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The Countdown  作者: g
5/40

超能力獲得と職業選択の自由


1月4日


「やってきました カウントダウン祭 いえーー ぱちぱちぱち」


「保存」と「復元」は毎日の検証や練習でかなり自分の物になってきてる気がする。俺の意思である程度の融通が効くようになったし、誤爆もほぼ無くなった。誤爆の一例を上げてみると、自分の体だ。最初の頃は自分の体を触りながら「保存」をつぶやいていた。もしこれで自分が保存されていたらと思うと背中に冷たい汗が流れる。他の人間や動物が保存できるか試してはいないが(怖いじゃん)少なくても本人は保存できない仕様らしい。だが衣服は別だ。前にズボンのポケットに手を突っ込んだまま「保存」をつぶやいたら、パンツ一丁になった。部屋だったから良かったものの、外だったら確実に事故だ。まぁ今は風呂に入る際、服を脱ぐのに便利だから使ってるけど。

あと無意識保存事故はほぼ無くなった。今は何かに手を触れていてもそれを「保存」しようと意識しなければ、言葉で「保存」をつぶやいても手に触れていた物が消える事は無くなった。これで独り言解禁だ。

「収納」は時間が流れるから本人が入っても大丈夫かもしれないが試していない...なんかほんと入っちゃいそうだしどうなるかわからないから....。

そうそう、「復旧」の意外な使い方がこないだ分かった。冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出し、一口飲んで「か~うまい」とか言ってたらうっかり手を滑らせてペットボトルを床に落としてしまったのだ。(コーラが保存されていない事が意外?そうだね、でも温度を維持する事は出来るけど温度を下げる事は出来ないのよ)当然ペットボトルの中身が床にぶち撒けられてあたりがコーラまみれになってしまった。大部分はすぐコーラを「保存」して事なきを得けど、一部細かい所や狭い所に入ったのは手を入れられない。特に冷蔵庫の下に入ったコーラは冷蔵庫をどかさないといけない。退かすのは「保存」であっという間だったが、問題は「復元」だ。家の冷蔵庫はキッチンと壁の隙間にピッタリサイズだ。下手に「復元」すると斜めになったり倒れたりしかねない。なので「復旧」を試してみたのだ。結果は問題なし。しかも、コンセントまでしっかり刺さった状態で戻されたのだ。これは意外に使える。着ているTシャツを「保存」して「復元」しても手元にTシャツが出てくるだけだが、「復旧」すれば着ている状態に戻るのだ。ただし、制限もあって、元の状態と違う場合、例えば他のTシャツを着ているとかだと「復旧」しても「復元」と同じく手元に出るだけになる。後は、復元先にスペースが無い場合、トイレや押入れなどに容量以上の物、例えば冷蔵庫などを戻そうとした場合「復元」や「復旧」をしても出てこない事が分かった。


「おっと、考え事をしてる間に......」


時計を見るとそろそろ時間になりそうだ。

PC画面に意識を戻し、集中する。

カウントダウンの数字が7884000になった。

アイコンが表示される、今回のアイコンは..えーと..10角形..かな?1,2,3,.......そうだぶんそう。だが断る!

俺は素早くソースを開き、どんどんと下に画面をスクロールさせる。


「おし」


ソース上のアイコン郡を見つけると、四角形のグループを探す。


「あったぞ」


おもむろにマウスを操作しアイコンの1つに重ねると。


「カチッ」


左クリックした....。


「ふーーー」


さてさて、どうなる事やら...。

今回選んだのはひし形だ。

ラノベや漫画などで出てくる インベントリ!! これは、絶対ほしい。入れた物を視覚化できる機能だ。目の前に液晶みたいな表示が出たり、脳内に入れた物が浮かんだりするらしい。今のままだとかなり不便だ、メモや録画などで対策しているものの正直面倒くさい。絶対入れたまま忘れている物があると思う。

で。

ここからが問題だ。この黒画サイト..チュートリアル的な物が一切なくぶっつけ本番上等の困ったやつなんだ。どうすればいいのかがいっさい分からない。とりあえず思いつく事を1つずつ確かめて行くしか無いのである。

んんっ


「保存庫」


........


