検証という名の日々
「おはようございます」
今日は、早朝から車を飛ばして近県の海に来ています。
ここで、大事な検証を行う為、朝も暗い内から車で3時間も掛けて海へとやってきました。
ここでやる事はズバリ、どれ位の量を保存できるのか?という事です。そう、海は広いな大きいなです、海水ならいくらでも保存し放題でしょう...といった考えの元に来た訳ですが、ただ、万が一容量が無制限で海の水を保存した際に、太平洋の海水すべてが消滅でもしようものなら大惨事必死です。なので段階を踏みます。
「さてっと」
俺は、車の後部から大きめのバケツを取り出すと、海に向かってさっそうと歩き出した。季節は冬真っ盛り、周りには人っ子1人いない状態である。まぁ検証には丁度いいケド、とにかく寒い。あまり波が激しくない海岸を探しながら歩いていく。
「ここでいっかな? よっと」
バケツ一杯に海水を汲む。そして、海水に手を添える。
「冷てっ」
我慢我慢....とにかく検証だ。
「保存」
バケツの中身は空になった。もう一回。バケツに海水を汲み上げる。
「保存」
バケツは空になる。ここで一回海水を戻してみよう...。バケツに手をかざして...
「復元」
どばしゃぁぁあああ!!!
「うわああぁぁぁ」
バケツから海水が溢れ出し、危うく真冬の海水を浴びる所だった。
これはあぶない。もし何杯もの保存した海水を復元したりしたら.....。リヴァイアサン宜しくタイダルウェイブが出来てしまう。
俺は考えを巡らせる.....。今復元した海水は先程汲んだバケツの海水2杯分だったはずだ。なぜならバケツから海水が溢れ出たのだから...。何故1杯分ではなく2杯分だった?。保存は1杯ずつを2回行った。だが保存先で2杯分が1つにまとめられてしまった可能性がある。理屈としては、仕切りが無かったからだろう。もし海水をバケツごと保存して.....。
やってみる。バケツに海水を組み上げ、バケツごと「保存」する。その後、海水を「復元」してみた。結果バケツごと復元された。
「そりゃそうか...」
バケツの中身として海水があるんだから、バケツも出てくるよなぁ......。
「ん?まてまて、それっておかしくねえか?」
いままでの検証を思い出せ。例えば米粒を保存した時、一粒ずつ保存した物もあれば、皿にまとめて保存した物だってあったはずだ。なら米を復元した時に、一気にまとめて出なかった理由はなんだ?。米一粒保存した物は、一粒で復元出来たじゃないか。海水が保存先で1つにまとめられた様に、米だって保存先で1つにまとめられてもおかしくない筈である。常識的に考えて....常識...常識...
「そうか!常識か」
先日も言ったじゃないか、こんな超常現象に世界の常識を当てはめてどうするんだ。厄介なのは俺の常識や無意識的思考に結果が引っ張られてしまう事。もっと柔軟に考えを変えていくべきだ。
今回の海水に関してはどうすればいい?。問題点は....問題点は一気に物質が動くことなんじゃないか?瞬間的に消失し、瞬間的に再現される為に莫大なエネルギーが一気に開放されてしまうんだ。瞬間的じゃなく時間をかければ。時間をかける?そうだ、保存は時間経過ゼロだけど、収納ならば現在と同じ時間が流れているはずだ。
バケツの海水に手を突っ込む。
「収納」
バケツが空になる
「違う 違う こうじゃない....復元」
ばしゃぁっ!
バケツに海水が戻る。
もっとこう時間を掛けるイメージで、ゆっくり収納するんだ。
「収納」
ん?変化なし?...収納って言ったよな?
!!いや減ってる。微妙にだけど減っていってる。
「あ!!」
バケツが空になった...。
「ふぅ」
どうやら俺の意思にかなり左右されるみたいだ。
「復元」
でも、希望が見えた。
「いくぞ 収納!」
そうだ、徐々に、徐々に早く、慌てるな時間を思い浮かべろ、頭の中に時計を作り上げ秒針と収納を同期させるようなイメージで.....。
その後も、何度も何度も収納と復元を繰り返した。途中車の中で暖を取るのとコンビニで買ってきた食事をとり(もちろん現地で温めて保存したのでアッツアツですよ...ふふふふ...)そしてまた収納と復元の練習に没頭していった。
「よし」
だいぶ収納をコントロール出来るようになったぞ。15㍑のバケツの水が殆ど変化ない位の速度から、2秒程度で無くなる位の速度までかなり自在に仕舞える様になった。これならバケツからじゃなく直接海の水を収納できるはずだ。ただ問題は....
