叔甥 オバトオイッコ
『おう幸多ぁ・・・いつまで引き籠っとんねん?さっさと出ぇや』
泉 多恵子・・・母さんの妹であり、僕の叔母さん。いつもピンク色のスカジャンを着て、タバコを口に咥えてる人だ。
当時の叔母さんは30そこそこの年齢で定職就かずのフリーター。しかも稼いだお金をほとんどパチンコや競馬に使ってる。ギャンブルじゃなくても毎日のように外でぶらぶらと出かけてろくに帰って来ない・・・たまにチンピラと喧嘩したとかで警察沙汰になった事もある。
『姉貴に聞いたでぇ、飯ろくに喰わんと引き籠ってるそやなぁ?えぇ?全くこんなとこ居て何になんねん・・・おい聞いとんのか?』
『・・・・・・・ほ、ほっといてよ・・・・ほっといてくれよ!!!』
『おい・・・おいおいおいおいおいおいおいおいおい!誰に向かって口聞いてんだコラァ!!』
胸ぐらを掴まれて思いっ切り殴られた。これが叔母さんから貰った初めてのパンチ・・・あまりに理不尽なパンチだ。
『うぅ・・・な、何すんだよ・・・』
『うるせぇ!いいから外出ろや!この!』
『い、嫌だ!やめてよ・・・グッ!』
『いちいち口答えすんなや!!外出ろ!!ほらぁ!』
何度も殴られて・・・ビンタされて・・・・部屋から引きずり出された。今思えばホントに感謝しかない。もし叔母さんが来てくれなかったら、今の僕はいなかったんだから・・・
外に出された僕は、最初に襲ったのは眩しい光だった。幽霊が怖くて外に出る事も見る事も嫌だった僕は、ずっと窓のカーテンを閉めて薄暗い部屋で引き籠ってた。そのせいか目が熱くなるほど太陽の光が眩しい・・・
『ハァ・・・ハァ・・・うぅ眩しい・・・・・あっ!』
そして次に襲ったのは・・・電柱に居座る首の無い幽霊。どうして首が無いのか疑問だが、それ以上に怖い・・・震えが止まらない・・・その時、叔母さんがやって来て・・・
『おいどないしたんや!?まさか・・・幽霊いんのか!?どこや!?出てこんかいボケ!おい幸多!どこにおんねん!?』
『え・・・どうしてそれを?』
『どこにおんねん!早よ言えや!』
『そ・・・・そこ・・・』
『そこか!?おい糞幽霊!あたしの甥っ子をビビらせやがったなぁ!てめぇなんて・・・こうや!こうや!こうや!』
叔母さんは電柱を蹴ったり、スカジャンを脱いでパシッパシッと叩き始めた。傍から見れば、電柱に鬱憤を晴らしてるキチガイにしか見えない・・・・・・そんな事しても無意味なのに・・・
『ちょっ、ちょっと叔母さん!何してんだよ!』
『ここに幽霊いんねやろ?あたしが追い払ったるわ!この!この!』
やめてくれとお願いしても、叔母さんは疲れるまでやめようとしなかった。恥ずかしい思いと同時に、どうしてこんな事するんだろうって疑問が頭によぎる・・・・見た感じ幽霊が見えてるってわけじゃないのに・・・どうして・・・
『ハァ・・・ハァ・・・どや?消えたか?』
当然、そんな事はない。依然として居残っている・・・・それを叔母さんに言ったら、キレて電柱を思いっ切り蹴った。その後で悲鳴が辺りに響き渡って・・・もうバカな光景だよ・・・
『ハァ・・・ハァ・・・クソッ覚えてろ!幸多ぁ!腹いせに飯行くぞ!』
『はぁ!?何で行かなきゃ・・・痛ぃ!』
『うるせぇ!奢ったるんやから文句言うなぁ!ほら来い!』
頭を叩かれ、叔母さんに引っ張られ近くのラーメン屋へ向かった。その間、僕は何度も幽霊を見た。交通事故で死んだ子供の霊・・・足の無い霊・・・煙の塊のような霊・・・まるで生き物のようにそこら中にいる。
『目ぇつぶってないでちゃんと歩かんかい!』
何も見たくなくて目をつぶれば、叔母さんからビンタを貰い・・・やっとの思いで店に着いても、奥のカウンター席に老人のような幽霊が座ってる。ビクビクと震える中、叔母さんはラーメンなり餃子なり唐揚げなど、かなりの量を注文した。
『いつまでガクガク震えとんねん?そんなに幽霊怖いんか?』
『・・・・・・・・』
『・・・お前あれやろ?幽霊が見えるってやつやろ?姉貴に聞いたでぇ、でもなぁそれがどないしたっちゅうねん!そこまでビビらんでも・・・』
『お、叔母さんには・・・分かんないよ・・・』
『そりゃそうや。幽霊なんてこれっぽちも見えへんからなぁ・・・でも幽霊いるんは信じてんで。昔いた友達もそやった』
『え・・・・』
話を聞くと・・・・叔母さんが高校生の時、友達がいっぱいいる中で一人、幽霊が見える女子がいたらしい・・・彼女は言った『彼等は自分が死んだ事すら気付いていない哀れな者達』だって・・・じゃああそこにいる老人もそうなのだろうか?
『幽霊なんてバカな連中さ。だから恐れる必要はねぇんだよ・・・お!来た!ほら食えや!食ったら元気になるわ!そんなガリガリやからビビっちまうんやろがぁ!早よ食え!』
ラーメンの匂いが食欲を湧かせる・・・・・抵抗しようにも抗えず、僕は麺を一口すすった。美味しい・・・美味しくて涙が出る。温かくて涙が止まらない・・・
『・・・・・・・それでええ。ほらもっと食えや』
涙がスープにぽたぽたと垂れ落ち、食べ物を汚くこぼしても、叔母さんはそれを指摘しなかった。
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豆が食べたい
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