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第17話 魔王は少女を守りたい

「……ふぅ」

「お疲れ様でした、リンドさん」


 騎士たちを打倒した翌日。

 俺は村人たちとゴブリンたちの友好協定に立ち会っていた。

 当初の予定通り、揉めることもなく協定は無事結ばれている。


「あの……ゴブリンさんたち、あれで大丈夫なんですか?」

「ん? 何がだ」


 俺の言葉にアリーゼは首を傾げる。


「協定について……。相互に干渉しない、困ったことがあれば協力する、住処については深く関わり過ぎないよう慎重に協議する……」

「うむ。いくら友好的な存在であるとわかっていても、気持ちが理屈に追いつくわけではない。お互いに干渉しないぐらいが丁度よいことだろう」


 仲直りしました、はい仲良しというわけにはいかない。

 特に姿形や文化も違う相手だ、そうそう上手くいくものではないだろう。

 アリーゼは頷きつつも、また疑問を口にする。


「村から農作物を分けてもらう代わりに、鉱物の換金というのは……?」

「ああ、あれか。ゴブリンは元来、暗視能力があるし筋力も強い。鉱山を掘ったりするのには適任で、都合のいいことにローインの封印されていた洞窟がある」


 あそこはローパーが巣食っていて誰も立ち入れなかったようだが、何かの鉱脈がある可能性が高い。

 魔導石が頻出する場所には、宝石の原石や鉄鉱脈などが多い傾向にあるのだった。


「あそこを掘らせてみよう。下手にゴブリンたちに馴れない農作業をさせるよりは、住処の穴を掘る作業に近い鉱業を立ち上げた方が金になるかもしれん」


 俺の言葉に、感心したようにアリーゼは頷いた。


「そんなことまで考えてたんですね。さすがリンドさん」

「魔王だからな。……唯一、ゴブリンは魔族たちから孤立している為換金できないのが問題だったが、それも村人を通して人間たちに流通させれば問題あるまい。……もう少し何か考えたいところではあるが」


 できれば高く売りつけたいところだ。

 まあそれは追々考えるとして、流通させるルートができたのは大きかった。


「貨幣が使える先があるというのは、今後有利に働くだろう。最悪あの聖剣でも売れば、ゴブリンの部族一つならしばらく飢え死にすることはあるまい」

「あれ売れるんですかね……。たぶん結構貴重なマジックアイテムだと思うんですけど……」

「――はいッス!」


 俺たちの間に割り込むようにして、後ろからモニが顔を出す。


「なんだ突然。俺とアリーゼの間に割り入るな」

「はいはいこれは失礼失礼。その10分の1でもあたしのことも気遣って欲しいところッスけど……」

「ふん。……よしよし、いつも頑張っているな。昨日はアリーゼの身代わり任務ご苦労だった。褒めてやろう」

「はいッス~! 俄然やる気が出たッスよー!」


 チョロい。

 モニはニコニコとしながら、懐から方位磁石のような小さな魔道具を取り出した。


「これこれ、魔力探知機。どうやらあいつらこれで、勇者の血を探してたみたいッス」


 勇者の血。

 ……たしかローインが言うなら、古の勇者の血だったか?

