第四話 毒のある新芽が嘲笑う
今回は若干のグロ要素があります。
冒険者ギルドでマーヤに推薦してもらい試験を受けれる事になり、それから更に一ヶ月ほど試験勉強をする事になった。
試験の内容は実技については免除された。
まぁ数少ない上級冒険者なんだ実技をやっても今更感はあるしな。
問題の筆記だが迷宮関連の問題はほぼ理解出来ていたが、ギルドの規約や魔石などの資源の換金率などは初めて知るものが多かった。
冒険者が知る必要が無かったとは言え改めて勉強してみると目から愚龍の鱗が剥がれる思いをした。
『無知とは罪だ』と誰かから聞いた事があるがまさにその通りだ。
「それじゃあ行ってきます。」
「あいよっ!頑張ってきな!!」
【母熊亭】の女将さんに背中を叩かれて気合いを入れて貰い試験に臨んだが結果は勿論合格だった。
その日は宿屋の女将さん達のプライベートスペースである離れの部屋で俺と女将さんにパルミナちゃん、そしてマーヤも駆けつけてくれて四人で合格祝いの宴を開いてくれる。
マーヤは俺の合格を自分の事の様に喜んでくれたし、女将さんには散々心配をかけた事をイジられた。
パルミナちゃんは何を祝っているかは良く分かっていない様だが皆んなが笑っているからなのか終始はしゃいで楽しそうにしていた。
例えこの街の冒険者から邪険にされても俺には三人も味方が居る、その事を本当に心強く思った祝いの席となった。
合格してから一週間後、遂に俺が指導するルーキーが決まったので顔合わせの為にギルドの一室を借りて自己紹介を済ませたが、俺の初めての担当は何も知らないルーキーとは言え余りにもお粗末なパーティだ。
リーダーのアランは自信家で無鉄砲、コントローラのセリカはお気楽マイペース、タンクのミーアは身分絶対主義の信奉者、アーチャーのタマはやる気の無いアランの太鼓持ち。
これが俺のルーキー達に対する第一印象だった・・・
しかし、こんな問題児でも迷宮に適正があった以上は冒険者の資格はあるんだ。
これから迷宮で如何に自分達が甘えた考えをしているかを分からせれば後々には立派な冒険者になるかも知れない。
俺はその手助けをしなくてはいけない立場になったんだ、最初から匙を投げては駄目だと自分を鼓舞してやる気をだす。
しかし、そんな俺のやる気も最初の探索訓練で躓いてしまった、彼等は兎に角酷かった。
アランはまともな指示も出さずに好き勝手に剣を振るだけのイタズラ小僧みたいに戦い。
コントローラのセリカは戦闘放棄スレスレの態度で魔法を使わない。
ミーアはタンクのクセにまともにヘイト管理もせずに盾を持って突撃ばかりする。
タマが一応独自の判断で遠近両方の立ち回りをするから、かろうじてパーティとして機能している様なお粗末さだった。
「セリカ、君はコントローラの意義を解っているのか?名前の通り戦場を支配するんだ、つまり的確な魔法運用が本分なのに酷い時には戦闘自体に参加しない、コレではコントローラ失格だぞ?」
「え〜、でも皆んな頑張ってますよ?それにホントにヤバかったら流石に私も魔法を打ってますし大丈夫でしょ?」
何が大丈夫なんだ?
