第22話 魔王は死者の群れを突破したい
魔術の炎が炸裂して、スケルトンやゾンビが焼き払われる。
煙が立ち過ぎても方向を見失ってしまうので、火力は抑え目だ。
そして煙の中を斬り払うようにしながら、俺は戦線に突入した。
「――続け!」
そう声を上げながら、手近なリビングアーマーを切り伏せる。
同時に無数のアンデッドたちがこちらを向いた。
「それにしても多いな……!」
直線にして、全力で走れば一分ほどで到達できる距離のはずだ。
しかしその距離が、長い。
既にアンデッドたちはこちらを目指して押し寄せてきており、波を掻き分けるかのような作業になりつつあった。
「カルティア! アリーゼの体に指一本触れさせるなよ!」
「――わかってる!」
スケルトンの攻撃を打ち払いながら、カルティアが応えた。
しかしこちらもそれを援護するような余裕はない。
前後左右から次々と押し寄せるアンデッドの物量に、既に押し返されそうになっていた。
――このままでは辿り着く前に、アンデッドの波に呑まれる……!
そう思ったとき、後ろでローインが声を上げた。
「……お、見っけ!」
同時に彼女は地面を蹴る。
そして黒い魔剣を振り上げて、ローインは宙を舞った。
その先にいたのは――。
「――レイスか!」
彼女が飛んだ先、二メートルほどの高さの空中に、アンデッドの指令塔とされる黒い霧の塊があった。
ローインは自分の身長より大きな剣を振り回して、その霧に斬りかかる。
「悪霊たいさーん!」
彼女の刃は黒い霧をかき消して、そうしてローインは地面に降り立った。
同時に周囲のアンデッドの行動がぴたりと止まる。
「――やったか!?」
「うんや、全然ダメじゃ」
ローインは着地しながら手近なリビングアーマーをなぎ倒して、そう答えた。
周りのアンデッドも、ゆっくりと動き出す。
「どうやらかき混ぜることで一端霧散するみたいじゃけど、すぐに別の場所に集まるようじゃなぁ――そこじゃ!」
話が終わる前に彼女は目の前に発生した黒い霧を見つけ、そして切り払った。
レイスは空気に混じるようにまたも霧散する。
「……じゃが、全く無意味というわけではなさそうじゃな」
ローインの言葉に辺りを見回すと、周りのゾンビやスケルトンの動きが明らかに鈍っているのが目に入った。
中には同士討ちをしている者もいる。
俺は足元にあったゾンビの頭をボールのように蹴り飛ばしながら、中央塔までの道を見据える。
――これなら行けそうだ。
「……魔王! ここはわらわに任せるのじゃ!」
ローインの声が背中から浴びせられる。
「わらわはしばらくこやつらと遊んでおるから、お前たちは先に行け!」
ローインの言葉に俺は一瞬考える。
……たしかにその案が一番合理的な作戦か。
「――ローインよ! 魔王の名において命ずる! ……無理はするな!」
「大丈夫じゃー。わらわは英雄じゃぞー?」
スケルトンとリビングアーマーを切り払いながら、ローインは黒い霧を追ってアンデッドの中へと潜り込んだ。
同時に数体のアンデッドが斬り飛ばされ、吹き飛んでいく。
「……それに一度、言ってみたかったんじゃ! 『ここは俺に任せろー!』ってな! ばりばりー!」
ローインは楽しそうにアンデッドたちと戯れていた。
……どうやら任せても大丈夫そうだな。
「――アリーゼ、カルティア!」
「わかってる!」
俺の言葉にカルティアが応じ、俺たち三人は中央塔の扉へと走る。
一瞬、アンデッドたちの動きが止まったタイミングでローインの声が聞こえた気がした。
「……いつもは、送り出される側じゃったからなぁ」
そんな言葉を耳にしつつ、アンデッドを斬り伏せて俺たちは塔へと向かう。
そうして斬った総数が百を越えた辺りで、俺たちはようやくゴールへと辿り着いた。
「――カルティア、入れ!」
俺の呼びかけに彼女は扉を開け、中へと入る。
「……大丈夫だ! アリーゼさん中へ!」
「はい!」
アリーゼが入るのを見送る中、俺は呪文を唱えて後ろに追いすがってくるゾンビへと放つ。
アリーゼの血で強化された魔術であれば――!
「――フレア・エクスプロード!」
轟音と爆発が舞い起こり、激しい熱風が吹き込む。
後方のアンデッドたちを焼き溶かしながら、地面に直径十メートルほどのクレーターが出来た。
多少地形が変わってくれたので、足止めになってくれるかもしれない。
俺は塔の中へと入り、扉を閉めた。
「……二人とも、無事か」
「は、はい! 大丈夫です!」
「ボクの方も多少殴られたぐらいで、大きな怪我はない」
二人の様子を観察しつつ、俺は安堵する。
どうやら潜入は成功したらしい。
「しかしこれは……意外だな」
俺は塔の中を見回す。
足元はぼんやりと魔術の明かりで照らされた、広い空間がそこには広がっていた。
「アンデッドの一匹もいない」
あたりは風化こそしているものの、荒れた様子はない。
そして遺跡内部の壁には、儀式魔術めいた文様が書かれていた。
「……アンデッド避けの結界か何かか?」
「そうかもしれない。アンデッドが内部まで侵入してきたら、この建物自体が破壊されるだろうし……」
カルティアの言う通り、もしも魔導具が壊されようものならすぐに結界は崩壊してしまうことだろう。
自滅もいいところだ。
「ならやはりこの塔に、アンデッドを発生させる大本の魔導具があると見るのが正解か」
俺の言葉にカルティアは頷いた。
そして何か見つけたのか、広間の奥を指さす。
「……あっちだ。マーキングがしてある」
見れば柱に、ピンクのバツ印が書かれていた。
「ボクたちの間で使っている符号だ。……やっぱり無事だったんだ、二人は」
カルティアはそれに駆け寄って安堵の表情を浮かべた。
……楽観的な奴だ。
「――そいつらがここにいたということは、なぜまだ結界が機能しているのかも考えるべきだな」
「……うぐ」
俺の言葉に、カルティアは顔を歪めた。
単純に解除に時間がかかっているのか、それとも――。
俺たちの表情を見て、アリーゼが声を上げる。
「だ、大丈夫ですよ! きっと……たぶん、皆さんカルティアさんのこと、待ってます」
「……ありがとう」
アリーゼが元気づけるようにカルティアの肩を叩く。
それで少し、彼女の心が解れたようだった。
俺もカルティアの背中を軽く叩いた。
「――貴様はリーダーなのだろう? 上に立つ者なら、シャキっとしろ」
「……はは。魔王に励まされるなんて、情けないな」
苦笑する彼女に、俺は笑った。
「そこは光栄に思っておくがいい。なにせ余はお前なんかとは格が違う、魔王なのだからな」
「……そういうことにしておくか。光栄だよ、魔王様」
彼女は顔を上げて、奥に見える階段を見上げた。
その顔には笑みが戻っている。
……冒険者としての才能に問題はあるかもしれないが、上に立つ者として最低限の資質はあるようだな。
俺は前に出て、先頭に立った。
「行くぞ。……なに、仲間がもしアンデッドになっていたら、俺が部下にしてやろう。俺はアンデッドにも差別しないぞ」
「……慰めになってないよ、魔王」
そんな冗談をカルティアと交わしつつ、俺たちは二階への階段を上るのだった。




