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波乱の幕開け

 みなさん、こんにちは! 私の名前は天宮菜々美といいます。私はたった今この学園の入学式を終えて、教室にて担任の先生が来るのを待っています。

 皆さん知っての通り、この学園は国の中でも最高峰の学園。そのためこの教室の造りはとても豪華だし、この〝島〟の色々な設備もとても充実なものになっている。まさか自分がこんな学園に行けることになるなんて! 周りを見たらどことなく強そうな人たちばかり。あの斜め前の方にいる人なんて圧倒的に自信のある面持ちでこの時間を過ごしてるし。あそこにいる人なんて瞑想みたいなことしてるし。私の隣にいる人なんて寝息立てながらぐっすり寝てるし、いやはや皆相当な実力者なんだろうと私は思いつつ、

「・・・ん?」

と、私はそんな声をあげつつ隣にいる人に再度目を向けて、

(な⁉ ね、寝てるーーー⁉)

などと、そんなことを思ってしまった。え? 今って入学式終えた直後だよね? みんな担任の先生待ってるような状態なんだよね?

そんな中寝る人っているもんなの? いや確かにいるかもしれないけどさ! けどそういう人がいきなり私の隣の席ってどうなの。などと私が思っていると、

「・・・んあ?」

「えあ、起きた」

隣の人が急に目覚めてむくっと体を起こしたので、私は思わずそんな素っ頓狂な声を出してしまうのだった。


 俺が寝ている時に感じた視線はどうやら隣にいる少女の者らしい。俺が心地よい睡眠から目覚めて視線を感じたほうへ首を向けるとそこには、ポカンとした表情をしている栗色の髪をした少女がいた。

「・・・なんか用か?」

 俺が思わずそう尋ねると隣の少女は急に体をびくっとさせた後、ふうっと深呼吸をして、言葉を紡ぐ。

「お、お疲れ様です」

「べつに疲れてないんだが?」

「え、あ、そうなんですね~」

 そして沈黙の時が流れる。え、なんで入学しょっぱなこんな気まずい思いをしなければならないんだ? もしかして俺がぐっすり寝ていたもんだから心配してお疲れ様などと言ってくれたのか。なるほど、だとしたら俺の反応が少しまずかったか? そう思った俺は改めて少女の方に向き直り、

「ありがとな、心配してくれて」

などとそう言ったのだが、

「・・・え、え! な、何がですか?」

と、そんな言葉を返されてしまう。どうやら俺の予想は外れてしまったらしい。そしてまた気まずい空気が流れてしまう。

(はてさて、どうしたもんか)

 学園生活が幕開けたはいいものの、いきなり近くの奴と気まずくなってしまっては今後が先行き不安となってしまうだろう。それならば。俺は意を決して再びその少女に目を向ける。

「自己紹介しないか?」

「え、自己紹介、ですか?」

 その少女はオドオドしている様子でこちらに瞳を向けている。そりゃあそうだ、いきなりこんな知らん奴に色々と言われても戸惑うのも無理はない。だが他人との距離感を詰めるためにはまずはお互いのことを知ることから始めなければいけない。

「俺は〝皆水湊〟っていうんだ。よろしくな」

「あ、そうなんですね」

 そして彼女は俺の名前を聞き終えた後しばし考えるそぶりを見せ、

「私は〝天宮菜々美〟っていいます。よ、よろしくお願いします!」

言葉詰まりながらも彼女は少し俺に笑みを向けつつ、そう返してくれるのだった。

「ああ、よろしくな」

 よし、これでお互いの名前を知ることができて少し距離感も縮めることができただろう。これで俺にも学園生活初の友達というものができそうで良かったものである。

「で、だ」

 やっとまともに話せそうな奴ができたので、俺はさっきから疑問に思っていたことを尋ねようと思った。

「はい、なんですか?」

「えっとだな・・・。今俺たちは何をしてるんだ?」

「え、何をしてるかですか? ・・・って、え?」

 彼女は少し考える素振りを見せたかと思うと、そんな疑問言葉を浮かべて俺の方へその瞳を向けてくる。

「なんだ?」

「あ、あなたさっきの話聞いてなかったんですか?」

「さっきって、いつのことだ?」

「あなた入学式の時何をしてたんです?」

 なるほど、この言葉から察するにおそらく入学式のときにその後の指示でも受けたのだろう。だが生憎と、

「俺は入学式に出てないもんでな」

「・・・は?」

「なに、少し寝坊してな。この学園についたころにはもう入学式が始まってたんだ」

 ほんとは俺は人混みがさほど好きじゃないのと、だるいことには参加したくないからあえて入学式を欠席したんだが、まあこっちの理由の方が都合がいいだろう。変な奴なんかと思われて距離をとられる方が俺にとっては嫌だしな。そう思いつつ俺は彼女の方に視線を向けると、

