第三話 地に落ちた信が遮る
スタートダッシュでなるべく連続投稿してます。
自分で誤字脱字を調べる日々。
思いもよらないパーティメンバーの対応と発言に打ちのめされてから二日後、俺の常連宿である【母熊亭】にバルラスからの手紙が届いた。
内容はメンバーの総意は変わらない事。
俺に対しては今でも感謝している事。
俺さえ良ければ後方支援としてだが戻って来る場所は用意してある事。
それでもどうしても納得出来ないのであればパーティから脱退しても構わないとの事が書いてあり、ご丁寧にメンバー全員のサイン付き脱退届けが同封してあった。
・・・そうだな、どうするかなんて考えるまでもない。
例え他の冒険者がどうであれ俺の冒険者への理想は揺らぐことは無い、アイツらが言う通り俺の努力に世界が見向きもしないのも理解した。
だけどそれでも構わない。
堅実な探索を繰り返し、迷宮の傾向を掴み攻略する。
だから残念だがこの脱退届けを有効活用するしかない。
アイツらと共に迷宮攻略を続けていけないのは痛恨の極みだが道は二つに分かれたんだ、俺は俺の道を歩いていくさ。
手紙を丁寧に封筒に戻し備え付けの保管庫へ仕舞い、脱退届けにサインをしてギルドに向かう準備をする。
宿を出ようと階段を降りた時、この宿屋の一人娘パルミナちゃんと鉢合わせした。
「あっ!おじ・・お兄ちゃん!おはようございます!これからお出かけでやすか?お気をつけて!」
この子はどうしても俺をおじさんと言いそうなるな。
俺はまだ二十六歳だ、決しておじさんでは無いので根気強くお兄さんだと訂正して来たので最近では俺の努力が実りつつある。
「パルミナちゃんは今日も元気だね、それに小さいのに毎日お母さんの手伝いをして偉いな。お兄ちゃんはこれから出かけるけど帰りは早いと思うから夕飯は必要だって女将さんに言っておいてくれるかい?」
「はいっ!かしこまりやした!」
舌ったらずなのか微妙に下町風な喋り方になっているのが逆にこの子のチャームポイントだ。
持ち前の明るさもあって名実ともにこの宿の看板娘として頑張っている。
この子だって頑張ってるんだ俺もパーティ脱退で腐る訳にはいかない、早く次の探索を再開しなくちゃな。
パルミナちゃんにお土産を買って帰ると約束して俺はギルドに向かった。
・・・冒険者ギルド・・・
「えっ!カレアルさん【泰山不落】を脱退するんですか!?なんでですか?」
「マーヤ、声が大きいって。それにパーティ内の問題にはギルドは不干渉だろ?」
「うー、そうですけどぉ・・・」
興味本位では無く本気で心配してくれているのは分かってるが、俺もまだ完全には飲み込めてはないんだ説明しろと言われても今はちょっと無理だな。
申し訳ないけど今は受付嬢として職務に徹して欲しい。
「さ、早いとこコレを受理してくれ。それとメンバー募集も頼む、等級には拘らないからマーヤの判断でピックアップしておいて欲しい。」
「・・・はい、それではカレアル・エージスさんの脱退届けを受理します。それとメンバー募集をかけておきます。目ぼしいパーティがあればいつもの【母熊亭】へ言伝すれば宜しいですか?」
渋々感が隠しきれて無いな・・・しょうがない今度機会があれば事情の説明と今回の埋め合わせでもするか。
「ありがとう、いずれ機会があれば説明するから機嫌を直してくれ、マーヤにまでそんな顔をされたら流石に俺も立ち直れない。」
「むむ、その説明に食事は付きますか?嫌ですよ説明だからと事務的な報告なんて。ちゃんと心配させた事を申し訳なく思って優しくして下さい。」
意外にちゃっかりしてるなぁ、まぁ埋め合わせはするつもりだったし困る様な事でもない。
「了解だ、その時はしっかりエスコートさせて貰うよ。ただし説明会という名の愚痴話になるかもしれないから覚悟しとけよ?」
「むふーっ!言質は取りましたよ、約束ですからね!」
両手でガッツポーズをする見目麗しい受付嬢に苦笑いしながら俺は周りの冒険者からの嫉妬の視線に晒されて居心地を悪くする。
マーヤは気立も良く有能なので冒険者の中ではかなりの人気者だ、言い寄られてる姿も何度も見てきた。
俺はマーヤがまだ新人の時にたまたまパーティ担当だった事もあり仕事上ではあるが仲良くなれただけで年齢的には妹の様な感覚で接している。
だから嫉妬の視線を向けられても困るのだ。
「さて、それじゃあマーヤの仕事の邪魔をしても悪いし俺は退散するよ、これを期に装備の徹底メンテと迷宮の資料を読み直したりと再スタートに向けて頑張らないとだからな。」
「はい、私としては全然邪魔ではありませんがカレアルさんのやる気に水を差す訳にはいきません、泣く泣くではありますが職務に専念します、お気をつけて!」
満面の笑みで見送られて俺はギルドを後にした。
【母熊亭】に帰る道すがらお土産として買った焼き菓子をパルミナちゃんに渡すと大いに喜んでくれた。
嬉しさの余りお菓子を持ってクルクルと踊り回っていると女将さんに、はしたないと注意されていたのはご愛嬌だ。
この母娘はとても仲が良い、見ているコッチが温かい気持ちなる程の仲睦まじさだ。
この宿屋で生活を続ける為にも早く冒険者稼業を再開しないとだな。
