表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/32

アランの提案で婦人会も巻き込む決心をする

 聖女が主催するバザーがあった。

(見て回るだけでも楽しいよね)

 お祭りみたいに屋台もあり、綿飴の甘い匂いを漂わせて子供たちが燥ぐ声。

(うん。これ、面白いよね。ナデシコといえば、ジュゲムさんの俳句で身近に思えてきたし)

 花柄のタオルハンカチを手にする。ピンクと白のカワラナデシコだ。

(やっぱり買っちゃうね。母もバザーをしていたな)

 幼いころを思いだす。実母は庶民との触れ合いを大切にしていた。

(新しい母はね。いまは公爵婦人として振舞うのに必死らしいから)

 侯爵領にある織物問屋の娘を、サイハーテ侯爵は新しい婦人にしている。弟の世話も一段落らしい。

(今更ねー。母親に甘える歳でもないし。距離の取り方が、まだ、わかんないな)


「おやおや、ケリーヌ様」

 アランの声だ。あまり驚かない。

(ここではたまに会うよね。私はなにか期待もしてた?)

「バザーは、社会貢献ですよね」

「もっと楽しめばいいさ。優等生も疲れるぜ」

(図星だし。いつも難しいことばかり考えていると言われたこともあったっけ)

「ん、なにか買った?」

 手にした袋に気付いたらしい。

「花柄が可愛かったから」

「そういう少女らしさがいいよ」

「なにがいいって」

(そりゃあねー。世間ではまだ少女と呼ばれる歳なんだけど)

 たしかに背伸びしてる部分もある。知らずに、次期王女というのが負担にもなるだろう。

「そうだ。お茶しよう。あの姫ちゃんのことは忘れて」

「そのつもりで来たんだから」

(そうそう、たまには息抜きよ。べつに会えると期待してないもん)

 それは嘘だと、心のどこかで気づいてもいる。

「それは失礼。どうぞお嬢様」

 エスコートする真似をした。

「いえ。ここは庶民のまえだし、普通で」

 茶店のテントへ歩き出した。

(アランさんといると、落ち着くよね。でもさ、デートと言うのかな、婚約破棄になったし。気の利いた言い方もあるのかな)

 ケリーヌは恋愛での甘い言葉を知らないのだ。


 レモンティーの甘苦さが喉もすっきりさせる。

「きょうはどちらへおでかけでした?」

「侯爵領。王都みたいに賑やかだぜ」

「そうだね。最近は帰ってないなー。けっこう原野も多いでしょ」

 公爵領は庭みたいなものだ。

「古い砦があると聞いてな。あれはちゃんとした城の跡だぜ」

「ずっと昔は王様が住んでいたとか。ナロ王の末裔と噂だけど、多いから」

 ナロ王国は連邦だったから、だれでもナロ家だと名乗った時期はあったらしい。

「そこなんだ。侯爵夫人、母上だろ。観光地として整備したいらしい。なにか作業する人たちから聞いたんだ」

「頑張ってるなー。ちょっと、付き合い方がわかないけど」

 実母ではないと話してある。

「似てるな。お互い、何かになるために余裕はない感じ」

「似てます? なにか遠慮しちゃう部分もあるし。あまり性格とかもね」

(ちょっと、見た目はきつい印象だけどさ。長女らしいから)

 気の強い部分もあるし、仕切るタイプかもしれない。それは、ケリーヌとぶつかる状況もあるだろうが、そこまで親密にもなれてない。

「次期王女と呼ばれてたんだよな。あっちも戸惑うはずだよ。プレッシャーがある。逆に遠慮してないか」

「そうかしらね」

「だから、もっとゆったり構えるといいさ。王女様はそうだろう。十代で、あの雰囲気までは、まだ早いって」

「そうだよね。勉強だね」

「またそれか。なんというか、姉貴に甘えるみたいにでいいさ」

「甘える。いまさら」

「子供ころの甘えるとは違うが。姉貴分は頼れるものだぜ」

「それは分かる」

(貴族学院のころは頼られもしたっけ。そうだよ、まだこれから社会人だし。姉貴分には頼るべきか)

 ケリーヌにとってアランは良い相談相手でもあった。

「ケリーヌさんも、大らかというが、言葉の裏を考えてないだけだろ」

「裏があるのかしら。話は半分聞くってことは分かるけど」

「べつの意味で、お嬢さん育ちだな」

「庶民のいう苦労はなかったかな」

「しなくていい苦労はしなくていいさ。ほら、SNSで大きな目標があるだろ。その苦労があると思う」

「そうだね。まずは、あの女をざまぁすることよ」

「だからなー」アランが苦笑する。

「あの、お姫ちゃんは相手にしなくていい。SNSはあんがいオトナも使えると思う。そういうのを提案していったほうが役にたつだろ」

「なんてたって、情報が早いから。なるほどね。でも、下がれない女の意地があるのよ」

「まっすぐだな」

(女王様と同じことを言うんだね。たしかに、父に似て頑固なのよ)

「裏がなんとかも、考えてみる。天然ボケっていわれてるけど」

「そこが可愛いところじゃん」

(急に言われてもね)

「たまに、話を半分しか聞かないからよ。それが関係あるかしら」

「完璧な人はいないさ。なぜ、可愛いと言われて不満か」

「べつに。顔が良いと言われてもね」

「いや。か、わ」ゆっくり喋るが止めるアラン。何度もいう台詞でもないと気づいたらしい。

「そこだよな。凛としたわりに話しやすいのは」

「お母ちゃん譲りだから」

「それだ。想い出を閉じ込めているんじゃないか」

(なぜ分かるのかしら。あれこれ喋りたいけど。いつも心で思いだすだけだし)

「庶民とお喋りもしてたな」

「幼いころに戻ってみるのもいいさ。聞きたいし」

 それなら、と想い出のいくつかを話す。

(なるほどね。文字だけじゃなかったよ)

 SNSだけではなくて、直接に会ってたのも気付く。それは、アランが話を向けて来るから、堂々巡りの想い出が、ちゃんとしたエピソードとして場面を蘇らせた。

「あれだ。結局は直接に会って話した方がいい」

「そうだね。でもさ。婦人会の方と会っても、いまいち反応がないみたい」

「読んだりはしてると思うがな」

「たしかにね。参加して欲しいけど。匿名だから分からないや」

 婦人会らしいスレッドは見当たらない。

「なにかヒントはないのか。実母のことで」

「なにか見逃してるというか、裏を気づいてないと、私が」

「そういうこと。俺もよくは分からないが、オトナの女性にしか分からないこともあるだろうな」

(裏といってもね。よく、子供のことを話してはいたな)

「やけに、赤ちゃんがなんとか話してたけど、あんがい共通の話題かもね」

「それをトピックにすればいいさ。それには、分かるひとがスレをたててほしいんだが」

(向かいにあるファミリーレストランの女将さんは婦人会の理事だったよね)

「お願いしてみる。姉貴分には甘える、だったよね」

「さすが、次期女王。気にするなら行動すればいいさ。さて、仕事の話になったが、よそう」

「そうだね。気にするのはやめよう。そうだ。海の写真は、また撮れるの」

「タイミングが良ければ。こんど写してみる」

 写真の話や、旅の途中でみたことを話すアランは、心を和ませた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