涙。
涙の後に。
夕食時。
「いつまで、こうしているの?」
桔梗が言った。
「こうしてる、とは?なんや?」
「いつまで、こんな生活を続けるのよ」
「いつまで続くかわからへんねん!けど、ゾンビから逃げて怯える毎日よりマシやろう?」
「でも」
「俺は、こうして安心できる日々に、まだ飽きてへんで。今まで、長いこと毎日が恐怖やったんや」
「その分を、今、取り戻しているってこと?」
「そうや、アカンか?それもいつまで続くかわからんって、桜も言ってるんや。今のうちしか味わえない平和な日々や」
「でも、それじゃ…私達、帰れない」
桔梗が涙を流した。
「桔梗、今はこれでいいんだよ」
「戦闘の訓練をしてレベルを上げて、狩りや植物採集するだけでいいの?」
「今しかできないことなんだ。いつ、流浪の旅に出ることになるかわからないんだぞ」
「でも、やっぱり私は帰りたい」
「じゃあ、桔梗はどうしたいの?」
「帰れないなら、早くラスボスを倒しに行きたい」
「それこそ、もっとレベルアップしないと倒せないじゃないか」
「それでも、今のままよりマシ」
「慌てるな。その日はきっと来る」
デクが口を挟んだ。
「俺達だけじゃ、無理だろ?もっと味方も集めないと」
「そうだけど」
「こんな数人の集まりでは、ゾンビの軍勢に勝てない」
「デクさんの言うこともわかるけど…」
姫が言った。
「桔梗さん、私達は何年も怯えて暮らしてきたの。もう少し、休ませてちょうだい」
「菫ちゃんは、これでいいの…」
「お兄ちゃんを1人にしておけないし…平和な方が良い」
「菫ちゃん…お兄さん思いなのね」
「だ、誰が、こんなの…心配だから、放っておけないだけ」
「まあまあ、その内、近い内に私の権限は剥奪されるのじゃ。そうしたら、嫌でも戦わなくてはならなくなるのじゃ」
桜が言った。
「本当に?」
「ああ。この暮らしも、多分、長くは続かない」
「そうなの」
「そうじゃ。今は菫と二人がかりでも私を倒せないが…早くレベルを上げないと死ぬぞ。私くらい、倒せないとな」
「そうね。あなたくらい倒せないとね」
「そういうことじゃ」
「わかった。わかりたくないけど、わかったことにする。でも、まだ、生きた人間はいるのかな?」
「いても、数人から十数人で行動しているだろう。大規模な人間の集まりは見つかっていないのじゃ」
「それじゃあ、私達は、私達だけで戦わないといけないのね」
「今更、何を言っておるのじゃ」
「私、寝る。明日は、鳥を狩るから。訓練もする」
「桔梗さんは、なかなかこの暮らしになれてくれませんね」
「姫が気にすることじゃないですぜ」
「気にします。仲閒ですから」
「桔梗は、俺達のことを仲閒と思ってへんで」
「早く、私達に心を開いてほしいですね」
「そうですね。ずっと愚痴ばっかり言ってるからなぁ」
恨まれている瞬が、頭を掻いた。
桔梗は、なかなかみんなに溶け込めない。
登場してからは、愚痴ばかりだった。
毎朝、みんなが飲む瞬の血も、気持ち悪がって飲まない。
だが、朝になって、桔梗は変化を見せた。
狩りにも特訓に積極的になったのだ。
今までは、何をするのにも面倒臭そうだった。
しかも、口を開けば愚痴だった。
桜は、面倒くさがらず訓練に対応してくれている。
少しずつでも、桔梗は心を開いて、瞬達を仲閒と思い始めたのかもしれない。
瞬の血も、何も言わずに飲んだ。
再び、ゾンビから逃げ惑う日々が到来した時のために。
「桔梗、積極的になったな」
「このメンバーで、生き残らないといけないんでしょ?」
「そういうことだ」
「だったら私は、みんなと生き残ってみせる」
「桔梗お姉ちゃん、かっこいい!」
「まずは、あの気に入らないゾンビ娘を倒す」
「肉体年齢は小娘だが、中身は俺達よりも年上なんだけどな」
「いいのよ、小娘で」
「桔梗、菫」
「何?お兄ちゃん」
「何よ、瞬」
「桜と仲良くしてやってくれないか?」
「今すぐは無理だと思う。でも、仲閒だとは思っているから」
「そうか、仲閒だと思ってくれているのか」
「うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん」
そして、その日は遂にやって来る。
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