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The Countdown  作者: g
2/40

カップラーメンが消えた日


ピンポーン

家のチャイムが鳴る。


「お 来たかな」


玄関のドアを開けると先日注文した商品を宅配業者が持ってきてくれていた。


「お荷物でーす 田原さんで間違いないですか?」


荷物の伝票を見ながら、常套句を言葉にし笑顔で接してくる快活そうな若い女性...。スレンダーな体型で非常に小顔の美人さんである。


「あ はい ご苦労さまです」


彼女はここ周辺の担当なのか、よく俺の家に配達に来てくれていて向こうはどうだかわからないが、俺はよく覚えている。ぶっちゃけ非常に好みだ。某アイドルグループのセンターに良く似ている。俺はドルオタなのだ。


「ありがとうございましたー」


そう言った彼女を笑顔で見送ると、結構な重さの荷物を持ってきたんだなと、ちょっと感心してしまった。体力の衰えが著しい俺は荷物を一旦地面に下ろすと、小分けにして玄関の中に運び入れる。


「えっと これはこっち、これはこっち」


注文した商品をそれぞれの収納にしまい込む。カップラーメンの箱を開け中身を取り出すと保存棚に次々と入れていく。


「これは保存...と」


カップラーメンを持つ手を棚に突っ込んだ俺は思わず目を見開いた。


「は!?」


何故か俺の手は空を切ったのだ。


「な 何が...!?」


ちょっとまて!! どういう事だ? 俺は確かにカップラーメンを棚に仕舞おうとした。だが、俺の手にはカップラーメンが無い。何故だ?。

呆然と立ち尽くす...どれだけの時間そうしていたか分からないが、手近な椅子に腰を下ろすと不可思議な現象を起こした右手を見た後、そのまま頭を抱え込んだ。


「今 俺は何をした?」


考えがまとまらない...いつのまにかマジシャンにでもなったのだろうか。

おもむろに席を立った俺は、もう一度カップラーメンを手に取り、棚に仕舞ってみる。当然普通に仕舞える...。そのまま慎重に残りを棚に仕舞ってみる。


「さっきと何が違う? ほぞんだ...」


保存棚に入れようとしただけ......そう言おうとした俺の手から、またもカップラーメンが消失したのだ。


「えええええ!!!」


しばらくボーゼンとしていたが、俺は恐る恐るもう一度カップラーメンを手に取ってみる。


「保存」


俺の手の中のカップラーメンは瞬間的に消え失せた。すぐさま周りを見渡し目についたテーブルの上のコップを手にすると「保存」とつぶやいてみた。あたりまえの様にコップは俺の眼の前から消え失せた。


外から何かの放送が聞こえる。

俺が、窓の外に視線を向けると、空は段々と赤みを帯び、何かの放送は市の防災無線のようだった....。

あれから俺は、片っ端から手近な物を手にして「保存」とつぶやいてみた。今の家の状況は引っ越しでもするの?と言わんばかりである。つまりほとんど何も無いのだ。

大小様々な雑貨から大型家電、家具に到るまで何も無くなっている。


「これは あれか? いわゆるラノベによくあるアイテムボックス...収納魔法というやつか?」


自分で言っててバカバカしいとは思うが、他に考えが浮かばないのも事実だった。


「はは...これ現実だぞ? そんな非常識な事があるか?」


この現代社会においてそんな不可思議が許されるだろうか。俺はトラックに轢かれたわけでも、異世界転生したわけでも、神様に会ったわけでも無い。


「いや....そうとも限らないな」


俺は奥のプライベートルームに視線を移すとそこに鎮座しているPCの例の黒画サイトを見た。思えば、あのアイコンをクリックした数日後にカップラーメンが消えた事件...2個あったカップラーメンのどちらを食べようか決め残す方を棚に戻した....。もしかしたら、あの時から保存の現象が発生していたのでは無いか? だが、仮にそうだとして....これがファンタジー定番のアイテムボックスだったとして、保存した物は何処へ行った?。俺は何度も「カップラーメン出ろ」だの「支払い」だの「展示」だの「展開」だの思いつく限りの言葉を放ったが一向に物が出てくる様子がなかった。


