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第六話  懊悩するは我故に

今日は17時頃にもう一話投稿します。




『冒険者イコール高濃度汚染者』


『冒険者の邪魔をしつつ、たまにブッ殺!』





こんな事を急に言われても流石に飲み込めない。


冒険者を殺める事は当然だが、それ以上に冒険者達の末路と命懸けの行動が事態をより最悪へと進めていた事を俺は納得出来ずにカノジアにその見解が間違ってないか散々問い詰めた。


それに対して彼女は、二十年間もの時間で迷宮種の側で観察、研究したので間違いないと返してきた。



「いい加減ナットクしろよ、オレだって他の解決方法を模索したさ、だけど結論は変わらずだ。やるしか無いんだよ、俺達は知っちまったんだ真実を知る者の責任としてやり遂げる道しか歩めねぇよ。」



その後、少し考えを纏める時間をくれと言って壁に背を預け座り込んだ。





・・・こんな真実を知るくらいなら俺はあの時隠し部屋を探していた彼等を止めておけば良かった。



そうすれば冒険者を人類の希望だと思い込んで呑気に新人教官をしながら再起の時を待っていられたのに。




そもそも、俺に冒険者を殺せるのか?


そんなの無理だ。

人を殺す事にどんな正当性があろうとも俺にとっては単なる殺人で忌むべき行為だ。


頭の中で冒険者をこの禍々しい掌で引き裂くイメージをしただけでも吐き気がする。


こんな状態で人を殺しでもすれば俺は壊れる。

とてもでは無いが出来る気がしない。




しかしカノジアとの契約がある。


この契約にどれ程の強制力があるのかは不明だが、その事を理由に契約を反故にする訳にもいかないと思っている。


だったら殺しは無しで協力する?

いや、それも駄目だ。


最優先事項は迷宮種に過剰に栄養を与えて腐らせる事だ。

その為にカノジア曰く約百人の犠牲が必要なんだ。





クソッ!本当にやるしか無いのか?


それにこの迷宮を綺麗に終わらせたとしてもそれで終わりじゃ無い。

恐らく次の迷宮を終わらせなくてはならない筈だ。


その時にまた同じ事を繰り返すのは分かりきっている。

世界中の迷宮で冒険者を殺して廻るのか?


それだったらいっそ俺を討伐してくれと思ってしまう。





しかし未だに頭の中をチラつく三人の笑顔が俺に死を選ばせてくれない。

こんな姿ではもう逢えないのに何を未練がましくすがっているんだと呆れてしまう。



「もしもーし!」



一番の理想は隠し部屋に入る前に時間が戻れば良い、そんな子供みたいな妄想まで湧いて来る。



「もしもーし!」






「・・・人の頭をコンコンするなよ!確かに硬い殻に覆われてるけど俺の頭はノックする所じゃないんだぞ!」



ノックの音から察するとこの殻というか外骨格は相当硬そうだ。

しかし頭を叩かれるとことのほか頭に響いて中で反響して気持ち悪くなって来る。



「いやいや、無駄に悩んでるからオレが人生の先輩として助言をしてやろっかなって。」


「助言?」


「取り敢えず黙って聞けよ?オレはこの迷宮の守護者のフリをして迷宮種を騙してるんだ、そして種との繋がりを強くしてこの迷宮で起こってる事を細かく把握してる。それで新人君を見つけて直ぐに逸材だと思ってずっと覗いてたんだけど、ハッキリ言ってあのルーキー達を殺す事に躊躇う意味があるのか?どう見てもアイツらは新人君の敵だろ?」





カノジアに言われた言葉を聞いて暫く頭の中が真っ白になる






・・・そうだ、言われて思い出した、彼等・・・いやアイツらのせいで俺は死にかけたんだった。


しかもアランは明確に俺に殺意を向けていた。

なんでそんな事になったのかは分からないが俺に何かしらの危害を加える計画を匂わせる事も言っていた気がする。


つまり隠し部屋は突発的なイレギュラーだとしても遅かれ早かれアイツらは俺を殺すつもりだった?


そんなに恨まれてたのか?

出会ってまだ間もない俺に?

なんだそれは?

狂ってるのか?


そもそもアイツらは何処かおかしかった、若者特有のユルさはあったがユル過ぎだ。



「おーい、もうちょっとオレの話は続くぞ。こっからはオレの推測的な部分もあるから鵜呑みにしなくても良い、新人君の判断に任せる。で、本題なんだが冒険者の汚染は恐らく世代で蓄積する、つまり親よりも子、子よりも孫、ってな感じで汚染が進行する。そして汚染が進めばどうなると思う?」


「迷宮と同質・・・まさか人を襲う様になるのか?」


「そうだ、あのルーキー達なんて可能性の塊だろ、アイツらがこのまま成長してみろ立派になると思うか?オレには弱い奴を虐げて笑ってる顔しか想像できねぇぞ?」





そんな事を言われたら俺も全く否定できない。


アイツらが成長しても碌な事をしないのは明白だ、今でさえまともに人を敬えないのに立派になれる訳が無い。



「少しは納得したか?つまり変化は少しづつ現れてるんだ、迷宮の外が混沌とするのは時間の問題、オレの予想だとあとニ〜三世代で世界はかなり暴力的になってるだろうな。」


「もう、どうにもならないのか・・・?」


「オレは腹を括った。コレでも冒険者の端くれだ、全ての人類の希望でありたいと思っていた事もある、だけどオレも裏返って力を手に入れ迷宮種を調べて迷宮の真実ってヤツに気付いた。見て見ぬフリは出来ない、だったら同業殺しの汚名でもなんでも被ってやる。オレはオレのやり方で世界の希望になるって誓ったんだ。」



