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第28話 魔王は真の魔王になりたい

「ほう。魔王城の宝物庫に比べればわずかなものだが、なかなかどうして価値がありそうなものばかりだな」


 俺は隠し部屋の中に足を踏み入れ、中の宝を値踏みする。

 積まれた金貨は今はほぼ流通していない種類の古銭とはいえ、数千枚はありそうだ。

 その他にもきらびやかな宝石に、いくつかの美術品が収められている。

 カルティアも俺に続いて部屋に入り、中の美術品を手に取った。


「……どれも名品だ。きちんと調べないとわからないけど、どれも捨て値で売ったとしても家が買えるような物ばかりだぞ……」

「目利きができるのか?」


 俺の質問に、彼女は手のひらサイズの銀でできた女神像を持ちながら頷いた。


「……一応、ボクは生まれだけはいいからね。だいたいの価値はわかるよ」

「ほう。人は見かけに寄らないな」

「……はは、似合わないだろ? これでもボク、実家ではお嬢様だったんだよ」


 感心する俺の言葉に、彼女は苦笑した。

 俺はそれを鼻で笑い飛ばす。


「ふん。……自惚れるなよ」


 カルティアは俺の言葉に目を丸くする。

 俺は構わず言葉を続けた。


「余も高貴な生まれではあるが、多才だ。なぜなら芸は身を助けると言うように、多芸であればさまざまな場所で活躍できるからだ。……よってお前が優れた鑑定眼を持つということは長所であり、何も恥じる必要はない」


 俺の言葉にカルティアは一瞬泣きそうな表情を浮かべたあと、笑った。


「……ありがとう。そう言ってくれると助かるよ、魔王」

「ふ。俺は頭の固い部下に、当然の摂理を説明してやっただけだ。感謝されるまでもない」

「……あはは。いつもの尊大な魔王だ」


 カルティア失礼なことを俺に言いつつ、隠し部屋の中身を整理しだす。

 ……物の扱いも丁寧だし、ここはこいつに任せてもいいかもしれないな。


 俺は部屋の中の財宝を見据えながらほくそ笑む。


「――なんにせよ、当座の軍資金はこれで(まかな)えそうだな」


 軍団を運営するにはどうしても先立つものが必要だ。

 兵糧、装備、備品……それらを調達する金がなければ、維持することができなくなる。

 ここにある宝を換金すれば、ひとまず飢え死にすることはないだろうし、生活に余裕もできることだろう。

 俺はおっかなびっくり財宝を見つめるアリーゼに向き直り、声をかける。


「どうだ? アリーゼ。何か欲しい物はあるか? 今なら好きな物を買ってやれるぞ」

「へ?」


 俺の思いつき、もとい素晴らしいアイデアによる提案に、当のアリーゼは困惑した様子を見せた。

 彼女は口元に人差し指を当てて、悩むように宙を見つめる。


「す、好きな物……うーん……えーとえーっと……あ、薄底鍋(フライパン)とか欲しいですね。今使ってる奴は、結構古くなってきたので」

「無欲な奴だ。……よい! 許す! 最高級のフライパンを買ってやろう!」

「は、はい。美味しいごはん作れるように、頑張りますね」


 にこー、と笑うアリーゼの表情を見て、俺は頷いた。

 俺たちのやりとりを見ていたカルティアが苦笑する。


「……軍備よりもフライパンを先に買うの、魔王らしいな」

「ふっ。褒め言葉と受け取っておこう! まずは生活基盤を整えなくてはな!」


 このアルター遺跡を、元の軍事拠点であるオルタナ砦として蘇らせる。

 それだけでなく、ここで暮らせるよう内装やインフラを整備する必要もあった。


 俺がそうして財宝の使い道を考えながらカルティアの姿を見ていると、一つの懸念点に思い当たる。


「……む。しかしそうか。これを余だけで独り占めするわけにもいかんか」


 この遺跡、今は部下となったとはいえ、カルティアたちと共同で探索したとも言える。

 実際見つけたのはカルティアと後ろで倒れているロロイなわけだし、この宝の所有権を考えると複雑になりそうだった。

 そんな俺の言葉に、カルティアは笑った。


「あはは。ボクらは助けられた側だからね。今更山分けしろだなんて言わないよ」

「……だが報酬は与えられるべきだろう。配下を満足させてこその王だ」


 カルティアの言葉に、俺は眉をひそめた。


 ……魔王城で遭遇した反乱のようなことは、二度と起こさせはしない。

 父が死んですぐのタイミングなので、べつに俺が執政していたわけではない。

 四天王はおそらく最初から反乱を企てていたのだろうし、俺に責任があったとは思っていない。

 だが今も多くの魔族が四天王に従っているのは、王子として俺に圧倒的な求心力(カリスマ)がなかったせいではある。


「――余は部下が従いたくなるような、完璧な魔王となる必要がある」


 たとえ四天王のような謀反(むほん)を企てる者がいたとしても、そんな奴らの甘言(かんげん)すらもはね()ける魅力ある王――そうなることが、俺の前王()への手向(たむ)けで、そして俺が生きる為の矜持(きょうじ)だ。