しかし俺はこの時、再スタートは容易だと思い自分の置かれている状況を正確に判断出来ていなかった事を後悔する。
・・・一ヶ月後・・・
「大変な時にお時間を割いて貰って申し訳ありません。」
「何も頭を下げる様な事じゃ無いだろ?以前から約束してた事だし、ぶっちゃけマーヤから誘って貰わなかったらいつまでも約束を果たせていなかったかもしれないんだ。
寧ろ女性に約束を持ち出させてしまって俺が申し訳ないくらいだ。」
パーティの脱退届けを出してから一ヶ月が経ったが俺は未だに再スタートをきれていない・・・
募集はかけて貰っているが俺の様なアタッカーをどのパーティも募集していない様だった。
試しにタンクやスカウトでも構わないと変更してみたが、どのパーティからも良い返事は貰えなかった。
それを見かねてマーヤが、やや強引に以前の約束を持ち出してギルド外で会食兼説明会を開いてくれた。
そして意外にも食事の場を【母熊亭】に指定して客足の少ない時間帯を選ぶという徹底ぶりだ。
この宿では普段は宿泊客のみに朝と夜で食事を提供するが女将さんに頼んで特注で料理を作って貰う。
そしてマーヤと二人で遅めのランチを取らながらマーヤは前置き無しに本題に入ったのだが・・・
「先ずはカレアルさんが脱退した理由から説明して下さい、それを聞いた後で私からもお話しがあります。」
いつになく真剣な彼女に少し気圧されて俺は事の経緯をなるべく感情を込めずに説明した。
感情的になると俺の主観でしか話せないからバルラス達に申し訳ないと思ったからだ。
「成る程、そういった事があったんですね・・・確かにバルラスさん達の様な方は一定数居るのが現状ですが、だからと言ってカレアルさんを冷遇して良い訳では無いと思います。しかも今回の募集にもなんらかの圧力をかけるなんて許せません!」
なんだ圧力って?募集が上手くいってない事にアイツらが関係してるのか?
「確証はありませんが冒険者の皆さんの間で当面はパーティメンバーを変更せずに探索を行おうという風潮があるっぽいんです。しかもそれを提唱してるのが【泰山不落】なのでは無いかと・・・」
その話が本当ならアイツらが意図的に俺を妨害しているって事だ、なんの為に?当然俺に再スタートさせない為だろう。
「その話は本当なのか?さっきも説明したがバルラス達とは円満とは言えないがお互い怨恨無しで袂を分かったんだぞ?それなのに影では俺の足を引っ張る真似をするなんて考え難いんだが?」
「そうですね・・・見せて頂いた手紙も紆余曲折の末での苦渋の決断の様に書いてありましたし、扇動している証拠も無いです。ですが私は彼等が黒い感情をカレアルさんに持っていると確信しています。」
そうか・・・俺だけが呑気に再スタートを夢見ている間にアイツらが俺を蹴落とす為に裏で手を回していたなんて思いもよらなかった。
「そうか俺はもう詰んでるらしいな、だけど・・・それでも聞きたい、現状を打破するには俺はどうしたら良い?マーヤに頼るのは下手したらギルドの規約に抵触するかもしれないが出来る範囲で構わないから教えてほしい。」
受付嬢が個人的に冒険者個人を肩入れするのはご法度だ。
そんな事を許せば一部の冒険者のみが甘い汁を吸う事になる、それでもマーヤに頼らざるを得ない。
アイツらが扇動しているとすればこの迷宮街全体の冒険者が俺を拒むという事だ。
それ程の影響力を持つのがこの街で最上位に位置する上級冒険者パーティ【泰山不落】なのだから。
奴らに対抗出来るとしたら冒険者ギルドくらいだろう。
しかし証拠は無い。
この手紙がある以上アイツらを訴えても可能性の域を出ない憶測として処理され、俺は解雇された事を逆恨みしているゴロツキだというレッテルを貼られてしまうだろう。
なんでこんな事になったんだろうな・・・
俺はただ人類の希望として誠実に冒険者稼業をしていただけなのに。
俺が打ちひしがれているとマーヤが居住まいを正して改めて俺に向き直る。
「一つだけ道があります、今日も実はその提案をする為にカレアルさんに会いに来たんです。」
彼女なりにこの一ヶ月間で出来る事を模索していてくれたらしい。
俺の為に危ない橋を渡ってくれたのかと思うと申し訳ない気持ちと俺の味方でいてくれた嬉しさが胸の中でない混ぜになる。
「私からの提案なんですがカレアルさん、ギルド職員に成りませんか?勿論今の状況が落ち着くまでの腰掛けでも構いません。今なら新人教官の席に空きがあるんです、カレアルさんは実績は十分ですし知識も多少詰め込む必要はあるでしょうが、それ程苦にならない筈です。」
これが私に出来る最大限の支援ですとマーヤは付け加えた。
確かにこの道ならマーヤも単なるスカウトとしての言い分が立つしアイツらも流石にギルド内部にまでは干渉出来ないだろう。
俺は暫く目を瞑ってこれからの事を考える・・・
そして考えた末に結論を出した。
「分かった、俺をギルドに推薦してくれ。俺に教官が出来るかは分からないが全力で取り組むよ。」
俺の一言にマーヤは伸ばした背筋を緩めて安堵の息を吐いた。
「はふぅ〜、人生で一番緊張しましたぁ。」
まったく、俺以上に大袈裟だなと思ってついつい笑ってしまった。
読者様に読んで頂ける事がとても嬉しいのです。