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巻きこまれた少女。

やり場の無い怒り。

 昼食の前に、桔梗は起きてきた。


「え?もうお昼なの?」


「そうだよ。ぐっすり眠っていて、疲れていたみたいだったから起こさなかった」


「桔梗さん、お昼よ。一緒に食べましょう」


「姫が、そう言ってるぞ」


「あ、はい」


 桔梗は菫の隣に座った。


「桔梗お姉ちゃん、久しぶりだね」


「そうね。高校に入ってから、ほとんど会ってなかったわね」


「会えて嬉しいわ」


「そうね。こんなひどい世界じゃなかったら喜べたんだけど」


 昼食は、猪と鹿と植物のスープだった。


「なんで?なんでお肉が簡単に食べれるの?」


「瞬の持つ力のおかげや」


 クラマが言った。


「俺達も、瞬に会うまで、なかなか肉を食べることが出来なかった」


 と、デクが言った。


「何?瞬の力って?」


「桔梗、とりあえず食べろ、食べてから話すから」 


「わかった。この肉は大丈夫なのね」


「ええ、大丈夫よ」


 桔梗は、おそるおそる一口食べた。


「美味しい!」


「良かったわ。お腹いっぱい食べてね」


「はい」


 桔梗はおかわりするくらい、沢山食べた。



「ああ、美味しかった」


「良かったな、桔梗」


「そうそう、あんたの力って、何よ」


「俺はゾンビにならない体質なんだ」


「え?ゾンビにならないの!?」


「うん。ならない。どうも、俺にはゾンビウイルスに対する抗体があるらしい」


「それじゃあ…」


「うん、森の中にも平気で入れる」


「そんなこと出来るの?」


「出来るんだ」


「ちなみに、私も森の中に平気で入れるぞ」


 桜が言った。


「あんたはゾンビじゃないの!っていうか、なんでゾンビと行動を共にしているのよ」


「話せば長くなるが…」


「長くならないのじゃ。偵察に来た瞬と偶然出逢ったのじゃ」


「出逢って?」


「それから瞬についてきた」


「何それ?なんで人間についてくるのよ」


「瞬は、いくらかじってもゾンビにならないから面白い」


「面白いから、ついてきたの?」


「そうじゃ。それだけの話なのじゃ」


「ゾンビも普通に食事するのね」


「ああ。別に人肉だけを食するわけではないのじゃ。普通の食事も食べられる。味もわかるのじゃ」


「はあ…」


 桔梗がため息をついた。


「どうした?桔梗」


「今までと環境が違いすぎて混乱しているのよ」


「そうか、でも、桔梗は運が良いぞ。普通に旅するよりも、このメンバーの方が安全だからな」


「それで?なんで私はこの世界に飛ばされてきたのよ?」


「もしかしたら、桔梗さんにも瞬と同じ力があるのかもしれませんわね」


「瞬と同じ力?」


「ゾンビにならない抗体です」


「桔梗、試したことはあるか?」


「どうやって、試すの」


「ちょっと待ってろ」


 瞬は、小さなカゴを持って来た。


「何これ?」


「実験用の、ゾンビ化したリスだ」


「ちょっと、危ないじゃないの」


 カゴには、2匹のリスがいた。


 瞬は、自分の指先をナイフで切って、1匹を捕まえてカゴから取り出す。


「みんな、離れてください」


 リスの口に自分の血を滴らせた。


「ほら、見ろよ。桔梗」


「危ないじゃないの」


「大丈夫だ。見ろ」


「あれ?ゾンビ化してない。普通のリスに戻ってる!?」


「桔梗さん、これが瞬の力なのよ」


「瞬の血って、ゾンビ化の治療薬にもなるの?」


「だけど、ゾンビウイルスの量によっては効かなくなる。大きな動物にもなかなか効かない」


「多分、瞬は、この力があるからこの世界に招かれたと思うの」


「あの… 姫って呼べばいいんですよね?」


「私?みんなからは姫と呼ばれているわ」


「姫は、私にもこの力があるのではないか?と思っているんですよね?」


「それなら、この世界へ招かれた理由としてわかりやすいでしょう?」


「なるほど… 菫ちゃんはどうなの?」

 

「菫の血に、俺みたいな力は無かった」


「兄妹なのに?」


「知っているだろう?俺と菫には血のつながりは無い」


「なるほど。血の繋がりが無いからね。って、私も瞬と血の繋がりなんてないじゃない」


「でも、試してみようぜ」


「いいけど… どうするの?」


 瞬が、カゴからもう1匹のリスを取りだした。


「このリスに、桔梗の血を飲ませてくれ」


「血を飲ませるって?」


「指先をちょっと切ればいいんだ。大丈夫、すぐに姫が治療してくれる」


「え?指先を切るの?嫌よ」


 クラマが桔梗の手を取り、素早く指先をナイフで切った。


「痛っ、何するのよ、オジサン!」


「オジサンはひどいな」


「早く、リスに血を飲ませるんだ」


「わかった」


 数滴、リスの口の中に入った。


 しばらく待つ。


 待つ。


 待つ…。


「ゾンビのままじゃん!」


「桔梗さんに、瞬みたいな力は無いようですね」


「え!指を切られたのに意味が無かったって、最悪」


「桔梗さん、指を見せて」


「はい。姫」


「はい。治ったわよ」


「早っ!本当だ、傷痕も無い」


 瞬はカゴの中にリスを戻した。


「良かったな、桔梗」


「良くないわよ!ってことは、やっぱり私はこの世界に来る必要が無かったってことじゃないの!?」


「待て!俺のせいだとは限らないじゃないか」


「あんたのせいよ!やっぱり私と菫ちゃんは巻きこまれたのよ」


「桔梗は神社の巫女さんじゃないか」


「それがどうしたの?」


「もしかしたら、その内に巫女パワーが必要なときが来るのかもしれない」


「何それ?巫女パワー?ゲームじゃないんだから」


「いや、ゲームみたいな世界なんだ」


「ゲーム?」


「実際、俺も菫もゲームみたいにレベルアップするんだ」


「私も何のゲームか、わかる。家でやってた。実際、私もこの世界へ来て何度かレベルアップした」


「だろう?きっと、俺達みたいにレベルアップ出来る人物が、この世界には必要だったんだよ」


「なるほど-!って、別に私じゃなくてもいいじゃないの」


「それは…」


「やっぱり、あんたよ。あんたのせいなのよ。私、絶対にあんたを許さないから!」


 桔梗は弓を取り出すと、瞬に向かって矢を放った。


 瞬は、かろうじて矢を掴んだ。


 クラマ、デク、姫、菫が桔梗を取り押さえた。


 しばらくして、ようやく桔梗は冷静になった。


 だが、瞬に対しては冷たい態度だった。 







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