王女様が城を追い出された。革命へ動き出すのか
朝の10時もまわらないうちに、商店街の掲示板からスレッドが拡散されて来た。
「利用する人も多いしね」
なにげに受け取ったが、固まってしまった。
『王女を城から追放』
「姫ちゃんの投稿やでー。何か企んでないかー」
「それにしても急な。なになに」
説明文を読んでみる。
「王女様が大麻を花園に植えてた。なんでよ。どこから」
「瓦版に詳しく書いてるらしいなー。また商売かー」
「人騒がせのネタかしら。不謹慎な」
(朝っぱらから。また、すぐに追放って。瓦版を売り込作戦かしら)
男たちも拡散するか迷っているらしい。報告の意味で、運んできたのだろう。
テラスの前で「おほほ」と下品な笑い方で馬車を降りたのはカエレンだ。
「わたくしは自由になりましたのよ。まだ読んでなかったかしら」
丸筒を持って縁側へ近づいてきた。
「速いのね。ご自分で拡散なさってるの」
(まずは、なにがどうなってるのか聞いてからよ)
「王女様が大麻を栽培してましたのよ。わたくしが見つけましたの。詳しくは瓦版へ書いてますのよ。買って読むべきでしてよ」
「追放とは、早ようおまへんかー」
「聖女様も許可なさったことですわよ。次期、いや女王代理として、やっと思う通りできましてよ」
(そうだ。この女の野望ってのも聞いてみようか)
ざまぁへの思いが、地鳴りのように心から低く響いてくるようだ。ここは大らかで温和な表情を作る。
「なにを、おやりになりたいのかしら。よかったら拡散しますけど」
「分かるようになりましたのね。王家の繁栄と華やかな生活。重婚も王家は許されるべきですの。王宮を飾り立てて、男らをかしずかせるのが夢でしてよ。同じお考えですし、田舎令嬢を側室にしてもよろしくてよ」
「要らないけど。コジュトーナ様から、お話は聞いてませんかしら」
「託児所に興味ございませんから。考えてみますと答えれば、ちょろいものでしたのよ」
「なんと、無礼なこと。ばれたら仕返しがたいへんなのよ」
人脈の総力をあげて懲らしめるのが、コジュトーナの性格なのも知っている。
(もしかして、コジュトーナ様を味方にして、ざまぁできるかもね)
サユリーは別の方向から攻めたいらしい。
「王子様はどないやろー。今日は一緒じゃないんかー」
「よいことに気付きましたわね。明日は伯爵たちも集めて重役会議ですの。わたくしが女王代理として任命されますのよ」
なるほど。結婚式も待たずに、話は進めるらしい。マイカルが摂政になり、戦争などと騒ぐつもりだろう。
「それにしても、急いでませんか。聖女様から良い日柄を選んでいただくのが普通です」
「あら、ご存じなくて。王子様はジョーキカンを作る会社の誘致が目的ですの。ご自分の会社にするおつもりですのよ」
(やっぱり、駆け引きなのね。それでも、急ぐ理由は)
「なにか急がないと手遅れになるとか」
「少しは考えることができますのね。ウミパタ王国が正式にジョーキカンを発表するまえに、権利を手に入れたいのですの」
「女王様を追放したんと関係あるんかー」
「そう。いや。なにを聞くと思ったら、面白い方ですわね」
(あれっ。なにかを認めたような。裏があるんだよ。サユリーさんも、誘導尋問が上手いしね)
「王様も賛成ですの。女王様のいない間に会議を開いて何をお決めになるのかしら」
「さきほども申しました通りですのよ。女王様と離縁なさって、自由になさりたいのが王様の思い。ご存じなかったかしら」
「なるほどね。最初から王様もグルだったんだ」
ジョーキキカンのことをウミパタ王国から知らされたときに、企みは始まっていたのだろう。
「あまり、表現がよくなくてよ。この、テーファー王国を再び栄えさせる偉大な王様でしてよ」
(やっぱり、悪だくみの匂いがするよね。大麻とか、本当かしらね)
ケリーヌは、大麻が栽培されているのをみたこともない。ごまかしがないかとも思う。
「ここにいし、君をぞ見つけ、安らけく」
コジュトーナがいつの間にか、近くまで来ていた。
「先ほどは、ありがたいご提案を感謝しております」
カエレンが淑やかな真似をして話す。
(切り替えが早いこと、感心するよね。誑かしの天才かしら)
「それで、ご用向きは」
カエレンを捜していたのは確からしい。
「女王様の一大事なること。心にかかりしに。大麻なるもの見つけしは、そなたとな?」
「はい。城の花園に植えられておりました」
「さて。姫は大麻なる草を見まみえて心得しか」
(見たことがあるのか、と聞いてるのね。そうだよ、めったに見つからないし)
いいところへ突っ込んだが、あらかじめ考えていたらしい。
「見たこともない野草と。聖女様へお確かめいただきました。はい。お聞きしていただけばお判りいただけましょう」
(ほんとかな。誓ってもらおうじゃないの)
「大切なお話でございます。コジュトーナ様。この女、いや、姫ちゃんに誓っていただきましょう」
「是成り。大麻なる草は初めてみしか。ちはやふる天地神明に誓うべし」
「もちろんですわよ。ちはやふる天地神明に誓って、大麻は初めて拝見しましたのよ」
(いいのかしらね。ちはやふる、の誓いは聖女様に誓ったのと同じだから)
「心をやすんじられた。王子様は明日の会議のことで忙しいとのこと。支えるのが良妻賢母なるゆえに、お戻りねがえたまえり。瓦版のことなりは、わらわの仲間に任さん」
(この女がうろつくよりはいいか。それにしても)
「コジュトーナ様にお話があります。しばし時間を貰えますでしょうか」
「女王様のなりよう。わらわも摩訶不思議なりける。同じ思いでありそうろうか」
「はい。あまりに急なことだと」
「あらあら。まだ疑ってますの」
カエレンは口を挟むが、コジュトーナが急かすように見つめると、いそしそと帰っていく。
「二つの顔を持つお方です。あまり信用はなさらないほうが」
「過ぎしことはやむなし。されば、わらわも女王様におみまえいたし、まことのなりゆきを確かめんとす」
(女王様にお会いになるつもりだね。たしかに、直接に確かめたいし)
「もうお城はお出になりましたのかしら」
「侯爵領内で滞在なされるゆえに。侯爵様がお供しそうろうに。それも、いかがなる流れか確かめん」
(父が! ちょっと待ってよ。伯爵たちも集めての会議だけど女王様もいなしい)
王様へ反対する者がいないと予想した。
「大麻の話もなー。タイミングが良すぎるでー。初めからの作戦やろうなー」
「公爵様はどうお考えで」
政治には口を挟まずに中立を保っていた。川を挟んだハーラヌアマ王国と交易が盛んで、公国となるべきところを、テーファー王国の属領として経済も支えたいる。
「煩わしいゆえに。成り行きをみまもりしが、この騒ぎにて、真意を確かめんとす。領内の意向をまとむるに、ときはかかりそうろうに」
すぐにちょっかいはかけられない事情もあるようだ。それで、いち早くコジュトーナは動き出したようだ。
「明日が会議だとか。非常事態宣言で戒厳令を敷くと。そうなれば、王権が優先ですよね」
「まさに。そのあとの交渉に父の公爵が表に出ん」
(遅い気もするけど。これがオトナの社会かしら)
大麻の真相を突きとめたいが、いまのところ、待つしかないのは歯がゆい。




