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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ミュゼリット王国の転生者

極道転生者の仁義なきかくれんぼ

作者: 美都さほ

ミュゼリット王国の転生者シリーズ


前半ミアンナ視点、後半ステファン視点

「お嬢…見っけ」

「マサ…」

「親父が心配いてます。帰りましょう」

「じゃあ、抱っこして」

「喜んで!」


東雲組の組長の娘として生まれたアタシ。両親や組員に溺愛され育った。何処に行くにも護衛の組員が一緒で、厳つい男共に囲まれたアタシに近寄る奴が居る筈も無く、友達一人いない淋しい幼少期だった。そんな生活に嫌気がさし度々家出を繰り返していた。そして、何時も見付けてくれるのが、マサだった。


マサはスキンヘッドで強面の太マッチョ。見た目に反して気の弱い優しい男だった。不貞腐れるアタシの頭を優しく撫でては大事そうに抱えられて帰る道のりがとても好きで、何時しかマサに見付けて欲しくて家出するようになったと言っても良い程だ。


「何でマサは、アタシを見付けられるの?」

「何ででしょうね?お嬢の気配を感じるんですよ」

「うわっ!気持ち悪い!」

「ハハハ。酷いな~」


そんな悪態をつきながらも、赤くなる顔を見せまいとギュッとマサの首に両手を回し顔を埋めるアタシだった。


そしてその幼かった想いは大人になり恋心と言う言葉に変わった。


「お嬢…こんなオッサンで良いのですか?」

「マサじゃないと嫌だ!」

「幸せにします…お嬢」


アタシ達は父である組長他組員全員に祝福され婚約した。高校卒業と同時に結婚する予定だった。


しかし…幸せな結婚生活は敵対する組の弾丸で夢と散る。


「お嬢…すみません…幸せにするって言ったのに…」

「アタシは…幸せだったよ…」

「生まれ変わったら…今度は…必ず…お嬢と…」

「ちゃんと…アタシを見付けてよ…」

「それだけは…自信があり…ます…絶対見付けて…抱き締めるから…逃げないで…ください…よ…」


知ってる…家出したアタシを見付ける事が出来たのはマサだけ。生まれ変わりがあるとしたら、きっとアタシを見付けてくれる。そしてアタシもマサを見付けてみせる。薄れゆく意識の中アタシはマサの腕の中でそう心に決めた。



此処はミュゼリット王国の王都ジュパン。アタシの名前はミアンナ。ドーウィン伯爵家の一人娘だ。そしてアタシは前世の記憶がある…極道の娘から貴族の娘になった転生者だ。


アタシが前世の記憶を思い出したのは、此処ミュゼリット王国の宮殿の庭、貴族の幼い令息令嬢が招待されたお茶会での事だった。

一人の貴族令嬢に群がる貴族令息達。その中の一人の美少年を見た時…激しい頭痛と共に記憶の波が押し寄せて来た。


あの美少年は…マサ?


何故、分かったかは分からない…でも断言できる、あれはマサの生まれ変わりだと…。


マサはこの国の貴族令息に生まれ変わったのだと。


フラフラとマサに近寄り声を掛けようとした。マサはアタシを一瞥するとフイっと顔を背け可愛い貴族令嬢に微笑み掛けていた。


『生まれ変わったら…今度は…必ず…お嬢と…』

『それだけは…自信があり…ます…絶対見付けて…抱き締めるから…逃げないで…ください…よ…』


嘘つき…。

アタシはそのまま意識を失った。


目が覚めると見慣れた天井が目に入る。


「お嬢様!気が付かれましたか!」


ベッドの傍らに膝をつき涙を流している侍女の姿があった。


「旦那様と奥様を呼んでまいります!」


パタパタと駆けて行く侍女を横目に庭園での出来事を思い出した。

厳ついスキンヘッドの太マッチョのおっさんが、見目麗しい貴族令息に生まれ変わっていた。


マサは前世の記憶が無いのだろうか?


