三幕ノ四、生きていたら
「行きたい場所、ですか?」
「嗚呼、ここまで来れることもなかなか無いからな。時間はまだあるし、少し寄るだけでいいんだが」
播磨の見廻りを一通り終え、遥海屋は宇野の目的地へ連れ立っている。
播磨は彼の故郷だと聞いている。思い出深い場所などがあってもおかしい話ではない……そう思っていた遥海屋は、到着した場所に何かを察した様に宇野を見上げた。
「……………墓地…?」
「…このご時世だ。決して整備された場所ではないが」
そこは墓地というにはあまりに簡素な、件の事件の犠牲となった人々が眠る場所だった。
十年前の爆撃事件の犠牲者はあまりに多く、事態が収束した頃には遺体も誰なのか分からない状態の物が多かったと言う。中にはまだ消息不明のままの人もいるとか。
犠牲者の名前が書かれた木札が並ぶ敷地内を、宇野は記憶を辿るように進んでいく。遥海屋もそれについて行くように乾いた土の上に足を踏み入れた。
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ある一角に来ると、宇野は足を止めた。
そこには、彼と同じ姓の名前が刻まれた木札が二枚立てかけられている。
「…………御家族、ですか」
「妻と息子だ。俺も軍務があったから来るのはあの時以来かもしれない。線香の一つも持ってきてやれないのが、申し訳ないが」
そう言ってその場にしゃがむと、「久しぶりだな」と語りかける。
十年もの間ここに来れなかったのは、本当に多忙なだけだったのだろうか……?
味気の無い木札を見つめる宇野の様子に、遥海屋は居た堪れずその場に立ち尽くす。
ふと、その近く隣にもう一つ木札が並んでいるのが見えた。
一応親族関係と思われる同士の札は近くに配置されるようになっている。が、どう見ても姓が違う。遥海屋は思わずそちらの方に目をやった。
「粟飯原………?」
小さく声に出たのが聞こえたのか、宇野も同じ方を見ると、ああ、と納得したように続けた。
「俺の部下だ」
「…………部下、ということは、西軍にいた方ですか」
「…そういう事になるな。まだ二十歳だった。幼い頃に家族も兄弟も亡くして身寄りが無かったから、俺の家族と一緒に弔ったんだ」
「へえ………」
宇野の話を聞きながら木札を見下ろす。
「あまりにも呆気なかったからな。もしかしたらどこかで生きてるんじゃないかとも思ったりしたんだが……もう十年も前の話だからな」
「………」
同情なのか、それとも冷めているのか、しんみりとしたように語る宇野を遥海屋はただただ見詰めている。
「……生きていたら、また再会したいですか、その人と」
「……そうだな」
幻想みたいな話だ、と宇野はため息混じりにそう返した。