしら。それじゃ、あの音はエンジンとかいう機械の音」
(魔女様の世界なのはたしかだよね。遠いのかな)
ここから行けるのは確かだが、場所も分からないでいた。
「動くようだ」
アランはさっそく気配を感じたらしい。言う間にも何かが嵌る音がして、身体が後ろへ引かれる。
「おっと」座席へしっかりと腰を落として手すりを掴む。加速していくようだ。
真空チューブを利用した地下道だ。20世から計画はされていたが、AIが可能にしたらしい。これなら、馬を駅伝のように利用するSNSより速いし、人間も送れる。
(なにか可笑しいよね。ま、いいや)
二人で旅に行く気分にもなっている。
「ほら穴の冒険だね。ちょっと周りが見えないけどさ」
「長い旅になるかもな。そうだ、短歌も作りたいとか」
「そうだね。この気持ち、なんだろう。不安はないけど、考えると未知の世界へいくんだよね」
(アランさんと一緒だからかな。でも、そうは言えないし)
「大らかなケリーヌさんの良いところだよ。いまは、不安がっても、どうしようもない」
「そうだね。あの二人のことも、いまは考えないで良いか」
「あんがい、短歌は知らない土地への不安とかを作りやすいんだが」
「それなら、不安を増殖させて」
(いやいやいや。ゴブリンや幽霊も考えたら怖いし。私もまだ、大らかになろうとする臆病さがあるんだよ)
「例えば、ここで止まったらどうする」
「えっ。泊まるの。食事は? コンビニがあるかしら」
「いや。それは分からないが。心配はそれか」
アランは何か別のことを期待もしていたようだ。
「のんびり行こう、長い旅。これで短歌は作れそうか」
「なんだ。そういうことか。のんびり行こうよ」
「下句でよくないか。それは」
話している間にも、きしむ音がしてスピードが緩んだようだ。
「着いたらしいな」
「今度は上がるのかしら」
(もっと、ゆっくりしたかったけどさ。ま、いいや。これから増えるでしょ)
おぼろげに、アランと会う機会は増えそうだと感じた。
呻るようなエンジン音が心細げになりおさまる。前の壁がローラーの転がる音を響かせて開いた。
「出ても良いんだよな。大広間みたいだが」
アランは手綱を操りながら言う。いくつかの支柱に支えられた地下駐車場のような場所だ。いくつもトンネルの入り口が見えるが、各地のお社へ直接に行けるのだろう。
馬の鼻息や換気扇を回す歯車の音が響く。その中で短く切るような猫の声がした。
「蛇猫だよ。みゃーじゃなくて、みゃんみゃんと鳴くから」
サイハーテ領の森では普通にみかける。
「騒いでいるようだな。なにかあるのか」
アランが用心するように馬車を進める。中央に大きな支柱があった。それは柱というより建物だろう。小型馬車が停まっているのが見えた。建物は天井まで続く。
後ろから回り込むように近づく。馬車に乗るのはカエレンだ。大きく開かれた場所があり、マイカルが剣を振り回している。一メートルほどの長さの蛇猫が何匹も建物を守るように跳ねては威嚇していた。
「どけ、このやろう」
マイカルは剣を振り回すが、蛇猫へ切りかかるのは躊躇しているらしい。
「あれがいるから」
ケリーヌは建物の中に大きな蛇猫がとぐろを巻いているのに気づく。
「ふにゃん。にゃお!」
威嚇して伸びて来る頭は人間より大きいようだ。退くマイカルだが、剣を振り回す。
「邪魔をするか。なんとか言え」
(いやいやいや。蛇猫は言葉が喋れないし、通じない)
「お坊ちゃん王子が、頑張ってはいるよね」
臆病ではないと関心もする。
「女の前では良い恰好もしたいだろ。ちょっと助けるか」
アランは馬車を並べる。カエレンはさすがに気づいたようだ。
「あらら。奇遇ね。よろしいわよ。教えてあげましょう。魔女の国という楽園へいくところですの。マイカル様が、お化け猫はすぐ退治してくれますのよ」
「対峙してるだけでしょ。戦うなんて、見なおしはしたけど」
「マイカル様の実力をお知りにならないのね」
「あなたが男を尻に敷くのでしょ」
「なんの話だよ」アランが苦笑する。
「まずは、この小さな蛇猫をどけよう。それから、あの巨大なやつだ」
アランは剣を持って蛇猫たちへ近づく。慌てたのはマイカル。
「今までは様子をみてたんじゃ。アドバイスしよう。あの大きなやつは、外へ出ようとしない」
距離を取って蛇猫を退治しようというのだ。アランも感心する。
「さすが大将だ。ちょいちょいとやっつけよう」
剣をかまえる二人。ケリーヌは聞きたいこともある。
「蛇猫との遊び方を知ってますかしら」
「いまは戦いじゃ。行くぞ」
マイカルも、ここは男としての意地もあるらしい。蛇猫へ切りつける。アランも負けじと切りつける。
「それじゃ無理だって」
ケリーヌが話し終わらないうちに、蛇猫は剣をするりとかわして男たちの腕へ這い上がって来た。