俺は本格的に説教をしなくてはと一歩前に出てセリカに詰め寄ろうとした。
「あー、それ以上近づいたらセクハラでギルドに報告しますよぉ?」
「おいおい、いくらセリカが可愛いからって教官の立場を利用して悪戯するとかマズくないっすか?ギルドにチクっちゃおっかな〜?」
その一言に俺は情けなくも歩みを止めてしまう。
頭の中でマーヤや女将さんにパルミナちゃんの顔がよぎった。
あの三人のおかげで俺は職に就けたのにこんな事で辞めさせられる訳にはいかないと思ってしまったのだ。
その件を切っ掛けに俺は段々と彼等に強く出れなくなり、その後もユルイ探索訓練を黙って観るしか出来なかった。
こうして俺の新人教官としての大事な初日は苦いものとなり彼等との関係も悪化するばかりとなっていく。
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焚き火を眺めながら仲間の裏切りから始まった不運にやり場の無い怒りを覚える。
バルラス達に直接抗議しようにも俺がパーティを脱退して以来バルラス達を街で見かけていない。
動向を調べる為にギルドの申請届けをチェックしてみると、どうやら遠征で他の迷宮に挑戦しているらしく迷宮街には居なかった。
つまりアイツらは俺の追求が来る前にトンズラして俺が困るのを遠い地でせせら笑っているのだ。
俺は拳を握りしめ歯を食いしばって怒りを抑える、しかし次の瞬間、焚き火が俺の怒りに呼応して一際大きく爆ぜた。
しまった俺のユニークスキルが無意識で発動したみたいだ、
このスキルは俺にしか発現出来ない程特殊で強力だ。
しかしこのスキルのおかげで俺は上級冒険者になれたと言っても過言では無い。
まさに俺の生命線だ。
ただし強力過ぎるので扱いが極めて難しいのが難点だ。
焚き火程度の炎なら暴発しても大した事は無いが、意識してユニークスキルを全力で使えば焚き火からでも辺り一面焦土に変える事が出来る。
まぁ燃費が悪過ぎるからやらないけどな。
暫く焚き火を眺めていたが、ふと時計を見ると既に見張りの交代時間を過ぎていた・・・
「クソッ!此処でテントを開けて彼等を起こしても又セクハラだとか何とかで騒ぐに決まってる!」
結局俺は寝ずの番を強制されて一睡も出来なかった。
しかも彼等はやっと起きて来たと思ったら寝過ごした事を詫びもせず逆に俺が起こさなかったから貴重なベースキャンプでの訓練を不意にしたと文句を言ってくる。
この時ばかりは腰に差していた愛剣を抜いて斬りつける俺の姿を幻視した。
勿論本当に斬れる訳も無く俺は彼等の理不尽な文句を聞き流してベースキャンプを整地して探索訓練を再開させるのだが。
まったく、元上級冒険者が聞いて呆れる。
・・・分岐点まであと十分・・・
「あーあ、出てくる魔獣は弱い奴等しか出てこないしつまんねーなぁ!おいタマ!どっかに隠し扉とか裏ルートがないかスキルで調べてくれよ!」
「んっ・・・」
最早、探索訓練とは名ばかりでパーティの方針を俺になんの相談もせずに決めていくアランは益々増長していき一番ルーキーがやってはいけない難易度の変更行為を始めた。
教官の立場ならこの時点で彼等を止めて失格にし訓練を強制終了にするべきなんだが、二日間の徹夜と今迄の彼等に対するストレスから俺はただ黙って観ているだけだった。
この時俺は心の何処かで彼等が手に負えない難易度に遭遇して痛い目に合えば良いと思っていたのかもしれない。
いくら難易度が高くなってもこんな浅層ならタカが知れてる。
彼等がピンチになればその時に俺が助ければ彼等も少しは見直してこの巫山戯た関係性が改善出来るかもと密かに期待していた。
・・・俺はこの鈍った判断が分岐点だったと、これから訪れる結末の後で悟る事になる。
タマがスキル[探知]を発動させて五分程経つと本当に隠し部屋を見つけたらしい。
通路のかなり先だ、この距離を探知出来るとはやはり才能だけはあるみたいだな。
アランを先頭にして隠し部屋の前まで移動するとタマが苦もなく入り口の扉を隠しスイッチで開け放つ。
本来なら入念に調べてから作動させるのがセオリーだが、俺はもう何も言う気が無い。
精々、困れば良いとしか思って無かったのだ。
そして此処から事態は雪崩の様に急展開する。
「さーて、隠し部屋と言えばレアなお宝と相場は決まってるっしょ!お宝ちゃんは何処かな〜?」
アランが松明で部屋の奥を照らすと一目でレアだと分かる宝箱が祭壇の上に鎮座していた。
そして祭壇の両脇には石像が二体・・・
あぁ成る程、此処はトラップ部屋か。
恐らくトリガーは宝箱、開けると両脇の石像が侵入者に襲いかかるたぐいだな。
こんな浅層に似つかわしく無い凶悪なトラップだな?
だが、俺ならなんの障害にもなりはしない、パーティの後方で俺はいつでも助けに割って入れる様に愛剣である魔法付与された【ルーンソード】の柄に手を添える。
そして運命の蓋が開かれる・・・
最初の異変は入り口が勝手に閉じた事、恐らく侵入者を逃がさない為だ、此処までは予想通り。
しかし、この次からが俺の想定を上回り始めた。
先ず二体の石像は爆発を伴って粉々に砕け散った!
飛び散る破片で俺達全員は少なからずダメージを負う。
こんなトラップ聞いた事が無いぞ?