あの時確かに目が合った。必ず見付けて抱き締めると言ったのに…目を逸らし他の女の子に微笑み掛けていた。

若干イライラしながらも心を落ち着かせる。きっと面と向かえば気付いてくれる筈。アタシだって気付いたんだからマサなら必ず…。


「可愛い、可愛い、ミアンナ!パパは心配で死ぬ寸前だったよ!」

「可愛い、可愛い、ミアンナ!ママは心配で十歳老けてしまったわ!」


今回も両親や周りの皆はアタシを溺愛する。前世と違い家出しても見付けてくれるのはマサじゃ無い事は確かだ。

まあ、家出する気は無いけどね。


「可愛いミアンナに王家の方がお見舞いにいらしているよ」

「第二王子のステファン様よ」

「王子さま?」


倒れてから三日程経った日に、王子が我が家へやって来た。

王城で倒れたから見舞いに来ていると聞かされた。そして現れたのは…美少年に生まれ変わったマサだった。


「いきなり目の前で倒れたからビックリしたよ」

「ごめんなさい」


バッチリ目が合う。見つめ合うアタシ達…数分が経過した。


「大丈夫そうだね?僕は城に帰るよ」

「えっ?」


じゃあねと振り返りもせず去って行くステファン。護衛の騎士が頭を下げ王子を追い掛けて行った。


アタシは気付いて貰えなかったの?


ポツンとベッドに残されたアタシは仄暗い負の感情に心を支配されていく。


上等だ!ゴルアアァァ!!


美少年に、それも王子に生まれ変わって調子に乗ってんのか⁉

お嬢の気配を感じるって言ってたのは何処のどいつだ!微塵も感じてる素振り無かったよな!


こうなったら意地でも気付かせてやろうじゃないか!

首を洗って待ってやがれ!


しかし…その後、王城で催された茶会の度に近付いてもマサがアタシに気付く事は無く、その他の令嬢と仲睦ましくする姿に心が疲弊していった。


そしてアタシは…諦めた。



今世のアタシはメチャクチャ可愛い。そして、メチャクチャモテる。前世はガサツで目つきが悪く組長の娘と言う事もあって同年代の男達は近付きもしなかった。


「ミアンナ嬢、貴女にこのドレスを!」

「ミアンナ嬢、貴女の肌を飾る宝石をどうぞ」

「ミアンナ嬢、貴女に似合う花を贈ります」

「ありがとうございます~わたくし嬉しいです~」


マサとの再会を諦めたアタシは新しい恋でマサの存在を忘れようとした。見た目通りの可愛いキャラを演じれば男達はホイホイと言い寄ってくる。チョロいなこの世界。


そんなある日、アタシは聖女に選ばれた。


勇者と聖女を盛大に送り出すと言う名目の壮行会が開かれ、アタシは今久し振りに王城に来ている。そして目の前にはマサことステファン王子が立っている。サラサラの黄金の髪と水色の瞳、口角の上がった唇が柔らかな微笑みを携えている。スラリとした身体に上品な所作…暫く見ない間にまごう事無き王子になっていた。


「やあ!ミアンナ嬢、久し振りだね」

「ステファン王子さま~盛大な壮行会、ありがとうございます~」

「私も討伐に同行する事が有るらしいからその時はよろしくね」

「王子さま直々に討伐に参加されるのですか~危ないので来ないでくださいまし~」


現在、ステファン王子は隣国の王女との婚約が秒読みだと噂され、前世の恋心がグルグルととぐろを巻いていた。要するに…ムカついていた。結局、マサを忘れさせる相手には出会えなかったのだ。

アタシの恋心が鎌首をもたげて牙をむく前にこの場から去って欲しい…そして二度とアタシの前に現れるな!


「私も民を守る義務があるからね」

「でも~婚約者さまが心配されますよ?」

「まだ婚約はしてないよ?瘴気を浄化して魔物の討伐が終わってから求婚しようと思っている」

「そうなのですね~おめでとうございます…」

「ありがとう!ミアンナ嬢も浄化が終われば幸せにしてくれる人がきっと見つかるよ!」


前世で浴びた弾丸よりも痛みを感じる一言。


『生まれ変わったら…』マサの言葉が霧散する。抗争も戦争も無い平和な世界に生まれ変わったのに…心は血の涙を流している。牙をむいた恋心はアタシ自身にかみついたようだ。


