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王城の前へ着いた

 ケリーヌは藩侯爵家の幌馬車から降りた。

 王城の大手門は開かれていたが、防御柵は閉じられたままだ。その内側に騎乗騎士たちが揃っている。総勢百名ぐらいだろうか、ひしめき合っていた。

(男爵たちがいるよね。徴収したんだ)

 どうやら男爵家の騎士団らしい。騎馬騎士集団の前に立つ男爵たち十人。なんとマイカルが中央に立っていた。

 守衛に尋ねる。

「なんの騒ぎですか」

「写真をお写しになられていらっしゃるのでござる」

「へー。ちゃんと写せるのかしら」

 朝日が、後ろに見える三階建ての城を包んでいる。逆光では黒くなるだけ、とアランから聞いてもいた。

「でござれば、何回も取り直しておられるのでござる」

「場所を変えるとかできないの。それに人物を写せるの」

 ずっと同じ姿勢でいるのも大変だろうし、馬も大人しくしてないはずだ。他人事ながらアドバイスもしたい。

 マイカルがケリーヌに気付いたらしく、歩いてくる。

「動いては、ああー」

 柵を背にして撮影していたらしい者の嘆き声が響いた。

 あまり気を遣わない王子。いまの状況も理解してないような笑顔だ。

 ケリーヌは柵の近くへ歩み寄る。ドレスは澄んだブルーサファイア色のシルク。銀糸で織り込まれた四葉葵の模様は、伝統ある藩公爵家の証だ。広がるスカートは幾重にも重なるが、飾りやリボンもないのが威厳を感じさせる。首に軽く巻く白いサテン織りのスカーフは、日差しを受けてきらめき、風にたなびく。

「王子様。もうすぐ会見の九時です。そういう余裕はないと思いますが」

 話を聞くマイカルではない。

「早いではないか。ちゃんと時間が来たら答えるゆえ」

(いや、それを聞いてるんじゃなくてさ)

「なにをのんびり写真なんかお撮りになってます?」

「テーファー王国の勇ましき騎士団を、エンジニア会社へ見せつけるのじゃ。僕と手を組んだ方が身のためと思い知らせるのじゃ。戦わずに勝つのは戦略の上策じゃぞ」

「庶民や騎士を操り、騒ぎを起こそうとしたのも知っております。いずれ署長から取り調べられると思います。そのまえに、聖女様から厳しい処罰を受けると思いますけど」

 それでも、何かを誤魔化すようにマントを弄るマイカル。

「僕は知らない。役人が勝手にしたのだろう。会見が始まってからじゃ。しばらく待つのじゃ」

(でも、余裕だね。真犯人が王様だと分かったのに)

「今日の会見の意味をご存じですか」

 王家の存続も危ういはず。庶民が参加する会議というのにも興味を持っている。

(王女様がお戻りになってから、なにか変わるよね)

「知っておる。王様も考えてなさる」

 マイカルは、この話はしたくないように、後ろを向く。カメラマンに映し方を注文しているが、相手は困ったようす。

「お城をバックに、王子様を大きくでございますか。なんども言っておりますが午後からか、騎士の人数を減らすとか」

「それでは、我が国の騎士の強さが分からないのじゃ」

「イラストになされたら」

「写真が説得力もあろう」

(午後でも、無理よね。もう、時間じゃないの)