「これ保存とは名ばかりで物質を消滅させる魔法じゃないだろうな...」


時計を見るともう夕食をとってもおかしくない時間だ。確かに腹が減った。

一旦思考を停止し、冷蔵庫まで保存してしまった自分自身に呆れると


「仕方がない」


そう言って近場のコンビニへと足を運んだ。帰りがけに行儀が悪いと思いつつも途中で菓子パンの一個を口に運ぶ。


「はぁ...しっかし、参ったなぁ...。これから一体どうなるんだ?...物質を消す魔法なんて非科学的な事とどうやって付き合えばいいって言うんだよ。ほ...おっとあぶねえ」


思わず保存と言いかけてしまった。危うく菓子パンが消え失せる所だった。保存は禁句だな...消失したものが取り出せない以上、物を消すことはできない。ちなみに頭で思っているだけでは消失現象は起きなかった。言葉で発声しないといけないようだ。


「はぁ なんだかなぁ...収納ま...」


収納魔法って...そう言おうとした俺の手から菓子パンが消失した。


「これでも消えるんかーーーーーーーーーーーい!!!」


俺の魂の叫びは、肌寒く秋が深まっていく住宅街の夜空に盛大に木霊していった.........。


ー数日後ー

物質の消失という現象が起きてからの俺は、この「保存」「収納」について、徹底的に検証を開始した。

まず、これまでの情報から「保存」は手で触れるものならば消える事が判明している。もしかしたら、空気も消えているのかもしれないが、目に見えないため確認する事ができないから、ひとまず空気は保留だ。


「さて...まずやる事は、お口チャックだなw」


「保存」「収納」とつぶやいてしまうとその時に手にしている物が消えてしまう為、迂闊に言葉にする訳にはいかない。今のところ保存、収納以外で消える事はないが、何がトリガーになるかが分からない以上慎重にならざるを得ない。もともと独り言の多い俺には結構な縛りプレイだ。

それからネットでラノベや漫画など、アイテムボックスに関連しそうな物や、平行して例の黒画サイトに関する情報、世界で異常現象や超常現象など普段では考えられない現象が発生していないかの情報を徹底的に集めた。そして、何より今まで保存しているはずの物の呼び出しだ。保存してるよな?してると言ってほしい。ホントに消えてるだけだったら悲しすぎるほどの大損害だ。

数日間、ネットにあるアイテムボックスから物を取り出す行為をひたすら試みているが一向に物が出ない。


「はぁ」


これは諦めの境地なのか?嘆いていても何も解決しない。言語の問題かと英語や中国語、ドイツ語、フランス語など有名所の言葉をグーグル先生に翻訳してもらって発音してみたがまるで駄目だった。もっとも発音が正確か?という問題もあるにはあるが。


「..............」


しょうが無いので、保存収納に関して検証を進める事にする。

まず始めたのは、どこまでが保存できるのか?という事だ。具体的にはテーブル(いままでのテーブルは保存してしまったのでホームセンターでやっすいテーブルを買ってきた)に生米の粒を一粒ずつ並べ、その一粒ずつを指先で抑える。


「保存」


指で押さえた米粒が消える。これはいい。次に隣の米粒を押さえ


「収納」


米粒が消えた。これもいい。ここで重要なのは指先は米粒に触れている、米粒はテーブルに触れている、だが、米粒は消えるがテーブルは消えないと言う事だ。ちなみに、英語での「保存」である「keep」や「収納」である「storage」には反応しなかった。発音の問題だろうか?わからない。もちろんその他の類似語、例えば「確保」だったり「挿入、加入」などなど...思いつく限りの言語を羅列したが保存収納以外は、反応がなかった。