「復元」
ばしゃあぁぁ!!
これだよ....、収納君はかなりいい子になったのに、復元君ときたら...。
なにかね?君はタイダルウェイブがやりたくてしょうがないのかね?。
「ふーーーー」
この近県には津波被害で大変な地域があるって言うのに、俺が津波を起こしてどうするよ...。
「んん?」
思い出した様にバケツの海水に手を突っ込む。
「収納」
ヂューーーーと言う音が聞こえそうな感じで海水が減っていく...。
................。
「復旧」
シャァーー.........ジャーーー..........ダババババババ...................
そうだよ、保存と収納があるんだから、復元と何かがあったっておかしくないだろうが。復元は元に戻す。復旧は直す。こういうイメージでいいんだよ。早く気付けよ俺は。
ようやくスタートラインに立つ事が出来そうだなと思っていたが、辺りはそろそろ薄暗くなり始めていた。流石に、こんな所で夜通し検証する訳にはいかない。
「適当な宿で一泊するか」
スマホを手にすると、近場の宿情報を検索してみる。
最悪、車の中で寝ればいいか。そう思いながらバケツの水を引っくり返して、駐車場へと引き返していった.....。
スマホでの宿検索は見つからなかったが、近くのコンビニに寄った際、店員さんが穴場の宿を紹介してくれた。素泊まりのみだが、格安で泊まらせてくれるらしい。
実際行ってみると、釣宿って感じで寝るだけなら全然問題なさそうであった。部屋で持ち込みの弁当を食べ今日の事をさっと考えまとめるとさっさと明日に備えて寝る事にした。
2日目
「よっし 今日こそは 本来の目的を達成するぞ!」
昨日と同じ海岸に降り立った俺は、さっそくバケツを持って海へとむかった。
まずは、予行練習。いきなり本番はしない。バケツに海水を汲み昨日と同様に「収納」と「復旧」をしていく。
完全にペースを掴むまで、焦らずじっくりと取り組む。俺の力は1つ間違えばとてつもない災害を引き起こす可能性がある。それに何かしらのアクシデントを発生させて、他人の目に留まる事は避けなければいけない。周囲の警戒も大事だ。
「うん これならいけるだろう」
2時間程度の予行練習を終えた俺は、本番に向けて気合を入れ直した。
昨日よりちょっと波が高い。安定して収納するためにはもう少し場所を選んだほうが良さそうだ。できれば入江とか防波堤のような所の近くがいいんだけど...。
まわりをキョロキョロと見渡す。
「お あそこなんかよさそうじゃね?」
そこは、テトラポッドが積み上げられている一角だった。あそこの端ならそんなに波はこないだろう。バケツを持って移動する。
よしよしここならいいだろう。
海に向かってしゃがみ込む。右手を海水に浸す。
「くぅー ちべてぇ」
我慢我慢、ジャケットの中にはたんまりカイロが入っているから後で十分に温めてあげるからね。
さていくぞ
「収納」
......うーん流石に規模が大きすぎるから水位が減ってる感じは全然無いな...当たり前だけど。しかし右手の周辺は結構な大きさの渦が出来ている。かなりのスピードで海水を収納しているはずだ。そのまま手が冷たさで限界になるまで収納し続けた。
約5分だな...海から一旦右手を引き上げ懐のカイロで温める。
練習では約2秒で15㍑のバケツが空になった。今日は安全性も兼ねて5秒位で15㍑の水が無くなるくらいに調節した。という事は1分で180㍑、5分で約900㍑の海水を収納した計算になる。ほんと容量無限だったらどうしよう...はは......。
その後も5分置きに収納と手の温めを交互に行いながら、検証を進めていった。
「はーーー流石にもういいでしょ!」
俺は海から手を引き上げると素早く水気を拭き取り、ジャケットのカイロに手を突っ込んだ。
もう俺の右手のライフは0よ...。
収納時間は合計2時間...休憩時間を入れると4時間の長丁場だった。
2時間という事は、計算上の総量が21600㍑、約21トンの海水を収納した事になる。でもまだ限界は分からない、分かるのは21tの物質は仕舞えるという事だ。それ以上の検証は、また今度にしよう...そう、もっと暖かくなってから...。