まさか迷宮が成長期にでも入ったのか?
そんな俺の考えを遮る様に次なる変化が訪れる。
なんと砕けた破片がそれぞれ石の魔獣に変貌し始めた。
四つ足の獣、多脚の節足動物、ゴブリンに巨鳥等様々な形態だ。
おかしい、ここは【人魔の遊戯迷宮】だぞ?なんで人型以外の魔獣が現れるんだ?
これは完全にイレギュラーだ、難易度も推定で深層クラスだ、ルーキーなんて五分と持つわけが無い!
俺は咄嗟に彼等の前に躍り出て指示を飛ばす。
「訓練は中止だ!難易度深層クラス、トラップ形態はモンスターハウス!お前達じゃ瞬殺されるぞ、全員入り口付近の壁に背を向けて前方のみに意識を集中しろ!」
俺は口早に指示を飛ばすがルーキー達はこの以上事態に半ば放心状態だ。
「急げ!死にたいのか!心配しなくても俺が必ずお前達を無事に還してやる、だから今は俺の指示に従ってくれ!」
魔獣達の変貌が終了して敵意ある目を俺達に向けてくる。
大丈夫だ、これぐらい逆境は十年間で何度も潜り抜けて来た、今回も必ず突破出来る!
俺が自身を鼓舞して戦意を高め【ルーンソード】を引き抜こうとした、その時。
右脚に激痛が走る。
馬鹿な?背後には魔獣は居なかった筈だ。
それとも見逃していた個体でも居たのか?
俺がほんの僅かに視線を右脚に移すとそこには太腿を貫通した剣先が見えた・・・
「なっ、なんで・・・?」
目の前に魔獣がいるのも忘れて背後を振り返る。
そこには醜く顔を歪めて俺の脚に剣を突き立てるアランの顔が見えた。
「ヒッ!ヒヒヒッ!ヤってやった!俺はちゃんと出来た!」
脚を貫通していた剣が引き抜かれる、俺はその痛みに思わず膝を突いてしまう。
「おっ、お前らこの後に及んで何をやってるんだ!そんなに死にたいのか!?」
「うるせーよ!おっさんこそ此処でキッチリ死んどけ!」
その後はタマに愛剣を奪われルーキー達はセリカの爆裂魔法で無理矢理トラップ部屋を脱出して俺を置いて逃げ出した。
丸腰になった俺はやむを得ず、痛む脚に応急処置程度の回復魔法をかけて魔法と格闘で魔獣の群れとの激戦に挑んだ。
一体どれくらいの時間戦い続けたのだろう?五分か十分か?それとももっと長い時間か・・・
気がつくと部屋にいた魔獣は全て元の砕けた破片に戻っていた・・・
「ゴフッ!ハァ、ハァ・・・それみろ俺なら・・・この位のピンチな、・・・んて、どうって、コト、ねぇよ。」
俺は魔獣達に勝った・・・訳でも無さそうだ。
身体に力は入らないし霞んだ目でも分かるほど大量の血が俺を中心に広がっている・・・
流れる血の元を辿ってみると臓腑が飛び出していた・・・
慌てて抑えようと思ったが右腕は肘から先が無い。
兎に角部屋から出ようと思ったが両脚はズタズタで殆ど骨だけみたいになっていた・・・
「俺の脚な、んて・・・大して、美味く・・・も、ナ、イだ・・・ろうニ。」
もう、限界だ。
意識が朝靄の中を進む様に霞掛かって来た・・・
こんな時には走馬灯でも流れるのかと思っていたが、どうやら迷信らしいな、なにも思い浮かばない。
それとも思い出す程の大事な記憶が無いだけか・・・
もう俺に出来る事は無い、このまま眠る様に死のう、痛みが振り切れて感じないのがせめてもの救いだな。
全てを諦めて消えかけた命を感じながら瞳を静かに閉じた。
パシャッ・・・ネチャ・・・
誰かが水溜まりの上を歩いている音がした。
いや、違うか・・・これは俺の血ノ海の上を歩いている?
「随分と酷い損傷具合だな、それに今にも死にそうだ。だったら手早く行くか・・・オイお前、生きたいか?」
死にかけて五感も麻痺していた筈なのにやけにハッキリと綺麗な声が聞こえた・・・
無名の作者の作品にも関わらずPVが順調に伸びています。本当にありがたいです。
読者様が少しでも楽しんで貰える物語になる様に知恵熱が出てでも頭をフル回転で書き走ります!