「収納庫」


........


「アイテムボックス」


........


「インベントリ」


........


「貯蔵庫」「保管庫」「保持庫」「保全庫」


「保護、維持、管理、倉庫、ボックス」


「家、押入れ、棚、車庫、トイレ、4畳半、事務所、てやんでぇ、バーロー、チクショウ....」


「またかよ~」


PCの前で頭を抱える。


「そりゃさ、こんな超常現象を使えるんだから努力は必要でしょうよ...でもこれは努力の方向性が間違ってないかい?」


窓際の机に座らされて、ここで年間の目標を達成して下さいって言われてる会社の左遷社員じゃないんだから。せめて業務内容位教えてくれよ。


「は~ 飯食うか」


PCデスクのキーボードをずらしスペースを作る。


「...復元」


手を添えた机の上にカップラーメンが出てくる。もうお湯も入れてある状態で保存してあったので手間いらずだ。便利でいい。


「復元」「復元」「復元」


シュウマイとサラダとお茶


「復元」


あと割り箸ね。

PC画面を動画サイトに切り替える。お気に入りは動物物や、料理物などが好きでよく見ている。あと忘れちゃいけないのがアイドル物...俺はドルオタなのだ。



2月1日

2月に入った...前回のカウントダウン祭からなんの進展も無い。

いままでなら、何かしらのちょっとした切っ掛けで新しい能力が開花したのだが今回ばかりは駄目みたいだ。インベントリ以外の能力も模索してみたが成果は出ていない。一応アイテムボックス関連じゃない可能性も考慮して、ちょっとした変化や異常がないか常に神経を張り巡らせて生活しているのだが、こないだ女の子連れのお母さんが俺を見て子供を抱えて足早に去って行った。たぶん俺の目が相当血走っていたのだろう。今回は諦めて最後のアイコンに賭けようと思った。


2月2日

変化があった。

...いや..俺じゃなくて。

例の黒画カウントダウンサイト。

ここに訪れたのは俺だけだった。カウンターは毎回記録してある。昨日まで俺がここに訪れた回数は522回だ。それが今日524回になっていた。つまり昨日俺がPCを落としてから、今日立ち上げる間に誰か1人このサイトを訪れたという事だ。


「へぇー 人がついに来たかー」


どんな奴が来たんだろうな...。俺みたいに偶然来たんだろうか?まぁそれしか無いよな..検索サイトに乗ってる訳でもないし。俺がここに来た時の事を思い出す。


「俺ってどうやってここに来たんだっけか....」


あの時はたしかネットショッピングしてて....そうだサバ缶が安い所を探してる間になんかの広告を踏んであっちこっち行ってた時に偶然見つけたんじゃなかったかな。この人もそんな感じで入ってきたのかな?。ちょっと話をしてみたい気持ちもある。


2月3日

ビックリした。

黒画サイトのカウンターが579回になっていたのだ。

俺自身が5回踏んでるから50回カウンターを回した奴がいるんだ。1人が50回まわしたのか...それとも50人が訪れたのか....。そう思っている内に更にカウンターが1増えた。

ネットで検索を掛ける。SNSや掲示板で黒画サイトやカウントダウンサイトなどがスレ立てしていないかの情報を調べてみた。もし話題にあれば何かしらの新しい情報が得られるかもしれない。



2月4日

運命の日

今日であと残り2ヶ月を迎える。昨日あんなに盛り上がっていたカウンターは鳴りを潜めていた。今日は俺以外には3回しか増えていない。3人か1人かわからないが、果たしてアイコンの出現に気づくだろうか...あまつさえアイコンをクリックしてなおかつ能力の発現に至るだろうか....不安と期待が入り交じる。ネットでの情報はそれらしい物は見つからなかった。

刻一刻とカウントダウンの時間が迫る。今のところカウンターは動いていない。俺みたいに、ずっと入り続けているか、それとも興味をなくして早々に立ち去ったか、それは分からない。

もし、自分が超能力者になったらどうするだろう、俺みたいにひた隠すだろうか。それとも世間に公表するだろうか。俺がもし公表すれば、世界一の有名人になれるだろうな。もちろん良い意味でも悪い意味でも...だ。

アイテムボックスという現代社会ではあり得ない超常現象。なんか今までの苦労が思い出される、長かったような短かったような...しかし今日で全ての四角形アイコンが揃うことになる。これで俺はアイテムボックスマスターと言う事だ...1個は未だ不明なままであるが....。まあいい。


「さぁ くるぞ」


俺はチラリとPCデスクの脇に置いてあったカップラーメンの空容器を横目に見るとあれの ”保存”から始まったんだよなーと感慨深い...


