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戦場日常。時々平和。  作者: 楽助 陽気
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1-1帰投

俺はランディングポイントに到着したヘリに乗り込み、燃え盛る敵の基地を後にした。装備していた武装全てに安全装置をかけてマガジンを抜き、座席に座る。

 ふと体に何か違和感を覚え、自身の服をまくり上げて顔の前に持ってくる。

――少し血の匂いが残っている·····

 帰ったらまず、お風呂に入ろうかな。

 なんて事を考えながら、俺はゆったりとくつろぎながら到着を待った。

「そろそろ目的地ですよ」

四時間程たってから、パイロットが振り返って伝えてくれた。

「ん。ラジャ」

ヘリが速度と高度を落とし始める。

 

「なあ、パイロットさん?」

「なんでしょうか」

彼は振り向かずに答える。

「これは本当にヘリなのか?戦闘機の両翼にプロペラが入っているだけのように見えるのだが」

「私には分かりません。これを操縦して一年ですが、そう疑問に思った事は何度もあります」

「はは、君もそうか」

そんなくだらない話をしていると、目的の場所が見えてきた。ヘリは目的地の上空に止まり、更に高度を落とす。

「そろそろだな。」

側のドアをスライドして開くと下には、俺が見慣れたアパートの屋上がある。

「では。」

 俺はヘリから飛び出すと、そのままアパートの屋上に着地した。上を見上げると、滞空していたヘリが遥か彼方へ飛んでいくのが見える。本来ならば立ち入り禁止であるはずの屋上への扉を易々と蹴破って、階段を降りていく。

 数階下った先に俺の部屋がある。406号室の鍵を手に取りドアノブに差し込むと、音もなく扉が開いた。どうやら鍵をかけ忘れたらしい。

 ここ数日任務で自宅に戻ってなかったので、かなり中が悲惨なことになっている。まぁこんな部屋に空き巣に入ろうとは思わないだろう。

 盗難の心配は無いな。

 今の俺の武装している姿を見られると厄介なので、足早に部屋に入り、ドアの鍵を閉める。

「はぁ、疲れた。遠征は勘弁してくれよ。もっとこう、国内のテロとかの制圧にまわしてくれないもの――」

 靴を脱ぎ部屋に上がった所で俺は一瞬固まり、その後に腰に下げていたハンドガンを安全装置を解除しながら引き抜く。予備のマガジンを差し込んでいつでも撃てるようにした。

 人が入ったような痕跡が会あった。しかも、ついさっきに付けられたようだ。

 俺が周囲を確認していると、すぐ側で鳴き声がした。

「ナー」

 猫じゃないか。それも、黒くて、モコモコしている子猫。

「か、かわいい」

 全く、ダメじゃないか。こんな所に迷い込んで。

 俺は黒い子猫を持ち上げると、そのまま玄関の外へ――

 は、やめとこう。この子猫も好きでここに入ってきたのかもしれん。

 俺は子猫を持ち上げたまま、部屋に入る。部屋に放つと、元気にソファの上やテーブルの下などへ走り回って、部屋を一周するとまた俺の所へ戻ってきた。

「ニャン」

 こいつ。俺の足に顔を擦り寄せて来たぞ。

「ッ――」

 かわい過ぎる。任務の疲れもあってか、気絶しそうになった。無理は良くないな。お風呂に入った後、少し昼まで寝るとしようかな。勿論子猫と一緒にだ。

 俺は子猫をもう一度持ち上げ、先にベッドの上に放してき、風呂場へ移動する。

 黒い色のスポーツジャージを上下脱ぎ、下着姿になる。普通の隊服よりこちらの方が軽快に動きやすいという理由でジャージを着ているが、本来では到底有り得ない行為である。それだけ、俺の部隊は特別扱いされているのだ。

