証拠不十分と言われましても
サユリーが市民馬車の御者と話し合っている。
「なにか騒がしいけど。騎士を呼んだかしら」
「じきに来るはずやでー」
話してる間にも、女将が大声で誰かを出て行くように促している。
「俺は忠告してる」ちょっと考えるふうだ。「なんだった。はんらん、反乱が起こるぞ」
酔ってもいるように喋っている。
「隣のやつが反乱を、ういっ」
げっぷみたいな音を発する。
「起そうとする。そうだ、他人を疑え。やっつけろ、だったかな。酒だ。酒をだせー」
(よく分からないけど。サユリーが聞いてるかも)
顔を向ける。
「御者はんがなー。おもろい話を知ってまっせー」
(面白いの意味が、ちょっと違うと思うけど)
「知ってるのね。面倒だと思うけど、もう一度聞かせて」
御者は気前よくうなづく。この状況を教えたい気持ちもあるらしい。
「王子様に誘われて、10人ぐらいの地区長たちが酒場で飲んでました。朝からですよ」
送り迎えを頼まれたらしい。
「話の内容は分かりませんがね。帰り際に、金を貰って噂を広げるみたいな会話はしてました」
(口実も必要だし。それで。言葉尻をつかまえたのね)
カエデンが仕組んだ計画だろう。
若い衆に腕を掴まり表へ出された燕尾服姿の男。役職についた庶民や、公務員は燕尾服を着けるのが普通だ。
「酒は置いてません。うちで飲んだと思われたら迷惑です」
女将も注意しながら、周りをうかがう。騎士を待っているのだろう。
「油断できんなー。騒ぎを起こさせて、戒厳令を敷くおつもりやろー」
「不要不急の外出は自粛というか、貴族は強制的に待機させられるからね」
逆らってもいいが、物事が大きくなるのをマイカルは待ってもいるだろう。
急ぎで来た騎士たち。事情を聞きながら、酔っぱらった男を、罪びとを乗せる荷馬車へ運ぶ。
「喧嘩はござらんんか」
なにかを探るように騎士は訊ねるが、アランが前へ出た。
「王城へ報告は無用だろう。ただの酔っ払いだ。署長は庁内か。会いたいのだが」
堂々とした仕草に、怪しいとは思わない騎士。
「お知り合いでござるか。受付に申せば会えるはずでござる」
(アランさんも、普通に話すよね。本当に知り合いかも)
「治安を守るのがお役目のはず。お間違いないように署長にも話して置きたいのでな」
(第二王子としての貫禄かしらね。)
騒ぎが収まると、ゆっくりしている時間はないと気づく。
畳座に戻り、打ち合わせをする。
「王城の広場へ仮設の掲示板を設置するわよ。備えあれば嬉しいっていうでしょ」
「憂いなし、やでー」
「あっ、そうだった。ま、いいや。実況中継をしたいと思う」
「ええ考えやなー。久しぶりやでー」
「商店街での告白は、面白かったね」
貴族学院のころに、実況中継はした。
「備えあれば嬉しい。さっそく準備だな」
男たちは妙に燥いで、テントの準備にとりかかる。
「応援は、直接に広場へ向かわせよう。連絡して」
王都内なら、距離も遠くはない。
「市民馬車を呼ぶでー。二台は必要やなー」
サユリーは外へ出ていく。
「公爵家の馬車やでー。コジュトーナはんが戻ってきたんかー」
ケリーヌも外へ出て並んだ。
「ほんとだ。きっとスレを見たんだよ」
コジュトーナも、用事があったらしく、馬車から降りたつ。
「慌ただしきはなにごとなりけるか。わらわとひととき語りし、ときはあるらん」
「はい。公開質問を王様へお願いするところでございます」
「すでにスレを読んでそうろうに。さて、証は、あの書面ひとつであるか」
「はい。印鑑も押されてましたし、サインもございます」
(なんだなんだ、ここでいちゃもんをつけるつもりかしら)
「証として頼りなきなり。それで問いたまうのも、いかがなりしか」
(もっと、状況も見なさいって―の)
「庶民が騒いでおります。早朝に聖女様の裁きを決断してもらえなければ、会議で王様が戦争の決断もなさると考えますが」
(分からないけど。非常事態は、戦争するとみせかけて、あの会社を脅すつもりだよ)
「朝も早くになりけるか。わらわも、心にかかることがありしゆえ、急ぎそうろう。明日の朝こそ、まみえん」
「はい。私も急ぎますから」
こうしてる間にも、騒ぎが起こり、戒厳令じゃ、とマイカルが顔を出して言いかねない。
(あの女のために、どのような情報があるのだろう)
「コジュトーナ様があの女を弁護するつもりだよ。証拠が足りないって、これから探せるかしら」
「考えが分からへんなー。こっちには、時間もないでー」
夕方までテントも設置する予定だ。
市民馬車のひとつめはテント一式を乗せる。
「荷馬車が良かったかな」
「遠いでー。時は金成りやなー」
「よろしいですよ。儲かりますんで」
御者がいう。王都内を歩く騎士も増えた、とか雑談をしながら待っている。




