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桜。

桜の思い、菫の思い。

 或る日の夕食時、瞬が桜に聞いた。


「桜は、この辺りのゾンビを管理しているのか?」


「そうだ」


「じゃあ、桜を味方につけた俺達は、他のエリアのゾンビ軍団と戦えるんじゃないのか?」


「戦えるが」


 皆の顔色が変わった。希望を見つけた顔だ。


「それじゃあ、やがて俺達はゾンビの世界から解放されるんじゃないのか?」


「どうして、そうなる?」


「この辺り一帯のゾンビを使えば、出来るんじゃないのか?」


「援軍は無いぞ」


「え?」


「この辺り以外のゾンビがどれだけいると思っているんだ?」


「数が足りないか…」


「そもそも、お前は私がゾンビを生み出せると思っているのか?」


「違うのか?」


「ゾンビの元は人間だ。人間がいないとゾンビは増えない」


「…そうか。そうだな」


「私がこの辺りのゾンビを指揮して他のエリアに攻め込んでも、援軍が無ければいずれ滅びる」


「じゃあ、俺達はどうしたらいいんだ?」


「今のままでいいじゃないか。今はゾンビに襲われる心配も無いだろう?」


「確かにそうだが…」


「桜さんの言うとおりですね。瞬、あまり多くを望まない方がいいかもしれません」


「姫!そんなことでええんかいな?」


「クラマ、ゾンビに襲われる心配なく眠れるだけでも幸せかもしれません」


「…そやけど」


「桜、お前には上司がいるのか?」


「上司?まあ、上下関係はあるな」


「お前よりも強い奴はいるのか?」


「ああ、いる」


「どのくらい強いんだ?」


「私では手も足も出ない」


「桜でも手も足も出ないのか?」


「ああ、トップには神祖がいる」


「神祖?」


「ああ、始まりの御方だ」


「始まりの御方?」


「ゾンビの第1号だ」


「そいつがトップなのか?」


「ああ。その方の直属に4人の側近がいるが、そいつらも強すぎる」


「桜でも、敵わないのか?」


「ああ。手も足も出ない」


「そうか…」


「だが、お前達ならわからないぞ」


「え?」


「レベルアップが出来るんだろう?」


「あ?ああ…」


「瞬と菫がレベルアップしていけば、あるいは…」


「勝てるのか?」


「わからない。が、可能性はゼロではない」


「希望が湧いたよ」


「言っておくが、私には期待するな。私は今以上には強くなれない」


「わかったよ」


「それに、いつまで私にこの辺りの指揮権があるのかわからない」


「どういうことだ?」


「もし、私が人間と仲良くしていることがわかったら、私の指揮権は剥奪されてしまう」


「そうなのか?」


「まあ、当然だろう?」


「桜さんは、それでいいの?」


「ああ、ゾンビとしてゾンビの中で暮らすのには飽きた」


「ゾンビの暮らしに飽きるものなのか?」


「私のように知能の残されたものにとって、ゾンビとして生きるのは苦しいぞ」


「何が苦しいんだ?」


「楽しみが無い」


「楽しみ?」


「お洒落も出来ない、食事も美味くない、出逢いも無い」


「ちょっと、出逢いってどういうこと?」


 菫が口を挟んだ。


「言葉の通りだ。この年齢になれば彼氏の1人もほしいのは当然じゃ」


「ガキのくせに、何を言っているの?」


「ガキではない。この姿はゾンビになったときの姿じゃ。ゾンビになってから10年以上経っている。中身は大人じゃ」


「もしかして、お兄ちゃんに色目つかってるの?」


「そんなつもりはないが…瞬は面白い奴じゃからな」


「どういう意味よ?」


「そのままの意味だ」


「だから、どういう意味よ?」


「瞬に興味はある。だが、男として惹かれているのかどうかはわからん」


「お兄ちゃんは、あんたみたいなゾンビを相手にしないわよ」


「では、どういう娘が好みなのじゃ?」


「お兄ちゃんはねぇ…」


「どうした?早く言え」


「お兄ちゃんは…」


「話したくなければ話さなくても良いぞ、私は或る程度他人の心が読める」


「嘘!?」


「本当じゃ」


 菫の顔が赤くなっていった。


「私の心を読んだの?」


「まあな」


「私、あなたのこと大っ嫌い!」


 桜は微笑むだけだった。


 


   




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