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王子が流産のスレッドへ文句を言う

 噂は羽と尻尾がついて広がる。4コマ漫画も人気だが、戦争の不安もあるらしい。

 ファミリーレストランの女将は出前の集金をしながら話す。

「魚の業者も驚いておりましたよ。国同士で仲が悪くなると仕入れができなくなります」

「魚のカルポッチャは人気だしね」

 魚料理を自慢とする店だ。生活が関わるから、と女将も気にしていた。

(SNSどころではないのかな)

「関税を安くしようと話してるぐらいだから。急に武器とか話があるけど、乗り物だったしね。大丈夫よ」

「ケリーヌ様がおっしゃるなら、信じます。ただ、乗り物のことは業者も知らなかったようですよ」

「庶民へ、まだ知らされてないと」

(ここは裏ってのを考えるべきかな)

「なにか、馬車より速い乗り物を作る話はあったようです。外国のエンジニア会社を呼んでいるらしいけど、金がかかるとか」

「外国の。金が絡むとなればね。王子様は儲けることをお考えだと思う」

(武器だと騒いでるけど。あいつは金儲けしか興味がないし)

「出資者を募ってたらしいですよ。会社が儲ければ利益を配当するとか」

「完成すれば、儲けると」

(あいつのことだから。その会社に取り入って儲けようとしてるのかしら。国の交渉ってのも習ったことはあるから)

 それで、存在をアピールしているのだろう。

 権力と武器を利用して、話し合いの場を設けて、有利に話を進めるのはよくあることだ。

「もしかして、国の駆け引きってやつですね。王子様は大袈裟に演技もなさるから」

「演技ですか。国のことはわかりませんけど。平穏でこそ安心して暮らせます」

 女将も安心したようす。


 そこでサユリーは話題を持ちかける機会を待っていたらしい。

「子育てもそうやでー。トピックを作るつもりなんよー」

「婦人会でも話題にあがりますね。SNSにのせるほどではないと」

(乗り気じゃないよね。同じ分かりあえる者同士が良いのかしら。それなら)

「私たちも、将来は参考になると思う。赤ちゃんのことは、先輩方に相談したいし」

(姉貴分は頼れってね。アランさんが言ったのだよね)

「テーマを決めるとスレもしやすいですね。コジュトーナ様の願いに叶うと思います。スレのひとつぐらいは協力してもらっていいかしら」

(ぅわっ。コジュトーナ様の仲間かよ。たしかに、桜を愛でる会に主婦は多い)

 ここは、小姑みたいなお節介も利用するしかないだろう。

「子育て支援でいいかなー。トピックをつくるでー」

 サユリーは早速とコーナーを設ける。

(なるほどね。婦人会は仲間内で話すし、特別にSNSに乗せなくても良かったわけだ)

 普通の話題では見分けもつかないだろう。

「婦人会の雑談みたいにね。楽しいことは共有したいし」

 実母の姿が蘇る。なにか真剣に話すときもあったが、どうだろうか。

「子育てと言えば、働きながら世話する子供のことです。いつも話題にあがりますから」

「メイドさんに預けるとか。それでも病気とか気になるよね」

「庶民はメイドを雇えませんから。祖母を頼ったりしますが、なかなかね」

(だから、婦人会では相談したりするのか。それよりメイドはいないんだった)

 いつか貴族目線で考えていることにも気づいた。

(うん。いまの立場でやれることをするのが良いよね)

「SNSは全国に繋がります。もっと多くの体験談がきけると思う」

「そうですね。学院へ入る前の子供について、意見を聞いてみましょ」

 そういうわけで、就学前の子供について、スレがたつことになった。


 予想よりも子育てトピックにスレやコメントが集まる。確かに、武器や相手を非難する応酬は個人的なことだ。SNSの正しい使い方に近づいたはず。

「連れ子か。うん、いるんだ」

 自分だけと思っていたが、全国には悩む人も多いらしい。接し方とかを適切に助言するコメントもある。

(歳の離れた友人として割り切るか、コミュニケーションを取り話し込むか。どっちだろう)