「え? ちょっ おま!!..........」


「.....え..えええい 今はコッチだ」


ソースコードを表示させ素早くアイコンを押す。


「お.おお..おおお」


キタキタキタキタ キターーーーーーーーーーー!!

インベントリだ!! やった!! これだ これだよ。これなんだよ!!!

よしよしよしよし 何度も何度もガッツポーズをする。

今、俺の目の前には3Dのルービックキューブのような物が浮かんでいるのだ。もちろん手では触れない。VRゴーグルで表示されている映像みたいな物なのだろう。

表示は今保存している物だ。弁当やジュース、トイレットペーパーや洗剤などの雑貨まで多種多様な品が3D上に配置されている。

ふむ、回転、拡大、縮小、は思いのままだな。頭の中でゲームのコントローラを動かす化如く自由自在だ。そしてカレンダーを並べた様に展開も出来た。

この上のタグっぽいものは何だ?。頭の中でそれを押して見る。3Dキューブが切り替わった。

なるほど、2ページ目って事か...ページをどんどん切り替える。

ん?この色違いはなんだ? 青っぽい枠じゃなく黄色っぽい枠の物があるな。俺はそれを拡大する。


「とくにおかしくはないなぁ 普通に保存されている物だ」


あ これ保存じゃなくて収納された奴かも。試しに手近にあったボールペンを「収納」してみると黄色枠に収まった。


「なるほど」


その後も、いろいろと弄り廻してみる。キューブはフォルダ化する事が出来た。例えば食品のキューブであったり、雑貨のキューブと言った具合だ。そしてキューブ同士の物の移動も思うがままだ。頭で直接動かしているので反応が尋常じゃない速さだ。恐らく最高スペックのPCと高fpsモニターを持ってしても、これの足元にも及ばないだろう...ま、それは言い過ぎかもしれないが、確実にマウスで操作するウィンド◯ズよりは10倍以上早い。そして見つけてしまった。


「復元」


俺は、カップラーメンの空容器を手元に出した。これは、アイコンカウントダウンの直前に ”保存” した物だ。


「これが、謎の一個だったか.....」


そう、これは ”遠隔保存” した物だ。しかも ”無詠唱” 。


「はぁ」


これまでは、手にした物を「保存」してきた。手にした物が「保存」出来るとの固定観念があったのだ。離れた物が「保存」できないかと思った時もあったが、その時には出来なかったのだから、出来ないと思い込んでしまっていたのだろう。


「これは明日からの検証が忙しくなるな...」


カップラーメンの空容器を手のひらの上で踊らせながらその日の夜が更けていった.....。



2月5日

黒画サイトのカウンターはポツポツと上がっているものの特に大きな変化は無いようだ。ニュースサイトやSNSなんかでも特にそれらしい情報は今の所見当たらない。


「う~~ん 検証 いきますかね~~」


PCの前で両手を頭上の上で組み、大きく背伸びをしながらこれから望む検証に意気込みを入れた。

まずは、目の前にキューブを表示させる。

このキューブは俺の意思で表示、非表示を簡単に切り替えられる。さらに視界の隅に追いやる事も可能だ。


「さて」


まずは新装備の遠隔保存だ。

リビングのテーブルに紙コップを出すと、1mほど離れて「保存しろ」と念じてみたら、紙コップはテーブルの上から消え、目の前のキューブに表示された。さらにテーブルを見てキューブ上の紙コップを「復元しろ」と念じたら、テーブルの上に紙コップは出現した。