車に戻った俺は、しばし車内で冷え切った体を温めたあと、家路についた。
海水収納旅行から戻った翌日。
俺は、次なる挑戦へと向かっていた。
これからやる事は、この収納した海水の利用だ。
風呂場に行き、浴槽に海水を「復旧」させる。そして、今度は過去に検証した”食塩水の実験”でやった水と塩の分離を試そうというのだ。浴槽の海水に手を付け。
「保存」
俺は水だけを回収するイメージで、海水を保存した。
「オーケー」
浴槽の底には白い砂のような物が残された。家の浴槽は薄い水色なため白い物はわかりやすくなっていて良かった。白の浴槽だとパッと見わからないだろう。この残された物は恐らく塩だと思うが、手に取ってみると売っている塩より若干黒くくすんだような感じがする。たぶん精製されてないから不純物が含まれているんだろう。
「食塩には出来ないな..土俵に撒くか、家の前に盛り塩するぐらいにしか使えないかも」
とりあえず底に溜まった塩を集めて「保存」した。
次に、保存してある海水から分離した水を浴槽に「復元」する。
ザバンと音を立てて浴槽に水が出現する。俺はじっと浴槽の水を凝視した。
「パッと見は水だな..」
用意していた空のペットボトルを取り出すと、浴槽の水をペットボトルにすくい上げる。ペットボトルを蛍光灯の光にかざして見るが、特に不純物等は見当たらない。
「うーん 大丈夫そうだけど 飲水として使うのは勇気がいるかな」
どっかの機関で個人の水質検査をしてくれる所あるかな?。後で調べてみよう。
まぁ 洗い物や洗濯、車の洗車なんかに使えれば水道代節約になるだろう。なんせ21トンもあるんだから有効利用しないとね。
あ!でもまって。収納した海水は、時間経過するんだから傷んじゃうよな?
なら、海水を全部出して、「保存」すればいいか..あ 駄目だそれだと一気に全部出ちゃう...自宅でタイダルウェイブはご勘弁頂きたい。
ん?違うよ!、なんで「保存」と「復元」、「収納」と「復旧」がセットなんだよ。「保存」と「復旧」だっていいじゃんか。
試しに「保存」した水を「復旧」させてみた。
結果は問題ナシ。ちゃんと手からダバダバ水が出てきたし、少し舐めたけどしょっぱくなかった。飲み込まずに吐き出したけどね。
そんなこんなで海水、真水化計画はその後1周間続きましたとさ...。
余談ですが、水質検査は調べたらやってくれる所がありました。金額は1万~10万程度...検査項目数に応じて金額が変わってくるみたい。一応一般的な飲料水の検査2万程度の検査を依頼した。大体半月くらいで結果が出るそうだ。
さて、海水の浄化や保存や復元の検証、情報収集に毎日のルーティンなどを終わらせた後、時計を見たら夕方の4時を少し過ぎたあたりだった。
「そろそろ行くか」
次のお目当ては近所のスーパーだ。車に乗り込むと意気揚々と駐車場を後にした。
スーパーに到着すると、カートに入るだけのカゴを乗せる。入り口の店舗広告をしっかりチェック! 普通に陳列されている商品には目を向けない。目的は脇に避けてあるカゴに入った半額品や値引き品にセール品だ。こういうものは大抵賞味期限寸前の物がほとんどで安く売られている、売れ残れば店側は廃棄するしかなくなるからだ。
俺は、アイテムボックスに保存が出来るお陰で賞味期限なんて関係無い。時間経過しないのだから1年でも10年でも食べられるのだ。惣菜や弁当も狙い目だ夕方から値引きシールが貼られ始める。まだ1件目で時間も速いのでポツポツの商品が10%引きぐらいしかないが、この後、スーパーをハシゴする予定なので、最後の方にもう一回くればかなりの値引きになっているだろう...買われてなければ...だけど。
「ただいまーっと」
スーパー安行から無事にご帰宅ですよ。かなりの品を買い込んだ。3万ちょいの金額がかかったが、惣菜や弁当だけでも1ヶ月は余裕で暮らせる量を買った。大抵が30~50%OFFだ。中には8割引の商品もある。これが時間を気にせずいつでも好きな時に食べられるのだから笑いが止まらない。フードロス削減!いい言葉だ。あえてデメリットを上げるとすれば、食べ過ぎ注意って事と頻繁にやるとガソリン代がかさんで非効率になる事かな...まぁ月1,2回程度の安行でいいだろう。
