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第07話 魔王は魔力を回復したい

「うむ、ここはなかなかの場所だな。よくやった、褒めて遣わす」

「そ、そうですか? 良かった、えへへ……」


 俺はその日アリーゼに頼み、山の中の洞窟の一つへとやってきていた。

 ちなみにモニも勝手に着いてきており、俺たちの後ろでふよふよと浮遊している。


「じめじめとした湿度、日の入らない深淵の闇、垂れ下がる鍾乳洞……なかなかに魔王ポイントが高い」

「魔王ポイントってなんですか……?」

「言葉の綾だ。水脈・地脈・霊脈は密接に関わっている為、このような場所には魔力が滞留しやすいのだ」


 俺はそう言いながら、松明を手にかざしつつ、暗い洞窟の中を先導して歩く。


「しかし少し人の手が入った痕跡はあるか……?」

「え、ええっと、ババ様に聞いた話だと、この辺は昔の遺跡があるとかいう話も聞いたことありますけど……この洞窟がそうなのかは、ちょっとわかりません」


 アリーゼの言う通り、洞窟にはちょくちょく蝋燭を灯すような場所が設置されていた。

 完全に自然な洞窟というわけではなさそうだが、それでも魔力が滞留しやすい条件が揃った洞窟であるのに変わりはない。

 俺は目的の物を探す為、洞窟の奥へと進む。

 そして薄暗い洞窟を歩いて数分のこと、足下に鈍く輝く鉱石を発見して拾い上げた。


「……当たりだ。これを見ろ」


 後ろの二人に、その鉱石を差し出す。

 青白く輝く鉱石を見て、モニが声を上げた。


「それは……魔鉱石ッスね!?」

「そうだ。長い年月の間、魔力にずっとさらされ続け、その内に魔力が蓄積された石だ」


 俺が洞窟にやってきたのは、それを探しに来てのことだった。

 探し方を知っていればそんなに珍しい鉱石ではないが、市場に安価で流通するようなものでもない。


「これを使って俺の魔力を底上げする。……どうも(はい)()(どく)の後遺症で上手く魔力が回復しないようでな」


 魔力量を段階的に示す為、人間の魔術師たちはレベル(階層)表記による段階的区分を付けている。

 その基準によると、元々俺の魔力レベルはベテラン冒険者クラスである30レベルほどはあったはずだが、今では一般冒険者クラスの10レベルまで下がっているようだった。


「魔力量を増やす為に、この魔鉱石を使う。こいつを砕くと……」


 俺は手に力を入れる。

 ……しかし鉱石はびくともしない。


「……少し待て」


 俺は再度魔力を込め、鉱石を握りしめる。

 しかし鉱石は変わらずその形を保っていた。


「……アリーゼ、少し血をくれ」

「へ? あ、は、はい……」


 やや情けなさを感じながらも、それをなるべく見せないようにしながらアリーゼの首筋に口を寄せた。


「んっ……くぅ」


 アリーゼに血を吸わせてもらい、自身の魔力を増強する。

 この魔力がずっと続けば良いのだが、残念ながらこれは一時的な物に過ぎないのだった。


「……助かる」


 アリーゼの首筋から口を離し、改めて手に意識を集中する。

 その指先に力を込め、魔鉱石を粉々に砕いた。


「……よし」


 砕ける瞬間、一瞬だけ鉱石から強い光が放たれる。

 それと同時に、わずかながら自身の内側に暖かな感触が宿った。


「……これを繰り返すことで、一定の魔力量までは回復することができるはずだ」


 俺の説明に、アリーゼが感心するように頷く。


「魔術師の方はこうして魔力を上げていくんですか?」

「……人間の魔術師にいたってはそうとも言えない。魔力を破壊力に転化するのは、俺のような生まれながらに魔力の扱いが得意な魔族か、高位魔術師に限られるからな」


 石を砕く方法があれば別だが、簡単に砕けるほどの魔力があればそもそも魔鉱石を必要とするほど魔力が低くはないだろう。

 俺のように何らかの理由で元の魔力量を戻すときなどに使える手法だ。


「……というわけで、俺は魔鉱石を探す為に奥へと行く。お前たちはどうする?」


 俺の言葉に、アリーゼとモニは顔を見合わせた。


「えっと……ここで残っているのも怖い……かも……」

「たとえ火の中水の中土の中! お供するッスよ! 魔王様ぁ!」


 二人の返事に俺は頷くと、そのまま奥へと向かうことにした。



