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第35話 魔王は薬師の少女を笑顔にしたい

「フシュ……アァ……シュ……」


 聖騎士がまた剣へと魔力を集中させる。

 しかしこちらにはアリーゼが身を持って検証してくれた魔力の盾がある――!


「――レイ」

光裂く鈍色の銀腕(シャイン・ブレイカー)!」


 たった今名付けたガントレットで、聖騎士の放った光線を打ち消す。

 それと同時に、左腕から熱を感じた。


「これは――魔力か」


 光線の熱が伝わっているわけではなさそうだ。

 その熱は左腕を伝い、俺の全身へと巡っていく。

 魂が脈動するような感覚と共に、剣へと魔力を込めた。


「その力、返してやろう!」


 俺の魔力が炎に変換され、刀身に火炎が宿る。

 ――エンチャントは得意ではないが、この溢れる魔力なら……!

 無理矢理力技で炎を纏わせ、俺は赤く輝いた聖剣を振るう。


「――炎熱斬(ヒート・スラッシュ)!」

「グアア……!」


 聖騎士の鎧を溶かしながら聖剣はその胸を切り裂く。

 だがまだ浅いか――!


「シュゥァ……!」


 聖騎士が声をあげつつ、またも再生を行う。

 再生能力を抑える性質を持つ聖剣に斬られたせいか、その再生は遅い。

 しかし多少遅くなったところで、その再生力はトロールやそこらのモンスターとは桁が違っていた。


「……キリがないな」


 聖騎士の振るう剣をよけつつ、俺は呪文を詠唱する。

 こうなれば再生が追いつかないぐらいに魔力をぶつけ、焼き切るか――!?

