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こっくりさん

「こっくりさんって知ってます?」


 あたしはクラスメイトの一人に、そんな話を始めました。

 ネットで調べて見つけた『こっくりさん』の都市伝説。なんか狐の妖怪が宿る? らしいんですけど、これってやってみると面白そうですよね?


 しかし、実は「こっくりさん」は絶対に一人でやるなと書いてあったわけですよ。完全に霊が乗り移っちゃう? らしいです。

 でも都市伝説を直に体験したかったあたしは諦めきれず、人の手を借りようとしたわけです。


 あたしはあまり友達が多くありませんでした。


 低学年の時は結構人気者だったんですよ? でもオカルトに興味を持ち始めて以来、みんなが寄り付かなくなっちゃいまして。不思議。


 何でしょうね、これ? まあ多くの人が『見えない』のは知ってますけど、そこまで怖がることないでしょうに。


 まあ、だからあたしが選んだのは、『怖い話』とかばかりを読んでいる女の子、幸恵ちゃんでした。


「こっくりさん? 知ってるけど」


「ちょっとあたし、一回やってみたいなーって思うんです。でもあれって二人以上でやるじゃないですか。幸恵ちゃんにも手伝って欲しいんです!」


 こういうお願いは直球でするのが一番。後でちょっとアイスでも奢れば大抵大丈夫に決まってますよ。


「でもこっくりさんなんて、ただの都市伝説だよ? まさか丘子ちゃんは本当に降霊術があるとでも思ってるの?」


 ……YES、思ってます!

 だってだって、毎日小さな妖怪の姿を見てるんですよ? 幽霊だってそこら中にいます。それなら、降霊術があって当然でしょう?


 でも『見える』ことは内緒だったので、あたしは「やってみるだけですよー」と誤魔化しました。


 幸恵ちゃんは全然信じていないようでしたが、あたしの押せ押せに負けたようです!


「じゃあ、いいけど」と承認してくれました! ぐふふ、やりました!


 あたしたちは「放課後にこっくりさんをしよう」と約束して、それぞれの教室に戻りました。実は幸恵ちゃん、別のクラスの子なんですよねー。突然押し入ったので最初はかなり驚いてましたね。


 と・に・か・く、無事に協力は取り付けられたわけですし、実戦に備えて準備準備!



△▼△▼△



「自分から都市伝説に会うのはこれが初めてですから、細心の注意を払ってやらないとです!」


 あたしはそう意気込みつつ、材料集めをしていました。


 こっくりさんには、用意するものが必要だそう。

 箇条書きしてみるとこんな感じです。


・白い紙

・ペン

・十円玉

・テーブル


 白い紙は、A4コピー用紙でいいでしょう。

 ペンはサインペンで。テーブルに関しては自分たちの学校机で大丈夫大丈夫。

 十円玉については、ちょこっとズルしてます。本当は校則違反なんですけど、こっくりさんのために持ってきちゃいました。


 放課後、ここに居残ってやる予定なので、もしも先生に見つかったらやばいですけどね。でもそれは時の運ってことで。


 そして、最後の下準備です!


 用意したA4用紙に、鳥居の絵を描きます。

 絵はあんまり得意な方じゃないんですけど、まあこんな感じでいいでしょう。

 ほとんど赤い線でしかない鳥居を描き終えたあたしは、次はその左右に「はい」と「いいえ」の文字を書きます。


「はい」が左で「いいえ」が右。これが、こっくりさんで一番重要になってくるらしいです!


 さらにさらに、五十音表を書いていきましょう。


 右上から「あ、い、う……」と縦書きで。よし、できた。


 そしてそして、その五十音表のさらに下に、漢数字を書いていきまして、一から二、三、四、五、六、七、八、九、零。


「よし、完成――!!!」


 すっかりこっくりさん用の『不気味な紙』に変わったA4用紙を掲げ、あたしは叫びました。


 周りの席の子たちの痛い視線など無視して、あたしはワクワクに目を輝かせます。これで憧れの、都市伝説との出会いを果たせます!


 あたしは、放課後が待ち切れない気持ちでした。



△▼△▼△



 終了の鐘が鳴るなり、あたしは急いで教室を飛び出しました。

 もちろんのこと、幸恵ちゃんのところに向かうのです。


 幸恵ちゃんは、入ってきたあたしの方を、驚いた目で見ました。


「本気でやるつもりなんだ」


「もちろん本気も本気ですよ! ささ、あたしのクラスまで来てくださいっ!」


 そんなわけで再び教室へ戻って参りました。

 もうすっかり誰もいなくて、がらんどうになっていました。

 これで安心してこっくりさんが楽しめる。そう思ってあたしはもうすっごく嬉しくなりました!