・・・わりとドン引きされていた。

「いや待てなんだそのゴミを見るような眼は」

もしかしてこの言い訳ってまずかったのか⁉ いやでも朝遅刻しそうになったらパン咥えた女子高生と激突しただとか、授業中遅れてきて「遅くなっちまった!」「もう遅い~」などといったカップルの会話があるだとか、学生にとって遅刻というコマンドは青春の一ページであったり日常茶飯事的な行為だったりだと思ったんだが。

「あなたって、もしかして変人なんですか?」

「違う! 断じて違うそんなことはない!」

えげつないくらい侮蔑されたような声音でそんなことを言われてしまったため、俺はその事実を必死に否定してしまう。

「・・・・・ぐっ!」

 まずい、今の声で明らかに周りから痛い視線を向けられている。せっかくさっきまで幸先の良い学園ライフを切っていたのに、これでは周りからほんとに変な奴だと思われてしまう。こうなるんだったら素直に入学式に出ておくべきだった。

(・・・ど、どうすればいいんだ)

などと、俺がそんなことを思っていると、

「待たせてすみませーん!」

教室の前の扉がガラララと開き、前の教卓に一人の女性が現れる。

「担任の斎川リルです! よろしくお願いします!」

そう言葉を述べ、目の前の女性はペコっと頭を下げた。

 まあ、周りの視線をなんとか免れることができたので良かったが、

「・・・教師、なのか?」

目の前にいるのはどう考えてもロr・・・、女の子だったため、俺はその事実に少し違和感を覚えつつも、

「はーい、これから学園の説明とこれからの予定の伝達を行うので、よく聞いてくださいね~」

その教師の言葉を聞くこととするのだった。


「なんともまあ、特殊な学園だな」

 一通りの説明を聞き終えた後、俺は隣の少女にそう声をかけていた。

「あう・・・、私この学園で過ごしていけるか不安です・・・」

「まあ能力者が集うような学園だし、巷ではエリート校だとかなんとか言われてたわけだ。そりゃあとんでもない学園だろうな」

 実際目の前にいたロリ教師はこの学園のその特殊なシステムを淡々と説明していた。曰く、この学園もとい戦闘科では各学年Aクラス~Gクラスまでの7クラスに分けられており、それぞれのクラスの総合値においてそのクラスのアルファベットが変動していくらしい。そしてアルファベットの値からも分かるように、Aクラスが現状最も評価の高いクラスとなり、Gクラスが最も評価が低いクラスとなるわけだ。

 そして評価値というのはどうやら個人単位にも振り分けられるらしい。ただクラス評価と異なる点が一つあり、個人単位の評価は0~100までのレベル値によって表されるとのことだ。能力の強力さはもちろん、戦闘力、機転思考力、状況判断力、そして頻繁に行われる『試練』と呼ばれる行事での成績などが加味されて評価が下される。そしてもちろんのこと、個人個人の成績もクラス評価の判断材料となる。つまり、だ。この学園は個人成績・クラス成績を導入することにより生徒たちに競争心を芽生えさせ、切磋琢磨させ、最終的に優秀な保安隊を養成しようとしてるわけだ。

 おまけにこの国は実力至上主義。強い奴は何をやってもいいなんてそんなぶっ飛んだシステムをとっている。そのためもちろん生徒たちは本気でAクラスを目指しに行くだろうし、本気でレベルを上げにいくだろう。事実、良い成績でこの学園を卒業できれば、それだけの学歴というものがつく。間違いなくこの世の中で勝ち組となれるだろう。まあ、卒業できればだが。