 アランの言ってたように姉貴分として付き合うのもびとつの方法だろう。

「ジュゲムさんからやでー」

 サユリーがスレをみつける。

「預ける施設を提案しよるがなー。話は大きくなるでー」

「そうだね。コメントも歓迎してるみたいだし。ジュゲムさんが、子育てか。女性かな。匿名だし、男性も参加するのは歓迎だよ」

 保育園を作る話が芽生えてきた。


 また、邪魔をする甲高い声はマイカル。

「非常事態だというのに、のんきであるな」

「庶民の興味は子育てにあります。戦争騒ぎも、どうせ、金儲けが目的でしょ」

(こいつの隠し事なんか、ちょっと考えれば予想はつくことだったよ)

 外交や政治も知識は詰め込まれたケリーヌ。いつもは大らかに構えているから、頭に浮かばないだけだ。

「とくに流産の話題など、おおやけにするものではないぞ」

(えっ。そこへ話は向くの)

「なぜ、それに関心がおありで。匿名ですし、悩む方は多いかと」

 天使になった、と表現されたスレもある。

「関心はない。関係ないことじゃ。平穏な世の中を乱すのはよくないぞ」

「武器とか、世の中を騒がしてるのは王子様ではありませんか」

 元婚約者として、いまも対等に話して注意する。

「婚約は破棄したゆえ。言葉も弁えられよ」

 へんに格好つける。

「それなら。父が都市国家を興します。新王国の王女として申しあげる。いかが」

(王女になるわけじゃないけど。こいつは権威に弱いしね)

「まだ、王様と交渉中じゃ」

(お役所仕事は時間もかかるよね)

「それなら、婚姻契約はまだ有効ということですね。婚約も正式には破棄されてないと」

「それは。それじゃ」

 言われて慌てるマイカル。

「そうじゃ、コジュトーナ様も流産には不快感を表しておる」

(ここで持ち出すのかしら。たしかに、義姉として王家に意見する立場だし。だからさ)

「コジュトーナ様が快く思わないのは、中絶でございます。なにか心当たりはおありで」

 話してから(あっ。それもあるよね)と心でつぶやく。

「僕とは関係ないことじゃ。SNSなどは恋で空騒ぎしてるといい」

「姫ちゃんとは考えが違いますのね」

 SNSで金儲けと情報操作は、マイカルの頭にないのかもしれない。

「遠くからでも見張っているゆえ。軽はずみな情報は流さない方がいい」

「それは王子様でしょ」

 マイカルは話も聞かないで戻っていく。耳に痛いことは聞きたくもないのだろう。

(ちょっと待ってよね。ここは考えてみなければ)

 流産というのにマイカルが敏感に反応したのは確かだ。

「妊娠させて、中絶したと」

「流産したのは間違いないでー」

 サユリーも、マイカルが妊娠させた噂は真実だと言いたげだ。


 マイカルに言われても止まらない子育てトピックの更新。

「保育施設に興味があるみたいね」

「庶民はなー。メイドみたいな役目の人を望んでるでー」

 学院へ入る前の子供について、いくつかスレも立った。

「保育園が神話時代にはあったらしいからね」

「子育てはなー。親のつとめとか言うたでー」

 コジュトーナの口癖のひとつだ。ケリーヌも聞いたことがある。

「子育てについて話すのはいいとして。保育園に預けることに反対してくると思う」

(頑固な人だし。うん、私より頑固)

 一度決めたらあとへ引かない公爵令嬢だ。そればかりは駄目、と言えば仲間も追従するだろう。

「ほな、早いうちに話しに行こうかのー」

「サユリーさんの言う通りだね。気にするなら行動したほうがいいと、アランさんも言ってた」

「アランさんがなー。良いことやでー」

「なにが良いって」

(話し相手になるけどさ。特別に良いこともないし)

 恋の予兆とは考えないケリーヌ。周りは、なにかを感じているのかもしれない。

「そのうちに分かるやなー。いくでー、いまは、商店街におるはずやでー」

 コジュトーナに会う話へ持っていく。

「そうだね。早期発見早期治療、いや、そうは言わないのかな」

「4文字熟語はむつかしいでなー。当たってもいるでー」

 敵対して仲をこじらせると厄介だ。コジュトーナの機嫌を取り、できるなら説得もしたい。それには早い方がいいだろう。






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