「もしも本当にこっくりさんがあったらだけど、怖くない?」


「怖いから何ですか? あたしは、最高に背筋がゾクゾクするホラーを求めてるんですよ!」


「へえ〜……」


 いまいちノリが悪い幸恵ちゃんを小突いて、普段は別の子が座っている隣の席に押しやりました。

 そしてあたしは、自分の机をそこへぐいと近づけます。これがこっくりさんのルールです。


「始めますよ。いいですね?」


「うん……」


 あらあら幸恵ちゃん、ブルブル震えちゃって可愛いですねー。

 お楽しみはこれからだって言うのに、大丈夫でしょうか? まあいいか!


 二つの机に橋をかけるようにして紙を広げます。言わずもがな、神社の絵が見えるようにしていますよ!


 そして鳥居の絵の上に、十円玉を置きまーす。そしてそして、二人で硬貨の上に人差し指を乗せるわけですよっ。


「ほら、乗せてください」


「……」


 幸恵ちゃんがそっと指を置きました。あたしも同様にします。

 さてさて、一体何が起こるのか。いざ、こっくりさん召喚です!!!


「こっくりさんこっくりさん、どうぞおいでください」

「こっくりさんこっくりさん、来てください……」


 幸恵ちゃん、『来てください』じゃなくて『どうぞおいでください』ですよー。

 まあどっちでもいいとは思いますけどね。


 そしてしばらく待ちます。

 ……が、何も起こりません。


 霊気は全然感じないし、十円玉も微動だにしません。

 こっくりさんが現れる場合、「はい」の文字の上に十円玉が動くらしいんですけどね、その様子が全然ないんですよ。

 やっぱりセリフが違ったせいですかね?


「もう一回。今度こそしっかり言ってくださいよ!」


 ちょっと厳しく言うと、幸恵ちゃんは今にも泣き出しそうな顔になっちゃいました。

 怖いなら怖いって言えばいいのに。やめさせませんけどね!


「こっくりさんこっくりさん。どうぞおいでください。もしおいでになりましたら『はい』へお進みください」

「こっくりさんこっくりさん。どうぞおいでください。もしおいでになりましたら『はい』へお進みください」


 その時です、目の前に突然犬のようなもののけが現れました。

 あたしは直感します。こいつがこっくりさんなのだと。

 こっくりさんは動物霊とは聞いてましたが、まさか犬だったとは。ああ、でも当て字的には『狐狗狸さん』って書くんですけどね。


 その犬の化け物――こっくりさんが降りてくるなり、十円玉がすぅーっと「はい」の方へ動きました。


 これは……なかなかなかなかにっ、期待っ、できるんじゃないでしょうかっ!?


 コインがすぅーっとまた元の位置に戻りました。

 この鳥居の絵の上が定位置なんです。


 こっくりさんは何でも知っているらしいです。ので、これは質問してみるしかないですね!


「こっくりさんこっくりさん。どうぞご質問にお答えくださいっ!」


 十円玉が「はい」の方へ動きました。


 この降霊術、こっくりさんには、いくつかのルールがあります。


 一つ、決して一人で行わないこと。

 二つ、質問をする時は、必ず一人ずつ、順番に。

 三つ、質問後は必ず、「鳥居の上までお戻りください」と言って聞かせること。


 それからそれから――。

 おっとっと。

 効果が驚いている事実に驚いてドギマギしている幸恵ちゃんが、質問を始めちゃいましたね。


「こっくりさんこっくりさん、私は何歳に死にますか……?」


 早速暗い質問!

 あたしは正直びっくりしましたよ。だってそんな質問、すると思わないじゃないですか。


 こっくりさんはニタリと笑いました。

 もちろん、霊視少女であるあたしにしかその姿は見えていないことでしょう。仮にもし幸恵ちゃんが見えたら、悲鳴をあげてぶっ倒れるでしょうね〜。


 あっ、コインが動きませんね。こっくりさんってば、YESかNOで答えられる質問しか答えてくれないんですよー。


 動いてないですから、お戻りくださいの言葉もいらないでしょう。


「えと、じゃあ次の質問……」


「次はあたしですね。こっくりさんこっくりさん、あたしは将来、有名人になれますか?」


 おおっ、こっくりさんが十円玉を何らかの霊力で動かし出しましたっ!

 そして答えは――「はい」


「やったぁ! あたし、一躍有名人! 有名人ですっ!」


 これにはもう正直、飛び上がりましたね。

 そりゃそうでしょう、何でも知っている全知全能の神様(妖怪?)に、将来が約束されてるんですから!


「こっくりさんありがとうございまーす! どうぞ鳥居の位置にお戻りください!」


 幸恵ちゃんの顔色が、どんどん悪くなっていく気がします。気のせいですかね?