「た、退学・・・」

 そんなセリフをぼやきながら俺の隣の少女はすっかりおびえきった表情を浮かべている。まあ、彼女がそんな反応をするのも無理はない。

 ロリ教師が言うことには、この学園は常に『退学』と隣りあわせらしいのだ。頻繁に行われる試練であっても、この学園に在籍している最中であっても、生徒一人一人にはこの学園で生き残れるかどうかという事実が付きまとう。なんせ、

「毎月末にレベルが10を下回ったら、問答無用で退学ってわけか」

 その他にも退学の条件というのは多くあるわけだが、まあ一番のミソはこの条件だろう。なんとも実力主義らしいシステムである。

「まあ要はレベル10以上であれば退学のリスクを負わずに済むってことだ。自分の実力に自信がある奴ならそう簡単に退学にはならないだろうな」

「で、でも他にも・・・」

 説明の中で聞き取れた退学条件ってのは、確かに『試練において一定の基準を下回ったら退学』だとか『学年末に下位2クラスは退学になる』だとか中々過酷なものだったが、

「少なくとも、そんな今すぐに意識する必要はないだろうな」

 試練と呼ばれるものは割とすぐに来るだろうが、結局今考えたところでどうしようもないだろう。それに退学のことばかり考えていても華やかな学園生活を送りづらくなるだけだ。であるならば俺たちはとりあえず自分のレベルを10以上に保つことだけ頭に入れておくべきだといえる。

 ・・・などと俺がそんなことを思っていると、

「・・・なんであなたはそんな冷静そうな顔をしているんですか?」

気づくと隣にいる少女は俺にそう話しかけていた。

「冷静じゃないぞ。俺も正直今はパニック状態だ」

「それ絶対ウソだよね⁉」

 辺りを見回すと、俺たち以外の奴らも若干動揺している様子だった。まあ仕方がないだろう。実際俺たちはまだ自分のレベルも何クラスかも分かっていない状態。そんな漠然とした中、退学というワードをひっさげてこと細かく試練だのレベルだの、そんな説明をされれば表情が曇るのも無理はない。

「みなさ~ん、お静かにお願いしまーす!」

 俺たちのそんな動揺などいざ知らず、目の前のロリ教師はそんな言葉を発す。

「まだ大事なこと伝えてませんから! もう少し静かに聞いてください!」

「なんだ? まだ何かあるのか?」

 この時点でかなり学校のシステムについて理解したつもりだったが、俺たちの担任はまだ肝心なことを伝えていなかったらしい。

「皆さん気になりますよね? このクラスの評価値と自分のレベル!」

「・・・なるほどな」

 てっきりある程度学校生活を過ごしてから決めるもんだと思っていたが、すでにその辺りはもう決められているらしい。

「ではまずは個人レベルについて!」

 そうしてその教師は告げる。

「皆さん! 入学式で配布されたスマートフォン端末に今マイページへのアクセスリンクを送ったのでそこから個人レベルを確認してください!」

 教師のそのようなハキハキした声に合わせて、教室にいる生徒たちは各々自分の端末を確認し始める。無論俺の隣にいる少女も必死に自分のスマホ端末を確認し始めた。そしてしばらくすると、生徒たちの表情は徐々に変わっていった。俺は隣のその少女に目を向ける。そしてそこにいた少女の表情は、

「おいおい、大丈夫かよ・・・」

・・・考えられないぐらいに青ざめていた。割と普通に心配するほどのレベルで。

(まあ予想以上に低かったんだろうな)

 そして俺はというと、端末を開くこともなく、その場から立ち上がり一直線に教壇へ向かう。

「先生、端末がないんだがどうすればいいんだ?」

「あ~、君が湊くんか~」

前にいる教師はやれやれといった表情をしながら一度露骨すぎるため息をついて、俺に一台の端末を渡す。

「君、入学式欠席したでしょ」

「悪いな、寝坊したもんでな」

「あのねえ、先生に一々手間をかけさせないでよ! 君が休んだせいで君へ移動場所をどうやって伝えようかとか、書類どうやって渡そうかとか色々考える羽目になったんだよ!」

