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第16話 魔王は村を統治したい

「人間の首長よ! 話がある!」


 俺の声に合わせて、人々の中から一人の老人が前に出た。

 彼はおびえた様子で、俺に対して姿勢を低くして顔を覗き込んで来る。


「な、なんでしょうか」

「……村人に怪我はないか?」


 俺の言葉に彼は驚いた表情を一瞬浮かべた後、頷いた。


「は、はい。幸い、みな無事です」

「それは良かった。今既にゴブリンたちには破壊した柵の修理をさせている」

「……ゴブリンたちに!?」


 ざわざわと村人たちの間にざわめきが広がる。


「気にするな。彼らは夜目が利くし、器用なものもいる。とりあえず雑に修復させるだけなので、外観が気にくわなければ後で自分たちで修理するがいい」

「いえ、大変ありがたいことです……。あの、わたしたちは……これからどうなるのでしょうか」


 言いにくそうに口にした村長に、俺は頷く。


「疲れた者は寝て、休息を取るが良い。明日からはまた今までと同じ平和な生活が続くだろう」

「へ、へい……」


 釈然としないような顔で、老人は相槌を打った。

 村人たちが後ろから彼に話しかける


「そ、村長! 大丈夫なのか!?」

「相手はゴブリンだろ!? 何か騙されてるんじゃ……!」


 俺は彼らを安心させようと口を開きかけたが、先に声を上げたのは村長だった。


「……失礼なことを言うんじゃない!」


 彼らは村人に向き直る。


「あの騎士たちは、我々の命などなんとも思っていなかった。それどころか、見捨てようともしたし、わたしを殺そうともした。そこの冒険者の方がいなければ、わたしは今頃死んでいたよ」


 村長の言葉に村民は言葉を失う。

 俺はここぞとばかりに口を挟んだ。


「……余は魔王、リンド・リバルザイン三世。名乗るのが遅れたな。今は故あってここでゴブリンたちを率いている」


 再び村人たちがざわついた。


「だがこの村と争うつもりはない。今までゴブリンたちはお前たちを襲うことはなかったろう? 我々は平和を愛している」


 歯の浮くようなセリフではあったが、実際ゴブリンたちは報復を恐れてこの村に関わらないよう生きてきた。


「だがお前たちが危機に陥っているとそこのアリーゼから聞き、急遽助けに来たというわけだ」


 俺の言葉に、村人たちの視線がアリーゼに集まる。

 アリーゼは曖昧な笑みを浮かべつつ、頬をかいた。


「で、でも騎士を殺すなんて、まずいんじゃあ……」


 村人から不安の声が上がる。

 俺は胸を張って笑みを浮かべた。


「安心するが良い。彼らは偽物だ。……モニ!」

「はいッス!」


 モニが生き残りの騎士を連れてくる。

 彼は首に短剣を突きつけられながら、縛られていた。


「正直に言ったら命だけは助けてやるッス。さっきの人とかその前の人みたく苦しんだ挙げ句に死にたくなかったら――」

「――言う! 言います! だから、許してください……!」


 涙を浮かべつつ男は言う。

 どうやら何人かすでに拷問されているらしい。

 男は恐怖を顔に貼り付かせながら、告白した。


「わ、我々はブルキリア帝国の騎士です!」


 ブルキリアは南の帝国で、この村の所属するラインケイル王国とは表面上は友好国ではあったはずだ。

 それが本当なら領地侵犯にあたることだろう。


「……他国に侵入し、略奪を行うとは騎士の風上にもおけぬ奴らだ」


 俺の言葉に、捕虜の男は閉口する。

 他にいろいろ聞きたいこともあるが、とりあえずは放っておく。

 俺は村人たちに向かって、堂々と声を張った。


「――余はお前たちと争うつもりはない! 今回お前たちの国に代わって助けてやったように、我々はこれからも友好的な関係を結びたいと思っている」


 俺の言葉に、村人たちは顔を見合わせた。


「約束しよう。我々と友好を結んでいる間は、ゴブリンたちはお前たちを襲わない。その代わり、共に暮らす隣人として認めて欲しいのだ」


 ざわざわと村人たちは相互に会話しだす。

 俺の言葉に困惑しているのだろう。


「お前たちに迷惑はかけないし、それだけではなく利益すらもたらそう。必要なことがあれば話し合いで解決するし、ゴブリンとの関係を良く思わない外の相手に対しては無関係を装えばいい」


 つまりは近場にゴブリンが住むものの、これまで通り気にせず暮らせということだ。

 ざわつく村人たちの前に、アリーゼが立つ。


「……わたしからも、お願いします」


 村人たちの視線が、彼女に集まる。


「え、ええと……いろいろと、思うことはあると思うんです。村の方々がゴブリンさんたちを怖がっているのもわかります。でも――」


 アリーゼは顔を上げて、口を開く。


「――ゴブリンさんは、クルミが好きなんです」


 アリーゼの言葉に、村人たちの間に微妙な空気が流れた。

 ゴブリンがクルミを好きという情報が、何を意味するのかわからないようだ。

 俺もわからないので、そのまま彼女の言葉に耳を傾ける。


「……殻のままバリバリ食べるって言ってました。凄いですよね。あとどんぐりを砕いて、それをクッキーにして食べたりもするそうです。葡萄は発酵させて、お祝いごとのときの為のワインとして保管しておくって」