 次は彼女の番です。


「こ、こ、こ、こっくりさんこっくりさん。あ、あ、あなたはどうして未来がわかるんですか? 妖怪ですか?」


 彼女の言葉を聞いた途端、今度はあたしが真っ青になりました。

 だってそれは四つ目のルール、「こっくりさんのことについて決して尋ねてはならない」に反するものだったからです。


 なんとかしなくちゃ、そう思いましたがもう遅かったのです。


『――――』


 先ほどまでぼんやりと浮かんでいるだけだったこっくりさん。その瞳が突然見開かれ、口から牙が覗きました。


 この時のあたしはお札なんて持っていません。さすがにビビりましたね。


「こっくりさんこっくりさん! お寝りくだ……」


 ――直後、


「いやぁぁぁぁぁぁっ!」


 こっくりさんの鋭い鉤爪が、幸恵ちゃんを襲っていました。


 少女の可愛い顔に血筋が走って、幸恵ちゃんは高い悲鳴を上げます。次にこっくりさんは、牙で喉をかき切ろうとしていました。


「危ないっ」


 咄嗟に幸恵ちゃんを椅子から突き落として、あたしはこっくりさんの前に出ました。

 その瞬間、腕に走る激痛。見ると腕にこっくりさんが噛み付いて来たのです。


「うがぁっ。幸恵ちゃん、逃げてくださいっ」


「ひぃぃぃぃぃ――!」


 幸恵ちゃんは腰が抜けたのか、地べたを這うようにして教室を出て行こうとしました。

 しかし彼女へ、あたしからすぐさま身を離したこっくりさんが迫ります。


 この気配に釣られて、教室中には低級な霊やらもののけがたくさん集まってきているのがわかりました。

 ……状況は、最悪でした。


 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう――。


「あんたたち、こっくりさんを襲ってぇぇっ」


 気づくとあたしは、低級の悪霊たちに呼びかけていました。


 本当なら悪霊とは言葉を交わすべきではありません。が、その時はそれに縋るしかなかったんです。


 そしてそのあたしの判断は、間違ってませんでした。


「グァァァァ」と地獄の絶叫を上げる悪霊たちが、一斉にこっくりさんへ飛び掛かっていきます。


 その数は多く、あっという間にこっくりさんの姿を覆い尽くしてしまいました。


「ワォ――」

「ガァ、ガァッ」


 やり合いの間に、幸恵ちゃんはやっと教室から逃げ出していきました。

 あたしも後を追わなきゃいけません。いいえ、後を追ったらこっくりさんたちに捕まってしまうでしょうし……。


「あれ?」


 なんだか、様子がおかしいです。

 先ほどまで教室内を包み込んでいた肌を刺すような霊気、それがいつの間にか消えているのです。


 そしてあたしは息を呑みました。だってそこにこっくりさんの姿が、なくなっていたからです。


 こっくりさんがお戻りになったのか、それとも悪霊たちに負けたのか、それはわかりません。

 でもおそらくは前者でしょう。こっくりさんは、極小悪霊たちに敗したのでした。


「意外、ですね」


 単なる時間稼ぎのつもりが、やっつけてしまうとは。


 でもでも、まだ安心できません。数多の悪霊たちが残ってるわけですからねっ!


「悪霊退散!」


 でもさすがにあたしは、小さな悪霊を払い除けるくらいの呪文は知っていました。

『見える』人間であるあたしは、悪霊に絡まれることも少なくなかったので、覚えていたんです。こんな時にも役立つだなんては思ってませんでしたけど。


 ただし、こっくりさんのような大きな力のもののけには効かないので御用心。次からはしっかり、除霊のお札を持っておくべきですね。


 すっかり何もいなくなった教室を、あたしは後にしました。

 そうだそうだ、こっくりさんに使った紙とか十円玉ですけど、あれは正しい方法で処分しましたよー。あれも呪いの品なんで、皆さんもこっくりさんをやる時はしっかり処分しましょうねー。



△▼△▼△



「ああ、楽しかった〜」


 あたしは満足してそう言い、腕の包帯を押さえました。


 あの後、幸恵ちゃんはちょっと精神状態がおかしくなってしまって入院したそうです。顔の傷も酷かったですし、彼女には悪いことをしちゃいましたね〜。


 今回の都市伝説、こっくりさん。

 初めてにしては上等な結果を得られましたけど、やっぱりちょっぴりだけ迫力に欠けてました。


 もっともっと怖い都市伝説に会いたいっ! あたしは、強くそう思ったわけです。


「これはもう病みつきになりますね。……素敵っ!」


 あたしは目をキラキラさせながら、にっこりと微笑んだのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際、精神病院送りになった人とか居ますからねぇ。 アソビ感覚じゃ呑まれてしまう……そんな儀式ですよねぇ。 というかウィジャ盤でやってたら、もっと強力なこっくりさんが顕れてたのでは!?
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