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第31話 魔王は砦を守りたい

「――新生魔王軍、円卓会議を始めるっ!」

「わーー!」


 それは砦の中央塔、二階の一室。

 丸テーブルについたメンバーの中、一人モニが声を上げて手を叩いた。

 続いてアリーゼも「わ……わー」と控えめに声を上げながら手を叩く。

 さすがアリーゼだ。ノリが良い。冷めた目でこちらを見ているカルティアやマリーナとは違う。

 ……フィールだけは一人楽しそうに手を叩いているので許してやろう。

 ちなみにローインは机に上半身を投げ出して寝ていた。

 俺はそちらには目を向けないようにしつつ、アリーゼへと話しかける。


「……まず畑の方はどうなっている、アリーゼ」

「は、はい……。えっと、まずは一区画……うちの家庭菜園にあった分ぐらいは、植えるまでは終わっています。このまま上手く成長するかを見て、他の部分をどうするか決めたいと思います……」

「なるほど! 素晴らしい働きだぞアリーゼ!」

「えへへ……」


 アリーゼは照れながら頭をかく。

 この調子なら薬草畑が広がるのもすぐだろう。

 俺は次にフィールの方を向いた。


「フィール、アンデッドたちの様子はどうなっている」

「うーんとー。順調かな~。みんな元気だよー」


 ゾンビの格闘僧(モンク)、フィールが手を上げた。


「なんか最近はみんな気合いが入っててね~。ちょっとやそっと壊されたぐらいじゃ昇天しないんだよね~」

「……ほう? まあ余の素晴らしい統治に現世が名残惜しくなるのは、当然のことだからな……!」


 俺の言葉に、フィールは苦笑する。


「うーんと、壊れたらゴブリンくんたちが補修してくれるようになったでしょー? あれがアンデッドの皆の中で、流行(はや)ってるみたくてさ~」

「……アンデッドにも流行(りゅうこう)があるのか?」

「なんか補修してもらったら大きくなったり、逆にスタイリッシュになったりで、それを見た壊れてない子も改造して欲しくて順番待ちになってるみたい~」


 フィールの言葉に俺は頭を押さえる。


「……マリーナ、質問だ。アンデッドが自我を持つことはあるのか?」


 俺の問いかけに死霊魔術師(ネクロマンサー)であるマリーナが答える。


「そりゃ持つわよ。……と言っても、本来は高位のアンデッドだけなんだけどね」

「ならばこの砦のアンデッドたちは、成長しているということか?」

「さあ? フィールの影響もあるかもね。この子いろんな意味で規格外だから」


 マリーナの言葉に、「えへへー」とフィールは照れた。

 べつに褒めているわけではない。


「……まあいい。問題はないようだしな。フィールは監視を怠るなよ。間違ってもアンデッドと共に反乱を起こしたりはしないように。次はないぞ」

「は~い。わかってますー」


 元気よく彼女は手を上げる。

 まあ謀反の一つや二つ起こそうが、俺が収めて見せるがな。


「……次にマリーナ、結界の解析はどうだ?」

「問題なし。……本当はそっちは専門外なんだけどね」


 ため息をつきつつ、マリーナは俺の問いに頷いた。


「水晶球の動作は安定してるわ。最大限に使っても魔力が漏れたりはしないようにも調整済み。勇者のガントレットだか何とかいうのをどかしてくれたおかげで、いろいろできることが増えてるわ」

「というと?」

「魔術阻害の結界とか、人よけの結界も張れるように改造したの。それを使えば魔術耐性の無い人間なら道中の森で迷わせたりもできるけど、常時使うとゴブリンや旅人にも影響が出るからやめてね。他にも結界の範囲内なら遠隔で覗き見ることもできるし、ここからアンデッド全域に指令を飛ばしたりもできるから、上手く使って頂戴」


 マリーナは簡易的な使い方を書いた羊皮紙を俺に差し出す。

 説明書を作ってくれたらしい。


「助かる。さすが余が見込んだ(くら)き深淵の大賢者マリーナだ」

「恥ずかしいからその呼び名はやめて。……あと、魂を引き剥がすような使い方はできないよう、機能は破壊しておいたから。もともと魔力耐性のない相手にしか効果がないから、民間人相手にしか使えないしね。これは私のプライドとして譲れないとこ」

「ふん、気にせずともよい。そのような機能はもとより必要ないからな」


 無抵抗の相手を大量に殺し尽くすなど、先見の明がない者のやることだ。

 それでは戦いの後には焦土が残るのみで、支配する恩恵など何も生じない。

 荒野で一人王冠を被った王など、滑稽(こっけい)以外の何者でもないだろう。


「結界の調整が終わっているなら問題ない。あとは好きにしろ」

「りょーかい。じゃあ私は約束通り死霊魔術の研究に移るから。……あ、水晶級を使えるのは今まで通り私とあんただけね。フィールとか他の人は使えないようロックをかけておいたから、覚えておいて」