 アリーゼはこの前、ゴブリンの子供たちといろいろ話していた。

 そのときの知識だろう。


「――わたしたちは、彼らのことを何も知りません。でも決して暴力が好きで、野蛮で、話の通じない……ゴブリンさんたちは、そんな相手ではないんです。わたしたちと同じように、今日の晩ご飯に何を食べようか迷ったり、明日の天気が良いかどうかで一喜一憂したり、そんな普通の……」


 アリーゼは言葉を止めて、バツが悪そうに頭をかく。


「え、ええと、何を言ってるのかわからなくなってしまったんですけど、その……まずはお話してみるのも、有りなんじゃないでしょうか」


 アリーゼは胸を押さえて、大きく息を吐いた。

 話が終わったらしい。

 ――ゴブリンにも普通の生活がある、か。

 ゴブリンは決して異界の住人というわけではない。

 村の人間と同じく、同じ世界を生きる存在だ。


 俺は彼女の言葉を称えるべく、手を叩いた。

 それに合わせて、モニも手を叩く。

 そうしていると、村人の中から村長が前に出て、村人たちに振り返った。


「……みんな、彼らを信じてみないか」


 村長は村人たちの表情を伺いつつ、そう言った。


「彼らが本気を出せば我々なんてどうにでもできるのは、さきほどの戦いを見てわかったことだろう。それでもこうしてあくまでも対話しようとしてくれている。そこにやましい気持ちは、ないんじゃないだろうか」


 村長の言葉に異を唱える村人はいない。

 俺も彼の隣に立ち、村人たちに向かって口を開く。


「余は魔王だ。お前たち村人をゴブリンたちより優遇して扱うことはできない」


 村人たちの顔を一人一人見ながら、言葉を続ける。


「だがお前たちが同盟相手となった瞬間、お前たちは余の民となる。お前たちを優遇することはないのと同じように、ゴブリンたちを優遇することもない。一方が一方を傷付けることは許さないし、外敵がいるなら余は全力でお前たちを守ろう。それが王としての務めだ」


 俺は彼らにそう言い放った。

 王としての威厳を見せつけてやったせいか、村人たちの表情に不安げな様子はない。

 むしろ信頼を寄せてくれているようにすら見えた。

 そんな村人たちの中から、ぽつぽつと声が上がる。


「……俺はいいと思う。むしろゴブリンたちを怖がらなくてよくなるのはありがたい」

「また今回みたいなことがあるかもしれない。本国の騎士なんかより、近場のゴブリンたちに守ってもらった方が随分と安心だ」

「何かあっても見て見ぬ振りをすりゃあいいってことだろ? 国なんかよりよっぽど頼りになる」


 がやがやと、村人たちから明るい声が聞こえてきた。

 ……どうやら説得は成功したらしい。

 俺は内心安堵しつつ、彼らに向かって口を開く。


「……今日はもう遅い。村の者たちは休むがいい。明日以後、必要な取り決めがあれば決めよう。ゴブリンたちの長と、村の長が話合う形で、余とアリーゼがその間に立つ」


 俺は後日話し合いの場を設けることを約束し、村人たちをそれぞれの家に帰らせた。


 そしてそんな中、剣士の少女が俺の前に現れる。

 彼女は何かを言いたそうにして、俺の前に立ち尽くしていた。


「なんだ」


 俺の言葉に、冒険者の女は顔を歪める。


「――ボクは魔族を認めたわけじゃない」


 俺はその言葉にため息をついて、追い払うように手を振った。


「そうか。それは結構。俺も暇じゃないんだ。嫌味ならモニにでも言ってくれ」

「……だけど」


 彼女は頭を下げた。


「――ありがとう。感謝する。ボクは奴らの陰謀に気付かず、村の人たちを危険に晒すところだった」


 俺は女を、鼻で笑った。


「バカめ」

「うぐ」


 俺の言葉に、彼女は顔を歪める。

 彼女は後悔するような表情で言葉を続ける。


「それなのにボクはお前の部下に剣を向けてしまって……本当にすまない」


 どうやら反省しているようだった。

 それなら許してやろう。俺は寛大だ。


「ふん。凡庸な冒険者風情が余に謝る必要はない。貴様のような愚かな一般庶民が選択を間違うなど、当たり前のことだからな。そんなこと、余は一々気にしないぞ。……何せ、余は――」


 俺は笑みを浮かべたまま、彼女に言い放つ。


「――魔王だからな」


 俺の言葉に、少女はその辛気くさい表情を崩した。

 俺はべつに冗談を言ったわけでもないのに、彼女はクスクスと笑う。


「……もしかして魔王さん、それ決めゼリフなの? カッコイイと思ってる?」

「……なん、だと……!?」


 俺は小娘に煽られたことに驚愕しつつ、今の言葉の何が悪かったのかを考える。

 もしや……ポーズか? ポーズが足りなかったのか?


「大丈夫、まあまあかっこよかったよ。それじゃ」


 俺が悩んでいる間に、少女は別れを告げてその場から離れた。

 ……おのれ、小娘の分際で。

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