 誰にも言っていなかった心持ちを吐き出す俺に、カルティアが口を開く。


「……ボクらの報酬については大丈夫だよ。さっきロロイと話してたんだ。『しばらくはただ働きかもね』って」


 カルティアは笑いながら言葉を続ける。


「マリーナは研究さえできればそれでいいし、ロロイは仕える主人を探していたところもあったし、ボクもべつに……あ、でも一つお願いがあったんだ」

「……なんだ。不満は溜めるな。言ってみろ」


 俺の言葉に、カルティアは伏し目がちに視線を逸らして、頬を赤らめた。


「その……ボク、騎士になるのが昔からの夢でさ。ボクを……キミの騎士にしてほしいんだ」

「……騎士? 馬が欲しいということか?」


 俺が首を傾げるとカルティアは横に首を振った。


「ええと、違うんだ、その、称号というか、地位というか……うわ、口にすると恥ずかしいなこれ」


 顔を真っ赤にしてそう言うカルティア。

 俺は少し考える。


(くらい)が欲しいということか」

「う、うん……。まあちょっと違うんだけど、似たような感じ」


 ……なるほど、わかったぞ。

 おそらくカルティアが欲しいのは爵位でも名声でもなくて、騎士としての名誉なのだろう。

 憧れ、といってもいいか。

 俺は一つ頷くと、彼女に向かって手を伸ばす。


「カルティア。手を出せ」

「え? は、はい」


 彼女は緊張した面持ちで、俺の出した手に自らの手を乗せた。

 その手は傷跡だらけで、訓練に明け暮れる者の手だ。

 俺は目を閉じる。


「カルティア……えー……お前、フルネームは?」

「カ、カルティア・ノイマン……」

「……カルティア・ノイマン。余に忠誠を誓う剣となり、民の為の盾となり……そしてその身を賭して、戦うことを承服するか?」

「……しよう!」


 彼女は勢いよくそう答える。

 ……敬意が足りない気はするが、まあいいだろう。

 この叙任の形も、略式……というより正式なやり方は俺も知らないのでごっこ遊びに近い。

 だが俺は魔王だ。

 俺が正しいと決めたやり方が、正式な作法となる。


「ならば忠誠の――忠誠の証を」


 言いかけて俺は言い淀む。

 ……証ってなんだ?

 自分でも疑問に思いながらそう口にした俺の前で、カルティアは膝をつく。

 そして俺の手を取ると、彼女自身の額に当てた。


「――陛下、あなたに忠誠を誓います」

「……うむ。よろしい」


 俺は頷いて、初の叙任式を終える。

 ……ややいい加減にやった儀式ではあるが、どうやらカルティアはそれで満足したらしく笑顔で立ち上がった。


「ありがとう、魔王。夢が叶っちゃった」


 カルティアは晴れ晴れとした顔でそう言った。


「……そんな簡単に忠誠を誓っていいのか」

「キミならボクらを使い捨てるようなことはしないって、信頼してるからね」


 彼女はそう言って俺の胸を軽く叩く。

 俺は笑顔を作ってその言葉に答えた。


「――ふん。任せるがいい。お前が後悔しないよう、何処に出しても恥ずかしくない王となってやろう」


 ……アリーゼたちにゴブリン、カルティアたち冒険者。

 彼女たちは前王()ではなく、俺自身を頼ってくれている。

 その期待に応えられるよう、俺は立ち振る舞わなくてはなるまい。

 俺は無意味にマントを翻した。


「……必ずやお前たちを、世界を統べる真の魔王の部下としてくれようぞ! ふはははは!」


 俺の高笑いに、カルティアとアリーゼが苦笑する。


「……そこまではべつにしなくても」

「今でも十分、魔王ですよリンドさん」


 アリーゼの言葉に俺は頷く。


「……ああ、そうだった。そうだったな。ありがとうアリーゼ。余は魔王……魔王リンド・リバルザイン三世だ」


 ――少し感傷的になってしまったな。

 必ずや再び魔族たちを、我が配下に従えてみせよう。

 俺は志を胸に、新たな気持ちで前を向くのだった。

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