「そうか、それは悪いことをしたな」

 そうして俺はその端末を受け取り、踵を返そうとしたが、俺が歩き出すと同時にその教師は俺の手首をつかんできた。何かと思い俺はその教師の方を見たが、

「なんで怒ってんだよ」

その教師は眉間にしわを寄せて俺に険しい視線を送っていた。

「・・・初対面で、かつ先生に対してその敬語も使わない話し方。失礼だと思わない?」

「なんだ? お前は敬われたいような奴なのか? ただ残念だったな。俺はあまり敬語って概念に慣れてねえんだよ。だから許してくれ」

「・・・君面白いんだね」

 その瞬間、俺は掴まれている手に力が宿るのを感じる。

「この世界において自分より実力が高い人を怒らせることがどれほど愚かなことか、君ぐらいの人間なら分かるよね?」

 気づくとその教室はいつの間にか静まっており、その視線は一直線に俺とその教師に向けられていた。俺はその状況に思わず、

「・・・ハハッ」

そう言葉を零し、笑ってしまう。

「おいおい、らしくないことはやめてくれよ。せっかくのかわいい顔が台無しだぞ?」

「この状況においてその言葉は逆効果だ」

瞬間、その教師は俺にあからさまに殺意を向ける。

「君は、命が惜しくないのかな?」

その教師は俺にそんな言葉をかけてくる。だが生憎と俺にはそのような脅しは通用しない。なぜなら、

「・・・悪かった、許してくれ」

「・・・ふぇ?」

 目の前の教師はそんな素っ頓狂な声を発す。大丈夫だ、人間という生物、いやましてや教師ともあろう人物が無抵抗な人間を痛めつけるなんて到底思えない。しかも相手は入学したてピチピチの一年生だ。殺すなんてことは絶対にしないだろうな。

「冗談ですよそんな本気にならないでください先生」

「なんでそんな棒読みで弁明するんですか・・・。まあいいですよ、今回は大目にみましょう。私はとても優しいですからね!」

 その言葉とともに教師は俺の腕から手を離す。それにしてもそれっぽく敬語を使ったが、なんというか気持ちが悪いな。違和感がとてつもない。けどまあ、入学初日から教師と喧嘩したなんてシャレにならないため、結果的には良かったのかもしれない。無事携帯端末も入手できたわけだし。

「・・・・・」

 いや違うな、最悪だ。先ほどからクラスメイトからの視線が痛すぎる。これは間違いなく最悪なスタートダッシュを切ってしまったといっても過言ではないだろう。

「どうなるんだ・・・、俺の学園生活」

漠然とした不安に俺は思わず頭を悩ませてしまった。

「何してるんですか、あなたは・・・」

 気づくと俺は隣の少女にまたもやドン引きされていた。

「まあ端末なんてもの持ってなかったからな」

「やっぱり変人じゃないですか」

「話聞いてたか?」

多少教師ともめた件はあったが、少なくともまだ変人のレッテルを貼られるには時期尚早である。まあ既にクラスで浮いてる存在とされたかもしれないが、これからの学園生活は長い。いくらでも巻き返しが聞くだろうし、そもそも誰も俺の存在を意識するような奴などいないだろう。

「そういえばお前、個人レベルはどうだったんだ?」

 俺は思い出したかのように彼女にそんなことを聞いてみたが、彼女は鋭く俺を睨み付けて、

「言うとでも、思ってるんですか?」

「あ! ちなみに個人参照画面で各自の個人レベルや成績は全て公開されてるので、頑張ってくださいね♪」

「・・・らしいぞ」

「見たら許さないから!」

「信用ねーな」

まあいい、あとで見てみるとしよう。顔や名前はもう割れてるからな。などとそんなことを思っていたその瞬間、

「どうなってるんだ! これは」

 とある生徒の怒号が、このクラス中に響き渡るのだった。その声の主の方に目を向けると、そのとある男子生徒はロリ教師を思い切り睨み付けていた。

「ど、どうしたんですか⁉」

ロリ教師は目を見開きながらその怒号に驚いていた。

「どうしたもこうしたもないだろ! なんで俺たちのクラスの値に〝G〟って表示されてるんだよ!」

「・・・え」

 その怒号に隣の少女含めこのクラスにいる多くの生徒が表情を曇らせた。

「あ、そうです。それがこのクラスの評価値なんですよ」

おそらく俺たちが一番聞きたくなかったであろう事実を、そのロリ教師は告げてくる。

「な・・・!」

 瞬間、クラス内ではどよめきが起こる。そりゃあそうだ、Gクラスといえば間違いなくこの学園の中で最低ランクの評価となる。能力者というのはその希少性からプライドが高いような奴らが多い。故にそんな評価に納得できるような奴などいないわけであって、