カノジアの顔を見る。


強い。

そしてとても眩しく、それでいて哀しい女性だ。


知ってしまったが為に誰にも相談出来ずに覚悟を決めてしまったのだ。

それが出来るだけの精神を持っていたせいで。



これほど孤独で高潔な人を俺は初めて目の当たりにした。




・・・・・・




「分かった、正直な事を言うとまだ人を殺すと言う事に抵抗を感じるがそれが甘えだと自覚は出来た。世界は俺なんかの都合はお構い無しだ、だったら俺を無視出来ないくらいに世界を救ってやる。その為の汚名を被る覚悟を俺も持つよ。」


「よっしゃ!良く言った!ちょびっと情けなさは滲み出てるがそこはご愛嬌!!って事でオッケーだ、改めてよろしくな新人君。」





こうして俺はカノジアとの契約により彼女を手伝う事になる。

そしてより現状を理解する為に彼女のこれまでの経緯を聞く事になった。





彼女は魔族だ。


世界的には少数民族で辺境を好み点在して暮らしている。

人族や妖精族、土精族など他の種族と交流する事なく独自の価値観で生きている。


そして彼女の暮らしていた集落は迷宮樹の大氾濫に呑み込まれ彼女だけが助かったらしい。

その時に母親から裏返りの秘術を施され力を手にした。




それからは人の目を避ける様に世界を彷徨い、様々な迷宮や冒険者を観察していく内にこの二つの関係性に着目。



そして【人魔の遊戯迷宮】で苦労の末、迷宮種を管理する事が出来たのだ。


その方法は迷宮種が存在する最深部に居る守護者の討伐。

そして迷宮種を最深部に安置したまま共に居る事。



そうする事で彼女を守護者だと種が誤認して守護者の権限が与えられるらしい。


なんとも遊戯迷宮らしいシステムの抜け道だ。




全ての遊戯迷宮の特徴であるスキルとステータス。


何故こんなものが存在するのかは彼女でも遂には解らなかったそうだ。

これはそう言うものだと納得するしか無いのだろう。




そして彼女は守護者の権限で種の発芽に干渉出来る事を発見し、限界まで種を発芽させない様にしてきた。



もし彼女が居なければとっくに迷宮樹に成長して大氾濫を引き起こしていたことだろう。




しかし成長を遅らせた弊害があった。

迷宮種が歪な行動を起こし始めたのだ、具体的には難易度の変調。



つまり俺が死にかけた隠し部屋の様に浅層なのに深層並みの難易度になったり強力な魔獣の発生である。




カノジアもなるべくそう言った変調を見逃さない様にして潰して回っていた時に俺達を発見。

様子を見ていて俺に目をつけ協力者候補として監視していたそうだ。




俺をトラップ直後に助けなかったのは中層に以前の守護者並みの魔獣が複数体発生してその対処に追われていたらしく、その事については間に合わなくて申し訳ないと謝罪された。



「以上がオレの迷宮に来てからの二十年って訳な。そんでこっからがこの後の予定な、まず新人君は冒険者の時のレベルは幾つよ?」


「俺はレベル48だ、ここ一年は上がって無いから多分この辺が成長限界だと思う。」


「・・・思ったよりも低かったな。ちょっと悪い事聞いたみたいで罪悪感が発生してるんですけど?」



なんでだよ!レベル48って言ったら十分強者だろ?


確か冒険者ギルドの公式では過去最高がレベル56だった筈だ、俺は決して低くは無い!




「そういうカノジアは幾つなんだよ?そんな言い方する位だからさぞ高レベルなんだろ?」


「オレは今のところ89だ。」


「・・・知性がか?」


「なんでだよ、レベルに決まってるだろ!今の話の流れでなんで知性だと思うんだよ?ってか知性が89とか低いわ!

なに?オレっておバカに見えてんの?」



そう言ってカノジアはメダリオンを見せてくれるた。


そこには確かに89の数字が浮かんでいる・・・




試しに他の項目も見せて貰ったがメダリオンが壊れてるのかと疑いたくなる様な数字のオンパレードだった。


守護者を斃す位だから強いんだろうとは思ってたが、まさかここまでぶっ飛んでたとは・・・



「新人君もこの位になって貰うから他人事みたいに驚いてる暇は無いぞ?」


「へ?いやいや、俺は成長限界なんだって、レベル89とか世界最強だぞ、無理だろ?」



俺が慌てているとカノジアがポケットから別のメダリオンを取り出して俺に放り投げてきた。



「っと!ん?これって俺のメダリオンじゃないか、そうかあの部屋から持ち出してくれてたんだなありがとう。」


「早速それで自分のレベルを調べてみ?」



イタズラっぽい顔で俺に促して来るカノジアを見てなんとなく察した。

こんな身体になったんだ、もしかしたら強さもそれに見合ったものに変化しているのかも知れない。



そして俺はメダリオンに意識を集中する。



「それで?新人君の今のレベルは幾つよ?」


「・・・・どうなってんだ?」


「どうした、新人君!ちゃんと言ってみろよ!」


「レベル1だ・・・」



俺が正直にメダリオンに浮かぶ数字を口にした瞬間、カノジアは大爆笑で床を転げ回った。





「どういう事なんだよ!なんで?どうして?俺のレベルは何処に行ったんだぁ!!」



カノジアの大爆笑と俺の大絶叫が迷宮最深部で響き渡った。




実は前回でざまぁ迄あと二話って言ったがアレは嘘だ。

お詫びの意味も込めて今日は二話投稿にしたのです。

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