 部隊員は邪魔なので俺一人だし、拠点も俺の住んでるマンションにしてもらっている。

 これだけ自由な部隊になっているのは、やはりそれ相応の戦果を挙げているという事だろう。


 鏡には、可憐な少女が写っている。勿論俺だ。何度見ても変わらない。

「はぁ、嫌になってくるな。この身体」

 黒髪黒目の黄色人種。百六十三センチという小柄な体格に、細い四肢。これでは到底男性には敵わないだろう。胸もあるだけ邪魔なのだが、邪魔になるほどの大きさは無い。

 下着をバスケットに放り込み、風呂にお湯を入れるスイッチを押して風呂場の中へ入る。

 腰まであるロングの黒髪を洗ったり、体に付いた血の匂いをゴシゴシ洗ったりして、お湯が溜まるのを待つ。


 ピロリン

 最後までお湯が入りきった合図のメロディがなったので、湯船に浸かることにする。

 温度は高めの四十四度。つま先からそっと入っていく。

「゛あ゛あ〜」

 全身が湯船に入った時、一気に疲労が出ていくのを感じる。今回の任務、よく頑張った俺。


 風呂から出て、そこら辺にしまってあった下着を着て子猫がいるベッドに直行する。子猫は律儀にベッドの上で待っていたようだ。

「ミャオ」

 かわい過ぎる。俺はそのままベッドに飛び込み、子猫を抱きながら寝ようとした。

 そういえば、この子猫の名前まだ決めてなかったな。どんな呼び名が良いだろうか。

 俺の名前がコンバ・レイだから·····

 苗字のレイを取って、ミレイとかどうだろうか。よし、決めた。今日からお前の名前はミレイだ。

「これからよろしくな。ミレイ」

 腕の中で丸まっているミレイが、名前に反応したようにミャオと鳴いた。

 俺はミレイの温もりを感じながら、ベッドの中で眠りについた。



 ――

「おい! 掃除屋が来たぞ逃げろ!」

 激しい爆音と共に、目の前が真っ赤に染まった。私はここでなにをしているのだろう。

「コンバ。お前だけでもここから逃げてくれ」

 そうだ。掃除屋が来たのだった。父が私をかかえ、家の外に出した。


 スラム街や反社会勢力等の、『社会の汚点』を掃除しにくる掃除屋。彼らが通った後は全て焼け野原になるらしい。

 掃除屋は何かの組織によって動いているのではなく、完全に独立した勢力である。二つの国を自由に行き帰り出来るのも彼らの特権とも言えよう。しかし、彼らの残虐非道な行為には両国が賞金をかけるほどのものであった。


「嫌だよ! パパ!」

 私は掃除屋を食い止めるべく立ち向かった父の背中にしがみついた。掃除屋なんかに抵抗なんて無意味だ。

「それでも、俺は向かわなくちゃならないんだ」

「どうして!」

「ここには老人だって居る。お前みたいな子供もだ。ここの町の男として、お前の父として。な」

 私だって、この街の住民達が好きだ。けど、それ以上に父が好きなのだ。行って欲しくない。

「わかってくれ―― ぐわっ!」

 炎の中から掃除屋が飛び出し、父と取っ組み合いになった。当然、かなうはずもなく、あっという間に馬乗りになった。

「パパ!」

「行け! 逃げるんだ! ぐッ」

 恐怖で頭が真っ白になった。私のすぐそこまで掃除屋が放った炎が迫っているのだが、体が動こうとしなかった。

 私の目の前でただ父が殴られているのを見る事しかできなかった。

「何やってるんだ! コンバ」

 すぐ後ろで声がしたと思ったら、私の身体が何かに抱えられて移動を始めた。近所のお兄さんだ。どうして逃げているのだろう。父が襲われている方向はあっちだ。

「ねぇ! パパはどうするの!」

 お兄さんは黙って走り続ける。嘘だ。そんな、止めてくれ。


 お兄さんの手から逃れようとじたばたしていると、遠方から父の声がした。


「コンバ! 何としてでも生き残ってくれ。それと近所の兄ちゃん。良くやってくれた·····よ」



 ――ガバッ

「なんだ·····夢か」

 目覚めが悪いな。酷くうなされていたのか、ミレイが隣で心配そうに見つめていた。

「悪いな、心配させて」

 俺は上半身を起こして、ミレイの顎をなでる。


 ――あの夢は、俺の幼少期の頃のものだ。

 俺がこうして無事に生き延びられたのは、近所のお兄さんが私を抱えて走ってくれたからだ。その後、お兄さんも出血が酷くて死んでしまった。

 その後に俺は政府に掃除屋の被害者として保護され、施設での暮らしをする事になったのだった。


 あの時の俺――いや、私は恐怖で動けなかった。私があの時動けていれば、父は死んでいなかったかもしれない。あの時の弱々しい自分を何度も呪った事か。


 今の俺はあの時の私とは違う。女性であることを捨て、男として強く生きる事を決意したのだ。もうあんなヘマは犯さない。


 ミレイの顎をなで続けていると、何かカチッという音がした。俺がミレイの首元に視線を落とすと、首輪が現れていた。

「光学迷彩か。にしても、猫になんでこんなものを」

 その首輪を観察していると、首輪から声がした。


「おい、コンバ・レイ。聞こえているか」

 

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