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第27話 魔王はじっくり遺跡を調べたい

「この部屋は良いな……。玉座を置いて謁見の間とするか」


 俺はアルター遺跡中央塔三階、天井の高い広間の中心に立ってそう言った。


 俺たちはアンデッドたちを整列させたあと、守る者がいなくなった遺跡の中を手分けして探索していた。

 俺がいる三階は、天井と柱には繊細な装飾が施されており、元は砦であったと思えないぐらいに瀟洒(しょうしゃ)な造りとなっている。


「くく、目に浮かぶようだ。大勢の家臣がこの魔王を称えるその光景が……」

「――リンドさん、リンドさん!」

「……む、どうしたアリーゼ」


 上の階から慌てて降りてきたアリーゼに、俺は振り向く。


「カルティアさんとロロイさんが、何か見つけたそうなんです。魔王様にも来て欲しいとのことで……」

「ほう。早速、余の部下が活躍しているようだな。行こうか」


 二人を部下とした己の慧眼(けいがん)に満足しつつ、俺はアリーゼの後について上の階へと上がった。

 そこは三階と一転して、飾り気のないフロアだった。

 細かく壁で仕切られた部屋は迷路のようで、どうやら全体的に倉庫として伝われていたらしい。

 そうしてアリーゼに案内された先で、二人はコンコンと壁を叩いていた。


「あ、魔王」


 カルティアがこちらに気付き手を振る。


「どうした。何があった」

「ここ、隠し部屋みたいなんだけど入り口がないんだ。それで壊してもいいかどうかを聞いておこうと思って。ここ、一応キミの家ってことになるんだろ?」

「うむ。お前たちの家でもあるがな」


 カルティアが壁を指さす。

 見た所、なんの変哲も無い壁だ。

 迷路のように入り組んでいる為、この裏に空間があるのかどうかもよくわからない。


「裏に通気口やデッドスペースである可能性は?」

「……何かがあるのは、確実」


 壁に貼り付くようにして調べていたロロイが口を開く。


「中からかすかに異質な匂いがする」

「……匂い?」


 俺の言葉にロロイは頷いた。


「ちょっと本気出してみる。……あまり見ないで」


 彼女はそう言うと、大きく息を吐き出した。


「うう、う……!」


 唸るような声と共に、ロロイの両腕に力がこもる。

 魔力が彼女の体の表面から少しずつ漏れ出していく。

 爪が伸び、手首に体毛が生え、これは――。

 俺がその変身を凝視していると、カルティアが小さく呟いた。


「ロロイは人狼(ワーウルフ)なんだ」


 ロロイの耳が変形し、獣の耳となる。

 鼻の頭が若干黒くなって、どうやらその変身は終わったようだ。

 ロロイは肩で息をしつつ、目を閉じる。


「……わたしは血が薄いので、中途半端。だから人にも人狼にもなりきれない、半端な――」

「――カッコイイ!」


 ロロイの言葉を遮って、アリーゼが口を挟んだ。


「ワーウルフさんって満月の夜に変身するんじゃないんですね! すごい!」

「ん、え? あ、えっと……満月も、ちょっと影響はある……」


 声をあげるアリーゼに、ロロイは困惑した表情を見せた。


「……あ、髪の毛も少し伸びてる。若干髪質も艶やかになってません?」

「う、うん、毛並みは……少しだけ、自慢……」

「えー、綺麗ですねぇ。あの、耳を触ってみてもいいですか?」

「へ? その、ちょ、ちょっとなら……」

「はい! 失礼します……!」


 アリーゼは興奮した様子でロロイの耳を撫で出した。

 ……アリーゼ、犬が好きなのか?

