7話 ふっかつ
ウルミは、ビーンズをおぶって森に足を運んだ。そして、草陰に隠したコールドスリープZZZのハッチを開くとなかにビーンズを入れる。
「それでは、また……」
ウルミはハッチを閉め、その場に腰を下ろした。
ビーンズは気が付くと、あの暗闇の空間に浮かんでいた。おーいと呼びかけられ、振り向くと、あのスクール水着を着た幼女が、平泳ぎでこっちに近づいてきた。
「久しぶり。あ、でも君の感覚だとそんなに昔には思えないのかな?」
ビーンズの前で幼女が停止する。この幼女がいるということは……。ビーンズは不安げに聞く。
(あの、僕って死んでしまったんですか?)
幼女は首を振る。
「いや、安心して。病気にはかかってたけど、間一髪ウルミちゃんがコールドスリープさせてくれたから、生きているよ。ここは、君の夢の世界。冷凍に入ったのを感知して、どうしてるかなって見に来たんだ」
(そう、ですか……)
ほっとするビーンズ。しかし、あらたな不安がわいてくる。
(あの流行り病、大丈夫なんでしょうか。リンは、あのおばあさんは無事ですか?)
「ああ、あっちで仲良くしてたコたちね。……えーと、大丈夫!おばあさんは薬を作り続けて、最後は天寿を全うして死ぬよ。あのリンってコも……あらまあ!すごいね。この子あの後ほんとうに特効薬をつくりあげちゃったみたい!歴史に名前のこってるよ」
(へえ……!リンが!……あれ、あの……いまっていつなんです?夢のなかって言っていましたけど、まだ眠った直後なんですよね)
リンや老婆のその後を知り、喜ぶビーンズだったが、またしても気になることが出てきた。幼女は、あーと頭をかいた。
「私たちに、時間って概念はそんなに影響しないんだけど……ま、混乱しちゃうから、いいじゃないの、それは。ひとつ言えるのは、次にあなたが眼を覚ますのは、私があなたの魂のかけらを川のなかから見つけたとき。そのときは、もしかしたら、さっきまであなたがいた世界よりずううと未来になっているかもしれないわね」
ビーンズは、リンにまた会おうといって別れた。それなのに、次に目を覚ますのは、遠いさきのことで、リンがいない時代になっているかもしれない。ビーンズは、悲しくなって懇願した。
(なるべく、はやく見つけてくださいね)
「まあ善処はするけどさ。……がんばるよ」
幼女はバツの悪そうな顔した。
(お願いします)
「ああ、そうだ。ウルミのことなんだけど……まあ、いいか」
なにかを言いかけた幼女は、口を閉じ手をふった。ビーンズも気になったが、ふらりと視点が揺れはじめ、耳を傾けるどころではなくなっていった。
やがて、ビーンズの意識は薄れていき、目の前の暗闇が白い光に切り替わった。
白い煙とともに、ハッチを開くウルミ。手の中にあった塊を、ビーンズに注ぎ込む。すると、たちまちビーンズは十歳児の姿に成長した。
「おはようございます」
ウルミが、ヘルメットを取って、頭を下げた。長い髪が数本、ビーンズの顔にかかる。
ゆっくりと目をあけるビーンズ。
「……おはよう、ウルミ」
成長痛なのか、膝を痛めつつ、ビーンズは立ち上がる。そして、ウルミに支えられながら地に降りると、あたりを見渡した。
「ウルミ、いまはいつ?あれから何年たった?」
「…………」
ウルミは、口を結んで、両手をまえにだした。
右手はパー。左手は人差し指だけが立っている。
「なんだ、六年か……」
ほっとするビーンズ。そのくらいであれば、リンともまだ会える。ビーンズは期待に胸を膨らました。自分自身はまだ十歳だが、リンは十二歳になっているはず。どのように成長しているだろう。そして、あの薬屋はどうなっているだろう。老婆は元気だろうか。
「あの、ビーンズさん、違います。……六年ではないです。言いづらかったのですが、勘違いをさせてしまい申し訳ございません。その、ショックを受けないでくださいね」
「え?」
嫌な予感をさせるウルミの言葉に、冷えたからだが固まるビーンズ。まさか。
まさか。まさか。まさか!
ウルミが、悲しそうな顔で告げる。
「あれから、六十年たっています。リンさんも……もう亡くなりました」
ビーンズは、浦島太郎の童話を思い出す。
あれは、なんと悲劇的な物語だったのだろう、と。