 それを使ってあの聖剣にローインが封印されていたことから、大昔の人間の一族なのだろう。


「あの聖剣……というか魔力剣に宿った魔力はピカイチッス。下手すりゃ国宝級の代物、売ったら大もうけッスよ!」

「お前はなんというか……欲望に正直だな」

「サキュバスッスからね!」


 モニは俺の言葉を笑い飛ばしながら話を続ける。


「……で! 捕虜に聞いたところ、ブルキリア帝国は勇者用の装備をいくつか集めてるみたいなんスよね。聖遺物(せいいぶつ)、って言ってたッスけど」

「なるほどな。だから勇者の血を引く者を探していたと」


 モニの持つ魔力探知機は、アリーゼの方向を強く指し示していた。

 聖剣一つでもなかなか強力だ。

 使う者が使えば戦局を変える力があることだろう。

 アリーゼは苦笑する。


「……わたし、戦いとかは苦手なんですけど……」

「それそれッス! アリーゼが勇者の末裔で他に使い手がいないとしたら、勇者の装備を使えるのって魔王様ぐらいしかいないんッスよ! 運命的じゃないッスか!?」

「……なるほど、な」


 俺はモニの言葉に頷いた。


「――となれば、最大警戒すべきは南のブルキリアということか」

「……へ? どういうことッスか?」


 首を傾げるモニに、俺は推測を口にする。


「隠密行動をさせていた騎士の行方が消えた、となれば何かあったと見て斥候を送ってくるだろうな。そこからアリーゼの存在がバレれば、また奪う為に更なる追っ手をかけることは容易に考えられる。どうやら勇者の血を追う方法は持っているようだし、次はもっと大軍で攻めてくる可能性はある」


 モニの手の中の魔力探知機を見て、俺はそう言った。

 アリーゼは指先を口に当てて、考えながら口を開く。


「……で、でもわたしこんなですし、全然鍛えてないですよ……? 体もそんなに強くないですし、もし連れていかれたとしても勇者として戦うなんてとても……」

「……お前の体が戦闘に適さないとなれば、きっと奴らは別の方法を取る」

「別の方法?」


 首を傾げるアリーゼに、俺はため息をついた。


「……奴らはお前の血が欲しいだけだからな。勇者の力が流れる、新たな人間を作ればいい。人間が人間を作る簡単な方法は、一つだけだ」


 突然モニが声を上げる。


「そうつまり、セッ――!」

「――魔王アッパー!」


 俺の拳がモニのアゴを打ち砕き、彼女の発言を打ち消した。

 試合終了のゴングが俺の頭の中に鳴り響きつつ、モニは地面に沈む。


「……ともかく。お前は狙われている。今後これ以上に気を付けるがいい」

「は、はい」


 アリーゼは背筋を伸ばしてそう答えると、その表情に陰りを見せた。


「……あの、わたしお邪魔になるのでは」

「……何?」


 アリーゼは不安げな表情をしつつ、俺の言葉に答える。


「わたし、町で錬金術師の見習いとして働こうと思ってたんです。ババ様が困ったときは訪ねるように言ってた方がいて」


 そういえば、以前引っ越しをするとかなんとか言っていたか。

 ……あのときはアリーゼとは短い付き合いになると思ったのだが。


「リンドさんは魔族の人たちに追われてて大変なのに、わたしがいたら迷惑なんじゃ無いかって――ふぎゃ!?」


 俺はアリーゼの頬をつねった。

 うむ、柔らかい。


「バカを言うな、アリーゼ」

「ふぇも、リンドひゃん……」


 俺は手を離し、腕を組む。

 そして胸を張り、声を張り上げた。


「――余は歴代最強の魔王、リンド・リバルザイン三世! 魔族もブルキリアも恐るるに足らず! 全て我が覇道の糧となるだろう!」


 アリーゼはそんな俺の様子を、黙って見つめた。

 俺はその視線に応えるように、笑い返す。


「……アリーゼ、余が信用できぬか?」

「い、いえそんなことは……」

「なら、余の傍にいろ。そして余の世界制覇の道を手助けするが良い。代わりにお前の身を守ってやろう」


 俺がそういうと、アリーゼは少し俯いて「……はい」と頷いた。

 その顔が少し赤くなっている。

 ……言い過ぎた、か? これではまるで余が……いやいや!

 俺は少し気恥ずかしくなりつつも平静を装いつつ、歩きだす。


「さ、さて、まずはゴブリンたちに指示を出して効率良く働かせなければ! コツコツと軍資金を作ることで、世界制覇の第一歩とするのだからな! うむ!」


 俺は言い訳するように言葉を並べ立て、歩き出す。

 アリーゼもそれに続いて、俺の後をついてきてくれた。


 そうして二人はその場を離れる。

 そこには空から降り注ぐ太陽と日差しと、安らかに眠るモニだけが残されるのだった――。

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