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16話 おやすみなさい

 ここからは後日談である。


 その後、なんとか日が合流して山から下りた一行は、マリーにこっぴどくしかられた。危険な山に立ち入るなどなにを考えているのかと。


 しかし、テンネが山で見つけた綺麗な花をフランに差し出すと、マリーは顔を赤らめてしおらしくなった。


「そんなので、ほだされると思わないでよ、テンネ……!」


「わかってるって。でもいまは誕生日を祝わせてくれ。いつもありがとうマリー」


「ばか!」


 いちゃいちゃとしたふたりの会話に苦笑いするビーンズとウルミ。


 一方、フランは意を決したように一堂に魔王城での顛末を話した。


「ということで、私はあの城に住もうと思うんです。いままでお世話になりました」


 ビーンズたちは驚いたが、フランの意思を尊重することとした。テンネは、たまに遊び行ってやるよ、と気軽に言った。


軽い反応に気が抜けるフランであった。だが、過度に心配されるよりは気が楽でよい。前世で、友達に死を悲しまれた経験のあったフランにとっては、その反応が最も助かるものであったのだった。


「あ、そうだ。そのときお城で拾ってきたペンダント、マリーさんの誕生日プレゼントにと持ってきたんですよ」

「あらあ。すごくきれいね。ありがとうフラン」


「なにい!フランてめえ抜け駆けしやがって!」




 城へ帰るフランを見送って数日後、ウルミがビーンズに時間を告げた。いつか来るその日をビーンズは受け入れた。



 分割して与えられた魂は、少量であるため、生命を維持するのには制限時間がある。次の魂が届くまで肉体を保存するため、コールドスリープに入らなくてはいけない。


ビーンズはテンネとマリーに別れを告げる。


「旅に出なくてはいけなくなりました」


 マリーは悲しそうな顔をした。


「フランちゃんに続いてビーンズくんも……。寂しいわ。また会えるのかしら?」


「いえ、おそらくもう帰ってこないと思います」


 テンネは、酒をぐいっと飲んだ。


「そうか。そろそろとは思ってたが。マリーのことは私に任せろ。餞別だ。持っていけ」


 テンネは封を開けていない秘蔵酒をビーンズに渡した。重い瓶を持ち、よろけるビーンズ。ウルミは酒を預かる。


「お世話になりました。あとテンネはあまりマリーさんに迷惑をかけないようにしてください」


「おうよ。相変わらず、あんたとはソリが合わなかったけど、嫌いじゃなかったぜ」


「……リンにもよろしくお願いします」


 ウルミは宇宙服のヘルメットを外し、優しい笑顔を向けた。


 そして、森へ帰るビーンズとウルミ。コールドスリープのカプセルを開け、ビーンズはなかに入る。


「じゃあね、ウルミ。いままでありがとう。また何年後かに」


「ええ、なるべくはやく帰ってきてくださいね。ビーンズさんには一瞬でも、私はこっちでずっと待っているのですから」


「僕にはどうすることもできないけどね」


「ええ、そうですね。あの水着の天使を信じましょう」


 カプセルが閉じる。冷気に包まれるなか、ふとビーンズは疑問を抱いた。


(ウルミはこっちでずっと待っている?前回は何百年も待っていたということなのか……?)


 ウルミは異世界に生を受けたただの人間なはずである。魔物のように長い寿命を持つものではない。


 質問をしようにも、すでに表面は冷気で曇っており、もうウルミの顔は口元しか見えない。


『おやすみなさい』


 口がそう動いたように見えたとき。





 ビーンズの意識が覚醒する。





 辺りは真っ暗な暗黒空間であった。三度目になる体験に、さすがに ビーンズは慣れ、魂だけの状態で、スクール水着の幼女が来るのを待つ。


 ほどなくして、幼女が現れる。


「やあ、また来たね!調子はどう?」


(さあ……。体温もなにもないので何とも)


「ふうん、向こうでは何かやりたいことは見つかった?」


(いえ、とくには……)


「元気そうでなによりだよ。いやあ前回はごめんね、魂見つけるのに時間がかかって。でも今回ははやめにゲットするから」


 ウルミとの約束もあるので、ビーンズはよろしくお願いします、と頼んだ。


「そういえば、フランちゃんとも仲良くしてくれたみたいでありがとうね。あの子のことも心配してたのよ」


(ああ、いい子でしたね。いまは魔王城に住んでいるそうです)


「いやあ、金運マックスなんて適当なこと吹き込んだけど運命操作でうまいこと調整できてよかったよ。吸血鬼になるルートに導いちゃったのは申し訳なかったけど」


(でも本人は納得しているようでしたよ。あれでよかったのではないですか)


「それならいいんだけど。いや、でもあたしは他人のために一生を捧げるなんて考え、あんまり支持できないな。それこそひとの勝手ではあるんだけど、ひとはみんな自由であるべきだと思う」


(神様もそんな俗物的な考え方するんですね)


「神様を神聖なものにしたのは人間だよ。ついでに人間が愚かさを学んだのは神様から」



 一通り、帰省時のやり取りを終えると、ビーンズは幼女に尋ねる。


(ところで、ずっと気になっていたんですけど、ウルミの正体はなんなのですか?彼女はどうして僕と一緒にいるのです?)


 いままでずっと放置していた疑問である。ビーンズは気になっていたが、尋ねる機会がなかった。


 ビーンズは、ウルミとは仲良くやってこれたと思っていた。しかし、それは保護者のような関係で、常にウルミは一歩引いたところから見守ってくれていた。


 彼女のことを知れば、次に転生したときもっと親密になれるかもしれない。ビーンズは期待を込めて尋ねた。

 

 すると、幼女はああ、そんなこと?と寝転がりながら答えた。


「ウルミは、前世であなたがトラックで轢かれた原因を作った子よ」


「え……?」


 


 物語が、動き出す。

休載宣言をしておきます。

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