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第二話  紡いだ絆が解ける時

この回から主人公の回想編でございます。




そうだこのルーキー達のせいで俺の人生は一変したんだ。




➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



「おい、いくら浅層でもそんなに不用意に歩くな、この辺りのゴブリンなら多少の知恵を持つ個体だって居るんだ油断してると待ち伏せや罠に掛かるぞ。」


目の前を談笑しながら進むルーキー達に注意喚起をするが誰も言う事を聞かない。

なんなんだ?最近のルーキーってこんなにもユルイのか?


くそっ、こんな事なら教官なんてなるんじゃなかった!


・・・駄目だ、そんな事を考えるな。


不満を感じていれば顔に出る。

百歩譲って彼等に見られるのは多少の問題はあるが別に構わない。

だけどこの職を紹介してくれた受付嬢のマーヤに見られたら彼女を傷付けてしまう、彼女の善意を踏み躙らない為にも此処は大人になって我慢するんだ。




漸く今日の訓練ノルマを達成して本日のベースキャンプ地へ到達した。


ルーキー達は相変わらず手より口を動かす事の方がお好きらしい、ベース地に着いてもノロノロと設営準備をしている。


此処で厳しく注意しても彼等は聞きもしないだろう、それどころか俺と彼等の間で溝が深まるばかりだ。



「さぁ、今日の反省会をする時間だ。一旦手を止めて集合しろ、設営は反省会の後で俺も手伝うから後回しだ。」



本来なら教官は口出し以外は干渉しないのが決まりだがこれぐらいはセーフだろう。

それに彼等だって手伝って貰えばそれなりに感謝でもして多少はコミュニケーション改善に役立つかもしれないしな。


「えー!別に反省する様な事ってありましたっけ?ぶっちゃけひたすら歩いてたまに弱ゴブリンと戦っての繰り返しだったじゃないっすか、そんな内容で反省するくらいなら俺達、冒険者になんてなってませんよ?」



はぁ、本当に口だけは達者だな。

アランはこのパーティのリーダーだ。

この少年がこんな態度だから他の三人も感化されて探索に身が入っていないのが一番の反省点なんだが・・・


そこを指摘するとちっぽけな自尊心を刺激して余計に反発するからタチが悪い。



「そうだな言い方が悪かった、反省会では無く報告会だ。今日の感想と自分なりに思う所があれば話してくれ。」



なるべく彼等の自尊心を刺激しない様にコントロールしながら本来の目的をかなり遠回しに促す。



「なんだよ、反省会なのか報告会なのかハッキリして欲しいっすね、いきなり反省とか言われるからイラっとするじゃないっすか。」



・・・大丈夫、俺は大人だ。子供の言う事に一々反応したりなんかしない。


それに彼等の教官を初めてまだ一週間も経って無いんだ、お互いの信頼関係を構築するにはまだまだ時間だって必要だろう。


頭の中で気立が良くて少しお節介な受付嬢の顔を思い浮かべる。

彼女の善意を無碍にするな、俺はもう一度冒険者として再起して俺を裏切って切り捨てたアイツらに切り捨てた事を後悔させてやるんだ・・・


自分の中の感謝の気持ちと仄暗い感情でなんとか苛立ちと折り合いをつける。



「よし、焚き火の準備も出来たしコッチで話そう。」



四人のルーキーがダラダラと集まって来るのを極力見ない様にしながら薪に軽魔法で火をつけてから、ついでにヤカンを用意して湯を湧かし疲労回復の薬草茶を淹れて全員に配ってやった。



「あ〜、ありがとうございます〜。」



口では礼を言ってるが感謝の気持ちがこもってないのは知っている。

このセリカという子はルーキーの中でもとりわけユルイ、緊張感のカケラも無いのは当たり前で後衛職だからなのか戦闘中もよそ見ばかりでアランの指示が無ければ魔法さえ使おうとしない。



「報告会とは言いますが、する必要性を感じないのですが?報告なら後日ギルドに書面で提出すれば良いのでは?」



「必要性ならちゃんとある、後二日は迷宮に潜ったままだ。その間に君達の連携を強化する為に俺が教官として助言する参考にさせて貰うんだ、分かったかミーア?」


この子はプライドの塊だ。

商家の生まれで育ちは良いのだろうが、それ故に人の出自に拘って自分を貴族の様に振る舞う傾向が強い。

故に俺の様な平民上がりの叩き上げに教わる事が不愉快なんだろうな。



「タマもまだ寝るには早い、ちゃんと報告会が終わって装備の点検をしてから寝るんだ。」


「・・・面倒。」


この子は何で冒険者になったんだ?いつも眠そうな顔をして何を考えてるのか判らない。

それでも弓師としての技量と俊敏な動きでそれなりにパーティのフォローは出来ているので注意し難い。



そしてアランを見てみれば不機嫌な顔を隠そうともせず太々しい態度をとっている。



・・・こんな冒険者を舐めたルーキー達をなんで俺が面倒見てやらなきゃいけないんだ?