「ふ、ふざけんなよ! 俺たちが、そんな最低ランクの人間だっていうのかよ・・・!」

そんな怒号が当たり前かのように飛ぶわけである。

「個人を決めるのはあくまで個人レベルの方ですよ? このGというのはあくまでクラスのレベルです。ですからべつにあなたが評価Gというわけではないんです」

「だとしても、だったら俺はなんでこのクラスなんだ!」

「クラス選別に関しては方法などは非公開なので言えませんけど、少なくとも作為めいた方法でクラス分けをしているわけではありません。みんな平等に決められているとだけは言っておきましょう」

「・・・ッチ!」

などと、そんな会話が繰り広げられる。周りの奴らはその会話を耳にしながらも、おそらくは怒号を飛ばした男と同じようなことを思っていることだろう。まあ仮にもし本当に無作為で決められているのだとしたらただ運が悪いということになるんだろうな。

 まあただ俺にも少し確認したいことがあるため、その疑問を教師にぶつけてみることにした。

「先生、少し質問してもよろしいですか」

敬語を使うのはやはりかったるいが、まあ我慢することとしよう。

「・・・またあなたですか? もう何なんですか」

ロリ教師はどこか機嫌が悪いのか、ムスッとした表情でそんな反応をしてくる。

「現時点での個人評価は何を基準にされてるか気になったもんで」

「・・・あなたにしてはまともな質問をしてきますね」

「俺を何だと思ってるんですか」

「一言で言うなら、変な生徒ですかね」

どいつもこいつも失礼なことを言ってくるものである。

「まあこれに関しては説明してもよさそうですかね」

そう告げるとそのロリ教師はコホンと咳払いをして、

「えっと、現時点での評価というのは基本的に入学試験の成績が参照されていますが、入学前の、まあ中学校とでも言いましょうか。そこでの成績なども考慮されて決定されているので、そのレベルは今までの自分の評価とでも思っておいてください。まあいいかえれば期待値みたいなもんですよ♪」

なるほどな、だったら今の俺の評価にも納得がいく。

「ただ逆に言えば、これはあくまでもこれまでの個人の実力を学園側が見立てで判断したものにすぎません」

「なるほどな、つまりは・・・」

「ええ、思っている通りです! これからの学園生活での成績だったり生活状況だったりでその数値は軽く変更されるでしょう。良い方向にも、悪い方向にも」

 その言葉を聞き届け、俺は再びその端末の画面に目を見やる。これからの学園生活によって、個人レベルが変化していく、か。つまりはこんな俺だとしても充分やりようによってはAクラスを目指せるってことなんだろうな。

 ただ俺は正直、このクラスが最低ランクのクラスというのはある程度想像できていた。なんせクラス評価値というのは生徒の質によって左右される。俺たちよりも上のクラスの奴らよりも俺たちのクラスの奴らの方が総合値で上回れば当然、俺たちはFクラス、Eクラスへと上昇していくだろう。だがそこで足枷になるのはやはり無能な生徒の存在である。

 俺は自分の端末に表示された『Lv0』という文字を見る。ああそうだ、これは俺の評価値だ。つまりはこの学園において最も評価が低い人間ということになる。そんな人間をぶち込むならGクラス以外に考えられないだろう。そして当然、俺はこのレベルにも納得してしまう。

「・・・ハッ」

 俺は思わず笑ってしまった。正直これからどうなるかなんて分からない。いち早く退学をくらう可能性もあるだろうし、いじめられる可能性だってある。だが俺はそんなことよりもその好奇心と目的に駆り立てられるこの学園生活が楽しみで仕方ないのだ。

「あなたたちの学園生活が充実したものになることを、私たち教師陣も祈っていますよ♪」

 ロリ教師はそう告げ、目の前の黒板に『今日は解散です!』の文字を書き終えた後、教室を後にする。生徒の中には不安を抱える生徒もいるだろうし、俺のようにワクワクしているような生徒もいるだろう。そんな中、俺はどこまで食らいつけるだろうか。

(こんな、『無能力者』が、な・・・)

 静まった教室の中で俺は一人、そんなことを思うのだった。


 オリエンテーションと称されたホームルームも終わり、俺たちは帰路についていた。どうやら今日はあくまで学園のおおまかな説明にとどまるらしく、これから逐一補足的に細かいシステムが伝えられていくらしい。