もう…終わりにしよう。アタシは心を閉ざした。


■■■■■■■


『………嬢………』

『………』


黒い髪の少女が私を見て安心した顔をする。私は抱き上げ頭を撫でる。私の心が幸福でいっぱいになっていく。


コンコン。ノックの音で目が覚めた。見ていた夢が朧げになる。


「どうされたのですか⁉」


侍女のエメラルダ嬢が心配そうに声を掛けてきた。今日も可愛いなウチの侍女。


「ん?どうもしてないけど?」

「涙を流しておられますよ?」

「えっ?」


頬に触れると言われた通り濡れていた。


「夢を見ていた…」

「悲しい夢だったのですか?」

「いや…幸せな夢だったと思う」


何故か茶会を開く度に見ていた夢…ここ数年はぱったり見る事が無かったのに…昨日の壮行会の所為だろうか?その夢を見ると幸福感と焦燥感が同時に押し寄せて来ていた。久し振りに見た夢に胸がチクリと痛んだ。


何故だろう…何かとても大事な事を忘れている気がする。


頭を振り気の所為にする。それが私の処世術。気付いた時に対処すれば何とかなる!だって私は王子なのだから!


私の名前はステファン・ロロソル・ミュゼリー。此処ミュゼリット王国の第二王子だ。偉大な両親、優しい兄、優秀な弟、奥ゆかしい妹に囲まれのほほんと育ってきた。そんな自分に不満は無い。討伐が終われば隣国の姫を迎え入れ幸せな結婚生活を送る事だろう。


幸せな結婚生活…?


またしても浮かんできた疑問を頭の隅に追いやりモーニングティーを飲む…可愛い侍女が淹れてくれたお茶は美味しいな。


私は再び頭を振り朝の穏やかな日差しに目を細めた。



壮行会から数年が経ち討伐も佳境を迎えたある日、私は勇者一行と共に東の森へと赴いていた。


「勇者さま~今日もボロボロですね~毎夜何をしていますの?」

「ダンジョン攻略」

「ダンジョンなんかありましたかしら~?」


勇者と聖女が仲良さそうに話している。もう直ぐ討伐が終わる所為か殺伐とした雰囲気は無く穏やかだ。もしかするとこの二人、討伐が終われば結婚するのかもしれないな。


「もしかしてお二人は恋人同士なのですか?」

「「違います」」


即答だった。勇者には睨まれ聖女にはそっぽを向かれた。そう言えばこの討伐で聖女のミアンナ嬢と一言も喋って無い事に気付いた。成る程、聖女と王家は過去婚礼を結んだ事が多々あると聞く。婚約が近い私に変な噂が立たないよう気を遣ってくれているのか。


「これは失礼。仲が良いので勘違いしました」

「気にしないでくださいまし」


そっぽを向いたまま駆け出していくミアンナ嬢。そこまで避けなくても良いのに…ちょっと淋しい気持ちになり頭を振った。


暫くして勇者一行は二手に分かれる事になった。夜が近いので討伐組と浄化組に分かれる事にしたのだ。私は討伐組に回された。魔物を殲滅した後合流地点に戻ると魔法使いの面々が慌てた様子で駆けつけてくる。


「聖女様がはぐれてしまいました!」

「えっ?」


浄化途中で弱い魔物に出会い対処していたらミアンナ嬢だけ姿が見えなくなっていたらしい。


「マズいな」

「手分けして探しましょう」


私は騎士二人と共に今にも雨が降り出しそうな夕暮れの森に足を踏み出した。


「聖女様~!」

「居たら声を上げてくださ~い」

「ミアンナ嬢~!」


案の定降り出した雨に私達の声がかき消される。きっと一人で心細い思いをしているだろう。早く私が探してあげなくては…。


私が探す…?


不意に浮かんだ疑問に立ち止まる。何かを思い出そうとしてその何かが掴めないもどかしさ…私は頭を振り疑問を霧散する。


今はミアンナ嬢を探すのが先だ!


「殿下!あの光は何でしょう?」


鬱蒼と生い茂る木々の間から見えるぼんやりした光…おそらくミアンナ嬢の照明魔法!私は光に向かって駆け出した。


「ミアンナ嬢!」


私の声に俯いていた顔を上げるミアンナ嬢「……」何かを呟き安心した顔を覗かせた。夢で見た黒髪の少女がそこに居た。


『抱っこして』

『喜んで!』


押し寄せる記憶に圧し潰され俺は意識を手放した。



「お嬢!」


空を掴みガバリと起き上がった俺は強い眩暈に襲われ倒れ込む。


「兄上!急に起き上がらないでください!」


頭を押さえ横を向くと弟のドナテルノと侍女のエメラルダ嬢が心配そうに俺を見ていた。


俺はあの森で倒れ三日間熱にうなされ意識が無かったそうだ。雨に濡れた事と疲れが溜まっていた事での発熱と診断されたそうだ。

だが…実際は違う。ミアンナ嬢の安心した顔を見て過去の記憶…いや、前世の記憶がなだれ込んだ所為で俺の脳が処理できなくなって熱を出したんだ!