次に、皿に山盛りの米を載せその先端の米粒に指先を触れた状態にしてみる。


「保存」


今度は指先に触れた米粒だけじゃなく、皿に盛られたすべての米が消失する。もちろん皿は消えていない。じゃあ...ともう一度皿に米を盛り付け、端の一粒だけを盛った米と分離して皿に乗せる。そしてもう一度先端の米粒に指先を当てた状態で「保存」をしてみた結果、皿の端に避けた一粒の米以外が消えたのである。

この結果はある程度予想が出来ていた。何故なら前回テレビを保存した時にコンセントに繋がっていた筈の電源ケーブルがテレビと一緒に消滅したからだ。要するにテレビ、米、などのグループと言うか枠みたいな物が有りそれを一緒のカテゴリーと判断して保存をかけていると言う事になるのだと思う。ただそれに繋がりがない場合、例えばテレビの電源ケーブルであったとしてもテレビに繋がっていない状態ならば、テレビは消えるがケーブルは残されるという事になるはずだ。試しに使っていないオーディオプレイヤーがあったので、敢えて本体にケーブルを挿さずコンセントにだけ挿した状態でオーディオプレイヤーを保存してみた。案の定オーディオプレイヤーは消えたがケーブルは残された...この検証は正しかったと証明された。ちなみにテレビのアンテナケーブルは保存されなかった...この辺のカテゴリー分けは判断が難しい所ではある。

次にやったことは、同じ検証を別の手で行った。これまでは右手で全部検証したので今度は左手でも保存出来るのか?という事である。結果は 出来る であった。さらに、手(具体的には手のひら)以外で保存できるかを検証する。結界は 出来ない であった。手の甲や、腕、肘、顔、足などでは保存出来なかった。ちなみに手袋をした状態だと当然の如く手袋が消えた。

更に検証を進めてゆく。同じ様に皿に米を盛り付け、米ではなく皿を持って保存をしてみた。これまでの検証であれば皿が保存され、皿の上の米は下のテーブルにばら撒かれるはずである。しかしどう言うわけか今度は皿の上の米は皿ごと消えた。

これはどういう事だろうか?

俺は今起きた現象について考える。


「.............................」


そうか、カテゴリーだ。テレビだって厳密に言えば手で触れている部分はテレビの外枠。言ってみればプラスチックの部分だ。なのに中の液晶や基盤などといった電子部品も保存された。冷蔵庫だって空っぽではなかった中身があったのだ、なのに中身ごと冷蔵庫が消えていた。皿と米の関係はどうだ?皿は入れるもの、つまり器だ。米は入れられる物、つまり内容物だ。俺は近場のビニール袋に米を入れビニールを持って保存してみた。ビニール袋と米は消えた。ビニール袋に皿と米を入れて保存してみた。同じ様に消えた。

なるほどな

俺は、別の皿を(一応言っておくが皿とはテーブルと一緒に買ってきた紙皿だからね?)だから誰に説明しているのかと...まぁいいや。皿の上にゴミ箱に入っていたカップ麺の容器を ”置いて” みた。


「保存」


皿は消えた...カップ麺の容器は...カラン...床に落ちた。

その後も様々な物を皿の上に置いて保存してみた。一緒に保存される物もあれば取り残される物もあった。左右の手に皿を持って保存してみたら、左右とも消えた。左右で別のもの持って保存してみた、やはり一緒に消えた。


「え?」


俺は何かに気づき思わず声をあげてしまう。

ちょっとまて!今何が起こった?。左右の手に持った物が消えたよな?........。別に右手でも左手でも保存はできるのだ、何もおかしくはない。

おかしくは無いのだが..........。


「................」


左右の手に皿を持ってみる。


「収納」


両方の皿が消える。


「................」


右の手の上に米粒とコンビニで買ってきたガムを一粒置いてみる。


「保存」


手の上の米粒とガムは消えた。


「...............」


この間、コンビニ帰りに菓子パンを食べた時、不意に言葉にした「収納」で菓子パンは消失してしまった。

なら何故反対の手に持っていたコンビニ袋は ”消 え な か っ た?”。

その日、俺はそのまま深い思考の海へと潜っていった................。



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