「最初から波乱な幕開けになったな」

 レベル0の俺からしてみればいきなり退学になる危険なわけだ。まあ月末退学とはいえ流石に入学月の4月末からではなく、5月末からになるらしいが、だとしても俺は割と安心できない立ち位置にいるということになる。

「まあお互い頑張っていこうぜ! 俺としてもお前に退学になってほしくないしな」

俺は隣を歩くその少女、天宮菜々美にそう告げる。いやはや俺にも念願の友達という存在ができて良かった。おかげで少なくともボッチ生活という悲しい生活を送らずに済む。

「な、なんでついてくるんですか!」

 俺がそんなことを考えていると彼女は急に俺の方を向き、そんなことを言ってくる。

「なんでって、友達同士は一緒に帰るとかするもんじゃないのか?」

「なんで友達ってことになってるんですか⁉」

「え、友達じゃないのか?」

「逆になんでそう思ったんですか⁉ まあ確かに教室で少しは話しましたけど、べつにそんな友達ってわけではないですよね⁉」

「嘘だろ? じゃあ俺たちの関係って何なんだ・・・」

「なにもないですよ! あなたが勝手についてきただけじゃないですか!」

 彼女はそう言うとプイっとそっぽを向く。なんというか怒り方がベタっていうか、若干可愛くも思えてしまう。おそらく怒り慣れてないんだろうな。

「・・・もういいですか?」

 彼女はそう言ってプイっとそっぽを向いたかと思えば、小走りで俺のもとから離れていく。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

俺はスタスタと去っていく彼女のあとを追いかけて、その手首をつかむ。

「キャッ! もうなんなんですか!」

「だったら! もし俺たちが友達じゃないんなら! 今から俺と友達になってくれないか?」

 俺は必死にそう彼女に懇願する。

「俺は人生においてあんま友達という存在がいたことないんだ! おまけにここは特殊な学園だから友達がいないと困るんだよ! だから頼む!」

プライドなんてものはない。俺はもともとこれまでまともな人間関係を作ってこなかったような人間だ。もちろん、俺だって努力はした。だけど一時的に友達と呼べる存在が作れても、結局はいつも一人となってしまう。だからこそ今度は、同じような過ちを繰り返さないためにも、とりあえず一人ずつ関係を作っていくことに決めたのだ。

「・・・私だって」

 俺のその懇願に彼女は言葉をつぐむ。

「私だって、友達を多く作りたいですし、楽しい学園生活を送りたいですよ! でも、ここは常に退学や争いと隣りあわせになっているような、そんな学園です。そんな簡単に人を信用することなんてできないですし、なにより私は・・・」

そして、彼女は告げる。

「・・・すぐ退学しますよ、きっと」

「なんでそう思うんだ?」

 俺は思わずそんなことを聞いてしまう。

「誰だってそう思うでしょう。自分の実力は思ったより低くて、それに加えてクラスも今年中に少なくとも2つも上げないといけない。そんな状況なんですから・・・。言ってみれば、崖っぷちですよ」

「だからといって今は入学初日だぞ? そう思うのは早すぎる気もするけどな」

「・・・あなたはきっと余裕なんでしょうからそんなことが言えるんですよ」

「そんなことはないぞ。俺だって状況はお前と同じ、いやそれ以上に悪いんだろうな」

俺は落胆している彼女にそう告げる。

「そんなことはないでしょう。なんせ・・・」

 彼女はうっすらと笑みを浮かべつつ、

「私のレベルは、5なんですから」

と、そんなことを告げるのだった。

「それは俺に言っても大丈夫なのか?」

 彼女の言葉に、俺は思わずそう尋ねてしまう。

「もういいんですよ、どのみちあなたはランキングを見るでしょう? 遅かれ早かれ気づかれます」

 彼女は相変わらず笑みを浮かべて、どこか遠くの方に視線を送る。

「この世界は実力至上主義、弱肉強食の世界です。確かに私は能力を授かってこの世界に産まれました。だけどこの学園では私は下の下に位置する実力です。ですから・・・」

 彼女はそう言って俺に向き直り、

「私と友達になっても、あなたにメリットなんてありはしません」

などとそう言ってくる。

 確かにレベル10より下の者は切られる存在なのかもしれない。それにこの学園には自分の実力を誇っているような奴らばかりが入学してくる。彼女のような謙虚そうな奴であっても、心の中ではきっと自分の実力に少しでも自身を持っていたことだろう。だからこそ、今日起こった全てのことはいわば自分を否定されるようなことだ。

