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第五話  種の在り方は人を蝕む

この物語を読んで下さる読者様に最大限の感謝を!




目が霞んで姿は見えないが女性の声だ、通りすがり冒険者か?最後の最後で僅かな運が残ってたな・・・



「おい、聞いてるのか?早く答えないと本当に死ぬぞ?お前は生きたいのか?」



・・・そうは言っても、もう喋ることも出来そうに無い。

最後を看取って貰えるだけでも御の字か・・・



「未練は無いのか?」



・・・"未練"と言われた瞬間、三人の顔が浮かび上がった。




職員採用試験の合格祝いだといってネクタイをプレゼントしてくれた時の女将さんの優しい笑顔。


いつも元気に俺を送り出してくれるパルミラちゃんの明るい笑顔。


そして、慣れない新人教官に悪戦苦闘している俺を励ましてくれるマーヤの真っ直ぐな想いのこもった笑顔・・・




「・・・いぎだい、俺、は生きたい!・・・こんな、ところで・・・死ぬ、わけ・・にはい、かナイんだっ!!」




俺は残った力を振り絞り叫んだ!

俺はこんな所で死ぬ訳にはいかない!

あの三人に『ただいま』と言いたい!

あの笑顔と共に生きたいんだ!!


俺の叫びの後、僅かな静寂がこの場を満たす。

そしてとても綺麗な声が再び聞こえる。



「分かった・・・オレがお前を生かしてやる。しかし、対価は払って貰う。これは契約だ、お前にはオレの目的を達成する為に働いて貰うからな?」



なんだって良い、この絶望的な状況から生き延びる事が出来ればあの三人にまた会えるのだから。



流石にもう喋る気力も無い俺は無言で頷いた。



「良いだろう、此処に契約は交わされた。オレの一族の秘術を持ってお前を“裏返らせる”。」



霞んで朧げな視界が最後に見たのは、白磁の様な白指が俺の胸を()()()()()光景だった・・・




・・・目覚めの時・・・




・・・意識が重い。



そう言えば二徹をしてたんだった、それならこんな鈍さもしょうがないか。


寝起き特有の気怠さはあるが思考はクリアになっていく、俺の側には焚き火の暖かさを感じられる、誰か居るのか?



「オイ、意識が戻ったんならサッサと起きろ。」



聞き覚えのある綺麗な声で目を覚ます。




なんだ?身体が動かしにくい・・・

軋む身体をなんとか動かして俺は上体を起こす。



「まだ身体に違和感はあるだろうが意識の方はどうだ?自分が何者か覚えているか?」


「オ、オ、オレハ・・・俺はカレアル・エーギル、新人教官・・・だ。」


「良し、記憶の方は無事に整合が取れている様だな。」




ん・・・、なんだ?物が見にくいな。


視界がブレる。


というか見る感覚が速過ぎて追いつけない?

焚き火の向こうに声の主が居るのは分かるがボヤけて見えない。



「やはり身体の感覚は直ぐには整合しないみたいだな、まずは中身の調整から始めるか。カレアルと言ったな、お前は死にかけていたのを覚えているか?」



身体が動かしにくいし物は見にくいし、相手の声がやたらと頭に響く、聴こえ過ぎだろ。


どうなってるんだ?自分の身体の異変に戸惑い両手に視線を移す。





・・・なんだこの掌は?



俺の変調した目がおかしいのか?自分の掌だと思われるソレはゴツイ殻に覆われて鋭い爪を生やしていた・・・


俺は慌てて自分の身体を見たり触ったりして確認する。


相変わらず五感の刺激が強過ぎて混乱気味だが少しだけ慣れてきた、そして改めて確認するがやはり掌と同様に身体全体が変化している事が分かった。



「オイ!」



そして徐々に思い出す。


そうだ俺は死にかけていた。

冷静に考えればとてもでは無いが助かり様の無い程の状態だった筈だ・・・


そして女の声が聞こえて俺に『生きたいか?』と聞いて来たんだった。

その問いに俺は生きたいと答えて最後に見たのは自分の胸をこじ開けられる光景だった・・・




「オレの話を聞けよーっ!!」



女性の大声が頭に響く、まだ少し調子が良すぎるな。



「せっかく最初だからオレも威厳的なモノを意識して喋ってたのに、ガン無視とかヒドくね?オレ、一応命の恩人なんですけど?それなのに・・・うぅ、グスッ、泣きそうだ。」



目の焦点が合ってくる。


焚き火の向こうに居る女性の姿が見えてくる。




俺はその姿を一眼見て綺麗だと単純に思った。



焚き火の揺めきに照らされる白銀の髪。


俺の胸をこじ開けた時に見えた白指同様に白磁の肌。


闇夜を薄め静謐を讃える蒼紫の瞳・・・




着ている物はくたびれているがそんなモノは全く気にならない程の生命としての完成度だった。



「うぅ、今度はガン見かよぉ、なんなんだよコイツゥ・・・人選ミスったか?」


「済まない、余りにも綺麗だから見惚れた。それよりも、遅くなったが助けてくれてありがとう。君のおかげで俺は還る事が出来る。」


「ちょっ!き、綺麗とか・・・や、やめろよ〜。」



命の恩人は照れた仕草で身体をくねらせながら両手で顔を覆っている。



「それで?俺はどうやったら人間に戻れるんだ?」



女性の仕草が焚き火の灯りで影を作っていたがピタリと止まる。




「何言ってんだ?戻れる訳ないじゃん。お前は()()()()んだ、そのおかげで助かった、代償は表に戻れない。当然だろ?」



・・・人間には戻れない?