俺はとっくに生まれ変わっていたんだ。


そして押し寄せる現実…マズい!非常にマズい!!


探し出したミアンナ嬢が俺を見て漏らした言葉…。


『マサ…』


お嬢も生まれ変わっていた!そして前世の記憶がある!

きっと…俺よりもずっと前に!

思い出した幼い頃の記憶に発狂したくなる!


ミアンナ嬢に出会ったのは幼い頃の茶会…フラフラと近寄って来た彼女を無視して違う女の子に笑い掛けていた…。そしてミアンナ嬢は倒れた…この時記憶が戻ったんだ!無理矢理見舞いに行かされた俺はいたわる言葉も掛けずそそくさと城に帰った…。その後の茶会でも纏わりつく彼女が鬱陶しくて避けた…何時しか彼女は茶会に来なくなった。


そして…再会した壮行会のあの日…。


『まだ婚約はしてないよ?瘴気を浄化して魔物の討伐が終わってから求婚しようと思っている』

『そうなのですね~おめでとうございます…』

『ありがとう!ミアンナ嬢も浄化が終われば幸せにしてくれる人がきっと見つかるよ!』


取り返しのつかない事を言ってしまった…。


「ドナテルノ…俺を殺してくれ」

「何言ってんの⁉」

「俺はこの命で傷付けた彼女に償いたい」

「だから、何言ってんの⁉」

「お医者様を呼んできます」


遠ざかるエメラルダ嬢の足音を聞きながら俺は再び意識を失った。



「右か左か決めて下さい」

「ステファン殿下…危ないのでその小刀仕舞ってくださいまし」


目を覚ました俺は王宮で休息していたミアンナ嬢のもとへ足を運んだ。侍女を下げさせ部屋には二人きりだ。


「俺のしでかした事は両手でも足りませんが、どうか小指一本で許してください!」

「あの~言っている意味が分かりませんわ」

「お嬢を傷付けた落とし前を付ける為、指をツメます!」

「……えっ?」

「お嬢!すみませんでした!」


俺は布を左手にグルグルと巻き付け小刀を右手に持った。


「アホんだらーー!こっちの首が飛ぶわーー!!」


蹴り落とされた小刀がクルクルと床を滑っていく。次の瞬間、頬を張られる渇いた音が広い部屋に響いた。


「二度とするんじゃねえ!」

「お嬢…」

「やっと、思い出してくれたんだ」

「はぐれたミアンナ嬢を見付けた時に…」

「そうか…でも…思い出すのが遅かったよ」

「お嬢?」

「婚約者と幸せになってね」


鳩尾に激しい痛みを感じた瞬間…俺の意識は暗転した。



「お嬢、見っけ」

「ステファン殿下…」


瘴気の浄化が済み魔物の討伐も終わる頃、お嬢は姿を消した。


俺はあの日目を覚まして直ぐに王女との婚約を白紙に戻す為隣国へと渡った。あっさりと了承され帰国する。

その後お嬢の気配を辿り見付けては討伐に同行した。おりをみて破談の話をしようとするが魔法で壁を作っているようで近付けない。

俺はこれまでの罰としてその状況を受け入れた。

そうしている内に浄化が終わりお嬢は勇者一行から外れる事となったのだ。そして今に至る。


「逃げ出しても無駄です。何処に居ても探し出しますから」

「ステファン殿下…それ以上近付かないで!」

「俺の婚約は破談になりました!俺はフリーです!」

「はあ…」

「今度こそ俺と幸せになってください」

「マサ…」

「お嬢…」


この手に抱き締めようと駆け寄ると、突如現れた壁に顔面を強打した。


「ごめん、まだ心の準備が出来てない」

「はい?」

「イケメン過ぎて近くで直視出来ないのよ~」


そう言ってお嬢は魔法を使い逃げて行った。まさか…婚約者の存在じゃ無くこの顔が問題なのか?それを言うならお嬢だって…。


逃げ出したお嬢の気配を探り出す…今度こそ抱き締める為に。


お読みいただきありがとうございました。

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