 ・・・だけど、だとしても、

「メリットがあるかないかなんていうのは、俺が決めることだ」

 俺はあくまで淡々と彼女にそう告げる。

「それにお前はすぐ退学だとかついていけないだとかそんな言葉を零しているが、今日俺たちの担任も言っていただろう? あれはあくまで今までの生活状況や入学試験からついた評価にすぎない、とな。じゃあ逆に聞くが、お前は今までの生活で一度でもその実力を他の奴らや社会に使ったことがあるのか?」

「そ、それは・・・」

「お前のような自分の実力を不足していると認めているような奴が、目立った動きなんてするのか?」

「・・・しないです」

「だろうな」

「じゃ、じゃあ入学試験の評価が悪いってことじゃないですか!」

 彼女はそんな言葉を叫ぶ。その言葉に俺は、

「お前は何を言ってるんだ?」

あくまでそう言葉を返す。

「仮にだ、今まで目立った動きをしてない奴がこの学園の入学試験でしょうもない成績を叩き出したら、お前はどうする?」

「え、そ、それは・・・」

「少なくとも俺はそんな奴を試験に突破させないけどな」

「あ、た、確かに」

 彼女は少し目を見開き、俺の顔を見つめてくる。

「だからこそだ、お前のそのレベル5という値は何を意味している?」

「それは、えっと・・・」

 彼女は少し考える素振りをみせて、やがて、

「すみません・・・。分からないです・・・」

と、そう言葉を紡いだ。

「まあそれは仕方ないだろうな。人間っていうのは大体が自己評価を苦手としているだろうからな」

 俺は彼女に笑みを向け、告げる。

「お前には、伸び代があるってことだ。お前の体には、95レベル分の可能性が詰まってる、そうも考えられるだろうな」

 よくもまあ、俺の口もこんなことをべらべらと喋るもんだ。ああ、もちろんこんなものは詭弁にすぎない。俺だってこの学園の評価システムなんぞ分かるはずもない。だが彼女を景気づけるためにはおそらくこの言葉が正解だろう。