今度は、目を瞑って、紙コップを「保存しろ」と念じてみた。結果は保存されなかった。

次に、部屋の一番遠い所まで移動して、紙コップを「保存」してみた。結果は保存された。テーブルの上の空中に視線を合わせて復元してみた。結果は空中に出現した後、テーブルに落ちた。

もう一度紙コップを保存して、一番遠くにある玄関のドアノブに視線を合わせて復元してみた。結果はドアノブの少し手前に出現した後下に落ちた。

離れると精度は落ちるのか。その後何度もドアノブの上に紙コップを置こうとしたが、成功率は1%。つまり100回やって1回しか成功しなかった。これはほぼ運だな。ただ、その間に気づいた事もある。復元状態をコントロール出来るのだ。キューブ上の紙コップを回転させて上下反対にするとその通りに復元するのだ。360度自由自在。これは使い道がありそうだ。

俺は、財布を手にすると玄関前に落ちている紙コップを拾い上げ、そのまま扉を開け家を出て行った....。


「ここだな」


ホームセンターに車を走らせた後、自宅近くの空き地に来た。

ここからならマンションの俺の部屋がかろうじて見える。距離にして200mない位だろうか...。ちなみに、俺の部屋は1階だ。部屋の前には小さいが庭もある。

庭にあるエアコンの室外機に向かって、紙コップを復元してみた。


「......わからん」


ホームセンターで買った高倍率の双眼鏡を取り出すとマンションに焦点を合わせる。


「おーよく見える」


双眼鏡越しでも、インベントリのキューブは認識出来るようだ。

さて、紙コップは何処行った?

ん~~~ あ あった あれだな。紙コップは室外機よりかなり手前の庭の隅に落ちていた。

紙コップを「保存」してみる....。無事キューブに収まったようだ。

どうやら、視界にさえ入るなら物の出し入れは可能なようだ。ただし精度は距離に応じて下がると思った方がいい。練習次第では精度を上げる事は可能かもしれないが。


リビングに戻り、今日の検証のまとめをする。

遠隔保存は見えていれば可能だという事、遠隔復元は可能だが、復元する場所や距離によってかなり誤差がある事、復元する物の角度や状態を決められる事。


「こんな所か」


後は、懸念材料や疑問点などを少しずつ潰していこう...。焦ってあれこれやったり、決めつけて掛かると結局遠回りする事になりかねない。


2月6日

今日のカウンターは...+2だな(俺以外)

ネット情報は...今日も特になし。


「今日の検証はっと」


インベントリ内の保存してある物のタグ付、フォルダ化、整理などはほぼ終わった。

キューブを表示、紙コップを検索、20個にまとめられている内の一個を分離、キューブを拡大、ここまでで2,3秒程度。ほんと頭で考えた事が瞬時に実行される感じで、UIは超ストレスフリーだ。紙コップをテーブルに「復元」する。


「ん?」


ちょっとある事が気になった俺は、テーブルの紙コップを保存すると、目線をテーブルの天面と水平になるようにして、紙コップを復元してみたらテーブルの端に乗ったあと床に落下した。


「なるほど、なるほど」


2D(2次元)だと奥行きが考慮されないのか。たしかに、昨日外で家の庭にある室外機に紙コップを出そうと思ったけど大分手前に落ちたもんな....。これは要対策案件だな。距離が遠くなればなるほど、目線が下がれば下がるほど、誤差が生じるという事だ。

紙コップをテーブルに戻し、次に同じ様にキューブから水を選ぶ。そうそう、このキューブ。スケーリング機能が付いている。距離、重量、体積と瞬時に切り替え可能だ。水は計算上21000㍑ぐらいあるハズだが、キューブ上では19.51㎥と出た。


「さて、この水を紙コップの中に入れたい訳だが....」


いや、タイダルウェイブになる可能性があるな..だったら。

俺は、風呂場へと移動した。

まず、小手調べとして手から水を「復旧」させる。

注射器サイズから段々とホース、消火用ホースサイズへと水の勢いを増やしてゆく。チョロチョロチョロ...シャーーーー....ドババババ.....水がどんどんと浴槽に流れ込んでゆく。その内浴槽の排水が追いつかなくなり水位が段々と上がってきた。