一応言っておくと、何を保存したのかを忘れると取り出し不可になるので、レシートはしっかり保管!あと首にさりげなく掛けたカメラで買ったものを録画してある。これで何を買ったかちゃんと把握できる訳だ。安全対策万全ですよ。
それにしても...コンビニやスーパーで廃棄する弁当、俺にくれないかなぁ...駄目だろうな...もったいない
さっそく半額品の弁当を一個温めてPCの前に座る。おっとレシートにちゃんと消費した物に線を引いておかないとね。これで良し。カメラの録画ファイルをPCにバックアップしてと。
「これからどうして行くべきかな」
コロッケの1つにかじり付きながらこれからの事を考える。
アイテムボックスのお陰でかなりの経費を削減出来るだろう。水や食料、電気代もポータブル電源とソーラーパネルを駆使して保存すれば結構いけるんじゃないだろうか。日中は外でソーラー充電しておいて、夜の主要電源(例えば電子レンジや炊飯器、電気ケトルなどで温めた惣菜や炊いたご飯、お湯などを「保存」しておけば保温の必要がないから経済的だ)に使える。ただこれは延命措置であって根本解決にはならない。今の俺は無職で収入がないのだから貯蓄が尽きればアウトだ。
「いっそ銀行強盗でもするか?」
んーそうは言ってもなぁ...しかも銀行はコンピューター上で金を管理しているだけで、実際に現金が大量にあるわけじゃない。個人の感覚からなら大量にあると言えるのかもしれないけどね。
スリや万引き、ドロボーなども出来ない事はないだろうが、一定のリスクがあるのは間違いない。密輸なんかはバレる心配は無いかもだけど、俺の顔が裏社会に出回るのは避けたい。
あ、別に悪の道に走る事に忌避感は無い。超能力を得たからって正義の味方なんてまっぴらごめんだ。感謝されるのは嫌いじゃないけど、必ずその力を利用しようとする輩がでる。間違いない。
まあ おいおい考えて行こう..そのうちいいアイデアが出てくるかもしれないし
1月某日
年が明けました。
みなさま、あけましておめでとうございます....と言った所でだ。
独り身の年末年始なんて、普段の1日となんら変わらんのよ、寂しい事に。
今日は、去年依頼していた水の検査結果が届いた。
「えーと どれどれ」
ほう..僅かな塩分、リン、カルシウム、塩素、カリウムなどが見られるが誤差の範囲と..99%以上で蒸留水、精製水の類との調査結果だ。と言う事はアイテムボックスを使っての水の分離は、水すなわちH2oを分離させたと言う事になるのか...。その他の僅かな成分は恐らく浴槽やペットボトルに付着していた物が検出されたのだろう。
んんん..この物質の分離には、非常に高い可能性を感じる。
水道水や海水から蒸留水や精製水が作れる。もっと言えば下水や河川からでも蒸留水や精製水が作れるって事だ(なんか嫌だけど)水不足になる心配は無くなる訳だ。ただ商売にはし辛い。そんな魔法で水を作りましたなんて事をやったら国の機関に狙われるに決まってる。生活は安泰かもしれないが。
後は水以外の分離だ。そうだな....海水から塩は分離出来た。いや、もっと言えば、水とそれ以外に分けられたはずだ。海水の成分が正確に分からないけど、水と塩だけで作られてはいないと思う。実際海水を分離して残された塩らしき物は、若干黒ずんで居たように見えた。塩化ナトリウム100%ではないんだろう。そしたらそこから、塩化ナトリウムだけを分離させる事は出来ないだろうか?それなら本当の意味で塩が作れる。これが異世界なら塩を売って大儲けも出来そうだけど。塩以外なら..例えばそう、チョコレートやケーキから砂糖を分離できたら..。うーん使い道がわからんな...ダイエットにいい?。だったら初めから食べなければいいだけだ。美味しくないだろうし...。胃の中に入った時点で分離できればいいけど、胃の中にどうやって手を突っ込めばいいのか...死ぬわw。そもそも、成分や元素の話になると俺個人では調べきれない..どっかの研究機関でもなければ無理だろう。顕微鏡程度でわかるとも思えない。これは今後の課題だな。