「・・・確かにそう考えると、私はべつにそんなに落ち込む必要も、ないのかな?」

 彼女はそう呟いて俺の方に笑みを浮かべる。

「ありがとうございます。なんだかあなたのおかげで私も頑張らないと、って思えた気がします!」

「俺はあくまで持論を述べただけだけどな」

 ともかく、彼女からの評価を上げることができたので良かった。あとはこのままの勢いで友達申請へと持ち込むだけだが、

「あの、それで・・・」

彼女はそう言葉を呟き、そして、

「私なんかでよければ、友達、になりましょう、!」

その言葉を俺に告げてくる。その言葉に俺は笑みを返して、

「ああ、もちろんだ」

めでたく、ここに一つの友情が誕生したのであった。


 それから俺たちは、ショッピングモールへと足を運んでいた。

「わあ! すごい・・・!」

 天宮はそう感嘆の声を漏らす。まあそう思うのも無理はないだろう。実際にそのモールのスケールは俺の想像よりもはるかにでかかったからだ。

「えっと、カフェはどこにあるんだろうな」

「あのあの・・・! カフェに行く前に色々回って見てみません?」

 彼女はウキウキとした表情でそんなことを俺に告げてくる。

「お前・・・、腹減ってないのか?」

 現在の時刻は午後2時、実に朝の入学式から口になにも入れないままここまでやってきているのだ。そりゃ誰だって腹が減るだろう。

『・・・・・グウゥ~』

 その音は俺の隣の少女から聞こえてくるのであって、

「お前も腹減ってるじゃねーか」

と、思わずそんなことを言ってしまう。

「こ、これは・・・! ま、まあ分かりましたよ! 先にお昼にしましょう!」

 顔を赤らめている少女を横目に、俺はぐるりと辺りを見回して、そしてそれを見つけてしまう。

「・・・ラーメン屋、あるじゃねーか」

「・・・ふぇ?」

 飲食店の立ち並ぶ通りの一角に、それは堂々と居を据えていた。

「・・・行くか」

「いやいやいや! 今から行こうとしているのはカフェなんですから! ラーメン屋じゃないから!」

「いいだろラーメンで! カフェと似たようなもんだろ!」

「全然違いますよ! 言ってたじゃないですか、私の好きなところへ行こうって!」

「・・・ラーメン、嫌いなのか?」

「嫌いじゃないですけども!」

 ラーメン派の俺と、カフェ派の天宮。まあこの様子だと彼女は譲らないだろうな、俺だって譲りたくないし。

「よし、分かった」

 俺は溜息を一つついて、彼女に提案をする。

「じゃんけんをしよう。それで勝った方の希望を聞く、ってことにしないか?」

「・・・分かりました、確かにそれなら平等ですもんね」

 そうして俺たちは互いの拳を突き出す。

「言っとくが一回勝負だぞ?」

「分かってますよ!」

 そうして俺たちは昼飯の運命をかけてじゃんけんをして、その結果・・・

「このパフェ、おいしーい!」

 彼女は俺の真ん前でパフェを頬張っていた。

「お前、もしかしてそれを昼食にするのか?」

「え? いやあ本当はちゃんとしたものが食べたかったんですけどね⁉ その、つい・・・」

 結局俺はじゃんけんに負け、俺たちはカフェへと向かうことになったのだった。

「なんというか、カフェっていうのはがっつりした食べ物が少ないな」

 メニュー表を見たはいいものの、甘そうなスイーツだったりケーキだったりがほとんどで、がっつりとしたものが端に少ししかないような感じだった。まあ一応俺はカレーを頼んだわけだが、どうにも量が物足りない。

「なんで昼食がここなんだよ、ほんとに・・・」

「はいそこ! 文句言わないでください」

 どうやら聞こえていたらしい。というかこいつ、いつの間にか2杯目のパフェ頬張ってないか? 明らかに食い終わった後らしきグラスが手前に置かれていた。

「お前太るぞ」

「な・・・!」

 俺のその言葉に彼女は食べる手を止め、俺をとんでもない目で睨み付けてくる。

「あ、いや悪かった。冗談だ冗談」

「・・・ならいいんですけど」

 少しからかったつもりだったんだが、思いのほか反応がシャレにならないものだったため俺は思わず謝ってしまった。

「・・・そういえば、あなたって個人レベルいくつなんですか?」

 いきなり彼女はそんなことを俺に聞いてくる。

「そんなことわざわざ聞く必要もないだろう?」

 事実、この学園のシステム上、個人レベルというのは順位として全員が常に見ることができるようになっている。だから俺の個人レベルなんぞそこからいくらでも見ることができる。

「どうせならあなたのレベルも見てやろうと思ったんですけど、なんか見当たらないんですよ」

「そんなはずはないだろう」

 俺は自分の端末を開いてその順位表を確認してみる。まあこの学園の生徒なのだから当たり前のように俺の個人情報はその順位表にさらされていた。しかも唯一のレベル0として、一番下に。

「ちゃんとあるぞ? よく見たのか?」

「見たんですけど・・・、あ、まさか!」

 彼女はハッとした表情を浮かべ、

「もしかしてあなたのレベル、私より低かったりして」

ニヤニヤとした表情に切り替わった後に自分の端末画面を思い切り下にスクロールし始める。

(・・・あーあ)

 これは確実に彼女に実力がばれることだろう。俺は、言ってしまえば最弱の人間だ。無能力者として今まで生きてきて、能力者に常に見下されながらも懸命にこの世界にしがみついていた人間だ。

 そしてこのような人間が能力者で溢れかえっている学園になんて入学してしまえばその末路は見え切っている。だから極力俺は自分の実力を知られないように立ち回るつもりだったが、順位表で個人情報が筒抜けになっているのであればその努力など水泡だろう。いずれ目の前の少女にもばれることだ。

「・・・え?」

 そんな素っ頓狂な声が彼女から発せられるとともに、俺はクスっと笑みを零し、

「驚いたか? 俺はお前が思っているような大層な人間じゃないんだよ」

と、いまだにスマホの画面と俺の顔を交互に見つめている彼女に告げる。

「気分はどうだ? 自分の目の前に、学園最弱の人間がいるってのは」


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