「ふー ストップ ストップ」


俺は一旦放水を止めた。


「さて、こっからが本番だ」


俺は、浴槽に視線を合わせるとキューブ上の水を「遠隔復旧」させてみた。


「ん?出ない....いや出てきた」


ミスト状だった物が段々と流しそうめんの水の様に浴槽へ流れ出てくる。


「これコントロールはどうするんだ?」


手の時と同じ様に念じればいいんだろうか。キューブ上の水を回転させたり拡大させたりしてみる。


「あ」


拡大させると、なにやらキューブに穴が開いている。穴に意識を集中させてみると大きさが変化した。と同時に空中から浴槽に流れる水の量も変化した。


「そういう事か」


俺は、穴を大きくしてみた。

どっっぱあぁぁぁあああん!!!!


「ぐあああああぁぁ!!!」


見えないダムがいきなり放水でも始めたかのような量の水が一気に浴槽に流れ込む。当然浴槽にそれを受け入れるだけの容量などあるはずもなく容易く水を決壊させた。溢れ出た水は俺も含め浴室全てを飲み込んだ。

結局俺は、自分自身にタイダルウェイブを食らわせたのだ.....。


チャポ....


「ふぃ~」


風呂に入った。

ま そりゃそうだろう。頭のてっぺんからつま先まで全身びしょ濡れだったんだから。

水の遠隔復旧は大分制御出来るようになった。今も風呂場のあらゆる空間から水が「ぴゅ~」っと吹き出し水芸でもしているかの様だ。穴の位置をずらす事で水圧も変化させる事ができ、一番下に穴を空け、かつ穴を絞る事でまるでウォーターカッターでも出ているかの様に容易くシャンプーの容器を切断した....危ないあぶない....気をつけなければ。

視線を移動させるとそこから水が飛び出してくる。角度も360度自由自在。セルフシャワーもお手の物だ。ただし冷たいが....。


「俺、世界一の消防士になれるんじゃね?」


ホントマジでそう思う。だって離れた所から安全に消火活動が出来るのだ。火元に突っ込んで元から消火出来るのだからこれほど効率のいい事はないだろう。


「! これは、もしかして いけるか? いけるんじゃないか?」


ザバァっと勢い良く浴槽から立ち上がると、濡れた体もそこそこに服を着替えリビングへと足を運んだ。

これのポイントは2つ。

1つ目は、見た所の空間を把握できる事。しかも360度自由自在。

2つ目は、「収納」した物は現実と同じ時間が流れるという事。

俺は、保存してあった ”GOPRO”を復元する。

電源を入れてモニターに映像が表示されているのを確認すると、GOPROを「収納」した。

すぐにキューブを表示させ、収納してあるGOPROを選択する。


「よし、起動したままになってる」


キューブを拡大させGOPROの液晶部分を大きく表示させる。今の状態は真っ黒な画面になってしまっている。


「ほう 「収納」 空間は暗闇なのかな? まぁそれはいい」


次に、俺は、水を「復旧」させたみたいにGOPROのキューブに穴を開ける。すると徐々に液晶画面の中心が明るくなってきた。更に穴を大きく広げて光が入る様にすると、俺の視線とダブった映像がGOPROの液晶部分に映し出されてきた。