 * * *



 奥へ進む度に、少量の魔鉱石の鉱脈が見つかる。

 俺は魔力を乗せた拳でそれを砕いては、少しずつ魔鉱石の魔力を取り込んでいった。


「……そろそろ折り返した方がいいか」


 俺は三十分ほど歩いた後、そう言って足を止める。

 既に1レベルか2レベルぐらいの魔力量は上昇したように思える。

 『血の盟約』の力が継続するのはこれまでの経験上、約一時間ほど。

 狭い洞窟の中、何かあったことを考えるとこれ以上奥まで探索に行くのは躊躇われた。

 しかし――。


「……あ、でもあそこに何かあるッスよ」


 モニが暗闇の奥にぼんやりと光るものを見つけ、そこに向かって飛んでいく。

 それは松明の光を向けると、ほんのりと黄色に輝いていた。


「もしかして金鉱だったり……!」


 モニがそう呟いた瞬間、奥から伸びた何かがモニの腕に絡みついた。


「……へ?」


 モニが間抜けな声を上げる。

 俺は慌ててモニに駆け寄った。


「――モニ!」

「ぐおおお! 引っ張られるッス……!」


 見ればそれは黄色の触手だった。

 それが伸びる根元を見ると、そこには極彩色の何本もの触手の群れ。

 俺の手に捕まったモニが声を漏らす。


「あ、なんか痺れてきた……! これ、やべぇ奴ッスね……!?」

「――テンタクルローパーか!」


 テンタクルローパー。

 植物の一種で、その表面からヌルヌルとした粘液を出す魔物だ。

 粘液には獲物を麻痺させる効果があり、近付いた獲物を引き寄せてじっくりと消化する。


「魔王様、あたしはもうダメそうです……。モニは死ぬまで魔王様一筋だということだけ覚えていただければ……」

「余の腕の中で遺言を残すな! これしきの魔物……!」


 触手を握り、モニから引き剥がす。

 アリーゼの血を吸った俺にかかれば、これぐらいどうということはない。

 しかしそれと同時に別の触手が手首に絡みついてきた。


「くっ、こんなに狭い場所では焼き払うこともできんか――!」


 気合いを入れて麻痺毒に耐え、触手を引き剥がしにかかる。

 しかし……。


「……ん?」


 ぬるぬると纏わり付く触手に違和感を感じて、それをじっくりと眺めた。


「……全然痺れんな」


 見ればモニの肌はわずかに粘液が触れただけなのにも関わらず、少しだけ赤くなっている。

 しかしそれに比べて俺の腕はまったく変化していなかった。

 テンタクルローパーの粘液は触れただけで腫れてしまう強力な麻痺毒なのだが……。


「……そうか、もしや『血の盟約』のせいか」


 ユニコーンの血脈の固有スキル『血の盟約』。

 それは自身の魔力を増大させるだけでなく、血を吸った相手の能力を借用する力もあると聞く。

 アリーゼの血を吸うのが初体験だったので、その効果ははっきりとはわからないでいたが……。


「……もしかするとアリーゼの血の解毒作用が余にも発揮されているのかもしれんな」


 ローパーの触手をべたべたと触ってみるが、全然痺れる様子がなかった。

 ……よし、物は実験だ。

 

「……アリーゼ、少し触ってみてくれないか?」

「は、はい……」


 アリーゼは恐る恐る、俺に言われた通りその触手を指先で触ってみる。

 しばらくその表面をなぞっていたが、特段変化がなさそうだった。


「……なかなか便利だな、毒が無効というのは」


 俺は力任せにローパーを根元から引きちぎり、地べたに放り投げる。

 数本の触手が密集していたが、それら全てを千切っては投げ捨てた。

 根を抜かれたローパーは、しなびてその場に枯れていく。


「……む、奥が広間になっているな」


 この洞窟自体、人工物とみられる節があった。

 もしかするとこのローパー自体、人工的にここに植えられた物なのかもしれない。


「もしかして、お宝が……?」


 ふらふらとなったモニがよろめきながら立ち上がりつつ、そんなことを言った。

 古代遺跡の宝となると、かなりのマジックアイテムが眠っている可能性も考えられる。


「――もう少しだけ奥へ進んでみるか」


 俺は慎重になりながら、奥へと歩みを進めた。

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