三
まだ、試行の段階です。
ストーリーは決めてますが、なろう向けなのか、需要があるのか、自分がそもそも書きたいジャンルなのか確認しながら書いてますので遅筆です。ご了承ください。
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(だからって、こんな縁起でもない記事を、あの人が私に見せる理由にはならないわね)
そもそも、彼は超名門私立大学で官僚になるための勉強をしているはずで、ここに出入りするわけがない。
机に置いてあった新聞記事の写しを、ハリエットは誰かの悪戯の証拠として引き出しに仕舞った。
(さぁ、今日から晴れて大学生。沢山学んで研究もして、世界旅行に行く!)
念願の大学での専攻は考古学部。
ここで人類学と考古学を学び、史跡巡りをしつつ、いつかは父の家業に貢献したいと思っている。
まだ女性の地位は低いが、貴族や上流階級に嫁ぐことだけが人生の価値ではない。
そんなハリエットの考えを、まるっとではないが父のチェスターは応援してくれている。
爵位は諦めてはいないだろうが、どうせなら伯爵家以上との縁談を、と自身の商家としての地位は自負しているらしい。
(子爵家でも無理だったのだから、そこは諦めて欲しい)
入学式の時に感じてはいたが、大学の考古学の新入生に女性は少なかった。
そもそも、まだ女性が大学進学することが珍しかったのだ。
男性の中で浮いてしまっても、それでも、一年次から考古学に専念できるのは嬉しかった。
「今年の新入生は少ないなぁ、まぁ、編入生もいるし、和気あいあいと行こう」
担当教員が講義室に集まった生徒を見て、ちょっと困った顔をしている。それは、なぜかというと………。
「編入生って、あの人かよ?」
「何で貴族がこんな民間の学校に?」
あのダニー・グリフィンが新入生の中に混じっていたからだ。
普通、貴族の子息はパブリック・スクールを経て国内一、二位の名門私立大学に行くもの。
(私立大学よりは学費は抑えられるけれども……でも、なぜこの人が考古学部に? しかも、編入って)
ハリエットは、他の学生から浮きまくっているダニーを遠巻きに眺めて、まさか、とあり得ない可能性を考えた。
(私のことを付け回してるわけでは、ないよね?)
あの時、「友人になりたい」などと言ったのは普通に断るのは失礼だと、彼なりの配慮だったと思うようにしていたのだが、もしかして本気でそんなことを考えていたのか。
それとも、やはりあの記事を置いたのはダニーで、自分に嫌がらせをする目的があった?
第一回目の講義が終わり、離席しようとするダニーの前に立ち塞がった。
「ご無沙汰しております、グリフィンさん」
ハリエットは、不自然な表情にならないよう話しかける。彼の反応を推し量るべく、ゆっくりとした口調で。
「あぁ。久しぶりだね」
ダニーは、ニコリともせずに返事をする。
「まさかあなたのような方が考古学を専攻するなんて驚いたわ。そもそも説明会でもお見かけしなかったし」
「考古学は金儲けと関係なくて、その面で言うと品がある学部だしね。俺が説明会に出たら目立つから代理人に手続きをしてもらったんだ」
(目立つのは、そりゃぁ、そうでしょうけど)
"私"から"俺"と一人称が変わったダニーは、傲慢な言い方をしてハリエットの前から立ち去る。
けして、友人になりたいという態度ではない。
ほんとに偶然、同じ学校に通うことになったのか。
「あの方、背が高くてお顔立ちも品があって素敵ね」
「あなた外国の方だから知らないでしょうけど、一応貴族なのよ、彼」
「一応ってことは、嫡男じゃないのね。それなら私にもチャンスあるんじゃない?」
講義室を出たダニーが女子学生達に注目されるのを眺めながら、ハリエットは心に決める。
――あの人には、極力関わるまい。
それが本能からのサインなのか、それとも運命に逆らっているのか、――この時のハリエット自身は分からなかった。