そうか、やっぱり戻れないか・・・


そりゃそうだろうな。


薄々は分かっていたさ。

あの状況から命が助かっただけでも奇跡なんだ、それ以上を望むのは強欲か。



「おっ?意外と冷静。もっと取り乱すかと思ったんだけど?オレとしては手間が省けるからラッキーだけどな。」


「そうだな、自分でも意外だが割と現実を受け止めれているっぽい。命が助かった事が奇跡なんだ、流石にそれ以上は望み過ぎだ。」



鋭敏な五感のせいかソワソワするが、逆に精神は穏やかだ。



「言っとくけど奇跡はそんなに安く無いぞ?たかが個人の願い位で奇跡は降って来ない。お前のは等価交換だ、人を辞めた代償に命を繋いだんだよ。」




成る程、『奇跡は安くない』か、格言だな。




自分の掌を握り開くの動作で繰り返す、かなりスムーズに動く様になって来た。


・・・そういえば顔はどうなってるんだ?

俺は自分の顔を触れてみる。


やっぱり口にはキバが生えてるか、舌の感触からなんとなくそうだろうなと思っていたけど実際に触ってみて魔獣と大差無い事が分かる。


それよりも驚いたのが()()()()()()


ちゃんと見えてるし匂いも感じるのにその器官が備わっていないのはどういう理屈で成り立ってるんだ?



「自分の現状を考察するのは後にしてオレの話を聞けよ、お前の命は代償を払って助かったが、その為の秘術を使う条件である“契約”は別だぞ?お前には早くその身体に慣れてもらってオレの手伝いをしてもらう。」




自分の身体をペタペタと触っていると恩人に聞き忘れていた事を思い出す。



「そう言えば、まだ名前を聞いていなかった。改めて俺から名乗るがカレアル・エーギル、元人間だ。」


「オレとしたことがウッカリしてた。カノジア、これがオレの名前だ。改めてよろしく新人君。」



カノジアは焚き火を回り込んで俺に近づき手を差し伸べて来る、コレは握手を求められているのだろう。


だが、俺の身体は彼女よりかなり大きい。掌に関しては爪もあるので二倍以上にデカい。

こんな掌で握手をする訳にもいかないので人差し指だけを差し出す。



カノジアは俺の意図を察して人差し指を握り返して握手をしてくれた。



「中々に気遣いも出来るみたいだな、最初は変な奴かもと思ったけど掘り出し物だったか?」



そんな感想を添えて。





それから俺はカノジアから契約の詳しい内容を聞いた。


彼女は魔族の冒険者でこの【人魔の遊戯迷宮】で二十年近く一人で暮らしているらしい。


何故、暮らしているかというと迷宮種を()()()()()()為に保護しているのだそうだ。


そして、発芽を止める事が出来なくなりつつあるので協力者が必要になった。


つまりカノジアとの契約とはその協力者になるという事だ。


契約は既に交わされているので拒否は出来無いし迷宮種をなんとかするという彼女の目的は元冒険者の俺としても願ったり叶ったりだった。



「それで?具体的にはどう協力すれば良いんだ?」


「腐らせるのを手伝って。」


「・・・はい?」


「だーかーらー!栄養を過剰に与えて腐らせるの!本来なら【人魔の遊戯迷宮】はとっくに迷宮樹になってる程に成長しきってんの!

それをオレが一人で抑え込んでるおかげで未だに種のままな訳よ。

つまりいつ発芽してもおかしくない程に種には栄養がパンパンに詰まってる、後は過剰摂取させていけば腐るって寸法さ。」


「普通に種を砕いて枯らせた方が早くないか?」



冒険者はその場で砕いて枯らせるか、持ち帰って研究の為にギルドに売るかのどちらかをやって来たんだが?



「オレもこの迷宮に来てから気付いたんだけどそのやり方は間違ってる。種は砕かれても枯れたりしない、高純度の栄養素として大地に染み込むだけ、勿論種を持ち出して迷宮崩壊を引き起こしても一緒。」




つまり、今迄の冒険者達の苦労は無意味だと?


そして、高純度の栄養は他の迷宮種に吸収されて成長を早めるだけだとカノジアは言った。



「多少は迷宮同士で栄養を循環させてるかもだけど、一番の問題は汚染だぜ。」



俺は汚染と聞いて嫌な予感がした、要するに土壌汚染の様なものだろ?


そうなれば何処に影響が出るのか?


当然、その土地に根ざした全生命だ。

樹木や作物などの植物、その植物を摂取する動物、それら全てが汚染されるという事だ。


そして最悪な結末が頭をよぎる・・・




「まさか・・・冒険者の適正は・・・」


「そっ!冒険者イコール高濃度汚染者って事。」



カノジアは更に衝撃的な真実を俺に開示した。


高濃度汚染者は存在的には迷宮種と同質であり適正がズバ抜けて高い者が死んで埋葬されれば恐らく種と同じ現象を引き起こすらしい。



「世界から迷宮を無くしたいなら迷宮だけで無く冒険者も根絶やしにするしか無いって訳よ。」



冒険者の適正にまつわる真実を知って俺は絶句してしまった、その話が本当なら人類は既に詰んでいるって事だ。



「さーて、これから忙しくなるぜ〜。オレの見立てだと、あと百人位の冒険者を栄養にすれば種は腐る筈だ、ところがオレは深層以上は上に行けなくなる、だから新人君には迷宮が攻略されない様に冒険者の邪魔をしつつ時にはブッ殺!ってやって欲しいってのが契約な!」



それを聞いて俺は鋭敏な五感を持っているにも関わらず目の前が歪む様な錯覚を覚えた・・・





中々、ざまぁに到達しない・・・

これでもかなりコンパクトに纏めてるのになんでだ?

もう二話程お待ち下さい。

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