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一人の夜にご来場です

 ダンジョンへの来訪を告げる合図が鳴り響き、僕はモニターをダンジョンの入り口に向けた。

 そこにはひとりの女性が映っている。


「また女性さっきのですか、テトラもいないのに、何かあったらどうしよう・・・。」

 

 そこには先ほどダンジョンから逃げ帰って行ったはずの女性が映っていました。たしか、レイジアさんでしたね。後ろにまとめた黒髪で、すぐにわかりました。

 こんな時間に、また一人でやってきたんですか・・・。

 

 二度目のご来店は有り難いですが、みているだけでハラハラするので心臓に悪いんですよね。でも、今度はなんだか装備が変わってます。

 皮の鎧を身につけていますし、腰に下げた袋も先は程持っていませんでした。

 

 今度はどうするつもりでしょう?

 

『このダンジョンのお宝は、絶対に私が獲得して見せるわ!』

 

 なんと!聞いてもいないのに、目的のご説明ありがとうございます!!

 でもレイジアさん、それは無理なお話ですよ!?だって、お宝なんてないですし!

 そもそもあったとしても、あなたの実力では二階より先には進めそうもありません。

 僕が言うのはなんですけどね、みすみす命を落とさせるのはとてもじゃないけど出来ません。

 なんとか止めに行きたいですけど、今の僕はまともに動く事が出来ません。

 頑張れば、少しくらい動けるかな?ホント、自分が情けないですね。

 

 でも、どこからそんなお宝の話が出てきたのでしょう?まだオープンして日は浅いです。

 そこまで噂話が広がってるんですかね?有り難い事なんですけど、それならそれでもう少しお客様が多くてもいいと思うのですが・・・。

 

 あ、レイジアさんが歩き始めました。

 止めに行きたいけど・・・。どうしましょう。

 

『スライムか、また現れたわね。あんたじゃ話にならないわ!』

 

 直ぐにスライムと遭遇したみたいです。彼女は剣を引き抜いてスライムに向かっていきます。

 さっきみたいにコケたりしないか心配です。

 

『たぁぁあ!!』

 

 振るわれた剣は、真っ直ぐにスライムに向かっていきます。今度は大丈夫そう。

 ズバッとスライムを切り裂いて、見事に勝利です。

 

『よし、進むわよ!』

 

 彼女はそのままダンジョンの奥へと進んでいきます。

 ゴブリンの群れがまた出てくるかもしれないのに、何が彼女をこうも動かしているんでしょう?

 

 軽快に進んでいく彼女の前に、やっぱりゴブリンは現れました。

 先ほどよりも少ないですけど、4匹もいます。彼女はどうするんでしょうか?

 

『どけぇぇえええ!!!』

 

 なんとレイジアさんはそのままの勢いでゴブリンに向かって突っ込んでいきます。

 なんて勇気ですか!?

 弱いはずなのに、それだけでは片付けられない勇猛さを持っています。

 僕には無理ですよ。

 

『たぁ!』

  

 彼女は向かってくるゴブリンの攻撃を紙一重のところで何とかかわし、ゴブリンの足を切りつけました。

 さっきとは、まるで動きが違います。

 いったい何があったのですか!?

 

 ゴブリン達の間をくぐり抜けて、彼女はそのままダンジョンの奥へと走って行きました。そのまま二階層までノンストップです。

 

『はぁ、はぁ・・・・・。

 私も、やればできるのよ。』

 

 自分に言い聞かせるように、彼女は肩で息をして一息ついていました。

 今は二階層へと続く階段の途中です。でも、ここから先にはなるべく進んで欲しくありません。魔物の種類こそ少ないですが、キラードッグが待ち受けています。

 

 騎士団達に大分倒されましたが、残党が残ってます。それにテトラの魔力によって、時間が経てば魔物達も復活してくるでしょう。

 流石に無茶です。それに、彼女の言っていた宝なんて無いんですから。

 また引き返してくれると思って彼女の様子を見ていましたが、期待を裏切って奥へと進まれてしまいました。

 どうしよう・・・。

 

『さて、次!』

 

 彼女は息を整えて、再び歩き出します。テトラが帰ってくるまでまだまだ時間がかかりそうなのに、キラードッグなんかに囲まれたら助けようがありません。

 いよいよ困った事になってきました。

 

『あら、魔物の気配がしないわね。』

 

 彼女は辺りを警戒しながら進んでいきますが、さっき来た時はゴブリンの接近にも気づいてませんでしたよね!?

 その感覚、当てにならないと思いますけど!?

 

 彼女は自分の感覚を信じて先へ進んできます。光魔石で照らされた洞窟を一人で進む姿は、とてもカッコよく見えます。でも、不安と心配が入り混じって僕はドキドキしっぱなしです。

 

《グルゥゥゥうう》

 

 分かれ道を進んだ先から、キラードッグの音声がモニター越しに聞こえてきました。その声に気付き、彼女も歩みを止めます。

 彼女は緊張を顔に出しましたが。それ以上に僕のドキドキは最高潮に達しつつありました。

 

『どこ!?』

 

 彼女は眉を寄せ、薄暗い洞窟の奥へ意識を集中します。光魔石が照らし出すその先に、1匹のキラードッグの影が映り込みました。

 どうやら群では無いようですが、彼女にとっては勝てる相手では無いと思います。

 最初の冒険者でさえ、3人揃って逃げ出したんですから。

 

『キ、キラードッグ!?』

 

 レイジアさんも魔物の事を知っているみたいです。やっぱりこう言うところに来る人は、僕と違って知識を持っているんですね。

 なら、その強さも知っているはず。逃げ出していくに違いありません。無知なまま無謀に挑まれるよりはよっぽどいいです。

 

『私は、引くわけにはいかないのよ!!』

 

 彼女は再び剣を抜いて、キラードッグと対峙しました。

 なんで!?どうして彼女は挑むんですか!?

 無謀ですよ!!

 

《グガァァア!!》

 

 キラードッグは彼女へ向かって一目散に駆け始めました。


『どきなさいよぉぉおおお!!!』

  

 彼女は怒声を響かせて、キラードッグに迎え撃ちます。先ほどゴブリンと戦っていた時の八相の構えではない。

 右足を引き、体を右斜めに向けて刀身を右脇に。剣先を後ろに下げて体制を縮める。相手に刀身の長さを認識されないその構えは、陽の構えとも言われる脇構えだ。

 自分が弱いので強い人に憧れてこう知識はあるんですが、相手の速度を見極めて間合いに入った瞬間を狙うこの構えは、それ相応の速度と正確さを要するはずです。

 大丈夫でしょうか!?

 

『だあぁぁぁぁああああ!!!』

 

 彼女は剣を振るう、揺るぎないものをその心に背負って。

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