「わかった」


 取扱説明書(マニュアル)を残すことで、教える手間を省いたのだろう。

 要領がいい女だ。


「……次にカルティア。宝の方はどうなっている?」

「うん、だいたいの鑑定は終わってるよ。これ目録」


 彼女は羊皮紙を俺に差し出す。

 そこにはたくさんの品と、その鑑定金額が書かれていた。


「書かれてる額は最低相場ってとこかな。……といってもこんな辺境じゃあ買い手がないから、お金に換えるには大きな街に売りに行く必要があるけど」

「そうだな……。換金しにくい物や保管が難しい物を置いておいても、いざというときに困る。そのうちどこかの街に売り(さば)きに行くとしよう」


 美術品などを保管するには適さない場所だ。

 俺の言葉にカルティアは頷く。


「宝石なんかは換金しやすいからね。とりあえず当座の資金調達の為に、ロロイに頼んでテルテン村に売りに行ってもらっているよ。あそこは定期的に行商人が出入りするから」


 宝石は金に換えやすいとはいえ、商人も手持ちは少ないだろうし、ここいらの辺境では買い叩かれてしまうことだろう。

 早めに金に換えておく必要があるな――。


 そんなことを考えていると、勢いよく部屋の扉が開かれた。

 その中央には、息を切らせた少女が一人。


「……噂をすれば、か。ロロイ、どうした?」


 俺が問いかけると、彼女は真剣な眼差しでこちらを見てその口を開く。


「――敵襲だ」


 俺はその言葉に、目を細めた。

 周囲のメンバーも息を呑む。

 そうして静まりかえった会議室の中、ローインの寝息だけが響くのだった。



 * * *



「状況を説明しろ」


 マントを翻しつつ、俺は部屋を移動する。

 ロロイとモニが俺のすぐ横へと着いた。


「敵の数は約100騎。村人の情報によれば、それらはブルキリアの一般騎兵。表向きの名目は演習。でも目的地はこちらの砦だ」

「南のブルキリア帝国は聖騎士(パラディン)が有名ッスけど、さすがに聖騎士が偽装はしていないと思うッス。大方斥候部隊ッスかねぇ」


 左右からロロイとモニの声を聞きつつ、俺は歩みを早める。


「パラディンは並の冒険者では太刀打ちできない精鋭隊と聞く。よほどの事がない限りは、内地の護衛からは動かないだろう。……もし主力部隊が攻めてくるにせよ、この後だな」


 俺の言葉に、モニが頷いた。


「そうッスね。テキトーに相手して追い返すッスか?」

「いいや、相手の目的はアリーゼだ。ここが安全に踏破できる場所だと思われれば、次は本隊を送ってくる」


 アルター遺跡周辺はこの数百年間アンデッドが跋扈(ばっこ)し、統治者のいない空白地帯となっている地域だ。

 ラインケイル王国の領地内であったテルテン村周辺とは違い、帝国が軍を出すのに障害は少ない。


「それにこちらの内情を悟られれば、相手は数で殲滅してくるだろうしな。相手に本腰を入れられるのはまずい」


 アンデッド軍がいるとはいえ、ゴブリンを合わせたところで戦える者の数は30人ほどだ。

 数千もの数で襲撃された場合、アリーゼを逃がす間もなく圧殺されるのは間違いない。


「……何度も手を煩わせるブルキリアには必ずや余が直々に鉄槌を下す。……だが、今はまだそのときではない。時間を稼ぐ必要がある」


 テルテン村を襲った騎士の様子を見るに、奴らは手段を選ばないはずだ。

 相手にアリーゼの居場所がわかる以上、こちらが砦にいることは筒抜けである。

 ……だからこそ。


「……一人たりとも生かして帰すわけにはいかん」


 手を出してはいけない存在だと奴らに思わせる必要があった。

 俺の言葉に、ロロイが口を開く。


「帝国を無闇に刺激する可能性は?」

「いい質問だ。だがおそらく大丈夫だろう」


 俺は歩きながら、ロロイに頷いて見せた。


「奴らも隠密部隊で他国の領土を荒らしたり、斥候を出すぐらいには慎重な用兵を行う連中だ。我々が斥候隊を全滅させれば、リスクを考えずにいきなり本隊を投入するような真似はするまい」


 そうなれば、しばらくは帝国の動きは封じられる。

 その間に、我々は本隊にも対抗できる戦力を整えればいい。

 ……いや、そうしなければならない。

 考え込む俺に、モニが疑問を口にする。


「攻めてきた相手を一人も逃さずッスか……。できるッスかね?」

「できなければ負けだ。……まあ安心するがいい余が敗北するなどありえないので、当然できる」


 アンデッド、ゴブリン、それにアリーゼたち。

 戦力としては十分なはずだ。

 ……やれる。


 俺は水晶球の前に立つと、さきほどマリーナに渡された説明書を手にして操作を開始する。

 手をかざして操作すると、魔術式が展開された。

 遠見の魔術が働き、結界の範囲内を慎重に進む騎兵の姿が見える。


「――いたぞ。情報通りだ」


 そこには百騎ほどの斥候隊がいた。

 おそらくは情報を持ち帰る為に、機動力に特化した部隊だろう。

 戦闘力は高くないはずなので、逃げ足を封じれば何とでもなるはず。

 俺は頭の中に周辺の地形と砦の外観を思い浮かべる。


「兵を配置する必要があるな。……モニ、指示の伝達を頼む」

「了解ッス!」


 モニが敬礼をする。

 俺は頷いて、水晶球を操った。


「――状況を開始する! 各員、余の指示に従え!」


 ――戦いが始まる。

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