 俺が次の一手を考えていると、聖騎士の後ろから声がした。


「――ほい、隙有りじゃ!」

「グオォ……!?」


 聖騎士のうめき声と共に、触手の生えたその左腕が千切り跳ぶ。

 俺はその腕を切り飛ばした竜人へと声をかけた。


「ローイン!」

「ありゃたぶん、寄生種のモンスターじゃな。こっちはわらわに任せとけ」


 見れば切り離された触手は未だ蠢いており、そのまま周りのアンデッドや兵士へと絡みついていた。


「助かる! さすが年の功!」

「誰がババアじゃ!」


 俺の褒め言葉に怒鳴りつつ、ローインは触手を切り裂いた。

 聖騎士は左腕を失いつつも、こちらへとなお斬りかかってくる。

 だがその剣には既にさきほどまでの重さは無い。


「ぬるい!」


 俺はその剣を受け止めた。


「シュ……フゥシュル、ハァ……!」


 聖騎士はまたも聞き取れない声で詠唱を開始して、剣に魔力を充填する。

 だが供給源たる触手がなくなったせいか、その様子がおかしかった。

 まるで空気が抜ける袋のように、その顔が干からびていく。


「魔力の操作もロクに出来ぬとは、哀れな狂戦士よ」


 俺は剣に力を込めて、魔力の炎をさらに燃やした。

 ジリ、と火花が散り、聖騎士の持つ剣の刃に切り込みが入る。


「――この地が貴様の墓標だ、バーサーカー!」


 バキン、と音を立てて聖騎士の持つ剣の刀身が弾け飛ぶ。

 その勢いのまま聖剣はバターを切るように騎士の鎧を斬り裂いて、上半身と下半身を二分割にした。

 最後にその額に聖剣を突き立てる。

 刀身の炎が燃え移り、理性を持たぬ騎士の体を焼いた。


 辺りを見回す。

 既に敵の兵士は全滅しており、ローインが蠢く触手にトドメを刺したところだった。


「……我々の――」


 俺は左腕のガントレットを空に掲げる。

 闇が満ちていた空に、うっすらと朝日の光が広がってきていた。


「――勝利だ!」


 周りのアンデッドが動きを停止する。

 ローインがカカ、と笑い、後ろではカルティアに付き添われたアリーゼが座り込んでいた。


 そうして俺たちはブルキリア帝国の脅威を、一時的にではあるものの退けたのだった。



 * * *



 一週間後。

 俺は木と布で作った仮の玉座に座っていた。

 なおアリーゼやカルティアの趣味により、ピンク色で座り心地がよいふかふかクッション玉座となっている。

 ……魔王としての威厳は少し損なわれるが、アリーゼが似合っていると言っていたので仕方あるまい。


「マリーナ、軍の状況はどうなっている」

「アンデッドの修繕は大体完了。……ゴブリンに悪趣味な改造させるのやめさせない? わたしの美意識に反するんだけど」

「却下だ。恐怖のアンデッド軍団を作らせるがいい」


 俺の言葉にマリーナは「おえー」と舌を出し、フィールはきゃっきゃと笑った。


「ゴブリンたちは問題ないか?」


 俺の言葉にローインが答えた。


「捕獲した農耕馬とアンデッドを使った農業は順調みたいじゃ。住み心地が良いし、統治に不満もないようじゃな」

「ふはは。余が支配しているのだから、当然のことだな」


 横でカルティアが「どうだか」とため息をつく。

 そういう態度は俺に見えないところでしろ。


「モニ、隣国との状態はどうなっている」

「芳しくはないッスねぇ。ブルキリア帝国に動きは無いようッスけど、魔族軍は引き続きこちらを探してるみたいで、ラインケイル王国もちょくちょくこっちの様子を探ってる感じがあるッスね」


 ふむ。

 流石にテルテン村を通じた金の動きが大きくなってきている為、こちらの動きに勘づかれたか。

 魔王の支配する地となれば、多少の衝突は避けられまい。


「――ならば先手を打とう」

「……どうするッスか?」

「魔族の領土に侵入し、そこからラインケイルに攻め入る」


 俺の言葉に、モニは笑みを浮かべた。


「……それは陽動ッスか?」

「もちろん。適当に暴れたらすぐに逃げる。アンデッドとゴブリンを従えた軍が、魔族の領土から攻めてくるのだ。ラインケイルはこちらなど気にする暇もないだろう」


 魔族とラインケイルの間に戦争の引き金を引く。

 大規模戦闘にならなかったとしても、多少の小競り合いは起こせるだろう。


「モニ、ローイン、フィール、ロロイ、お前たちは付いてこい」


 俺の言葉にフィールは「わかった」と頷く。

 彼女は人狼(ワーウルフ)の血を引いているようなので、魔族に偽装して戦うには問題ないことだろう。


「よし、早速作戦に移ろう。準備を――」


 そう言って立ち上がろうとすると、腕の袖が引っ張られた。

 アリーゼが上目遣いでこちらの顔を覗き込んでいる。


「……あの、わたしも魔族に変装するので……ついて行っちゃダメですか?」


 ダメに決まっている。

 危険な戦場というだけでなく、人間のアリーゼが見つかっては作戦が台無しになる恐れがある。

 そんな場所にアリーゼを連れていくなど――。


「リンドさんが危険になったらと思うと、わたし……」


 ……ダメだ。

 アリーゼがどんな目で見つめようと……それは……。


「わ、わたし、役に立てるよう頑張りますし! お薬いっぱい作ります!」


 ……うむ。


「……そうだな。救護班は必要だ。それにブルキリア帝国がいつ動き出すかもわからんし、俺と一緒に居た方が安全だろう」


 俺の言葉に、アリーゼはその顔に嬉しそうな笑みを浮かべた。

 ……まあ、いいか。


「甘いッス」

「甘い」

「甘いわね」

「まだまだ若いのう」


 モニとカルティアにマリーナ、そしてローインが口々にそんなことを言う。


「――魔王だからな」


 俺は言い訳するように、口を開く。


「余は魔王として、臣下の願いを最大限に叶える必要がある。……その代わりに皆には忠誠をだな」


 俺の言葉にフィールがふくみ笑いをして、ロロイが微笑んだ。


「……そんな魔王がいても、いいと思う」


 フォローするようなロロイの言葉に、アリーゼが頷く。


「――はい。リンドさんですから」


 ……なんだか少し気恥ずかしさを感じながらも、俺はマントを翻した。


「出撃だ! 新生魔王軍、状況を開始する!」


 俺の言葉にみんなは笑みを浮かべ、作戦の準備を始めた。

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