「いいぞ いける いける......あれ?....」


いつの間にかGOPROはテーブルの上にカコンと音を立てて落っこちて来ていた。


「そうか...穴を広げすぎると出てきちゃうのか...」


と言う事は、カメラのレンズ部分だけ穴をあければいいのか。

もう一度、GOPROを収納し直すと、今度は穴の大きさと位置を調整する。


「おお....いいぞこれは」


視線を上下左右に動かす。なんだか動きの速いドローンを操作している感じだ。

でも、これだとただ俺の見ている物が画面に映っているだけだな...。水の時は360度いろんな方向に意識を向けられたんだからカメラだって可能なはずだ。

そう思った俺は、キューブを目の前全体に拡大させ液晶画面を全画面表示になるようにした。そして、液晶画面越しに部屋の空間を移動させる。


「おー マジでドローンだな! ちょっと画素が荒くなるのが難点だけど」


気分はまさにVRレーシングだ。上下左右に前転、後転、回転と自由自在。そして対面して自分自身を見てみる。


「俺って他人からはこんなふうに見えるんだな」


ちなみに、ちょっとキューブを縮小しカメラのモニターをどけて、カメラのレンズがあるであろう位置あたりを見てみるが、穴の空いた異空間らしき物は確認できない。


「見えはしないけど...コレってぶつかるのかな?」


俺はそのまま自分の顔へとレンズを近づけてみた。


「う!!! うぇぇぇえええ」


うぅぅぅ..はぁはぁはぁ...

うっ くっそ 自分の脳みそが見えた....。

なんだよこれ...最新のMRI(磁気共鳴画像、人間の輪切り画像を表示できる医療機器)も真っ青じゃねえか!

俺は、一旦VRドローンを終了し、床にぶち撒けられた吐瀉物を保存すると、トイレに流した。

今度は、一流の医者になれる可能性も出てきたが、俺の精神が持たなそうだ..。


「あれ?ちょっとまてよ......」


何かおかしいぞ?。冷静に考えて、人が物を視覚によって認知出来るのは、光が物質に当たりその反射光を眼球の水晶体で受け止めるからだ。つまり、光がなければ物を認知する事は出来ない...夜に物が見えないのは光が無いから反射する物を目で受止める事がないからである。


「って事は、人の体内に光が届いているはずは無いのだから脳みそが見える事なんて無いよな?」


常識で考えれば、真っ暗な映像しか見えないだろう。

う~ん....と唸ってみたが、こんな超常現象に現代の常識で考えていたって答えなんか出るはずが無い。これは、そういうものなんだと素直に受け止めた方が精神的に楽になると、俺は考えるのを放棄した。

椅子に座ってしばらく気持ちを落ち着ける。時計の針は正午を大幅に越えていた。


「あんまり食欲もないが、胃が空っぽだからな..なんか食うか」


アイテムボックスに保存してあったスーパーの弁当を適当に取り出しレンチンして腹を満たす、気を取り直して再度VRドローンを発進させた。

さて、このVRドローン。どうやら物質を通り抜けてしまうらしい....。と、言う事はだ...。


「おじゃましま~~す」


壁を抜けて隣の家に侵入した。ざっと部屋を見回す。どうやら家主は不在の様だ。隣の家の人と面識はないが、部屋を見る限りどうやら俺と同じく男の1人暮らしみたいだ。


「へー、なんか他人の家ってだけで同じ間取りなのにずいぶん印象が違うな」


テーブルの上にカメラを向けると一冊の雑誌が置いてあった。俺はそれを「遠隔保存」してみた。

結果は.... ”保存出来た”。


「まじかよ.... 泥棒し放題じゃねえか」


今度は、一流の怪盗になれるってか?...嘘だろ?! 

保存した雑誌を元にもどす。そろそろバッテリーが無くなるな。

画面上のバッテリーマークが残り少ない事を示していた。VRドローンを終了させる。


「ふぅ」


ドッカとリビングの椅子に腰を下ろす。追加のバッテリーが必要だな。


「そうだ」


PCの前にいそいそと戻ると、amezonを開き大容量ポータブルバッテリーをポチった。これでバッテリー切れから開放されるだろう。


「しっかし壁抜けとは恐れ入ったなぁー まじで銀行強盗が現実味を帯びてきたじゃねえの...」


前にも言ったかもしれないが、俺は別に正義の味方を気取るつもりはないし、清廉潔白な人間でも無い。人並みの理性はあると思いたいが、目の前に札束をチラつかされて無視できるほど出来た人間じゃないのだ。自分さえよければ他人はどうなってもいいって言うと、世間から白い目で見られるかもしれないが、そういう奴だって究極的には自分が可愛いはず、自己犠牲で他人を助けるなんて事は逆にその人の精神を疑わざるを得ない。もしそういう考えが一般的なのだとしたら、世界に貧困や格差など生まれるはずが無いからだ。

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