ガールズトーク。
桜と菫。
或る日のこと。
「ちょっと」
「私か?」
「そうよ」
「なんじゃ?」
「ちょっと話があるの」
「瞬、しばしのお別れじゃ」
桜は、瞬にべったりくっついていた。
「菫、俺も行った方がいいか?」
「お兄ちゃんはそこにいて」
「何か深刻な話?」
「そうじゃないけど、その女に少し用があるのよ」
「わかった、付き合おう」
菫と桜は馬車から少し離れたところへ移動した。
「ここらへんで良いじゃろ?」
「そうね、じゃあ、言いたいことを全部言わせて貰うわ」
「どうぞ、なのじゃ」
「あなた、普通に話せるでしょう?」
「何のことじゃ?」
「“じゃ”を使わなくても話せるでしょう?ってこと」
「話せるが、それがどうかしたか?」
「お兄ちゃんの前で、“じゃ”を多用しているでしょう?」
「否定はせん」
「なんで?お兄ちゃんにも普通に話せばいいじゃない」
「うむ。何故、私は瞬に甘えたがるのだろう?」
「自分でもわかっていないの?」
「うむ。わからん。私は自分の気分に素直に行動しているだけだからな」
「それが、見ていて気持ちが悪いから辞めてって言ってるのよ」
「お主がどう思おうと関係ない。私は、振る舞いたいように振る舞う」
「あなたね」
「瞬の側にいるときは“なのじゃ”“なのじゃ”と言っていたいのだ」
「気持ち悪いから辞めなさいよ」
「辞める理由がない」
「見ていて、気持ちが悪いの」
「気持ちが悪ければ吐けば良い」
「なんで、私があなたのために吐かなければいけないのよ。大体、どうして、お兄ちゃんにこだわるの?」
「あの男はおもしろいからだ」
「どこが、おもしろいのよ」
「私が甘えると、まだ少し照れるからな。そういう所がかわいい」
「お兄ちゃんで遊ばないでよ」
「失礼だな。好意を持っていると言ってくれ」
「あなたは、お兄ちゃんのことをどう思っているの?」
「どうだろうなぁ。ずっと一緒にいたいと思うなぁ。瞬と一緒なら、この先、何年もの退屈にも耐えられるだろう。そう思う」
「お兄ちゃんのこと、好きなの?」
「気に入っている」
「愛してるの?」
「わからん」
「どうして、わからないの?」
「愛というものが、まだわからんのだ。そんなことを知る前にゾンビになったからな」
「そうね。あなた、まだ幼いものね」
菫が、少し同情したようなことを言った。
「幼い? 菫とさほど変わらんだろう?」
「変わるわよ。私は14歳よ」
「私だって、12~13歳だ」
「私は、まだまだ成長するもの」
それを言われて、今度は桜が沈んだ表情を見せた。
「私は、もうこれ以上、成長しないからな」
「ごめん、言い過ぎた」
「だが、今でも菫よりは胸がデカイぞ」
「あんたなんて、大っ嫌い」
「うん。その言葉に嘘は無いようだな」
「どういうこと?」
「言っただろう?私は人の考えていることが多少わかる」
「私の心の中を読んだの?」
「まあな」
「お兄ちゃんは、同情で、あんたと接してるだけだからね」
「それも半分は当たりだ。悲しいけどな」
「お兄ちゃんの気持ちもわかっているの?」
「ああ。ただ、瞬はゾンビと人類の共存が出来ないか?模索している部分もある」
「お兄ちゃんが?」
「ああ。そういう思考は希だ。瞬は、特別なやつなんだ」
「それで、気に入っているの?」
「私は、瞬と一緒にいると心地良いんだ。妹としか思われていないがな」
「妹で、いいの?」
「お前こそ、妹で良いのか?」
「え?」
「あまり自分を押さえつけると、生きていくのが苦しくなるぞ。もっと素直になれ」
「え?ええ?」
「私はよく瞬の腕をかじる。だから、よく血を流す。だが、瞬はやめろとは言わない。かじられるままにしている」
「お兄ちゃんらしいわ」
「そなたも、そんな瞬の魅力には気づいているのだろう?」
「うるさいわね、あんたには言われたくないわよ」
「ちなみに、私は桜などという名前ではないぞ」
「どういうこと?」
「本当の名前なんて、もう、忘れた」
「じゃあ、なんで」
「瞬と初めて出逢った時、瞬が私を見て桜の花をイメージしてくれた。だから、桜と名乗っている。今では、かなり気に入っている」
「そうだったんだ」
「のう、菫」
「何よ」
「私と仲良くならないか?」
「え?なんで私が」
「私と菫が仲良くなれば、瞬も安心して喜ぶ」
「お兄ちゃんを気楽にしてあげるってこと?」
「そうだ。仲良くしてくれるなら、これからも稽古の相手をしてやるぞ」
「稽古の相手か…」
「お前達は早くレベルアップしなければならないのだろう?」
「そうなのよね」
「素直になれ。瞬は充分、お前を愛している」
「本当に?」
「ああ、妹としてな」
「妹か」
「だが、時間が経てば変わるかもしれんぞ」
「そうね、そうなることを願うわ」
「私は瞬の子を産みたい」
「産めるの?ゾンビなのに?」
「可能かどうかは、前例がないからわからん」
「そんなこと…」
「心配するな。ただの私の夢だ」
「そうだね、夢を見るのはいいことだね」
「それからな、菫」
「何よ」
「もう、ツンデレはやめろ」
「どうしてよ」
「お前がツンとすると、瞬が本気で慌てる。瞬がかわいそうだ」
「わかった…努力してみる」
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