俺は教官になったばかりなのに、こんな誰が見ても分かる問題児達が最初の教え子とは泣きたくなって来る。



そして報告会が始まったが、彼等の自発的な発言は一切無く結局俺が話を振って丁寧に誘導する事でなんとか報告会の体を取り繕えた。




報告会もやっと終わりルーキー達に自身の装備を点検させて寝かせた後、俺は一人で焚き火を維持する為に揺らめく篝火をボンヤリと眺めている。


パチパチと音を立てる焚き火を眺めながら俺はこんな子守をするハメになった原因であるほんの半年前の事を思い出していた。




・・・約半年前・・・




「どう言う事だ!何で俺だけがこの前の探索から外されたのかいい加減説明してくれ!しかも俺の代わりが入ったから俺には後方支援に回れだって?そんなもの事実上の引退勧告じゃないか!!」


「落ち着けってカレアル、俺達は別に引退しろなんて一言も言って無いぞ?ただ、お前以上のアタッカーが加入したから必然的にお前が弾かれただけだ。」



巫山戯るな、そもそも俺の代わりが加入する事を当日まで俺は知らなかったんだぞ?

しかも俺以上?訓練の様子を見たが、どう見ても中級の下位位の動きだったぞ、上級中位の俺が劣っている所なんて一つも無かった。


その事を指摘するとパーティリーダーのバルラスは面倒くさそうに『今後の伸び代で判断したんだ』と、またしても巫山戯た事を言った。


だったら俺以上の実力が付くまでソイツが後方支援で本当に成長出来たなら俺と交代すれば良いじゃないか。

それなのになんで今すぐなんだ・・・



そこでふと一つの可能性が頭をよぎる。



「もしかして俺が邪魔なのか?」



俺達のパーティは全員ルーキー時代からの腐れ縁だ、アタッカーの俺、パーティリーダーのバルラス、ヒーラーのラミア、コントローラーのザザ。


十年間この四人で上手くやって来たが一つだけ欠点があった、俺以外の三人は金にルーズなのだ。


兎に角宵越しの金を持とうとしない連中で、せっかく迷宮探索で得た金も湯水の様に使っていく。


俺が財布の紐を握ってからは大分マシになったが以前は上級冒険者になってからも個人的な借金をしていた程だった。



「遊ぶ金が欲しいからか?そんなくだらない理由で俺を切り捨てると?」


「・・・それもある、だがそれだけじゃねぇ。俺達が本当に欲しいのは名誉だ、お前の提案する堅実で地味な活動プランじゃそれは手に入らない。お前には野心が無さすぎる。」



は?名誉?野心が無い?なんだそれは?


堅実の何が悪いんだ?俺達の命は一つしか無いんだぞ?だったら必ず生きて帰る事を前提に探索するのは当たり前だ。


それを地味だとか言ってたら俺達は上級冒険者になる前に死んでたぞ!


「まだ分かって無いみたいだな、確かにお前のプランがあればこそ俺達は誰一人欠ける事無く上級まで来れた、それは感謝してる。だがな俺達はその先を見てるんだ、冒険者としてじゃ無い、早めに引退しても何一つ不自由も無く遊べる暮らしを送りたいんだ!その為にはどでかい花火を一発上げて最高の名誉を得て準貴族になる!それがパーティ【泰山不落】の現在掲げる活動方針だ。」


冒険者を早めに引退したいなんて思っても口に出しては駄目だろ。



俺達冒険者は迷宮に適正があり、迷宮の恩恵を受ける事で魔獣と戦い魔石などの資源を持ち帰り経済や文明を支え、最終的には迷宮を枯らせる事を目的にしているから一般人よりもあらゆる面で優遇されてるんだぞ?


そんな人類の希望である俺達が迷宮から逃げたいだなんて人類への裏切りだ。

コイツらとは十年来の縁だがこんな事を考えていたなんて思いもよらなかった。




「やっぱりな・・・俺達の事が理解出来ないって目をしてる、そういうトコなんだよお前が弾かれるのは。別に俺達が特別って訳じゃ無い、寧ろ俺達寄りの奴等の方が多いくらいだ。お前みたいな奴の方が少数派なんだ冒険者ってのは。」



そんな馬鹿な・・・俺達は、いや俺は人類の希望だから冒険者に憧れて加入したんだ。


その気持ちが揺らいだ事なんて一度も無い。


それなのに他の奴等はそうでも無い?だったら誰が迷宮を枯らせるんだ?人類の終焉を憂うより遊んで暮らしたいなんて狂ってる・・・


俺は余りの事に一歩後ずさる、すると対面に座っていたバルラスが顔を俯かせながら話しかけてくる。



「一応、十年来の友だと今でも思ってるから注告してやる。カレアル、お前はいったい幾多の迷宮を枯らせりゃ気が済むんだ?言っておくが世界には数えきれない程の迷宮があるんだ、俺達がどんなに頑張ったて世界にとっては何の影響もねぇよ。お前は俺達とは違う意味で夢を見過ぎだ。」



今なら俺が後方支援に回りさえすれば後で手厚く報いてやる、だから納得しろ。

そんな事を言われた気がするが俺にはもうコイツらの言ってる事が頭には入って来なかった。




その後もどういった経緯でアイツらと別れて拠点を出たかも覚えて無い程に俺の頭の中はグチャグチャだった・・・




気が付いたら常連宿である【母熊亭】で自室同然に使っていた部屋のベットに仰向けに倒れ込んでいた。


「巫山戯るなよ・・・」


右手を握り締め左手で顔を覆って行き場のない悔しさを口から吐き出した・・・




誤字脱字には気をつけているつもりですが、もし発見された場合は感想欄に通報してやって下さい。

それとこの小説が少しでも面白ければ気軽にブクマと評価の程お願い致します。

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