 広場にある大時計の針が九時へ限りなく近づく。そこでサユリーの焦ったような声。水色のドレスと、スカーフが風に踊る。

「騎士が罪人を連れて来るでー」

 振り返ると騎馬騎士と罪人を乗せる荷馬車が近づいて来た。

「まさか。反乱で捕まったとか」

「王子様はなー。すぐに戒厳令というはずやでー」

 特設テントの中から若い令息たちも身を乗り出して、不安そうな顔をした。

「だれがへまをやらかした」

 テラスに座る庶民たちも騒ぐ。いつのまにか人数は増えて、立ち見の者も多い。

 喜んだのはマイカル。柵を開けて出てくると、迎える準備をした。

「でかしたぞ。これで、戒厳令じゃ。会見は中止にいたす」

「酔っ払いでござる」

 騎馬騎士が冷たく言い放つと、馬から下りた。

「路地裏で酔いつぶれた二名を保護いたした。番所で預かる途中でござる」

「かまわない。反乱じゃ」

 待ちかねた情報のように決めつける。

「王子様。非常事態では、騎士団長が治安維持の権限を持ちますが、いかが」

 ここは手を広げて遮る格好になった。庶民を前にしてマイカルも無理に進むのは控える。

「あとから、報告するゆえ。引渡しするのじゃ」

「用向きは、それでござらぬ」

 騎士がここへ来た理由を説明する。

「会見の場でござれば、大騒ぎをせぬように署長から伝言を申し付かった。大騒ぎは禁止でござれば、騒ぐのはいたしかたないとのことでござる。喧嘩や物を投げるのは控えてくれ、とのことでござる」

(そういうことか。庶民はなにか言いたくても喋れない雰囲気だったけど)

 大声で騒ぐのは許されたようなものだ。

「早く王様を出せ」

「女王様に罪をなすりつけて、何様のつもりだ」

「いちおうは王『様』のつもりらしいぜ」

「王様失格だ。王権剥奪」

 不満が爆発する。しかし、お役所仕事はのんびりしている。やっと通用門から燕尾服の役人たちが現れた。


 時間はかかりそうだ。取りあえずは長椅子へ座る。

「湧水だ。まだ冷たいぜ」

 若い男が自慢してポットをもってくる。浄水器を使って、とか話すが、名水と言われる湧水があるワキデタ伯爵の令息だ。

 ワインカラーのドレスに錦織のフリルを着る貴族令嬢が近づいて来た。アケーミだ。ベージュ色のスカーフが風に舞う。

「これからやんか」

 挨拶もそこそこに、隣へ座る。勝気で目立つのが好きな令嬢だ。

「これたんかー」

 サユリーが予想していたように言う。

「ニートダス様に、見届けるよう頼まれてんねん」

 それでも、小脇に紙筒をかかえている。なにか思惑もあるらしい。

 役人たちは、やる気もないような動きで演壇を準備している。教壇みたいなもので、板で作られた机と足場。それを5人の役人が動かしては、あーでない、こうでない、と話している。

「刻限です」

 聖女が通用門から現われた。

「飾りつけは必要ないです。王様以下の者を連れてきなさい」

 ご機嫌ななめな言い方だし、スキャンダルに内心では怒りもあるのだろう。

 かちゃかちゃ、棒と金具の触れ合う音。留め金をかけた長刀を持った女性が十人歩いてくる。先頭にたつのは、紙筒を持ったコジュトーナ。

「聖女様に。はばかりながら、この騒ぎにてやり遂げしこともあるなり。ケリーヌ様ののちに、わらわの思いを伝えたくそうろう」

「良いでしょう。関連質問と受け取ります」

(ぅわー。来ちゃったよ。戦闘態勢なんて、なにを)

 あくまでも、カエレンを守るつもりか。長刀の集団は片膝を立てて座り、待つ姿勢。

「なんだなんだ」

「公爵家の令嬢様だ。あの新しい姫様の味方だぜ」

「おおごとになるのか」

(あの女を弁護する証拠でもあるのかしら。それでも、不倫女でしょ)

 ざまぁする思いは消えていない。ただ、国家を揺るがせるスキャンダルに答えをだしたい。

(本当のお飾りになるのかしら)

 尊敬されているなら、国の象徴にもなるだろう。しかし、テーファー王は違う。聖女の判断で王家断絶も有りえるが、罪を認めて懺悔すれば、そんなに暴虐非道なことでもない。

(結局は王女様がお戻りになってからよね)

 さー、と流れ雲が太陽を横切る。風の妖精シルフがつむじ風で踊る。

(お母ちゃん。父と母上がね、なにか面白いことを考えていたよ。私も役に立つと思う。いいよね)

 町同士の経済協力とか庶民参加の会議など、SNSが活躍できるとも考えた。それには、今、引き下がれない場面だ。

 柵内の騎乗騎士たちが動き、まん中が開かれた。風雲急を告げる。


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