えっ、筆跡鑑定。調べる間に戦争を企む王様
騎乗騎士の間を歩いてくる王様。肥満した身体に紫のマントが小さく見え隠れする。後ろにマイカル、やけににやけて、騎士たちへ軽く手振りをする。そして隣のカエレンは銀色のティアラをかぶる。
(女王様のを無断で使ってるのね)
この状況で女王代理気取りなのも、笑うしかない滑稽さだ。
聖女の指示で演壇にあがる三人。王様は中央で笑顔を作り、庶民へ手を振る。左にマイカル、横にカエレンだが、結婚式もまだだし、さすがに王様の横に並べないだろう。
ケリーヌは紙筒を持って、三人の前へ進み出た。演壇の下に聖女が待っている。
「聖女さま。もはや、この騒ぎは質問より、要請となります」
「状況から、そうなりますね。良いでしょう。ひとつづつ、証してください」
覚えてもいるが、とりあえず、質問状を広げる。机の上に置かれた紙を王様たちも眺めている。
「最初に。大麻栽培について。購入したのは王様だと明白でございます。庶民へ告白して懺悔していただきたい。あとは聖女様の判断となりましょう」
王様は咳払いひとつ。
「なにか勘違いがあったようじゃ。私のサインを真似た者がおる。王家の鑑定士に調べさせるゆえ、一週間はかかるであろう」
(そうくるのね。納得しないでしょ)
「鑑定に一週間は長すぎでございませんでしょうか」
「先に決めねばならんこともある。敵国のことじゃ、マイカル説明せよ」
(はあっ? ここで戦争をすすめる話をするつもりかしら)
「王子様の夢物語は聞きません。王様。女王様のいない間に職権乱用なさるおつもりでしょうか」
「非常事態である」
マイカルが話したいというように一歩ふみだす。
「王様のサインを真似る者もいるのは確かじゃ。すでに敵側の攻撃は始まっておる。庶民の声も聞こうではないか。女王様は戻るゆえ、それに反対であるか」
(いやいや。そういうことじゃないでしょう)
「女王様が王城に戻るのは当然でしょう。何か企んでいる犯人をさがすのが急務かと」
「もうよい最後の判断は、王である私が下す」
王様がいかにも威厳のあるように辺りをみまわす。
「庶民も今の状況は分かるであろう。女王様のことは心配なさるな。心配すべきは攻めて来る敵国じゃ」
本気で戦争をする姿勢は作りたいようだ。
「まだ攻められておりません。ほんとうに王様のサインじゃないのかしら」
(敬ってなんかいられない。でも、筆跡鑑定かー。早まったかなー)
「私は見覚えもない。それに、いまは非常事態じゃ。前倒しでマイカルを摂政に任命しようと思う」
「ありがたいことで。この国を守るため一致団結しようではないか」
庶民へ声をかけて、一人で盛り上がる。カエレンも上機嫌だ。
「素晴らしいですわね。私も女王代理として励みますわよ」
庶民は、イマイチなように、小声で囁くような音の唸りが響く。
(女王様のことも、一気に解決したいようだね。あいつのことだけでは、コマ不足だよ)
妊娠させたスキャンダルでは、ただのゴシップと同じだ。
「二点ほど確かめます。王様は本当に戦争をしたいと。大麻の取引にも関わってないと。聖女様の前で誓っていただけませんか」
(戦争を考えてるなら、庶民が反対するはず。それに期待しよう)
「今だから話そう。大テーファー王国復活のためじゃ。武器を手に入れて、軍事的な優位にたつ。大麻はまったく関係ない戯言じゃ。ちはやふる天地神明にお誓いいたす」
「戦争ですか」
それに焦点を当てて、庶民の反応を待とうと考えた。しかし。
「聖女様。流るる言の葉に、いささか、心やましきなれば。わらわも、語りたり」
(何か不満で、喋りたいんだってさ。ま、いいか)
ここで、邪魔だというわけにもいかない。聖女も許可する。
「王様の言の葉に応えうる証拠はあるゆえに」
「はい。あの。なにか新しい証拠とか」
つい聞き返す。証拠不十分といっていたが、あったとか。カエレンとは関係ない話でもあるはず。
「わらわの公爵領にて鑑定は執り行いそうろうに。父のノンビリン公爵の公認でありけるぞ」
紙筒から、その、鑑定書をだして、聖女へ渡す。
(そうだったのね。たしかに、急ぎの用事とかおっしゃってたし)
「テーファー王。あなたの誓いは、紙切れより軽いですね」
聖女も軽蔑の目を向ける。王様は鑑定書を渡されて、動揺しているのか裏表をひっくり返したり、慌てる様子。
「いや。これも。まさに偽物か判断しかねる。であろう」
「ノンビリン公爵は王都屋敷にご滞在ゆえに。直接に面通りも叶いそうろう。しかして、戦なる野蛮な夢を、申し開きできようぞ」
公爵は親戚だが年上で、王様も頭があがらない。
「それは。これは冗談じゃ」
(もお! 往生際が悪いよね)
「冗談で済まされません、でございます。聖女様。王として相応しくないと考えますが、いかが」
「女王様が内政をみるのは有効です。意見も聞いて処遇は考えましょう」
悪くて国外追放。良くてもテーファー王家の没落は、ほぼ決定ともいえる。紙を持ったまま動きはなく固まる王様。
庶民も、女王が戻ってくるのを確信したようにはしゃぐ声が飛び交う。
ここで、カエレンが演壇で、二人から離れてコジュトーナへ向かって跪く。
(また、同情作戦かしら。何度も通じないって)
思いながらも、立場の弱いのを助けるコジュトーナなら、簡単には見捨てないのも知っていた。