「くそっ」「このやろー」
思わず両手ではたき落とす。にゃんにゃん、にゃおにゃお。跳ねながら男たちへまとわりつく蛇猫。剣で切れば、くるくる剣を巻き込んで腕へ這い上がってくる。この繰り返し。
「だからさー。蛇猫は切れないの」
ぬらぬらした鱗が滑るし、くねくねと捕まえられもしない。ケリーヌは扱い方を知っていた。長刀を持って馬車を下りた。カエレンも対抗意識か、長刀を持って下りてきた。
「叩き潰すのですわね。わかりますわよ」
「ちがうの。見てて」
説明している暇はないし、言い合いをしているときではない。
ケリーヌは近くで跳ねる蛇猫へ長刀を差し出す。
「おいで。みやう、みゃう」
蛇猫は長刀へ巻き付いて来た。
「ほら、高い高いっと」
長刀を右上へ大きく振り上げる。するする抜ける蛇猫は遠くへ転がり、とぐろを巻いて止まる。
「分かりますわよ。遠心力かしら。ほめて差し上げますわよ」
「それは。ありがと。やってみて」
(だから。いまは言い合ってるばあいじゃないって)
「これは、ほんとに遊びだな」
アランがさっそく真似て剣で蛇猫を放り投げる。マイカルとカエレンも、ここは真似るべきと思ったらしい。蛇猫たちは遠くでとぐろを巻いてうずくまる。
「蛇猫はちょっかいをださないと攻撃もしないから」
「大きな、あれはどうかしら。持てまして」
「4人で。ちょっと無理かしら」
いまも大きな口を開けて威嚇してくる。ここで主役の座を取りたいらしいマイカル。
「ぼくが引き付けよう。どうやら、首根っこを挟めば引っ張り出せそうじゃ」
「そこは弱点かもな。さすが大将」
アランが煽てる。
「剣を頭。いや、あの大きな口へ投げればいい。その隙に首根っこを」
毛や鱗に覆われているが、口は打撃を与えられるだろう。マイカルもうなづく。
「さすが、王子じゃ。こうハサミの要領でな」
長刀と剣を交差させて引っ張り出そうというのだ。何か参考になる経験もしたのだろう。
「それでは長刀隊は大丈夫か。喧嘩するなよ」
アランが心配するが笑ってもいる。
「そういう場面じゃないっつーの」
「マイカル様のご活躍をサポートするのですのよ。田舎の小娘は相手してられませんのよ」
(ここでも喧嘩を売りたいのか。ま、いいか)
口癖だと割り切る。
長刀で挟んだ首をアランが剣でサポートしながら、首の付け根あたりに弱点の柔らかい部分がないか剣でさぐる作戦だ。胴体をマイカルが押さえつけて置く予定だ。
大きな口を開けた巨大蛇猫が威嚇して近づくが、やはり、出ては来ない。
「次だ。マイカル王子」
「指図するな。それに、もう王子ではない」
吐き捨てるようにいうが、なにか吹っ切れているようす。
「へまをするなよ、アラン王子」
主導権は取りたいらしい。人間の思惑は無視して、蛇猫は鎌首をもたげる。
「ふにゃあっ」
大きく開けた口へマイカルの剣が飛ぶ、一緒に突っ込んで跳ぶマイカル。
「あっ」驚いている暇もない。
ちょっと括れた首へ長刀を交差させて突き進む。アランは背後から、剣が滑らないように両手で構えて喉元を狙いながら走る。
後ろから転がって来たのはマイカル。蛇猫の身体をすり抜けてきた。
「えっ。なんで。飲み込まれた」
「見えてるだろ」
「あっ、それっ」
カエレンが分かったように呟き長刀を下ろす。
「さんでぃーえいぞう。ご存じないでしょうね。わたくしが転生する前にいた世界では珍しくもなかったですのよ」
立体的に映せる三D映像だ。ここは、カエレンが自慢していいところ。
「神話時代の映画は知ってますわよね。さんでぃーえいぞう、は映画の中にいるように楽しめましたのよ」
転がったところを立ちあがったマイカル。
「さすが物知りじゃ」
「マイカル様こそ、勇敢でしたわよ」
二人の世界を作っていた。
「へえー。なるほど、ほんとだ」
猫蛇の身体に触れようとしても透けて抜ける指。
「さて。ここから上へ行くのかな」
アランは誰に聞くともなく言いながら、辺りを見る。
「操作盤かしら、隅っこに」
「そうだな。ここは絨毯もないし上の方にあるのか」
外付けで操作盤も備えてあるようだ。
「昇降機なら、そうだろう」
まずは馬車を近くへ運ぼうと考えた。カエレンとマイカルはいちゃついているが、ケリーヌとアランの行動に慌てる。
「ここは魔女の国へ上るところじゃ。知っておるぞ」
「わたくしたちがご案内してもよろしくてよ」
カエレンが使い慣れている振りで操作レバーを下げた。
「はいはい、どうぞお先に」
とはいえ、小型馬車の二台は楽に入れる。巨大蛇猫の映像も潰されて消えた。
(まずは、魔女の国とかへ着いてからだよ。そうか、すぐ上なんだ)
王女王様たちが、行き先を不安に思っていることを、どう思うのかや、マイカルたちの何が、ここまで旅立たせたか知りたいのだ。




