また、桜で
これは、私が昔とあるサイトに掲載した作品です。
その時のペンネームはcpuです。
普段は誰も通らない一本道
そこに一本の桜が立っている
そこで僕は、一人の女の子を見た。
その子は長い黒髪で白いワンピースを着ていて、木の根本で本を読んでいた。
惹かれるように彼女に近づいた。
「あの・・・」
「はい?」
「と、隣・・・座っていいですか?」
しどろもどろ
「ええ、良いですよ」
ちょっと一安心
「何読んでるんですか?」
「これは、私と彼の本なんです」
少しショックだった・・
「あっそうなんですか」
「ええ・・」
少しの沈黙
「今、その彼はここにいるんですか?」
「彼、今日引っ越すんです・・・電車で・・東京に」
「えっ、良いんですか!?こんなところにいて」
「ええ・・いいんです・・・だって、私・・」
「ダメですよ!!来て!!」
彼女の手をとる。
なぜだろう?
他人の恋なのに・・・
僕は、彼女を自転車の荷台に乗せて走りだす。
「ホントにいいんですよ・・・どうせ、間に合いませんし・・・」
「やってみないとわからないよ!」
「どうして、見ず知らずの私にそこまで・・?」
「わからない・・」
「え?」
「ただ、なんかこういうのほおっておけないんだ・・・・・。それに、悲しいじゃん・・恋人と会えずに別れるのはさ」
「・・・・ありがとう」
本当にわからなかった。
なんか、使命みたいなものを感じたらしい・・・
僕は、がむしゃらに走った。
こんなに必死こいてチャリをこぐのは初めてだ。
見慣れた町
どんどん通り過ぎていく
その間、彼女は右手を僕の肩に乗せ、左手に本を持っていた。
そして、僕たちは駅に着いた。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・いつ発なんですか・・・?」
「もうすぐです」
「じゃあ、早く行きましょう!!」
僕たちは駆けて行った
駅内
一人の男が、大きい荷物を持って電車を待っている
僕は、その男性が彼だとなぜかわかった。
彼女が、その男性に近づき、目の前に立った。
「竹原さん・・・ごめんなさい・・・そして、今までありがとうございました・・・」
え?
彼は無反応だった。まるで、聞こえないように
彼女はは目の前から立ち去り、僕の横を駆け抜けた。
「え???」
?だらけだ
追いかけると、彼女は泣いていた
後ろ向きでも、それがわかった
「どうしたんですか?いきなり・・・」
「今日はありがとうございました。もう、大丈夫です」
と振り向いた。その時にはもう涙はなかった。
「なんでですか?あの人は、君を無視したんだよ?」
「最後にもう一度会おうか、迷ってたんです・・・でもあなたが、もう一度会う機会を作ってくれた・・・勇気をくれた・・・あの言葉で・・・」
【悲しいじゃん・・・恋人に会えずに別れるのはさ】
「あの言葉がなかったら、会うことはありませんでした・・・・もう心残りはありません。これで私は旅立てます・・・本当に・・・・ありがとう・・」
「それ、どういうこと・・・?」
すると彼女は笑みを浮かべたまま、だんだん薄くなった。
「えっ!?待って!!」
手を手を伸ばしたが、彼女は、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラ輝きながら消えていった・・・
彼女が読んでいた、本だけ残して
この本には、彼女と彼の物語が日記形式で書かれていた。
そして、最後に彼女が書いたのは、今日
『竹原さん・・・
ごめんなさい・・・
私はもうこの世にいません・・・
けれども、私はあなたと会ったあの桜の木での思い出を決して忘れません・・・
今まで、本当にあれがとう・・・』
僕は、これを彼に見せた。
すると、彼は涙を流し、「届けてくれてありがとう」と言った。
彼の希望により、彼がこの町に戻るまで、桜の木の下に置くことになった。
思い出の、この桜の木の下に・・・・
この本を・・・