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太陽定食

作者: ふもとえりんぎ

ふもとえりんぎの記念すべき第1作目。そのまま飲み込んではいけませんよ、きちんと30回以上、噛んでくださいね。

 お茶碗一杯のお味噌汁。茄子の、お味噌汁。二つのおにぎり。わかめと鮭と胡麻の混ぜご飯おにぎり。お出汁の香りと上品な塩の香りが、わっと広がる卵焼き。ほうれん草と鰹節のお浸し。そして骨まで柔らかく煮た、サバの味噌煮。朝ご飯は毎日決まってこのメニュー。これで一日が始まる。一日の始まりのための、『太陽定食』。お婆ちゃん直伝の定食。どんなに嫌なことがあった次の日でも、どんなことがあった日でも。僕のどこかが怪我などで血に染まったりしても、それは変わらない。


 僕の両親は共働きだった。忙しい両親は、家に帰らない日の方が多かった。仕事の付き合いだから仕方がないんだって。だから僕の家はおばあちゃんちだった。なぜか冬でも温かみを感じる畳。建付けの悪くなったふすま。引いて開けると、風が一気に入ってくる窓。お婆ちゃんと一緒に、クレヨンで落書きした引き戸。

「お婆ちゃんただいま!」

「お帰り、和久」

「今日ね、学校でね…」

どんな話も楽しそうに聞いてくれた僕のお婆ちゃん。お婆ちゃんの淹れるほうじ茶は、宇宙1美味しいと僕は確信している。料理をしているときには特に思い出して、包丁やまな板がよく見えなくなる。

 そんな大好きなお婆ちゃんが、この間行方不明になった。両親とお婆ちゃん三人で親子水入らずの日帰り旅行をしていた時、急にいなくなったのだと母親が言った。行き先は、母親が子供のころによく行っていたという、お婆ちゃんの思い出の場所だ。綺麗な海のある場所で、「人があまり来ない静かな場所でねぇ。お婆ちゃんは崖の上から海を眺めるのが好きなのよ」と、縁側に座って太陽の光を浴びながら、その海の写真を出して話してくれたことを覚えている。「いつか一緒に行こうね」とお婆ちゃんは笑った。


 僕は久々に家に帰った。


 とても静かな夜だった。僕の呼吸がしっかりと聞こえるくらいに。一つ一つの動きの音が大きく聞こえるくらいに。

 かなり部屋が汚くなっていたので、夜だったけど、僕は大掃除をした。フローリングの隙間、窓の冊子、ドアの角っこの部分も隅々まで。ゴミが大量に出た。雑巾から絞り出される水も、ひどく汚れていた。細かいところがすごく気になって予想以上に時間がかかり、終わったころには朝になりかけだった。疲れていた。眠かった。だけど空腹の方が勝っていた。

「お腹すいたな」

綺麗になった部屋で、僕は出来立ての温かい太陽定食を食べた。

 




このお話の答えは、あなたの考察です。色々な部分に『?』をつけて想像してみてください。何かが見えてくるはずです。

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