覚悟 カクゴ
夜になってようやく家にたどり着いた。体が重い・・・まだ手の震えが止まらない・・・僕は震えた手を必死に押さえた。
前もこんな感じだった・・・・あの事件の後、全てが嫌になって部屋に引き籠ってた。毎日のように悪夢に苛まれる・・・手の震えなんて止まりやしない・・・そんな絶望から救ってくれたのは叔母さんだった。
元ヤンキーだったからか、よく頭を叩かれるはぶん殴られるは、部屋で引き籠ってた時は無理矢理外へ引きずり出されたりと荒々しい人だった。そんな叔母さんだけど、とても優しく接してくれて、幽霊が見えるって家族や誰からも信じてくれなかった事実を・・・唯一信じてくれた人だ。
叔母さんが助けてくれなかったら僕は自殺してたかもしれない。仕事の関係で東京へ引っ越しちゃったけど・・・今でも本当に感謝してる。
「(・・・・・助手か)」
改めて幽霊屋の事を考えた・・・・もしやるなら相当な覚悟が必要になるだろう。今日遭った事よりもっとヤバい事が待っているに違いない・・・だけど不思議と、辞めたいと思わなかった。
僕は慧子さんに言った。「度胸をつけたい」と・・・僕が幽霊にビビってるから・・・いや・・・本当はあの事件にいつまでもビビってるからだ。
確かに怖い。嫌になるほど、うんざりするほどに・・・・でももしそれに立ち向かえられるなら、そんな度胸を持てたら・・・・そう考えた時、手の震えが止まって体が急に軽くなった。
ようやく答えが出た・・・僕は手を握り締め、家に入らず事務所へ向かった。
幽霊屋に着いて玄関のドアを開けると、テレビの音がする。すぐ階段を上がると慧子さんがソファーに寝転がってテレビを見ていた。
「あれ泉君じゃない?どしたの?」
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・や、やります!」
「え?」
「助手として働きます!!」
「・・・・本気?」
「はい!」
「ふ~~~ん・・・あっ!ピザ来た!」
「え?ピザ?」
「毎度どうも失礼しま~す!Lサイズマルゲリータお届けに上がりました!」
「あぁはいはい!毎度ありがとね!」
後ろから急にピザ屋がやって来て、Lサイズのマルゲリータピザを机に置いて出た後、慧子さんは早速箱を開けて美味しそうにピザを食べ始めた。
「・・・ピザ好きなんですか?」
「ええ、子供の頃からの大好物なの。それでぇ泉君?分かってる思うけど、幽霊屋は霊とか化け物とか・・・ついでに妖怪相手の仕事もあるけど、覚悟は出来てるのよね?」
「はい!」
「本当に出来てるの?普段の依頼はそこまでだけど、時にキツイ依頼だってあるわ・・・・・いいのよね?」
「・・・度胸をつけたいって言いましたよね?」
「?・・・・ええ」
「幽霊もそうなんですけど、僕はあの事件に面と向かって立ちたいんです!でも今はそんな度胸も何もない・・・だから僕は幽霊屋で度胸を・・・力をつけたいんです!この幽霊屋で!」
「・・・・・・・・」
「だから・・・・・・お願いします!!」
頭を下げて誠意を見せた時、慧子さんがピザの一切れを僕の口に差し出した。
「・・・・・・・・・・・・・よろしくね、泉君」
こうして僕は、幽霊屋の助手として採用された。これが僕の始まりの物語・・・・苦しくも辛い、楽しくて奇妙な物語の始まりだった。
そういえば・・・・依頼の方はどうなったのだろうか?慧子さんに聞いてみると、あの悪霊は金次郎さんの元妻だったそうで、浮気して瀧本さんに鞍替えした金次郎さんを見て、怒りを覚え自殺した・・・そして悪霊となって呪い殺す事を計画し、好物であるスイカに自身の怨みを込めた蛇を入れて作戦決行。見えない毒を金次郎さんに注入し苦しませたそうだ。
だが慧子さんが元凶となった悪霊を倒したおかげで、金次郎さんの体内にある毒が消え、みるみると回復していったらしい・・・
「元気になったら元奥さんを供養するんですって・・・全く、こんな事なら浮気すんなって話よ」
「ですね・・・」
「それ残り食べていいわ・・・助手祝いってやつよ」
「あ、ありがとうございます・・・・・」
たった二切れのピザが助手祝いとは・・・まぁ美味しいからいいけど・・・
読んでいただきありがとうございました。
プロローグ終了です。これからもよろしくお願いします。
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