 なんにせよ、良い趣味をしているのはたしかだ。

 ワーウルフへの半覚醒は、完全形態のワーウルフよりも未熟ゆえの美しさというものがある。

 異端、特殊性……そのような魅力が内包された存在と言えるだろう。

 さすがアリーゼだ。

 俺はアリーゼの感性に感心しつつ、ロロイの耳へと手を伸ばす。


「余もその耳触ってみたい。触らせろ」

「え? あ、そんな……」


 俺とアリーゼは二人でロロイを囲んでその耳を撫でる。


「ん、あ、やめ……! んんっ……!?」


 アリーゼの言った通り、その艶やかな毛並みは手触りが良かった。

 つい少しの間二人で触り続けていると、カルティアが俺たちの間にやんわりと割り込んだ。


「ストップストップ……。ロロイ、大変なことになってるから」


 見ればロロイは口の端から涎をこぼしつつ、虚空を見つめていた。

 彼女は目の焦点を合わせつつ、顔を押さえる。


「すま、ない。まだ、ヒーリングの、後遺症が残ってる……」

「……悪い事をした」

「ごめんなさい……」


 よろめきつつも壁にもたれかかるロロイに、俺とアリーゼは二人で謝る。

 毛並みの感触に、つい我を忘れてしまっていたようだ。


「と、とにかく……この先からする匂いは、金属。何か、ある」


 そう言って彼女は鼻をひくつかせた。

 どうやらワーウルフだけあって、嗅覚に優れているらしい。


「ただ隠し通路のような物は、ない。……たぶん完全に閉鎖された空間か、魔術転移か」


 ロロイの言葉に俺は頷いた。


「面倒だな。壊すか」


 俺はそう言って、さっと拳に魔力を集中する。

 簡易的な肉体強化魔術だ。


「――魔王ブレイク!」


 適当に名付けたパンチで壁を殴る。

 ガツンとした音と共に、壁にヒビが入った。


「……思ったより厚いな」

「……ツルハシとかが必要かもしれないな。どこかにあるといいけど」


 カルティアがそうつぶやく。

 遺跡の中にあるとは限らないし、力押しで済ませてしまおう。


「アリーゼの血を……いや、今日はもう既に吸っているな。やめておこう」


 時間が経った為、さきほど吸った血の効果はなくなっている。

 しかしだからと言って何度も血を吸っては。アリーゼの体に負担がかかってせいまうだろう。

 ……となれば。


「おいロロイ」


 俺の呼びかけにワーウルフの少女は振り返る。


「なに?」

「体力は回復したんだったな」

「……ヒーリングの効果はあった」


 若干不満そうな声でロロイはそう答える。

 それなら問題あるまい。


「血を吸わせるがいい」

「……血?」

「ああ、血だ」


 俺は頷き、説明をする。


「俺は条件が合うものの血を吸うことで、眷属とすることができる。一時的に魔力が上がったりその他特典も満載なので、この際だからお前も眷属になるがいい」

「……わかった」


 悪徳商法みたいな言葉を並べてしまったが、それでも彼女は納得してくれたらしい。

 ――ちなみに彼女が清らかな乙女であることは、以前の会話でわかっていた。


「吸うぞ。……大人しくしてろ、すぐに済む」


 俺はそう言ってロロイの首筋に牙を突き立てる。

 同時に彼女は勢いよくのけぞった。


「んんん――!!」


 ロロイは口元を手で押さえて、必死で声をこらえる。

 傷口から溢れる血と魔力が、俺の中に流れ込んできた。


「んぐ、ぐ、あっ……! 聞いてない……! これ、聞いてない……!」


 ガクガクと膝を震わせながら、ロロイは声を漏らす。

 ……どうやらサキュバスのヒーリングの後遺症は思った以上にキツイらしい。

 俺は悪くない。恨むならモニを恨め……!

 俺が吸い付くように唇を寄せると、ロロイの口から高い声がこぼれた。


「ひゃぅっ……! 魔王、魔王様、もう無理、ダメ……!」


 見ればカルティアは後ろで赤面しつつ目をそらしているし、アリーゼは口元を手で押さえながらも興味津々といった目つきで食い入るようにこちらを見つめている。

 若干の気恥ずかしさを感じるので、とっとと終わらせることにする。


「――よし。これで完了だ」


 俺が口を離してそう言うと、ロロイはその場に崩れ落ちる。


「……大丈夫か?」

「……ひゃ、い……」


 彼女は焦点の定まらない瞳で空中を見つめていた。

 ……どうやら大丈夫ではなさそうだ。


「休ませておこう……」


 ロロイを床に寝かせて、俺は壁に向かって立つ。

 アリーゼの血ほどではないが、体の内側から若干の魔力の高まりを感じた。


「通常時の二倍から三倍と言ったところか……む」


 ――匂い。

 目の前の壁から、金属とカビ臭さの混ざったような臭気をわずかに感じた。

 ワーウルフの嗅覚には魔術的な要素があるのか、血を吸った俺にもその能力が流れ伝わってきたらしい。


 俺は鼻先に神経を集中する。

 遺跡の建材に、金属、……それにこっちがカルティアで、これがアリーゼの……?

 ――はっ!

 俺は慌てて首を横に振って、壁に向き直った。

 意識が逸れてしまっていた。


 俺は気を取り直して、右手の拳に魔力を集中する。

 さっきよりも強い魔力がそこに集結した。

 俺は壁に向かって拳を振り抜く。


「――魔王ブレイク・セカンドエディション!」


 俺の拳によって轟音と共に壁が粉砕され、奥にあった部屋が姿を現した。

 アリーゼの血は規格外の強さを誇るが、他者の血でもこれぐらいのパワーアップにはなるようだ。


「わぁ……粉々ですね。さすがリンドさん」

「ふはは、そうだろうアリーゼ! もっと褒めるがいい!」

「はい! すごいですリンドさん! 一家に一台欲しくなりますね!」

「……それは褒め言葉か?」


 俺は首を傾げながらも、奥へと進む。

 そうして俺たちの前に姿を表した物を見て、カルティアがつぶやいた。


「すごい……! 金貨に宝石、美術品にマジックアイテム――!? 古代に隠された財宝の噂は、本当だったのか……!」


 俺たちを出迎えてくれたのは、金銀財宝――一言で言えば、宝の山だった。

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